あと2話くらいで終われるかなぁ…
ーーーCASE1 帰郷ーーー
流星街は何者も拒まない。それは一度その世界から離れた人間であっても変わらないことらしい。
「おお、久しいなステラ。息災であったか」
「お久しぶりです神父様。そちらこそお元気そうで何よりです」
昔お世話になった神父に挨拶する。念能力を身に付けるにあたり、滅多に子供達が遊びに来ないこの教会は俺にとっては格好の学び場だった。
帰郷の挨拶をほどほどに済ませた俺は、今この街を襲っている異変であるキメラアントの侵略の解決を申し出た。神父は流星街を治める長老達にそのことを伝え、俺はとあるチームの蟻討伐に参入する運びとなった。
「…チームに参入って聞いた時点でなんとなく予想はしてたけども」
「なんでコイツがここにいやがる!?俺達だけで十分だ!」
「知り合い?」
「そっか、カルトが蜘蛛入りしたのヨークシンの後だもんな。その時に関わったのがあの女さ」
声を荒げるフィンクス、親切に後輩に俺のことを教えているボノレノフを尻目に俺はどうしたものかと考える。
確かにフィンクスの言う通り、蟻を倒すのに俺が手伝う必要は全くない。何故なら彼ら幻影旅団によって侵略しに来たザザン一派は問題なく倒されるからだ。だから俺が介入している理由はひとつ。蟻をぶっ飛ばしたい!という俺の八つ当たりにも似たワガママだ。
…以前ならわざわざ蟻と戦うなんて考えもしなかっただろうし、そのために幻影旅団と関わるなんて言語同断だと考えていただろう。だが、今の俺にとってザザンと戦うのは眠っていた2ヶ月間のブランクを埋めるのには丁度良いのだ。…というか今更幻影旅団との接触を控えた所で既に手遅れなのである。
「まあまあ落ち着きなよフィンクス。彼女が流星街出身で団長の友人ってのは元々知ってたことじゃないか」
「俺個人としては貴方達と敵対したつもりなんて無いですし。俺がいなければパクノダさんは死んでたかもしれないじゃないですか。あ、そういやあの人は?」
「元気にやってるよ。今回は除念してたから仕事には来れなかったけど」
「別にワタシ達に歯向かわなければどうでもいいね」
「この人誰?」
幸いなことに俺に反発していたのはフィンクスだけで、他は気にしないというスタンスだった。シャルナークからパクノダの現況を聞きながら俺はそのことに安堵する。シズクはいい加減俺のこと覚えてくれ……
「だからってこんな得体の知れないヤツと…」
「俺だってこの街で産まれた以上は、この街で起きている異変を解決したい。そっちだって同じでしょう?」
尚も反対するフィンクスの目を見ながら話す。しばらく視線をぶつけ合っていた俺達だったが、向こうが折れてくれたのか深い溜め息を吐く。
「もしテメェが死にかけてるのを見ても、オレ達はゼッテー助けないからな!」
「…そもそも君らそういう協力プレイできないでしょ」
「聞こえてるよ!」
俺の小言に反応したシャルナークにツッコミをされながら俺達は蟻の巣へと向かった。
ーーーCASE2 キメラアントのふたつの能力ーーー
流星街を占拠したザザンはキメラアントの新たな女王を名乗っているが、彼女は自身の念能力である審美的転生注射(クイーンショット)によって自分の配下を増やしているだけで生態的にはただの兵隊蟻の一体だ。
女王が持つ機能である「捕食した生物の遺伝子を利用して子供を作る」はキメラアントという種の生態であり、これは念能力とは関係のないものである。そして念と関係のない能力を持っているのは女王だけではない。
キメラアントは普通の人間と違い念能力以外にも特殊な能力を持っている。彼らは摂食交配によって様々な種の動物の能力も引き継いでおり、その中で色濃く反映された遺伝子の動物の能力も使える。
例えば以前戦ったネフェルピトーは猫の遺伝子が色濃く反映された故の身体能力の高さがあるし、ザザンはサソリの遺伝子から引き継がれた尻尾からサソリ特有の神経毒を放つことができる。
