流れ者の考察記録   作:sesamer

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 考察部分が長すぎてリハンみたいになってます。



2. 実戦×気狂いピエロ×GI

 

ーーーCASE1 流星街ーーー

 

 

 

 流星街から抜け出した俺は現在、どこかのスラム街で野垂れ死にかかっていた。流星街の頃と変わってねぇじゃねぇかと思われるかもしれないが、これでもゴミから孤児にランクアップしてるのだ。

 

 流星街の成り立ちはどこかの国の独裁者の人種隔離政策だ。それによって被差別階級が隔離され、他の国からもその存在を認められていない空白地帯に人々が人や物をゴミとして捨て、捨てられた人が捨てられた物を使って生活するようになったのが始まりだ。

 

 未だに事実上は存在しない扱いとなっており、当然そこに住んでいる人間に戸籍のようなものはない。ハンターハンターの世界の人間は生まれてすぐ生体データを登録する義務がありこれが戸籍として扱われるのだが、流星街に捨てられた人間にその義務は発生しない。何故なら流星街は存在しないという扱いであり、またそこに住む人間も存在しないという扱いだからだ。そして生体データがなければ身元も保証されないわけで……

 

「まあ仮に戸籍があっても6歳の幼女が仕事になんて就けるはずもなかったんだが……」

 

 そんな感じでごく一般的な孤児としてスラム街に住み着き、朝と夕方の炊き出しと雨風を凌げる場所を恵んでもらっている。なんなら流星街に住んでた時と比べて生活がランクダウンしてる気さえするが、ぶっちゃけ俺としてはそこまで不満がある生活でもない。

 

 何故なら俺は念能力者で、纏を維持するだけでも常人より遥かに燃費良く動けるからだ。

 

 

 

ーーーCASE2 オーラーーー

 

 

 

 念能力が生命エネルギーをオーラとして操る技術であることは前にも説明しただろう。その内の纏は基本技術であり、基本の四大行として教えられる。その内容は普通の人間は少しずつ垂れ流している生命エネルギーを垂れ流さずにとどめることでエネルギーの無駄をなくすというものだ。

 

 垂れ流している分を纏うようにするだけでも肉体の頑健さは常人の2倍以上になるし、何より垂れ流している生命力を減らせるので老化等も遅くなる。

 

 だからこんな不衛生な場所にいても病気になる危険性は少ないし、日に2度の炊き出しだけで満足できるくらい燃費も良いのだ(こっちは俺が6歳の幼女だからかもしれない)

 

 そんな感じで俺は念の修行をしながら平和な日々を過ごしていた。だがその生活に慣れて一年ほど経ったある日、強い気配を持った人間がスラム街に現れた。

 

 

 

 これは念能力者に限らず鍛えた人間になら可能になる技術であるが、この世界ではオーラを気配として察知する技術が存在する。そして、それは円のような念の修得を必要とするものではない。

 

 例えばカストロはキルアの絶に気づいたことから、しばしば彼が円を使えるのだと勘違いされがちだが、あれは気配察知の応用である。キルアが絶をしたのはカストロと同じ階に来てからであり、それまでのキルアの気配をカストロは察知できたわけだ。カストロのセリフからもそういう原理だったのは分かる。

 

 

 

 それでその強い気配を持った人間に対して、俺は何をしたのかというと、咄嗟に絶をしてしまった。俺の周囲にはスラム街の住人がいたため、俺の気配は彼らの気配に紛れてなんらおかしいものではなかったのだが、ついついビビって絶をしてしまったことで逆に不審な気配になってしまったのだ。こちらが気配を察知できるということはあちら側からも同じことができるわけで、急に消えた気配を不審に思って近づくのは当然の行動だろう。

 

 そして現れた人物を見て、俺は自分がツイているのかツイていないのか複雑な気分になった。その人物は間違いなく善人なのだが、その人物が自分にもたらす影響がどうなるか分からないからである。

 

「こんな場所に念能力者のガキがいるとは……」

 

