私が白亜の神鳥と呼ばれるまで   作:柑橘風きしめん

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家畜に神はいないが、獣人に勇者は存在する


獣の咆哮

 それは、余りにも多かった。

 世界中のアリを集めた重さと同じ位の量があるのではないかと思う程に大地を埋め尽くしたそれ(・・)

 人型としてはやや大きめのそれらは、通常種と比べて大きな、毛に覆われた耳を持っていた。

 

 

「告死鳥、死の飛翔、聖王国の白い悪魔…。

いや、そんな肩書なんてどうでもいい。

お前を殺す」

 

 

 それは至っていた。

 同じ領域を識る私には解る。

 大きさこそ人類の枠を超えていないが、内包される力は私に匹敵するものだった。

 それが私に殺意を向けている。

 

 迷惑だ。

 別に私は私より強いものと戦いたい訳では無い。

 中々死なないもの、壊れないものに力をぶつける事はあった。

 一時期は、死ぬのも良いかと格上に挑んだ事もあった。

 だが、姉の子孫を見付けた以上は、生き甲斐が出来てしまった。

 それに、原種とは大きく違うとはいえ、清流鳥(フィニフリカ)は本来自分より格下の生物しかいない場所に逃げて、そこで頂点捕食者として安寧を過ごす生き物だ。

 無駄に危険を許容する生き物ではない。

 

 

「聖王国と鳥共を滅殺して獣人の自由を始めるんだ!!

権利を専有して犠牲を強いる者共に罰を与えよ!!

真人共から全てを奪え、水鳥共からは羽毛を引き千切れ!!」

 

「「「「「「「「「「ウオォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 その群れ達は、一斉に弓を空に射掛けた。

 私は風で吹き飛ばしたが、全てを護れた自信はない。

 運悪く姉の子孫の中に死んだ鳥がいたとして、それは天命の摂理であろう。

 

 だが──────

 ────だが、私は無駄な危険を許容する生き物ではない。

 愚かな群れの咆哮を、全てを溶かす水の咆哮で吹き飛ばす事にした。

 咆哮でしかない咆哮と、力という意味を持つ咆哮の差が見せ付けられる筈だった。

 

 

 しかし────

 

「させるかぁぁぁあああ!! うおぉおおおおお!!」

 

 それは燃える拳を正面に突き立てた。

 私の超臨界水は、超高圧にして超高温(・・・)の水であり、蒸発などという領域はとっくに超えているはずだったが、それは炎で超臨界水を打ち消した。

 

 

「俺は今、猛烈に激情している。

捕食(宝石鯨)菌糸(胞子雲水黽)噴火(火山蜂)洪冷(吸熱海月)重力(星之子)分解(沙泳ノ毛蟲)そして融解(貴様)!!

災害である貴様らは、殺す事も囚える事も出来ぬと諦めるのはもう止めた。俺達は厄災環境(貴様ら)に復讐する!!」

 

 恐らくは、それが考える非対称性干渉存在を適当に挙げたのだろうが、ラインナップが私が考える面子とはそこそこ違っていた。

 自身の毛より硬いものが触れた瞬間、それを分解するだけのデカい毛虫なんて、私にはただの餌だ。

 その証拠に遭遇したとしても、アレは分裂してストックを増やしながら私から必死に逃げるだけだ。

 

 山の頂上から海まで偶に触手を伸ばして、触れたものの熱を吸うだけの海月も、何度か再生出来る程度を残して食べた事がある。

 

 いや、そんなことはどうでも良い。

 私は目の前の外敵(・・)を消せばよいのだ。

 

 人間の通常種達が、特定の亜種にのみ通用する精神爆破魔法を使っているが、多勢に無勢だ。

 亜種の数が多過ぎて意味があまりなかった。

 …そもそも人間を戦力として期待もしていなかったが。

 

 だが、精神を攻撃するのは良い手だと思った。

 精神を破壊する必要はない。

 その逆を行えば、獣人という人間種との戦闘は終わる。

 人間の亜種に特化した、過剰な多幸感で満たし続ける魔法陣を亜種達の周囲に展開した。

 但し、浅く構築することになった。

 深く掘っていては時間が足りないからだ。

 

 私の思惑に気が付いた、『至りし獣人(群れの長)』が、大地の陣を雑に削って破壊したが、既に半数以上の人間亜種達がその精神を壊している。

 もう、戻ってこれるものは殆どいないだろう。

 獣人は満たされ続ける。

 

 

 

 

「おのれ、よくも…!!」

 

 