そしてややこしいことに、キメラアントの中にはこの種族的な能力を念能力に昇華させた者がいる。尻尾からオーラを注入するザザンはこのパターンである他、その部下であるパイクも蜘蛛の糸を念によって頑丈にしている。
キメラアントは生態的な能力と念能力の2つの能力を持っており、更に一部のキメラアントはこれらを融合して1つの能力に昇華しているのだ。
この概念を理解しておくと、キメラアントの念系統に対しての理解を深めやすい。というのも、キメラアントの念系統に関してはそれまでの印象で考えていると納得しにくいケースが多いのだ。その典型がキメラアントの王であるメルエムである。
「メルエムは念能力者を喰らうことでその能力を得る特質系能力者である」という仮説は読者の間で長いこと提唱されていたが、実際には彼は放出系能力者であるのが明らかになった。
他人の念能力を盗む・奪う能力は特質系特有のものであるというのはヨークシン編でのゼノの台詞から見るに妥当なものであり、そこから考えたメルエムは特質系能力者であるという仮説も一見すると正しいように思える。むしろメルエムが放出系であることに納得がいかない人もいるだろう。
しかしそこにキメラアント特有の生態的能力を加味して考えるとどうだろうか。
王が次代の女王を産むために、女王と同じ喰らった生物の遺伝子を保有する能力を宿していても不思議な話じゃない。その生態的な能力を念能力として昇華させて生まれたのが「喰らった念能力者の念を我が物として扱える」念能力である、というのが自分の考えである。
またメルエム本人の念系統が放出系であるというのを考えると、作中の描写に納得がいくものがある。それはシャウアプフ、モントゥトゥユピーの2人の一部を喰らったことで発現した2つの能力である。
プフを喰らうことで目覚めた「オーラを粒子状に放ち付着した者の感情を読み取る円」とユピーを喰らうことで目覚めた「肉体を変化させオーラを溜めてビームとして放つ能力」。これらの能力はどちらも本人の能力とは違った特徴があり、その特徴はどちらも放出系としての特徴でもあるのだ。
プフの能力である麟粉乃愛泉(スピリチュアルメッセージ)は、鱗粉を撒いて鱗粉が付着した者の感情を読み取ったり洗脳したりする能力だ。この能力のうち、鱗粉を撒く部分は恐らく念に関係なく彼が生態的に持っている能力のはずだ。それは広範囲に行使できる能力にも関わらず彼自身は放出系ではなく操作系能力者であることからしても間違いないだろう。鱗粉にオーラを纏わせて飛ばすのはただ単にオーラを飛ばすよりもより効率が良いはずである。
それなのに、メルエムがコピーしたプフの能力では鱗粉の代わりにオーラの粒子を使用している。メルエムは鱗粉を出すことができない(多分)からその代替手段を用意する必要があるのは分かるが、それにただの円ではなく粒子状のオーラを使った特殊な円を採用したのは注目すべき点だ。
これがただの円を使った能力であれば何も問題はないだろう。何故なら、円とはオーラを広げる行為でありオーラを自身から切り離して飛ばす放出系とは原理的に無関係だからだ。だが、メルエムのようにオーラを粒子にして飛ばすとなると、これは放出系の領分になってしまう。
ユピーの場合も同様だ。肉体を変化させるまではユピー自身でも行っていたことだが、そこからメルエムはオーラをビームにして放つというユピーがやってない芸当を披露している。ビームが放出系の分野であるのは明白だろう。
これらのことから、メルエムの能力のコピーは単純なコピーではなく彼による能力の再現(鱗粉の代わりに粒子状のオーラを利用する)、そして彼自身のアレンジ(ビーム)も加えられているのだと推測できる。
この「能力の再現とアレンジ」だが、ハンターハンターの読者なら恐らく同じような能力を持つキャラがピンと来たかもしれない。それはゴンの父親であるジンだ。
彼は一度受けた攻撃のうち打撃系の能力をマネすることができ、しかもそれは発によるものではなく彼自身の才能による産物である。作中では彼はレオリオの能力をコピーし、更にその使い方を考察しながら独自のアレンジを加えていた。