 そこにいたのは白髪を腰まで伸ばし目深に帽子を被った青年だった。

 

「っ!?」

 

「おい、お前なんて名前だ?」

 

 要は原作キャラだということだ。しかも死亡予定の。

 

 

 

 

 

ーーーCASE OF KAITEーーー

 

 

 

 俺の師匠であるジン・フリークスは俺の命の恩人とも言える方だ。彼が俺を拾ってくれなければ今頃俺はこの場所で死んでいた。だから俺はジンさんと俺を出会わせてくれたこの街を嫌いになれない。

 

 そんな感慨に耽りながら俺はかつてのスラム街を歩いていたのだが、不自然な気配の動きを捉えたのはその時だった。突然気配が消えるというのは普段の生活では見られない動きであり、考えられるのはその瞬間に気配の持ち主が死んだか、絶や隠などをして気配を絶ったかのどちらかだ。俺は状況を鑑みて前者だとアタリをつけ、餓死か病気かでこの瞬間野垂れ死んでしまった人間がいたのだろうと思った。

 

 

 

 俺はまだ一人前のハンターだとジンさんに認められておらず、そんな俺が人を拾って教育するなんてのは烏滸がましいことだ。だからここに寄ったのもただの感傷でしかなく、そんな俺がここで死んでしまった人間を悼んだとしても本当に供養になるのかは分からない。だが、それでも俺はかつての自分が歩んだかもしれない末路を迎えた人を弔ってやりたいと思った。

 

 だが、そこで見たものは予想とは違う光景だった。

 

「こんな場所に念能力者のガキがいるとは……」

 

 俺の言葉に反応を示したのは拾われた時の自分より遥かに歳下でありながら、明らかにオーラを扱っている謎の少女だった。

 

 今は動揺により絶は途切れているが、先ほどの絶は完璧だった。だからこそ自分はここに足を運んだのだ。目の前の少女に興味が湧いてきて俺は名前を尋ねる。

 

「おい、お前なんて名前だ?」

 

「……ステラ」

 

 目の前の少女は俺を警戒していつでも逃げられるように構える。そんな少女の境遇に同情し、俺は師匠に許されないかもしれないとは思いながら誘ってしまった。

 

「ステラ、お前には才能がある。こんなところで燻ってないでハンターにならないか?」

 

「………」

 

 ステラはしばらくの間考え込んでいたが、腰を低くして臨戦態勢になりながら答えた。

 

「私が負けたらそうしよう」

 

 下手したら俺より10歳も下の子供の強気すぎる言葉に俺は内心呆れながら構える。怪我させないようにしないといけないな……

 

 

 

 

 

ーーーCASE3 体術ーーー

 

 

 

 カイトが子供に危害を加えるわけないし、せっかくの機会だから今の自分がどれだけ戦えるのかをカイトとの手合わせで確認しようとしたのだが、

 

「っ!」

 

「軽いな、それにオーラの流れもお粗末だ」

 

 俺の攻撃は全く効いていなかった。まあ当たり前だ、念能力を習得したからといって戦えるようになるわけではない。念能力によって肉体の強度は遥かに頑丈になるがそれで動きが俊敏になったりする効果はなく、そして戦いにおいて最重要なのはスピードだ。

 

 6つの系統のうち強化系が1番殴り合いに向いているということは広く知れ渡っているが、かといって強化系だから操作系や具現化系の能力者相手に殴り合いで勝てるという単純な話ではない。作中でも強化系のゴンは具現化系のゲンスルーやナックルに対して後手に回っていた。

 

 また強化系が1番相性の悪い特質系能力者であっても殴り合いを拒否する能力者は少ない。強化系が得意になるクラピカやキメラアントとしての肉体の頑丈さが強く影響するネフェルピトーは例外としても、ゼノとシルバを同時に相手取りながら互角の戦いを繰り広げたクロロや、GIに入ったゴンとキルアの最初の壁になったビノールトなど、強化が苦手な特質系でも体術や流の出来次第では殴り合いで優位を取ることが可能なのだ。

