いつもと違って地の文を三人称視点にしました。蟻編のナレーションのように読んで頂ければ幸いです。
ネフェルピトーは目の前に突如現れたステラの戦力をこの場にいる人間のオーラ量の比較から推定した。カイトは先程の強襲により片腕を失っていることから、ピトーは彼より先に万全の状態のステラの排除を優先すべきだと判断し、目標を彼女へと変更する。
「当然な風船人形(ワンダーバルーン)!」
「へぇ〜、念ってそんなこともできるんだ」
ステラは能力を使って大量の分身を生成し、同時にローブの中から無数のナイフを取り出してピトーに向かって投擲する。
飛来するナイフをピトーは避けるまでもなく受けるが、その鋼鉄のような皮膚を傷付けるにはナイフでは余りにも不十分だった。
しかしその程度のことを原作知識を持つステラが予測できないはずがない。彼女の真の狙いはピトーに弾かれ地面へと落ちたナイフにあった。
(なるほど…ナイフ投げは攻撃のように見せかけて、分身達にナイフを装備させる布石……)
先程は大したオーラも込められていなかったが、そうでなければ先程の様な無傷とはいかないだろうとピトーは感じ取る。武器にオーラを込めてその攻撃力を飛躍的に増加させる念の高等技術「周」の存在のことをピトーは知っていた。
分身によって囲まれたピトーはナイフを持って襲ってくる分身達の攻撃を対処する。だが、先程想定した周によって強化された攻撃より余りにも違いすぎる手応えの無さにピトーは困惑し、反撃によって破壊した分身の挙動からワンダーバルーンの仕組みのおおよそを看破した。
「ッ!?(うるさいニャ!!この感触と破裂音…分身の正体は風船!攻撃力も皆無!)」
(今っ!)
突然の大音に一瞬の隙を見せたピトーに対してステラが強襲する。
通常の念能力者ならそれだけで致命ともなるはずの不意打ちを、ピトーは野生本能と言うべき察知力を以って凝で防御する。そのたった一度の遣り取りを経て、ピトーはステラの能力とそれを使った戦術を理解するに至った。
(大量の分身は全てブラフ…!その中から本体だけが本命の攻撃を仕掛けてくる!)
相手の戦術を理解したピトーは腰を落として周囲の気配をより鋭敏に探ろうとする。ステラはそのピトーの「待ち」の姿勢を見て、自身の作戦が順調に成功していることを確信し、静かにほくそ笑んだ。
(流石にイージーウィンとは行かないか…だが、これで時間を稼ぐ盤面は整った!ネフェルピトーの本領は猫の性質を受け継いだことで手に入れたしなやかな肉体、それを最大限に活かした素早さ!足を止めた時点でカモだ!)
その考えが余りにも安直すぎたと彼女が後悔するのはその一瞬後、ピトーから発された、この世全ての不吉を込められたと形容するに相応しいオーラに全身を襲われ、僅かに自身の身体が反応したことを自覚した時だった。
「みつけた」
ピトーが円を発動したのは単なる思い付きだった。円なら分身に紛れている本体も見つかるかと思い、そしてその思い付きは不正解でありながらも正解という結果を導いた。
もしピトーが普通の念能力者なら円で本体を見分けることは出来なかっただろう。風船という実体を持つステラの分身は円発動時において本体と同様に感知される為、ただ単に円を発動するだけでは分身と本体の見分けが付かない。
だが、ピトーのオーラは普通の域を遥かに超えた凶悪な物だった。それを受けて一瞬だけ怯んだ彼女を、一体誰が責められるだろうか。
全ての意識を回避に集中させ、迫り来るピトーの一撃をなんとか躱し、再度分身へ紛れたステラは自分の短慮を責めた。
(分かってた!!!ピトーは円を持っていることも!ピトーのオーラがノヴやパームのような実力者達の心を容易に折るほどに凶悪なことも!)
(だが理解していなかった!読者として漫画を読んで理解した気になってただけで、大事なことは何も理解できていなかった!)
(普段からヒソカの隣で凶悪なオーラを受け慣れてたから、ピトーのオーラも耐えられるはずだった?…なんて甘っちょろい想定だ!ピトーのオーラがヒソカより凶悪なことなど他ならぬキルアが言ってただろうが!)