この能力の本質は、ジンが直に受けた念能力を見抜き、出来る範疇でその能力を再現しているものだと推測できる。イボクリ自慢等から伺える、彼の類稀なるオーラの扱いによってこの能力は成り立っているのだろう。
メルエムのコピーも原理的にはジンのコピーと似たようなものであると思っている。ただ単に能力をコピーするのではなく能力を理解しそれを自在に使えるようになる能力だ。
ただしメルエムの場合は再現が打撃系の能力に限られるジンよりも出来る事の範疇が圧倒的に広く、発に関係ない小技ではなく捕食を制約にして発動するひとつの能力だと考える方がそれらしいだろう。
そう思う理由として、メルエムのコピーは系統を飛び越えているのが挙げられる。例えばユピーを喰らって身に付けた肉体変化だが、これは恐らく変化系もしくは具現化系が得意とする能力だ。作中でこの肉体変化に関係する能力を使う者の殆どがその変化系か具現化系の能力者なのがその根拠である。変化系ではユピーの他に自身を若く見せているビスケ、具現化系ではバイクに変身するゾルディック家の執事ツボネや腕を工具に変身させたエイ=イ一家の構成員パドイユも肉体変化を扱う能力者に該当するだろう。
個人的には変化量の幅から肉体変化は具現化系の領域であると思っているが、変化系か具現化系かのどちらにせよメルエムの系統である放出系からはかなり遠く、これが可能なのは捕食した者の遺伝子を取り込むというキメラアントの特徴を一助としたひとつの能力だからと考えるのが自然な考えだろう。
そしてコピーした能力を再現する際にメルエム自身の系統である放出系に沿ったアレンジが加えられている、と考えると彼の系統が放出系であることに納得できるのではないかと思う。
ちなみにファンの間では珍説扱いされているもので、メルエムがポックルの転生体なのではないか?という説がある。
これはキメラアントの中に人間であった時代を思い出す者がいる中で、一向にネームドであるポックルの転生体が登場しなかったことが理由で生まれた仮説なのだが、面白い事にメルエムとポックルは同じ放出系であるという根拠が後年になって生まれたのである。
女王がメルエムを産む過程で喰らった人間のうちポックルが一番の念能力者であった可能性は普通にあり得る話であり(カイトはピトーの玩具として保存された為)、メルエムが放出系能力者になったのもポックルの影響を強く受けたからという理由はあるかもしれない。
あくまで仮説であってポックルが脳クチュの後に女王に食べられたかどうかは定かではないし、仮にポックルがメルエムに影響を及ぼしていたとしてもメルエムは他のキメラアントと違って沢山の人間達の混ざり物だからポックル本人ではないのは間違いないと思うのだが。
ーーーCASE3 再戦ーーー
巣へと突入した俺と旅団一行だったが、途中で道が別れているのを理由に誰が女王と闘るかを早い者勝ちしにそれぞれ別の道へと別れてしまった。そして俺はどうしたかというと……
「何故ワタシの後をつけるか?」
「え、ええまあ…この先に女王がいるような気がしたので……」
そのうちの一人であるフェイタンの後をついていっているところだった。実際原作でも彼が一番最初に女王の元に着いたわけだし。
「背後を取られてると気が散るよ。お前が先行くね」
「ハイ……」
「あら…そこの女は見た顔ね?」
不機嫌そうなフェイタンに先行しながら歩いていると、今となっては三度目になるザザンとのエンカウントを果たす。
「俺が先に歩いてたし俺からでいいですよね?」
「は?オマエなめてるか?ワタシが先ね」
どちらが先にザザンと対決するかで揉めていると(当然のように共闘という考えはない)、ザザンが俺に指差す。
「まずはアンタからよ。何度か逃げられたけど今度こそ殺してやるわ」
「でもホラ、向こうは俺の方をご指名みたいですよ?」
「…オマエアイツの知り合い?」
「ええまあ。少し前にアイツらの本拠地を攻めてたのでその途中で何度か交戦を。と言っても時間を掛けてられなかったので適当にいなしましたが」