 

 

 

「殴り合いでは勝ち目が無い、なら……ワンダーバルーン!」

 

「!!まさか発を覚えてるのか!?」

 

 一旦下がって分身を呼び出す。カイトは分身に紛れて攻撃する俺の攻撃を掻い潜る。何度かの攻防を経て、大きく後ろに下がったカイトは俺の能力を看破する。

 

「片方の動きがもう片方に比べてお粗末だ、そっちが分身だな?」

 

「……凄い、これだけの攻防で見分けるとは」

 

 これは仕方のないことだ。どれだけ分身と自分の姿を似せたところで戦闘中の自分に起きた変化までは再現できないので自分と分身を似せる努力をするのは無駄である、だから手動操作にして本物そっくりの動きにするより、自動操作にして分身の使い勝手を上げる方向性にしたのだ。

 

「だけど私の能力はこういう戦いの為のものだ!」

 

 そう言って俺の周囲に分身を5体召喚する。ワンダーバルーンには基本的に召喚する数に制限は無い。最初から数撃ちゃ当たる戦法なのだ。

 

「ちっ、厄介だな」

 

「いくぞっ!」

 

 私の体術は拙いし私の分身の体術は更にお粗末な出来だが、それでも7人で囲めば当てることは可能なわけで、

 

「!?」

 

 パァン!という音と共にカイトを殴った風船人形が破裂する。攻撃を防御しようとしたカイトはその音と衝撃に隙を晒す。俺が狙っていたのはこの瞬間だった。

 

「食らえっ!」

 

「ぐおっ!」

 

 

 

 風船が破裂する時に発生する音は約120〜150デシベルであり、特に風船を限界まで膨らませて破裂させた場合168デシベルになる。これは人間の可聴音量である100デシベルを大きく超えており、耳鳴りやめまい・頭痛を発生させ最悪の場合永続的な聴覚障害を引き起こす。

 

 現実世界においてもLRADと呼ばれる音響兵器が世界各地の軍や警察の間で非致死性兵器としてしばしば使われるが、その音の大きさが最大で150デシベルであるのを考えれば風船の割れる音が如何に危険かが分かるだろう。

 

 それが間近で鳴って無防備にならない人間はいない。しかもただ風船が割れる場合と違い、カイトは念人形からの攻撃を防御しようとしていて突然の爆音が鳴ることなど全く予想していなかったのだ。俺の攻撃をモロに食らったカイトは片膝をついて耳を押さえながら叫ぶ。

 

「チィッ!やけに攻撃動作が軽すぎると思ったら、こいつら全部風船か!」

 

「すみません、耳栓してるのでよく聞こえないです」

 

「小憎たらしいガキだなっ!」

 

 当然俺は耳栓をしている。だが敵であるカイトはそんな便利なものは持っておらず、これから分身の攻撃を食らう度に耳を塞がなければいけない。だがそれは自ら動きを制限するということであり、俺の攻撃チャンスでもある。

 

「自律する音響兵器の大群、耳を塞げば本体の攻撃か……!厄介だな!」

 

 カイトは腰に差していた刀を抜き、俺の下に瞬時に移動し分身をまとめて薙ぎ払う。盛大な音が鳴り響くが、片耳を塞ぐことでなんとか耐えたようだった。俺にはなんとか避けることができるが分身には対応できない速さか。

 

 ……というか、俺としても能力がある程度格上にも通用することが分かったから後は流れで負けても良いのだが、思った以上にカイトの方がやる気を出したようだった。

 

「子供だからって発を見せて加減してもらえると思うなよ……ちょっと本気でいくぞ」

 

「……マジかぁ」

 

 

 

ーーーCASE4 空中移動ーーー

 

 

 

 後は一方的な展開だった。俺が分身を作ってもカイトはそれを瞬時に破壊し、数の利を形成するのを許さなかった。そうなると俺としては攻める余裕などなくてただただ逃げ続けるしかなく、時々分身を置きながらカイトの攻撃の隙を作って逃げるだけであった。