「…もうちょっとで当たったのに」
攻撃を躱されたピトーはもう一度本体の場所を探ろうと円を発動しようとする。だがその前に分身達の一部が行動を変化させたのを見て行動を改めた。
ライフルを構えた分身達がピトーへと一斉射撃する。銃弾の一部を避け、一部を腕で受け止めながら、ピトーは円を発動するか否か選択に迫られた。
(銃撃から身を守りながら円を使うのはちょっと疲れるかな?さっき円を使って気付いたけど、戦闘中の円はしんどいし、ちゃんと把握できる範囲も通常よりかなり狭いみたいだ。…でもこのまま待ってても、必ずしも本体が仕掛けてくるとは限らない)
(クソっ、こんな早くコレを使わされるとは!弾もそんなに持ってないのに!)
一瞬の思考の後に、ピトーは再度円を発動する。しかしながら先程本体を暴くことのできた円は、今度は正解を導くことはできなかった。
(っ!反応したら思う壺だっ!)
ステラは必死に恐怖を堪えながら、分身達と同じように引き金を引く。彼女は機械的にライフルを連射するという行動を取り続けることで、ピトーの凶悪なオーラを受けて自身の行動が変化し本体と察知されるのを防いだのだ。
この時ばかりはステラもヒソカに感謝した。ヒソカよりピトーの方がオーラが凶悪なのは事実だが、それでも普段から凶悪なオーラの下に身を置いたことが、耐えられない恐怖を必死になれば耐えられるくらいの恐怖にまで軽減させた。
(ヒソカが居なかったら多分コレに耐えることはできなかった。あんなヤツでも役に立つことがあるんだな……)
そして訪れた均衡状態は、ステラがライフルの弾を撃ち尽くすまで続いた。時間にするとほんの十数秒だったが、その時間は決して無駄ではなかったことを、ピトーのいる場所とは全く別の場所に居た分身が消滅したことから実感する。
(カイトの合図…大鎌の準備ができたんだっ!だったらやることは至ってシンプル!)
弾切れとなったライフルを捨て、ステラがピトーへと突貫する。その行動を円で察知したピトーは円を解き、迎撃の構えを取る。だが、
(フェイント?)
接触するタイミングになっても攻撃は来なかった。
そのことを奇妙に感じながらもピトーはもう一度円を発動する。三度目の円はライフルを連射するという機械的動作を使えなくなったステラを反応させ、その居場所を容易に映し出した。他の分身達がライフルを撃ち切って動かなくなったのも、ピトーにとっては反応した個体との比較がしやすいという追い風に働いた。
「今度は逃がさないよ」
「ッ!」
円を解いたピトーは察知した対象へと襲いかかる。
ステラはその攻撃を避けようと全集中を回避に傾けるが、数回の攻撃を避けるのが限界だった。
(仕留めた!)
ステラの心臓に目掛けて手刀を突き入れながら、ピトーは確信する。だがその確信は一瞬後困惑に変わり、そして真っ白な光に変わった。
爆発音を合図に2人は動いた。
攻撃を受けた直後にはピトーは己が爆発に巻き込まれたのだと気付いた。ダメージ自体は種族特有の防御力によって抑えられたものの、明滅する視界、脳内に鳴り響くキーンという金属音、焼け焦げた匂い、ピトーは一時的に五感の中で外界の情報を知るのに大きな役割を占める視覚と聴覚と嗅覚を同時に消失した。
その瞬間こそステラが狙っていた隙だった。
「今だぁーっ!!!」
「死神の円舞曲(サイレントワルツ)!」
空中に跳んだステラの叫び声に合わせてカイトがその大鎌を振るう。
(たとえ他の攻撃ではピトーを殺せなくても、この攻撃でなら間違いなくヤツを殺せる!師団長を含めた蟻十数体を両断して尚有り余る力!その殺傷力は原作でも恐らくトップクラス!)
(…獲った!)
ステラとカイトが勝利を確信する中、ピトーは真っ白な光の中で濃密な死の気配が自分に迫っていることを悟った。
自身を襲う初めての感覚に対し何よりも先に恐怖を感じたピトーは、その恐怖から逃げようとするべく一心不乱に跳んだ。
結果として、絶好のタイミングで放ったカイトの一撃は空中へ跳んだピトーによって躱された。
「獲り損ねた!」
「まだだ!大鎌を寄越せ!空中で確実に葬る!」
カイトはまだ視界が定まっていないピトーの様子から、依然として今がチャンスであり、大鎌をステラに渡すよりも自分が直接ピトーを攻撃した方が良いのではないかと一瞬思った。
しかし、片腕を失って戦力の下がった自分の代わりにここまでをお膳立てしてくれたステラ自身が要求していること、クレイジースロットを他者に渡すとどうなるのかは以前彼女に説明していたことから、何らかの作戦があるのだと彼女を信じて大鎌を投げ渡す。
空中で大鎌をキャッチしたステラが分身を発動するのと、未だ不明瞭な視界の代わりに周囲の状況を認識する為にピトーが空中で円を発動したのは同時だった。
(アレだけは食らったらマズイ!)