フェイタンは暫く考えると、渋々と頷く。
「…ま、ワタシが女王をヤるからアイツはオマエに譲るよ」
「あー、いや、多分あの人(?)が……」
目の前の蟻が女王だとは知らないフェイタンが勢い良く地雷を踏んだのを見て俺は訂正しようか迷ったが、その必要はすぐに消滅した。
「私が女王だけど???」
「「………」」
明らかに神経に障ったであろう声に一同沈黙する。だがフェイタンは特に悪びれもせず。
「あの程度ならワタシが出る迄もないよ。オマエが死んだら次ワタシの番ね」
「へいへい、譲ってくれてありがとうございました」
自分が戦うわけでもないのにザザンを挑発しまくるフェイタンがこれ以上余計なことを言う前に勝負を始めようと、俺はローブの中からナイフを取り出す。
「私としてはアンタ達が一斉にかかってもいいけど?」
「冗談言うなよ。なんなら前みたいに部下呼んで来るか?」
「そっちこそ冗談が上手いわね…!」
流石に今の状況でパイクを呼ばれたら辛いが、現在シズクの相手をしている彼がザザンの救援に来ることは不可能なので俺はイキリ放題なのである。そこだけは旅団様様だ。
ーーーCASE OF HEYTUNーーー
速い、それはオレが抱いた率直な感想だった。
女王を名乗る蟻も自分と良い勝負をするくらいには速いと感じたが、その蟻の攻撃をほぼ完璧に捌きつつ隙を見てナイフでの反撃を与える女は、今の鈍った自分では勝つのに苦労するだろうという確信があった。
先程は女王と女の面識があったことから、万が一女が裏切って同時に相手することになった時を考え両者を宛がうことにしたが、その判断は正解でもあり不正解でもあったことが分かった。
「(このまま順当に女の方が勝つね)」
彼女達の戦いを暫く眺めていると、フィンクスとボノレノフが合流する。どうやらここが一番奥で合っていたようだ。奴が女王なのも正解だったか。
「早かったなフェイ。俺達が一番乗りだと思ってたんだが」
「あの女に取られたからワタシまだ一度も戦ってないね」
「コイン勝負でもしたのか?」
「女王の方からの指名ね。あの女何度か戦った因縁があるらしいよ」
「へぇ…案外やるもんだな」
フィンクスもオレと同意見だったようだ。その後も続々と仲間が合流してきたが、戦況は相変わらず女が若干優勢のままで進んでいた。
これで何十回目ともなる打ち合いを経て距離を離した2人のうち、女王が息を整えながら女に語りかける。
「…そろそろ能力でも使ってきたらどうかしら?あの爆発する分身よ」
「・・・」
「ま、あの能力は不意打ちにしか使えないものね。種が分かれば脅威じゃないわ。それとも、見られていると恥ずかしくて使えないかしら?」
女王の挑発に対して女がこちらを見ながら話す。
「別にコイツらは俺の能力知ってるし隠す意味はないな。それよりそっちはどうだ?俺は能力を使わなくても勝てそうだから使ってないだけだがお前は違うんじゃないか?」
「チィ…!」
言葉の戦いでも女の勝ちだった。そこから再び両者の戦いが始まったが、オレ達は戦況の変わらない戦いに飽き始めていた。一番最初に飽きたフィンクスが2人に口出しはじめる。
「オイ!いつまでも戯れてねぇでさっさと決めろよ!これ以上時間かかるなら交代しろ!」
「相変わらずせっかちだなぁフィンクスは。ま、正直女王はこのまま彼女に任せて僕達は解散してもいいだろうね。それとも彼女が勝つか負けるかで賭けでもする?」
シャルナークが見え透いた勝負で賭けを始めようとするのを見てオレは一笑する。
「は、あれはもう決着のついた勝負ね。そんな見え見えの賭けで儲けようとしても誰も引っかからないよ」
「…あっちゃー、流石にダメだったかぁ。1人でも乗ってくればいいかと思ってたんだけどなぁ」
シャルナークがカルトの方を見ながら苦笑する。どうやらこの男は新人をカモにしようとしていたらしい。当のカルトは呆れるのと馬鹿にされてムキになるのを両立しながら口を開く。