 

「どうした!逃げるので精一杯か!?」

 

「アンタもよくやるよ!」

 

 分身を破壊するたびに耐えきれない爆音が流れているが、マスクのように布を巻いて耳を保護したカイトが突っ込んでいく。あの程度の耳栓だと大した軽減にはならず鳴るたびに頭にダメージが入るはずだが、それも気合いで乗り切っているのだろう。

 

 だが、その攻防も終わりを迎える。というかカイトによって迎えさせられてしまった。

 

「っ!誘い込まれたっ!」

 

「そら逃げ場は無いぞ!」

 

 カイトに追い立てられた俺はカイトの攻撃の緩い方向へと逃げていたが、それは餌だったようで俺は壁を背にカイトに追い詰められる。

 

「うわっ!」

 

 飛んでくるカイトの一閃を辛うじて跳躍することで避ける。

 

 だが、それまでもカイトの想定通りだったらしい。カイトの左手には刀の鞘が握られており、それが一直線に俺の方へと飛んでくる。

 

 

 

 その攻撃を前に俺は思わずニヤリと笑った。

 

 

 

 ハンターハンターにおける念能力は多種多様だ。その中でも俺が個人的に完成度が1番高いと思うのはヒソカの「伸縮自在の愛(バンジーガム)」だ。読者なら皆知っていると思うが、この能力はオーラを粘着性(ガム性)と伸縮性(ゴム性)の2つの性質を持つものに変化させるというもので、これを利用してヒソカは相手につけたガムを縮めて攻撃したり物と相手をガムで結んで遠隔攻撃をしたりしている。

 

 だが、個人的に1番完成度が高いと思う部分はバンジーガムの攻撃性能ではなく防御性能だ。クロロVSヒソカにおいて、ヒソカは左手から伸ばしたガムを天井に付けることでどんな状況からでも即座に回避行動を取れるようにしていた。それはクロロによって妨害されるのだが、その状況でも足からゴムを伸ばすことで空中を移動していた。

 

 

 

 ハンターハンターの世界では基本的に人が空中を自由に移動することはできない。だから飛ぶという行動にはその後の移動ができないというリスクがあるし、その行動を相手が狩ろうとするのは当然である。

 

 だから、俺は空中移動ができるバンジーガムが1番完成度の高い能力だと思っているし、念能力を覚える上で空中移動ができるかどうかを1つの判断基準とした。

 

 

 

 分身を作ると即座に足蹴にし、カイトの攻撃を側転の要領で回避する。そして俺は、その勢いのままカイトの顔面に飛び蹴りをぶち込んだ。

 

 

 

 念での戦いは基本的にリスクとリターンだ。使えるオーラの量は決まっている為、反撃の可能性がある内は攻撃にばかり意識を取られるとその分の防御が疎かになってリスクが跳ね上がる。ゲンスルーはゴンに対して両手に凝をすることで両腕を爆破しようとしたが、ゴンは両腕を捨てて蹴り上げることでゲンスルーに大ダメージを与えた(尤も、これは反撃の選択肢を取ったゴンがおかしいだけで、普通の人間であれば防御一択の場面なのでゲンスルーを一概には責められない)

 

 そして、反撃のリスクがない場合に防御に意識を割くのはリターンの薄い行動だ。その場合は攻撃に全ての意識を注いで相手の打倒という最大のリターンを目指すのが基本だ。

 

 だからこそ、身動きが取れないという最大のピンチを最大のチャンスに変えられる可能性のある空中移動に対して俺は最上の評価を送っているのだ。反撃できない体勢の敵にトドメを刺そうとするタイミングは、戦闘を通して最も防御の意識が欠ける時だ。そこを攻撃できればその一撃で戦闘を終わらせることだって不可能ではない。

 

 

 

