自分が何を書いたかすっかり忘れてこの作品を読み返していたとき
「なんだ、けっこう面白いな。自分の作品の一番のファンは自分とはよく言ったもんだ」
などと楽しみながら読み進め……最後に四人の子どもたちがジンの元から出て行ってしまったので、悲しくて泣きました。子どもたちが出てっちゃうの、本気ですっかり忘れてた。
当時のあとがきには
「構想中は子どもたちを消すつもりは無かったのですが、オリキャラをこのまま家族扱いするのは図々しいというか、おこがましいよね、新婚家庭にこんなのおったら超邪魔やなーと思って消しました。そしたら、最初から決めてたみたいにキレイに消えてくれました」
と書いてありました。
書いた奴の頭をはたいてやろうかと思いましたね。書いたの自分だけど!
悲しすぎて、せっかくの結婚式のシーンも、チェリンが流崎邸を入手した真相も、まるきり頭に入ってこなかったです。それで子どもたちが出てっちゃうのは止めました。このあとがきの最後におまけで、子どもたちが出ってっちゃうバージョンの「5.還るべき場所」を掲載します。
この四人の子どもたちは、10~15年後くらいには、為五郎と一緒にジンを支える人材になってくれる存在が欲しかったので登場させました。ジンが20年前にマガダンの下水に置いてきてしまったニコライたちに合わせて人数を決めました。ジンに失った子ども時代を取り戻してほしいという願いをこめて、一緒に遊んでもらいました。
子どもたちの過去が結構エグいですが、エグいほうがADAMASらしいかな、とか、ジンより軽すぎる過去だと失ったカラバ時代の仲間と重ね合わせてもらえないよね、とか、そういうことを考えました。まぁすべて妄想なんですけども。
サミュエル・ティリングハーストとキースは、ARMSの登場人物から拝借しました。
サミュエル氏は紅茶の味にうるさいとか、容姿は同じだけど、話の都合上で性格がだいぶ違ってます。まわりくどくなく、ズバズバ言う人になってます。
キースが「笑うがいい、サミュエル……」と言うのは、ARMSのキース・ホワイトの最期のセリフの一部です。
戦闘シーンのレイカのセリフにもARMSパロ入ってます。
チェリンは、レイカとジンがいなくなったあとのシャニに道を間違えないでほしいので登場させました。自分の願いと、あこがれも詰め込んだので思い入れが深いです。ADAMASはとにかく強い女がいっぱい登場するところが大好きなので、チェリンも色んな意味で強い女になっています。
チェリンはとても若く見えるけど、本当はサエコさんと同い年です。
チェリンはサエコさんに「なかなか大した人物」と褒められちゃったので
「うーむ、サエコさんに褒めてもらえる程の大した人物って、どんなんかな」
と一生懸命考えました。
「この程度でサエコさんに褒めてもらおうとは、片腹痛いわ!」
と言われそうですが、私の頭脳じゃこれが限界だった。
私がADAMASを読み始めたのは、既に最終巻が出て数カ月が経った頃です。最終巻を読んで悲しくて仕方なくて。
ジンから記憶が無くなったことも悲しかったけど、それをエスメラルダのミスと言われてるのが何とも受け入れ難く……そんなコトでレイカとのことが消えちゃうの? そんなのいやだよう! うわああああん! と数日落ち込み、同時に妄想が始まりました。
要は「エスメラルダのミスじゃないよ! ちゃんとした理由があってレイカとの思い出は蘇生したジンの中からは消えてるけど、婚約指輪のダイヤには残っているよ!」ということにしたかったのです。
妄想を小説の形にして、それをどなたかに読んでもらえたことで、(この作品の出来がどうであれ)私の悲しみは癒えました。
また、漫画を読んでて「アレどうなった?」と気になっていた要素はなるべく解決すべく投入しました。例えば、ニコライ車返せ! とか。
複数の要素を解決すべくオリキャラがいっぱい出て来ました。無駄なオリキャラはいないはず……たぶん。ジンやニコライの子どもたちは、幸せになってほしくて妄想しただけなので、無駄っちゃ無駄ですが。
できれば、読んでくださった方に「こういう展開や解釈があってもいいかも」と思って頂けたら、これ以上の喜びはありません。
ADAMAS大好きなので、登場人物がみんな幸せになるといいな、と願っています。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。
