私が白亜の神鳥と呼ばれるまで 作:柑橘風きしめん
家族の情が深い清流鳥においては、卵放棄は基本的にあり得ず、両親とも亡くなっている可能性が殆どだ。
そこには、私の機嫌取りという考えもあるのだと分かっている。
親を亡くした卵を見る事はある。
別に私が親代わりとなれなくもないが、そこまではやらない。
姉の血脈そのものは大切に思っているが、個体毎で考えるならば、それもまたその個体の天命だと考えるからだ。
故に、血脈そのものは守護するが、特定の個体には深入りはしないという立ち位置を選択している。
姉の血脈がまだ少ない頃になら、少しでも保護すべきと温めた事もあったが、今は十分な個体数が存在しており、私という氏族の守護者がいる限り絶滅はあり得ない。
それもあって、親を亡くした卵を人間達が持ち帰る事は黙認している。
そこに貸しも借りも感じることはない。
…自分達を親鳥と刷り込ませるために清流鳥の卵を密猟するものには、相応の罰を与えるが。
人間達は清流鳥を養育する事を、私に気に入られる行為だと勘違いしている節があり、清流鳥を養育するのは人間の群れの上位者の特権のようだ。
特にそのつもりはないが、現在人間に育てられている雛鳥と育てている人間を、
雛鳥が歩く後ろを世話する小さな人間が歩き、その後ろを何人もの成長した人間達がついて回っている。
何故世話する側が後ろからついていき、最も世話される雛鳥が先頭にいるのか。
人間というのは雛鳥の育て方を、全く理解していないものだと理解した。
雛鳥は親鳥に行き先を示して貰う生き物だというのに…。
とはいえ、人間が清流鳥の世話をする必要などそもそも無いのだから、期待する方が間違っている。
私は湿地の水辺に戻ろうと翼を広げ始めた。
その時だった。
「どうか、お助け頂きたい」
「貴様ッ不敬だぞ!! 姫様とお鳥様の前に飛び出すなど不届き千万ッ!!」
飛び出して来たのは複眼の人間…。
希少種か。
通常種の群れに現れる事はこれまで無かったはずだが。
「タマアヤ、カギイヤ。待ちなさい。
外殻族とは珍しい限りです。話を聞く位は良いでしょう」
「…感謝する。
我は外殻族の王族、ザーリス。
氷と岩の大地からやってきた。
今我が王国は
氷と岩の大地は、殆ど雪と砂に分解されつくした。
衝突したものを粒子に分解して透過するあの怪物によって。
どうか助けて頂きたい」
通常種に助けを求めているていだったが、その視線はこちらを向いていた。
だが、遠く離れた場所に人間を助ける為に向かう必要など、欠片たりとも存在しない。
「私に頼んでいる訳ではないなら失礼するわ。散歩中なの。そこを退きなさい」
先頭の通常種にもそれは伝わっていたようだ。
完全な失策を悟った希少種は、再度頼み直していた。
私はそこで飽きたので、そこを去ることにした。
この希少種は、希少種と私が認めるだけあって、人間の中では相当に少ない。
だが、滅んでしまったとしても私には何の問題もない。
私にとって無価値なものが消えたとしても、何の損失もない。
暫くすると、
大方移住してきたのかもしれない。
だがそれもどうでも良いことだった。
あの毛虫が泳いだ場所は尽く水捌けの良い場所となる。
大地そのものが砂と雪と化すならば、氷より溶けやすい雪が無くなれば、砂だけとなる。
そして周囲は海。
広い広い砂浜が出来たのだろう。
例の毛虫はもうここにはいなかった。
恐らくは食べるものが無くなったから、共喰いをしたか、どこか別の場所に去ったのだろう。
それはそれでどうでも良いので、砂浜ももっとよく見てみようと考えた。
空高く舞い上がり、その場所へと見に行くと確かに雄大な砂浜が広がっていた。
しかしいずれは波に削られていくだろうと思えた。
それはそれであるべき流れだと認識していたからだ。
私はもう少し飛ぶ事にした。
飛んでいるとサメを見付けた。
10メートル程度しかない小さなサメだった。
サンゴを磨り潰して食べる習性のサメだった。
味は良くなかったが、骨が少なく身が多いので食べごたえはあるのを覚えていた。
私は先程の砂浜まで、咀嚼しながら飛行していた。
サメをそこで落とすと、その身を啄んだ。
食べやすく大きい事が取り柄だった。
胃袋を割くと、蠢くサンゴが沢山出て来た。