 全力の飛び蹴りによって吹っ飛ばされたカイトは膝をつきながら着地する。その後しばらくお互いに見合っていたのだが、カイトの無反応がおかしいと感じた俺はようやくそのことに気づいた。

 

「し、失神してる……」

 

 ワンダーバルーンの音響攻撃を受けていたことでカイトの脳にたまっていたダメージは大きかったのだろう。そこを全力の蹴りで脳を揺さぶられた結果、蹴り自体は防御できたものの脳へのダメージが許容範囲を超えて失神してしまった、というところだろう。

 

 

 

「さて、どうすっかなぁ……」

 

 問題はこの後、カイトを倒した俺はどうすればいいか、ということだった。ワンダーバルーンの有効性さえ分かれば後は適当に負けるつもりだったからさ……

 

 

 

ーーーCASE5 ジンーーー

 

 

 

「ぷふっ!じゃあお前、こんな年端も行かない女の子に伸されちまったのか!その上で情けをかけられてついてこられたって!はははっ!」

 

「笑わないでくださいっ!ステラの発はそれだけ優秀でした!それに俺だって発を覚えればなんとかできたはずです!」

 

 ジンに笑われるカイトを横目に見ながら、俺はここまで凄いスムーズに原作主人公であるゴンが30巻掛けてようやく会えたジンとエンカウントしたことに拍子抜けしていた。というか、それ以上に衝撃的な出来事を前に俺は動揺を隠せていなかった。

 

「そんなことより、ジンさんが抱えている赤ん坊はなんですかっ!どっかから拾ってきたんですか?」

 

「ああ、こいつは正真正銘オレの子だ」

 

 その言葉にカイトは絶句する。ついでに俺も衝撃を受けていた。確かに俺やクロロ達の年齢から逆算すると今頃ゴンが生まれているはずだが、こんな場所で出会うとは全く思ってなかった。

 

「えっ、マジですか?」

 

「マジマジ、超マジ」

 

「なっ!一体どこで作ってきたんですか!?お相手は!?」

 

「うっせーな、お前はオレのお袋かよ」

 

 ジンの言葉がカイトに刺さってしまったのか、カイトは見るからに凹んでしまった。どうやらちょっとはその自覚があったらしい。

 

「それにしても、お前もその歳でカイトを倒すとは中々やるな。ああ見えてカイトは俺が隙無く育てたつもりだったんだが……」

 

「私がカイトを倒せたのは私の発が初見の相手を倒すのに特化していたからです。予め能力が分かってれば耳栓を用意するだけで私の能力の殆どを無力化できる」

 

「へぇ……それも自分で理解してるか。こりゃカイトが勝つのも時間が掛かりそうだ」

 

 俺としてはカイトが耳栓を持ってきて今第2ラウンドを開始したら100%負けると思ってるのだが、ジンはそう思ってないようだ。

 

 ジンは一度赤ん坊のゴンを俺に預けると、メモになにかを書いてカイトに手渡した。

 

「カイト、次の試験はここに書いてある武器を全て使い熟せるようになることだ。分かってると思うが妥協はナシだぞ、どの武器も得意だと胸を張って言えるようになるのがスタートラインだ」

 

「え……こんなにですか!?」

 

「ハンターたるもの得物は選ばず、だ。どんな状況どんな武器でも生き残ってこそのハンター、特にお前は真面目なんだから色んな状況に対応できるよう今から想定していた方がいいだろ」

 

「た、確かに……」

 

 カイトの手元を横から覗くと、ジンに渡されたメモには数十に及ぶ武器種がずらっと並んでおり、これらを使い熟せるようになるだけでも俺なら人生を一度使い切るだろうと断言できる量だった。

 

「ステラのことは俺に任せろ、お前は他人の面倒を見ながら自分のことに集中できるほど器用じゃない」

 

「あ、ありがとうございます!では今から行っていいですか?」

 

「ああ」

 

「では行ってきます!」

 

 

 

 カイトは休む暇もなく行ってしまった。多分だけど俺に負けたのが相当なショックだったのだろう。それにしてもあれほどの武器を使えるようになるなんて相当な無茶振りだと思うんだが……

 

 

 

 あっ

 

「あの……さっきの試験の目的って、どこまで本気なんですか?」

 

「え?いったい何のことだ?」

 

 ジンはニヤニヤとしながら俺の問いにすっとぼける。コイツ……やっぱりさっきのは方便だな!カイトに「気狂いピエロ(クレイジースロット)」を習得させる為の嘘だ!