自身を囲む大量の人影達の中で一体だけ、大きな鎌を持った者を認識したピトーは、その鎌こそが先程自身に死の恐怖を刻み付けたものだと瞬時に確信する。
(…でも体の制御が利かない空中で鎌による攻撃を回避し続けるのは不可能!だったらこっちから攻撃するしかない!)
そのピトーの神業というべき技術にステラは驚愕を禁じ得なかった。
(空中で円をしながら分身の位置を正確に把握し、それを足場にして飛んできやがった!?こっちだって分身を足場にするのは咄嗟に召喚した奴に限るってのに、なんてふざけた空間把握能力と身体能力だ!)
次々と破裂する分身を背にこちらへと飛んできたピトーの攻撃を避ける為に分身を出して飛ぶが、ピトーは出現したばかりの分身をステラと同じように足場にして追いかける。
(クソっ!鎌一点狙いか!)
「だったらこれはどうだっ!」
このままでは追いつかれると思ったステラは、鎌を分身のいる方向に投げ渡し、懐から取り出したナイフで攻撃する。
ピトーはその攻撃を避けながら、ステラを踏み台に鎌を投げた方向に飛ぶ。鎌を受け取った分身はまた別の分身に鎌をパスするが、ピトーはパスした分身を破壊しながら鎌を追いかける。
ピトーは分身を破壊して空を飛びながらステラから鎌を奪おうとし、ステラもまた分身を出して空を飛びながら鎌を奪われないように逃げる。2人は翼を持たずして空中にて戦いを繰り広げた。
いつまでも終わらないかに思えるその追いかけっこも、分身を足場にするだけのピトーと違って足場にする為の分身を出現させなければいけないステラの一手分の差が、分身が徐々に減っているという目に見える違いとして戦況を変化させていた。
分身が全て消失し、いよいよ追い込まれたステラは猛スピードで突っ込んでくるピトーを鎌で迎撃しようとする。
「くそッ!」
先程までの空中戦でピトーの目は既に回復しており、視界の代わりとして使っていた円も解いてその攻撃に集中する。
(無駄ッ!その鎌よりコッチの方が速い!)
リーチの長い大鎌はそれ故に懐に潜られると無力、それを証明するかのようにピトーはステラの攻撃を懐に潜り込んで回避した。そして、
「っ!!!!!」
ステラが声にならない悲鳴をあげる。ピトーの鋭い爪が彼女の胸に突き刺さっていた。
ピトーは刺さっていた手を引き抜いて地上へと真っ逆さまに落下していくステラを見ながら思案する。
(貫通させるつもりで突いたけど浅かった。鎌での攻撃が失敗したのを悟り一瞬で防御に切り替えたか。どちらにしても、鎌を手放した時点でボクの勝ちだ)
そこまで考えてピトーは致命的な違和感を覚えた。
「鎌はどこだ…!?」
ステラは地上へと落下しながらピトーを睨み続ける。その口元は笑いを湛えていた。
(ネフェルピトー、お前の最大の弱点は念の経験不足にある。念の知識の方はポックルの脳クチュでほぼ完璧に仕入れたんだろうが、知識だけでは念は分からないことが沢山ある)
(例えば俺の能力を見た時、念での戦闘経験の豊富な能力者なら大量の分身がハリボテである可能性を高くみる。念獣や念人形を扱うのには相当な集中力とオーラが必要であり、それを大量に出して戦わせるなど常識的に考えると不可能だからだ)
(だがお前は、俺の分身が振るったナイフをバカ正直に防御し、その手応えの無さから困惑を覚えていた。それはお前がまだ念能力によって何が出来て何が出来ないのかを感覚的に理解できてない証拠だ。まあ当然だ、まだ蟻の中じゃ誰も発を作ってないんだから)
(同様に、お前は大鎌を持った俺の姿を見て、大鎌は俺が出したものだと思っただろう。本来なら分身能力に加えてこれほど斬れ味を持った武器を二つ目の能力として持つなどあり得ないが、お前はそれがあり得ないことだとは分かってない)
そしてステラは、ピトーのその先にいる人物を見た。
(お前は最初からずっと俺一人と戦ってたつもりだっただろうが、それは俺がカイトを切札として伏せていたからそう見えただけなのさ!)