 人間が人喰豚人(ブタンチュ)という獣人種を改良して、裸豚(ニクブー)という食用家畜を作った際にした行為を、聞き及んだなりに再現しただけだ。

 

 獣人は、強過ぎる多幸感を受け続けると、動物になる。

 私は彼等を幸せにした。

 最早動物となった彼等は、急激な知能の低下による混乱もあって、何故此処に集まったのかも判らなくなっているだろう。

 

 私の掛けた魔法の効果はシンプルだ。

 まずは対象者の体感時間を極めて緩やかにする。

 そして、最大の幸福感を常に感じさせる。

 これだけで『獣人』は『獣』になる。

 別に獣が悪い訳ではないが、それはまだ獣になっていない獣人からすれば、許せぬ行為であるようだ。

 

 私は先頭に立つ群れの長へと一気に肉薄して、思い切り蹴り飛ばした。

 それは腕と人間が呼ぶ部位一つを犠牲にしただけで、弾き返された。

 あの程度の質量で私を弾き返しただけでも、本当に凄い事ではあるが、それは称賛ではなく脅威と捉えるのが正解だ。

 私は臆病な水鳥。

 態々危険な敵を不要に称賛する気はないし、此方の鳴き声はそもそも理解もされないし、して貰おうとも考えていない。

 

 私は空から亜種達の群れを無作為に狙う事にした。

 こちらが先手の攻勢を続け、相手には後手の防勢を強いる為に。

 跳び上がって『至りし獣人(群れの長)』が空中戦を仕掛けて来たのは驚いたが、飛ぶ事が出来ぬ生き物は、跳び上がった頂点がピークで、それ以降軌道を変えられる術を持つものは少ない。

 私は魔法陣の先程破壊された部分を修復した。

 獣人の群れはまた減って、獣の集まりが増えた。

 

 

 やりたくてやっているのではないとはいわない。

 必要だと考えて、その為に自発的にやったのだ。

 

 

 空高くから、壊された魔法陣を再生させながら戦う事で、跳び上がってから着地までの2〜30秒間、直ぐに魔法陣を破壊出来る地上から、それが出来ぬ空中へ跳び上がる事を戸惑わせる。

 

 その焦りが生んだ行動だったのか、その直後のジャンプは力み過ぎていた。

 それでも攻撃は正確であり、私を驚かせた。

 

 しかし、勝負は決まった。

 雨雲が近付いて来た。

 人類の天敵である、胞子雲水黽の群れだった。

 獣人を襲い始めたそれらを倒そうと、腕から放った衝撃波に炎を複合したもので応戦し始めた。

 

 一方私は、まだ地上へと降り立っていなかった、残っていたアメンボの群れ全てを喰らい尽くすと、その体液を圧縮して獣人の中心部、すなわち『至りし獣人(群れの長)』がいる範囲に、超臨界水を放った。

 

 甘い匂いが広がった後には、もはや脅威は存在の痕跡さえなかった。

 胞子雲水黽(アメンボ)から他の獣人を護らなければ、まだ少し生き永らえただろうが、そうもいかなかったのは分からなくもない。

 私も、姉の子孫を護る為ならそうしたかもしれない。

 いや、それはないだろう。

 姉の子孫が明確な殺害目標として狙われている中、私が死ねば最早護り抜ける戦力はなくなる。

 私は人間の通常種に能力的にも性質的にも、私亡き後に、私を斃したものから、命を懸けて姉の子孫を護ってくれるとは考えていないからだ。

 救う力が己にしかないとするならば、大切なものを救うためには、犠牲を許容しなければいけない時もある。

 親鳥も外敵に襲われた時に、全ての雛を護れない時には、自分が犠牲になるわけではなく、一部の雛を見捨てる事もある。

 それがより多くの雛の未来を繋ぐ事になるからだ。

 

 

 その判断が出来なかったから、『至りし獣人(群れの長)』は死んだ。

 生き残った亜種の暴走を回避する為に、私は壊れた魔法陣を再び掘り直した。

 先程よりも、深く。

 

 

 人間の通常種達が喜びの声をあげる。

 煩いが攻撃する程の事ではない。

 故に無視して作業を続けた。

 

 防げる危険は未然に防がなければならない。

 私達は弱く臆病な水鳥。

 だから私達を狙う脅威から護る魔法陣を掘ることにしよう。

 先程よりも────深く深く。

 

 

 

 

 

 

 

 

❖獣人族の目線

 

「もう我慢の限界だ。やっちまいましょうカシラ」

「カシラの力があれば、聖王国の白い悪魔だって」

 

 最早、押し留めるのは不可能だった。

 俺の下に集まった獣人達は、直ぐにでも大蜂起を望んでいた。

 それは、俺が強過ぎた事にある。

 土を自在に操り気圧さえ武器とする、非対称性干渉存在建築竜(アーバンドラグーン)をも屠れる、俺の()(かぜ)膂力(ちから)は、コイツらに希望を見せ過ぎた。

 

 

 そして、俺自身も我慢の限界にきていた。

 

 先日メアファドリス聖王国の使者が来た。

 俺達をもっと豊かにしろと主張したところ、その使者は言った。

 

「別にお前達を家畜にしようとは思っていないぞ?