 

 

 

ーーーCASE6 気狂いピエローーー

 

 

 

 カイトが後に身につける能力である「気狂いピエロ(クレイジースロット)」は、ジンがカイトに教えたものであり、その内容は能力発動の際にルーレットが始まり、出た目に応じた武器を具現化する能力だ。数字は1〜9であり、カイト本人はなんの武器を具現化するか決められないしルーレットの数字が決まるまで分からない。その上一度出した武器はちゃんと使わないと他の武器に変えられないし、消すこともできない。

 

 だがこんだけクソみたいな制約がある分、具現化された武器はとてつもない力を持つ。頑丈なキメラアント複数をまとめて切断できる切れ味を持つ大鎌、ゴン達ですら気づかない静けさで射撃することができる銃、死んでたまるかと思った時にだけ発動し奇跡を起こすバトン、どの武器も具現化系能力者が普通に具現化しても到底作れないだろう。

 

 

 

 ジンは恐らく今回の試験の名目でカイトに色々な武器を教え、それを元にクレイジースロットを作らせようとしているのだろう。全く性格の悪い師匠だ。使いにくい発を覚えさせられるカイトかわいそ……

 

「安心しろ、最初から自分だけの武器を持ってるお前みたいな人間にあんな教え方はしない。カイトは俺と同じく万能型だから覚えれば覚えるだけ強くなるのさ」

 

「まあそれならいいですが……」

 

「というかお前の場合は俺が教える必要性をあんまり感じねぇんだよな……後は適当に実戦積ませるだけで伸びそうというか」

 

「えっ、じゃあさっきの任せろってのは何だったんですか!?」

 

 俺はてっきりジンに修行をつけてもらえると思ったんだがそうじゃないらしい。まあ確かにトリプル目前のハンターに修行つけてもらえるほどの価値が俺にあるとは流石に自分でも思わんわ。

 

「そうだな……そういえば、ちょうどいい場所があるんだ。ついてこい」

 

 ジンは逡巡すると、なにか良いことを思いついたかのような顔をして俺を先導する。言いようもしれぬ不安を抱えながら俺はジンの後を追うのだった。

 

 

 

ーーーCASE7 グリードアイランドーーー

 

 

 

 その場所とはグリードアイランドだった。そういえばグリードアイランドが発売されたのもこの時期だっけか?

 

「久しぶりだなイータ」

 

「グリードアイランドへようこそ……って、何しにきたのさ」

 

「カイトが拾ってきたガキが結構やる奴でな、ここに放流しようと思ってんだ」

 

 その言葉で初めて受付のお姉さんは俺の存在に気づいたようだった。まあ身長ちっさいからな……台の上に座ってるお姉さんからは見えなくても仕方ないよな……

 

「あら、可愛い子ね〜。カイトも師匠に似てきたってところかしら」

 

「はぁ?俺が誰それ構わず拾うようなお節介みたいな言い方はよせよ。全然違うだろ」

 

 ジンの言葉には全く説得力がなかった。

 

「……まぁいい、それよりコイツに指輪渡せ」

 

「ハイハイ」

 

 お姉さんから指輪を貰う。確かこの指輪を用いてカードを収納するバインダーを呼び出すんだったよな……

 

 そういえばグリードアイランドと言えば、製作者11人によるジョイントタイプ(相互協力型)の念によって実現されているという定説があるが、俺は継承戦編から新たに出てきた概念から、グリードアイランドは制作者11人とプレイヤー全体で作り上げている念能力なのではないかと推測している。