満腹だったので放置する事にした。
❖外殻族の歴史書
我らの国は一度滅び、そして再建された。
かつて外殻族は多種多様な民族であったが、今日では僅か数種類のパターンしか持たない。
その理由を説明するとしたら、全ての民族が混じり合うしか無かったからだ。
高速でパンチを繰り出す民族。硬い装甲をもった民族。高い身体能力を持った民族。毒針を持った民族。翅を持った民族。仮死状態になると耐久力が跳ね上がる民族など、様々な特性を持った民族がいた。
しかしそのどれもが伸び悩み、一度全ての特性をもった民族を完成させることにした。
婚姻政策により、徐々に全ての民族の血を集結させていった。
その結果、何もかもが中途半端な民族が生まれた。
背に収納された翅は飛べるが僅かであり、パンチは元となった民族程ではなく、装甲や身体能力や毒についても同様。
仮死状態になっても、強過ぎる攻撃には全く耐えられない。
そんな民族が誕生した。
それでも、国としては成り立っていた。
とにかく『生め・増やせ・混じれ』をスローガンに汎ゆる外殻族が混和した結果、それまで少なかった人口が爆発的に増えていたからだ。
人口が増え続けて、土地が十分にあるのなら、国としては発展していく。
それに、寿命と知能と魔力以外においては、人類の中でも高水準であったからだ。
一度の出産で、母胎に負担を掛けずに3人以上が同時に生まれる外殻族は、数を武器として見るのなら優秀だった。
様々な外殻族が混じって出来た民族が暮らしていた島国。
その名をトウメ王国といった。
現在の新トウメ共和国の名の由来でもある。
現在においては、元となる純血種の外殻族は多くが絶滅しており、乱婚とも称された当時の政策にも正しさがあったと言えるだろう。
しかし、それも崩壊する事件が起こった。
非対称性干渉存在の
それまで非対称性干渉存在がいなかった島は、海か海底からやって来た
それでは最早建築物を建てる事も厳しくなり、分裂して増え始めた
当時王子であった、初代新トウメ共和国議長ザーリスはメアファドリス聖王国に
どんどん分裂して、小さくなっては数を増やす
ザーリス議長が十年後にトーリック島の様子を見に行った。
島そのものが無くなっている可能性もあったが、島は確かに残っていた。
危険を顧みず上陸した議長は、島の中を歩いて回った。
あれだけ存在した
代わりに、ガラス製サンゴが島を覆っていた。
ケイ素を食べるサンゴ生物によって、砂となった島は流されることなく堅牢に再生していた。
この生物『
当時遥か遠い海域で生息していたが、『
近年の調査によって、『雪華石の大翼』の羽根が初期の地層に発見された。
このことから、生き残った『
これもまた、神鳥による祝福であったのだ。
トウメ王国が滅び、新トウメ共和国となってからは神鳥が救いの手を差し伸べた事から、神鳥が共和国制を望んでいる事は明らかだ。
ザーリス議長に栄光あれ、共和国に永遠あれ。
聖王歴2000年の教科書より
❖
非対称性干渉存在の一つ。
触れたものを即座に分解し、汎ゆるものを穿いて泳ぐ。
自身をも脅かす天敵から逃げる際や、獲物が小さく多い場合には分裂する。
天敵とは神鳥であり、小さくて数が多い獲物とは、人間である。
獲物を食べ尽くすと、分裂体同士で共喰いを起こして巨体になる。
融合しているのか、捕食の栄養で成長しているのかは、未だに定かではない。
❖『
ケイ素を食べるサンゴ生物だが、積極的に動くのと繁殖のペースが早いのが特徴。
原産地では絶滅しており、現在はトーリック島にしか存在しない。
❖『
陸上草食獣の様な歯を持つ、温帯の海に生息する角がある鮫。
身体は短く太く、顎はかなり広い。
角は餌となるサンゴを貫く他にも、メスへのアピールとしても使われる。
❖外殻族
真人と比べて、硬く、強く、毒を持ち、動きが正確で、睡眠時には体力を殆ど消耗せず、僅かながら飛翔が可能な代わりに、基本的に魔力を持たず、計算は早いが知力全体としては劣る。
自国の政治形態である共和国こそ至高としており、王国制や帝国制の国家に、自国の政治形態を押し付けようとしているが、主な押し売り先である聖王国やエルフ王国は、外殻族唯一の国家である新トウメ共和国よりも殆どの面において発展している。