「ボクだってゾルディック家の一員だよ。あのナイフがどんなものかくらいは分かる」
一向に捉えられない女に対し、いよいよ我慢できなくなったのか女王は語気を荒げる。
「いつまでも舐めた真似しやがって!目に物見せてやるぅ…!」
そう言いながら女王は自らの尻尾を力づくで引きちぎる。
尻尾が抜けた女王はみるみるとその体を変化させていき、最初の美しい人間の女を模した姿は見るも無惨な怪物の姿へと変貌した。明らかに先程より肉体的に強くなっているのは勿論、その全身に湛えるオーラの量も先までとは比べ物にならなくなっている。
だが、それを見ても女は余裕の態度を崩さなかった。オレ達の方も当然の如く。
「なるほどねぇ、尻尾の切断及び容姿の変更が制約か。女王を名乗るようなプライドの高い性格なら出し惜しみして当然だな。こちらの思惑にはピッタリな能力だったわけだ」
「な、何を言っている…!?」
女の態度に不審を抱いた女王がその理由を尋ねる。
「その能力、尻尾の切断から考えて今までの能力が使用不可になるのが制約なんだろう?あんな御大層な尻尾が能力に関わってないなんて考えにくいからな。それを切断するという意味は能力のスイッチ以外にも制約としての面が大きいはずだ」
「ちぎった尻尾がまた生えてくるのか、それとももう永続的に生えてこないかは知らんが、どちらにせよその能力は簡単に使えるような制約ではないはずだ。もしかしたらザーボンさんみたいにその醜い容姿こそが最大の制約かもしれんがね」
「キサマァ…!ぅぐッ!」
激昂した女王が女を攻撃しようとするが、その意思に反して女王は膝を地に着けた。女王は困惑の声を上げる前に地面に吐血する。
「お前がもし真の女王であったなら、種を繋ぐ我が子と自分を何よりも優先するような性格だったのなら、お前は敵を目の前にした瞬間に全ての切札を切って俺の目論見を破算させただろう。だが、お前は女王を名乗るだけのただの兵隊蟻で、種よりも自分の嗜好を優先するような性格だったから、お前は俺の掌の上で転がされたんだ」
「こ…これは…毒……!?」
「俺は第二形態を持つようなボスは、第一形態のうちに倒す算段を決めちゃう人間なんでね。強力な致死毒を使ったのさ」
そのままうつ伏せに倒れた女王を見ながら女は戦闘で使用していたナイフを見せる。その形状は独特で、裏の人間ならその形からそのナイフが誰に作られたのか即座に分かる物だった。
「ここまで耐えられたのは流石の生命力と言いたいが、変身に多大な生命力を使ったことで死期が早まってしまったな」
そう言って女はナイフを仕舞う。そして遠い目をしながら呟いた。
「それにしてもベンズナイフは高かったなぁ。興味本位で買っちゃったけど、仕事で貯めたお金が吹っ飛んじまったぞ……」
女の戦い方は実に隙のないものだった。相手は能力を出し惜しみしていると予想し、それを引き出させないように自分の能力も封印しながら煽って相手のプライドを刺激させ、その間に自分は能力以外の切札で勝負を決めた。正に完璧と言っても良かった。
だがそれはそれとして俺達の感想としては、
「地味だ」
「地味だね」
「地味すぎる」
「地味ね」
「見せ物にした覚えは無いんだけど…!?」
地味の一言に尽きた。
「クソォ…こうなったらとっておきも見せてやるよ!学芸会ちゃうんやぞ!(1年半ぶり3度目)」
ムキになった女が未だに息のある女王に追い討ちを掛ける。抜けてそうに見えて抜け目ないこの女のことだから、万が一毒で殺し切れなかったことを考えてのトドメは元々刺すつもりだったのかもしれない。…様子を見る限り普通に素かもしれない。
女は大きく息を吸い込み、片手を口元に持っていく。
「火遁!豪火球の術!」
女が勢いよく炎を吐いて女王の体を燃やしていく。炎はすぐに女王へと燃え移り、絶え絶えだった女王の息を確実に絶やした。
「燃え移るのが早かったな…、もしかしてさっきの毒はガソリン?」
「ピ゙ン゙ポ゙ー゙ン゙。ぢゃ゙ん゙ど適゙当゙に゙毒゙も゙混゙ぜ゙だげど゙」
「うわ声汚っ」