 

 カキン国第9王子ハルケンブルクの守護念獣の能力に近いシステムだと言うと分かりやすいだろう。あれは念獣がハルケンブルクに忠誠を誓う部下達に羽の刻印を付け、その部下を要請型の操作状態にしてオーラを徴収して練り上げるというものだ。要請型というのは操作系が人を操作する場合のタイプのひとつで、対象に選択の余地を与えつつ能力者の為に動いてもらうという形のものである。

 

 それと同じように受付のお姉さんがゲームの説明をしつつプレイヤーに指輪を渡し、それをプレイヤーが了承して付けることで要請型の操作状態になり、プレイヤーのオーラが知らず知らずのうちに徴収されるのではないか、という推測だ。

 

 これならグリードアイランドの中の超常的な力を持つアイテムの数々や、島中の人間や怪物を具現化して操作するというあまりにも難易度が高い技巧に説明がつくのだ。これらをたった11人の念能力者が作り上げるのはいくら凄腕でも難しいと思うのだが、数十人や数百人規模の念能力者によるジョイントだと考えれば恐らく不可能なものはないだろう。放出担当などと役割が分かれていたのはその巨大なオーラをどのように扱うかの役割であり、ゲームスタート時のお姉さんとゲーム離脱のお姉さんが違う人間なのも、前者が操作系能力者で後者が除念の役割を持った能力者である……という推測だ。

 

 まあだからといってそれを確かめるなんて無粋な真似はしないんだけど。

 

 

 

「説明はいいだろ、ほらほらさっさといけ」

 

「はぁ!?説明しないと何も分かんないよ!」

 

「あぁ、とにかくブックとゲインだけ覚えろ。後はその2つで何とかなるし」

 

「そんな適当な……」

 

「アンタねぇ……」

 

 

 

ーーーCASE8 同行ーーー

 

 

 

 あんまりにもあんまりなジンの説明を受けて塔の階段を降りる。ジンは残って受付のお姉さんと話すみたいだったが、一体なんの話をしているんだろうか。

 

 というかジンはいつまでゴンを背負ってるんだろうか……このままだと子連れ狼ならぬ子連れ狩人になりそうだ。

 

 

 

 いや、待てよ……

 

 そういえばゴンは確かジンに連れられてGIに来たんだっけか?そしてそこでジンは先の未来でゴンがGIのクリア報酬に「磁力(マグネティックフォース)」を選んでジンに会おうとした場合にはジンに、「同行(アカンパニー)」でジンに会おうとした時はカイトに飛ぶように設定したはず……

 

 

 

 もしもそのタイミングが今だったとしたら?

 

 本来はカイトとゴンをGIの中に連れて行ってその設定をするはずだったが、俺が介入したことでカイトは既に修行に旅立っており、その代わりに俺がジンに連れられてGIに来てしまったとしたら?

 

 焦りで塔を駆け下りる足が早くなる。もしもだ……もしもそうだとしたら、決定的な証拠が残るはずだ!それを見るまではまだ俺がカイトの代わりになったと確定したわけではない!

 

 塔を駆け下りて平原に着いた俺は「ブック」と唱える。出てきたバインダーをすぐさま広げ、自分のプレイヤーネームを確認する。

 

 そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 プレイヤー名: ニッグ

 

「終わりだ……」

 

 俺は平原の真ん中で崩れ落ちた。




ステラの念能力
当然な風船人形(ワンダーバルーン)
風船でできたステラそっくりな人形を具現化して操作する能力
基本的に分身の数に制限はないが、操作範囲は数メートルなので数十体やそのレベルの規模で大量に生み出す意味はあまりない
自身が動かないことを制約に射程範囲の長い人形一体を作り出すこともできる(通常のは自動操作だがこちらは手動操作)
風船人形は相手に接触するか、ある程度のダメージを受けることで破裂する。足蹴にしても破壊されないくらいの耐久力はある。
破裂すると爆音が発生する。
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