家畜は既に十分にいる」

 

 その使者は、あろうことに獣人を豊かにすることは、家畜を飼う事と同義だと言い放ったのだ。

 獣人は家畜ではない。

 

獣人(俺達)を裕福にしようとは思わないのか!!」

 

 と激昂したところ、使者は困惑した顔でのうのうと宣った。

 

「それが家畜化するということだろう?

獣人に快適な生活を与えるということと、獣人を家畜化するということは同じだと何故解らない?

ああ、知能が低いから────」

 

 俺は怒りを抑えきれずに使者を殺した。

 その時点で俺の周囲の者達は、勝手に宣戦布告だと思い、宴を開いた。

 

 そうなれば、今更そうではなかったとは言える空気ではなくなっていた。

 

 

 俺はもう邪悪な聖王国も、告死鳥も全部倒せば良いと考えた。

 だから、災厄である非対称性干渉存在の水鳥を、そのルーツ共々抹殺することにしたのだ。

 

 俺は宣戦布告をした。

 俺達の先祖が奪われ続けて幸福になれなかった分も、今の俺達が真人達から取り立てて幸福になってやると。

 

 しかし、邪悪な聖王国の守護者である邪神は、俺の想像を超える邪神さであった。

 

 あの使者は嘘を付いていた。

 筋を通す為に立ち上がった俺達に対して、家畜に変える魔法を邪神は行使したのだ。

 

 獣人を活かす事は家畜を飼う事と同義と言い放った聖王国。

 獣人を家畜に変える魔法を使った邪神。

 

 俺は直ぐ様、その原因となった魔法陣を削り無効化したが、邪神は愉しんでいるのか、幾度となくそれを修復した。

 

 

 人を家畜へと、文字通りの意味で変えられる邪神。

 聖王国の白い悪魔。

 話の通用する相手では無かった。

 生ける厄災(リビングカラミティ)

 

 俺は片腕を奪われたが、それでも戦い続けた。

 

 

 しかし、空には人類の天敵である胞子雲水黽(ベクレニード)が雲の様にやってきていた。

 アレはきっと邪悪な聖王国か、邪神が呼び寄せたに違いなかった。

 義憤に燃え尽きそうになったが、その炎を心で燃やして敵にブチ撒けた。

 

 だが、俺が胞子雲水黽(ベクレニード)と戦う中、正々堂々とはしていない邪神は、攻撃を仕掛けて来たのだ。

 

 クソッ、チクショウ───────




聖王歴2000年の教科書より

❖勇者
 人類に発生した非対称性干渉存在。
 最も人類と意思疎通が可能な非対称性干渉存在と見做す事が出来る。
 十二番目の人の月は、初代勇者名前を取っている。
 勇者一人に対して、願いを背負わせる人々は余りにも多く、殆どの勇者は短命となる。

❖家畜化魔法陣
 近日中に、幸福の魔法陣と改称される予定。
 人類、特に獣人に特化して幸福感を与える。
 獣人であれば、どの種類であっても程度の差はあっても幸福になる。
 普段はオフ状態となっている先祖由来の非励起DNAまで励起させて、そこにさえも幸福の刺激を与える。
 体感時間を引き伸ばした上で、最大量の幸福感が与えられる為に、幸福が飽和するのが、非励起DNAにまで刺激する原因ではないかと言われている。
 他の人類にも僅かに影響はあるため、快楽を目的に使用される事もあるが、殆どの国によって禁止されている。
 それらの国でも、医療行為として、麻酔と併せて使われる事は認められている。
 家畜化を指定された獣人以外には、無闇に使ってはならない。

❖獣人
 数代に渡り、幸福に管理された環境で生育すると、獣となる。
 尚、この獣に耐え難いストレスを与え続けると獣人に戻るが、普通の動物に同じ事をしても獣人にはならない。

❖告死鳥、死の飛翔、聖王国の白い悪魔
 邪教徒が神鳥を罵る時に使われる言葉。
 良い子は使ってはいけません。
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