ピトーが再び死の恐怖を感じて後ろを振り返るのと、カイトが残った左腕で大鎌を振るうのは同時だった。
(俺達の勝ちだ!)
(今度こそ獲った!)
(…やられた!)
三者はそれぞれ勝利と敗北を確信する。
カイトの太刀筋には幾つかの理由によって生じた、誤差数ミリ程度の小さな歪みがあった。
それは失った右腕に起因する身体的バランスの問題。それは妹弟子が傷付けられたことに対する心配と怒りの感情。それは勝利を目前にして生まれた、残心を心得る達人にさえ生じるほんの僅かな気の緩み。
もし、それらの内どれかひとつでも欠けていたら、その歪みの誤差はより小さくなりピトーが活路の光を見出すだけの隙間は生じ得なかっただろう。
もし、ピトーが猫の遺伝子を受け継いだキメラアントでなければ、その小さな隙間に活路の光を見出すことはできなかっただろう。
カイトの振るった致命に至るはずの刃は、斬られる直前に驚異的な身体能力を以って体勢を変えたピトーの右肩から先を斬り飛ばすという結果に終わった。
ーーーCASE1 失敗ーーー
胸の傷をオーラで止血し、俺は息を切らしながら着地する。
地面に着地した俺とカイトは戦闘続行の意思を見せるべく構えは解いていなかったものの、少なくとも俺の心は折れていた。それは胸から滴り落ちる血だけが原因ではない。
「アハっ、これでおあいこニャ〜」
落ちた右腕を拾いながらピトーが笑顔で話す。ピトーの片腕が無いのを考えても今の消耗した俺達では勝つ確率は限りなく低いし、何より先程までで切札は全て使ってしまった。分身爆弾による撹乱も能力の誤認も一度きりの奇術だ。
「ヤツを仕留め損なった責任は自分で取る。お前は逃げろ」
カイトは俺が万策を尽くして気力を失っていることに気付いたのか、殿を申し出る。
それを有難く思うと同時に。もしカイトが腕を失っていなかったら、俺がもっと早くカイトの元に辿り着いてたら、俺があの時うじうじしていなければ、こうなった責任はカイトではなく俺にあるのに、責任を取るべきは俺なのに、今それを言っても彼には何ひとつ伝わらないであろうことが何より辛かった。
「…絶対に死ぬなよ」
「死なんさ。泣き虫な妹弟子を放っては置けないからな」
ーーーCASE2 逃亡ーーー
ピトーから逃げたゴンとキルアが無事キメラアントの巣の近くから逃げ切れたのは、決して偶然ではなくひとつの理由がある。その時キメラアント達は念能力を習得する為にラモットが一体ずつ外法(念による攻撃)で目覚めさせていたのだ。
ラモットがゴンのジャジャン拳グーを受けて回復して念能力を獲得するまでにそれほどの時間は経過しなかった。ゴン達がキメラアントと初遭遇した相手こそがラモットであり、撃退された彼が回復したのはゴン達はカイトに見守られながら兵隊長とタイマンしていた時だった。俺が工場を制圧して連絡を入れていた時でもあり、回復と念習得までの時間は精々長くても5時間くらいだと思う。
ラモットが行う念による攻撃はゴンのグーよりは威力は低いのは確実で、そして念を覚える前のラモットはオーラを視認できず彼自身の階級も兵隊長クラスと決して高くはない。
であれば、念を覚える前からオーラを視認していた蟻やラモットより強い師団長クラスの蟻なら彼よりもっと早いペースで念を習得していてもおかしくないのである。
ピトーとの交戦に時間を費やした俺がNGLから脱出する前に念を習得した蟻に囲まれる。それは俺が蟻編に介入する想定の中で最悪中の最悪と設けたケースであった。
「あらぁ…また会ったわね。女王直属護衛軍が取り逃したニンゲンってアンタでしょ?」
「ホホーッ!またレアモノだべーっ!」
数時間前に会った時より明らかに強くなっているパイクとザザンを見ながら俺はどうしようかと途方に暮れていた。
こっちはピトーから受けたダメージもあるし装備も殆ど使い切ったのに、今からが本格的な逃亡戦の始まりらしい。