シャルナークの分析に女がカスッカスの声で答える。
「ごゔな゙る゙がら゙使゙い゙だぐな゙がっ゙だん゙だ゙よ゙ね゙」
「…まあどうでもいいか。それじゃ帰ろう」
「びど゙い゙」
女の一発芸を見たオレたちは女王の巣を後にする。流星街へと戻る道中で女王によって人外へと変貌させられた同郷達を葬った後、フィンクスはそういえばと女の方を見て話す。
「そういやコイツはどうする?直接手を出すのは団長から止められているが鎖野郎の人質にする分には問題ないだろ?」
「?」
「うーん、そうだね。その辺は団長に確認取る必要がありそうだ」
フィンクスの問いにシャルナークが答える。
「と、いうわけだ。団長と連絡が取れるまで、拘束させて貰うぞ。別に抵抗しても構わないぜ?その時はうっかり殺してしまうかもしれないがな……!」
「あーハイハイ、知ってた知ってた。流石に一回共闘したくらいで見逃してくれるほど幻影旅団はお人好し集団じゃないですよねぇ」
「そういうことだ。逃げ出そうとしてもいいが、どれだけ分身を出そうとオレ達に囲まれた状況から逃げられるとは思わないことだ」
ボノレノフの説得に対して女は観念したように手を挙げる。だが、その身振りとは裏腹に女の口調には明らかに裏の意味が込められていた。
「…そうですね。今から逃げ出そうとしても手遅れでしょうね」
「今から…?まさか」
フィンクスがその意味に気付く前に女は挙げていた右手の指を自身の頭に突き立てる。
「では皆さんご機嫌よう!もう会うことはないと思いますがね!」
大きな音を立てて破裂した女の分身を見ながら、フィンクスが歯軋りする。
「クソっ!既に入れ替わってやがったか!?」
「…恐らく改造された彼らを相手していた時だろうね。あのタイミングで分身と入れ替わり、ボク等にバレないように分身のまま付いてきた」
分身との入れ替わりの手際の良さといい、入れ替わった後にオレ達に不信感を抱かせなかった分身の操作精度や精密さといい、まともに相手するには厄介であるのは分かっていたが、あの女はそもそも相手すること自体から手こずりそうなのがようやく分かった。
「団長が手を出すなって言った理由もなんとなく分かるね。アレと敵対するとなったら面倒なことこの上ない」
「今回のが奴にとっての敵対行動に入ったとしたら問題だが」
ボノレノフの懸念にシャルナークは答える。
「多分大丈夫だと思うよ。向こうもボク等の出方は想定通りだったみたいだし」
「クソっ今度会ったらタダじゃおかねぇ…!」
「あんなのは相手するだけ無駄ね」
「フェイタンの言う通りだよ。ムキになればなるほど捕まらないのがああいう手合いさ。別に何かされたわけでもないんだしどうでもいいじゃない?」
怒るフィンクスをシャルナークが宥める。俺の意見も心からのものだった。
ああいうのは真面目に相手する方が馬鹿馬鹿しいのだ。
ーーーCASE4 予定ーーー
ああ言いながら別れた手前、再び幻影旅団と鉢合わせするにも行かなかった俺は女王の巣跡地で今後の予定をどうするか決めていた。
厳密には予定は既に決まっていたから、決めているのは作戦や戦術の部類だった。
「念の為、前金で報酬を貰っといて良かった。ベンズナイフも買ったのに只働きじゃあまーた路頭を迷うことになっていたな」
「それにしても、ザザン相手に肉弾戦で互角以上に戦えるとは俺も強くなったなぁ……流石に変身後は攻撃が通じる気がしなかったから裏技で倒したけど、これなら当初の目標も達成出来そうだ」
「首を洗って待ってろよ、ヒソカ!」
・火遁、豪火球の術(仮称)
体内で水素を生成する能力を利用して肺を可燃性ガスで満たし、隠し持ったライターで点火しながら勢いよく息を吐くことで成立する炎のブレス。
思い付いた当初は自爆ばかりしていたものの、練習の成果が身を結びつい最近喉が軽く焼ける程度の後遺症に収められ実戦投入できるようになった。なおNGLではライターを持ち込めなかった為に使用不可だった。
意図せずヒソカのような奇術方面の能力の構成になっているのをステラは若干気にしている。