ゲームの世界に転生したら、いきなり全滅ルートに突入した件〜攻略知識を活かしてなんとか生き伸びます〜   作:みなかみしょう

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18.宮殿の主

 流血の宮殿の主、吸血鬼クラム。世界最強とも言われる吸血鬼だ。誰かに血を吸われて吸血鬼化した元人間ではなく、自然発生した真祖とも呼ばれる存在である。この設定は二〇〇〇年代なら致し方ないことだろう……。

 

 いわゆる銀髪ロリとも形容できる外見で、チャイナドレスの変形みたいな露出の高い白い衣装を着込んだ人気キャラである。

 そして人気キャラだが、ヒロインじゃない。本編にもあんまり絡まない。クリア後に仲間にできたりもしない。でも、しっかりイベントは用意されている。なんならエンディングまである。

 ちょっと特殊な位置づけのキャラなのである。

 

 ゲーム的には本編とほぼ無関係なサブイベントの要員であり、意外と親しみを感じるキャラであってか、「下僕になりたい」というプレイヤーが続出したお方だ。割と淡泊だった専用エンドも色々と要望を受けたファンディスクでは特別編まで用意された。

 

 それが今、目の前にいた。

 

「……なんでここにクラム様が」

「ほう。妾のことを知っておったか。なかなか面白い小僧だのう」

「……様?」

 

 おっと、つい癖で様付けで呼んでしまった。フォミナが怪訝な顔をしている。

 いや、多分今の反応から察するに、この対応は悪くない。オレは初対面で顔を気に入られる主人公とは違う。クラム様の家を荒らしてた冒険者だ。敵対してもおかしくない。

 ちなみにこの人、ゲーム的には殺せない。何度もチャレンジするイベントもあるんだけど、そこで何やっても死なない。

 

「あ、あなたは自分の部屋から出てこないものとばかり思っていたんですが」

「いや、自宅を連日荒らす輩がいれば気になって出てくるのは当然だろう?」

「たしかに……」

 

 フォミナが同意していた。オレもそう思う。くそ、ここはゲームと同じだと思ってたんだが。

 

「それでお前達、宮殿の主に会って挨拶もなしか?」

「……マイス・カダントです。そのうち挨拶にいくつもりでした」

「フォミナ・エシーネです……」

「ふむ……」

 

 名乗ってみたものの、クラム様は興味なさそうにオレ達を見回すだけだ。

 ゲームだと三階奥にいるボスを倒して部屋に入ると、武勇を讃えて友好的な感じで話が始まるんだけどなー。

 

 口先だけでどうにかできるか? パラライズをかけて逃げるか? しかし、クラム様とは仲良くなっておきたい。色々と援助してもらえる可能性があるのだ。

 

 状況を脱するべく思考していると、フォミナの震える手が目に入った。

 そりゃそうだ、最上級の化け物が目の前にいるんだ、恐くないわけがない。彼女は気丈にもそれに耐えて、杖を握りしめて……。やべぇ、やる気だこの子。

 

 オレはフォミナが構える前にその手を軽く握った。

 

「フォミナ、駄目だ。この人には浄化の魔法は効かない。アンデッドじゃないんだ。ただ、性質としてここに死霊が集まってるだけで」

「……そんなっ! いくらマイス君でもそれは間違ってます!」

「いや、間違っておらんぞ」

 

 目の前で起きた冒険者の言い合いにクラム様は楽しそうに笑っていた。

 怪我の功名。もしかして、少しは友好的にいけるか?

 

「マイスと言ったな。お前、面白いな。なんでそう思った?」

 

 オレはゲーム知識を必死に思い出しながら語る。

 

「あなたは、自然発生した吸血鬼だ。ダンジョンから生まれたモンスターでもない。人間とか、エルフとかと同じで、種族が吸血鬼なだけなんだ。だから、一度死んで蘇ったアンデッドじゃない」

 

 クラム様の宮殿に死霊が集まっているのは、死霊魔法との相性が良すぎる上に、根本的に力が強すぎるからだ。彼女が宮殿からあまりでないのも、出歩くだけで災厄を振りまくことを気にしているからのはず。

 

「ほーう。よく勉強しているなぁ。お前、ちょっと良く見せて見ろ」

 

 そう言うと、クラム様がオレの目の前に一瞬で寄ってきた。

 

「ふーむ……」

 

 頭一つ小さいのに、とんでもない圧迫感を感じる。背中に嫌な汗が流れる。普通のやり方じゃ、勝ち目のない相手だ。逃げることならできるか?

 

「よしっ。決めた」

 

 オレの心配をよそに、クラム様は何かを決めたようだった。

 

「な、なにを決めたんです?」

 

 問いかけに、クラム様は笑う。こっそり杖を握る力を強くする。先制とれれば何とかなるかな?

 

「そんなに怯えるな。妾相手に浄化魔法をかける度胸のあるプリーストと、よくわからんが知識のあるウィザードを客人として招くと決めただけよ。そなたら、ちと面白いからな」

 

 どうやら、オレ達は宮殿の主に認められたようだった。

 予定通りではあるけど、無駄に緊張する展開だった。

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