「…勘弁してくれマジ……」
ーーーCASE OF ???ーーー
いつも上から踏ん反り返ってるより、たまには現地を視察した方が現場の士気も上がる。それがボクが会長の仕事ぶりから学んだ上に立つ者としてのやり方です。それを普段からできてるかどうかは別として、意識だけは持っておきたいですね。
「ま、今回はただ単に会長の最後の仕事ぶりを拝見できたらと、足を運んだだけなんですけど」
「副会長!」
「でも報告では、会長はノヴさんとモラウさんを使うらしいんですよねぇ。おふたりの能力から考えたら、会長の勇姿を見ることは出来ないかもしれないんですねぇ」
「副会長!付近で重症のハンターを発見しました。どうやら人型キメラアントとの交戦で負傷しているようです」
「あ、すみません聞き逃してました。それでその人はどうしました?」
「はい(聞いてるじゃねぇか…)現在は保護、治療中です」
「ああ良かった!同士たるハンターが死んでしまったらボクの心は悲しみで張り裂けてしまいますから」
胡散臭いとでも言うかのような部下の視線を受けながら、ボクはそのハンターをキメラアントに食べさせるという考えを却下した。
仮にキメラアントに食べられるとしても今のタイミングは惜しい。何故なら現在はキメラアントの女王が次の王を産もうとしている真っ最中であり、今人間が食べられてもその大部分が王の栄養として使われて、使いやすい兵隊蟻として産まれ直す可能性は薄いからだ。
「それにしても……」
あのキメラアントの巣から単独で脱出するとは、中々優秀なハンターのようですね。ボクの知ってる人でもないみたいだし、機会があれば是非協専にスカウトしたい人材だなぁ。
ーーーCASE3 パリストンーーー
「知らない天井だ……」
どうやら俺は、蟻の巣から逃げる過程で深手を負い、近くにいたハンターによって保護されたらしい。病院に搬送された俺は約2ヶ月もの間昏睡状態だったと。
「って2ヶ月!?」
状況を完全に把握した俺は素っ頓狂な声を上げる。
NGL自治国に入国したのが5月の頭だから、その2ヶ月後となると7月だぞ。多分もうゴンとキルアが東ゴルトー共和国入りした頃じゃないか?
「…完全に出遅れたか」
「というか東ゴルトー入りってことはもう作戦決行中だよな…俺が介入できる余地無くねぇか?」
ゴンとキルアが討伐隊として東ゴルトー入りするまでの経緯は、ノヴの弟子であるパームとモラウの弟子であるナックル、シュートのどちらかが討伐隊入りできるという話でゴンとキルアはパームの助っ人枠に選ばれ、色々あって最終的に5人全員が討伐隊に選ばれたという流れだ。
その話の流れ的にも、作戦総指揮者であるネテロ会長の方針的にも、今から俺が飛び入りで参加しようとしても拒否される可能性が高い。キメラアント討伐がハンター協会の請け負った仕事(ハント)である以上、指揮系統を乱すような真似は論外だろう。
「確かに元々は介入するつもりは無かったけどさ。…あの時ピトーに勝てたら、そのまま今後の流れを変えられたかもしれないけど、負けた俺にはそんな資格はないってことなのかもしれないな……」
はぁ…とため息をつく。
療養中の俺に客が来たのは目覚めてから数日後のことだった。
瀕死の俺を拾い救ってくれたハンターと聞いて、NGLの近辺に居た生きたハンターはそう多くないはずだと少々不審に思いながらも、俺を助けてくれたのは事実だから感謝の意は伝えないとな、と直前までは思っていたが、病室のドアが開いた瞬間その思考は一変した。
「いやぁ〜、目が覚めて大変良かったです!あ失礼、ボクの名前は…」
「…ご紹介は不要です、ハンターなら知らない人の方が少ないでしょう。副会長さん…!」
ハンター協会副会長であるパリストン・ヒル。確かにお前なら、キメラアント達やそれと戦うハンター達の状況の把握とコントロールが可能だろうな…!
ーーーCASE4 協専ーーー
「それで、何のご用ですか?普段からお忙しい副会長殿が、自分のような木端ハンターの見舞いに来るなんて滅多にないことでしょう?」
「ええそうですね!ボクもそろそろ本格的に忙しくなってお見舞いに行く余裕も無くなるので、貴女が目覚めたのが今で良かったと思ってますよ!」
忙しくなるというのは、十中八九次の会長選挙の準備だろう。蟻編で現会長であるネテロが死んだからこそ始まった第13代ハンター協会会長総選挙だが、蟻によって発生した人的被害の大きさを考えると仮にネテロが死なずとも、責任を問われて会長職を下されていたのは確実だ。
「それで貴方の目的は??」
「確かにボクは普段から副会長業務で忙しいですが、介抱した人が無事と分かればお見舞いに行くのが人情ってものでしょう?」
「目的は???見舞いは本心じゃないでしょう?」
「嫌だなぁ、見舞いに来たのは本心ですよ!ついでに、リハビリ中または復帰後の仕事についてはボクに任せてみてはいかがかと思いましてね!ホラ、ボク偉いですから色んなコネもありますし、貴方もプロハンターとしては若手でこういうのは慣れてないでしょう?良い仕事を紹介しますよ」
なるほど。目的は俺に斡旋された仕事を請け負わせる…要は俺を協専ハンターにさせるってのがコイツの腹積もりってわけか。
協専ハンターというのは協会の斡旋専門の略であり、政府や企業からの依頼を受けたハンター協会がハンター達に仕事を斡旋、その仕事のみを専門として請けるハンターの略称である。
一般的には個人事業となるハンター活動とは異なり、仕事の成否に関わらず報酬を与えられ、これを本業とするハンターは多い。
これの存在自体に関しては俺は肯定している。ハンター協会という組織が政府や企業にとって有益な組織だからこそ、協会の認めたプロハンターに対して大きな権利が認められているだろうし、仕事内容やハンターの状況次第では個人事業の限界が来ることもある。
実際問題、現代日本人的な価値観を持つ俺なら、なりたくないかとだけ聞かれたら間違いなくなりたいと答えるだろう。
しかし協専周りには黒い噂が後を絶たない。その中心人物こそが目の前にいる副会長様なのだ。
ーーーCASE5 副会長の妨害ーーー
彼が牛耳るのは、仕事に応募したハンターの中から誰に依頼するかの適正審査を行う審査機関だ。つまり、彼の意向によって依頼の成功と失敗をコントロールできるのだ。
原作では、蟻編でヂートゥの討伐を失敗したことの連絡を受けたモラウが副会長が任務を意図的に失敗させていると推測した。
「仕事ですか。確かに今の私としてはご紹介頂けるのはありがたいですね」
「なにかご要望とかあれば何でも言ってくださいね!」
モラウの推測から考えても、パリストンがキメラアント討伐を協専ハンターに委託できる立場にあるのは確かである。仮にそうでなくても駄目で元々のつもりだった。
このまま逃げて終わりなんて嫌だ。討伐隊に参加しない以上もうピトーにやり返すのは不可能でも、他の蟻をブッ飛ばすのならまだ手段はある。ただの八つ当たりかもしれないけど。
「では、大型キメラアント討伐業務に携わりたいですね。現場に居た個人としては奴らからは放ってはおけない脅威を感じました」
「うーん、残念ですが現在その手の依頼は応募が殺到しておりまして。それに目覚めたばかりの貴女の体調も心配です」
…まあ分かってたことだ。会長の妨害を目論むパリストンからしたら優秀なハンターが討伐業務を成功されるのは不本意だし(俺の能力をそこまで高く見積もってるかは別として)、応募が殺到しているのも事実だろう。俺を心配してるのは100%嘘だろうけど。
だったら別の手段を使うまでだ。
「では、大人しく療養していようかと思います。暫くは仕事は要りません」
「分かりました!確かに仕事より貴女の健康が第一ですものね!ですがもし気が変わったり仕事が必要なことになれば遠慮なく申し付けを!貴女のようなハンターの皆様を救済するのがボクの使命なので!」
心の底から胡散臭いなと思いつつ、別れの挨拶をする。
「これはただの興味本位なので答えなくても結構ですが、療養中は如何してお過ごしのつもりで?」
「ええ、久しぶりに実家に帰省しようかと」
帰省中に偶然蟻と遭遇し、自衛としてブッ飛ばしたなら何の問題もないもんな。
実家が存在を認められない流星街なら尚更だろう。
ピトー戦は頭の中で構想があったのでサクサク書けました。後半もキャラの動かし方には苦労しましたが喋らせる分には楽でした。
問題はこの後の構想が全く存在しないことですね…