*** *** ***
おまけ
5.還るべき場所(子どもたちが出ていくバージョン)
「待たせたわね、ローズ」
レイカはドラバイトの太陽を、ローズとゴルゴン元大統領の遺骨の側に置いた。奇跡の宝石を奪われて数カ月、二人の遺体はすでに朽ち果てて白骨化していた。
レイカとジンは墓場の穴から出た。その手前のエアドームでレイカは腕環のサファイアを使い、地の筋に波動を送り込んだ。墓場の穴は崩れ、その出入り口を永久に閉じた。
「埋葬は終わったわ。子どもたちのところに帰りましょう」
レイカは潜水するときに、満ち足りた思いで墓場を振り返った。
(ローズ、さようなら……)
心残りはもうない。ローズの念は浄化よりも愛する人のそばへの帰還を願った。レイカにはその思いがよく分かった。カルメンもきっとそれを察してレイカにドラバイトの太陽を託したのだろう。
空港ではロサンゼルス行きの飛行機が出るまでに時間があり、レイカとジンはロビーのベンチに腰掛けていた。
そこに見知った老人が声をかけてきた。
「君らの為すべきことは終わったかね。御苦労さん」
「サミュエルさん!」
サミュエルも帰り仕度を整えており、キャリーつきのスーツケースを携えていた。
「君らと別れてから、わしの頭にひとつの仮説が浮かんでな。搭乗まで少し時間があるなら相手をしてもらえんかね」
サミュエルはジンの隣の空いた席に腰掛け、ジンを見た。
「君は一度あの世に渡り、戻ってきた。誰しも時の流れをさかのぼることはできんという、自然のことわりを破ってな。それには、恐ろしいほどの代償が必要じゃ。君は、君にとって一番大切な記憶を、その代償として差し出したのではないか。それで、その記憶に充当する分の時間が巻き戻ったんじゃ。等しく、対価として」
「そう…かも知れませんね」
ジンがうなずくと、サミュエルの目は好奇心できらりと光った。
「そこで、君に質問じゃが……ジェネラル・ジン、君ならばどうするね?」
「……僕ならば?」
「そうじゃ。最強の宝石使いと謳われる君ならば……大切な思い出を自分の体に持ち帰ることができないとき、その思い出をどうするのかね」
ジンは少し考えてから、自分の答えを確かめるようにゆっくりと言った。
「僕なら……きっと宝石に封じ込めておくでしょうね。できれば、大切な人の一番近くにあるものに」
レイカは思わず胸元のダイヤに手を添えた。
サミュエルはにっこり笑った。
「おそらく、そういうことじゃ」
「サミュエルさん、それなら僕には、心当たりのある宝石がありますが……しかし、僕がその宝石に触れても何も起こりませんでした」
「それはそうじゃろう! 君はあの世から戻る代償として、記憶を差し出したんじゃ。君が生きとるかぎり、その魂のかけらが君に還ることはないじゃろうな」
それを聞いて、ジンは肩を落とした。
「そんなにガッカリすることもないわい。君が人生をまっとうして、いつか魂の還る場所に再び旅立つとき……そのときになれば、おのずと魂のかけらは戻ってくるじゃろう。それを楽しみに待つのも、またよいではないか」
ジンはすべてを受け入れるように目を伏せた。そしてゆっくりと顔を上げた。
「ありがとうございます、サミュエルさん……」
「なんの。わしゃ、単に仮説を述べただけじゃ。さて、一足先においとまするよ。ヒーラ社への報告もあるんでな」
サミュエルは立ち上がって別れを告げ、ゆっくりと雑踏に消えていった。
彼の後ろ姿を見送ると、ジンは言った。
「……レイカ。トロントに戻ってからでいいから、僕に教えてくれないか? 僕と君がいつ、どうやって出会い、何が起きたのか……僕は君の口から聞きたい。僕がどんなふうに君に惹かれていったのかを」
レイカは笑顔でうなずいた。
やっとトロントに帰り着くと、屋敷はとても静かだった。
ジンは玄関ホールでジョージに尋ねた。
「ジョージ、子どもたちは? いつもならとっくに帰ってきている時間だが」
ジョージはジンの顔を悲しそうに見つめると、言った。
「あの子たちは、一昨日、シャニが運営に協力している郊外の児童養護施設に移りました。それにともない、学校も転校しました」
「なん…だって!?」
「本来なら1カ月前にそうなるはずだったのですが、子どもたちが延期をミス・サエコに願い出ていたのです。期限は、ジェネラル・ジンがトロントにお戻りになってから10日間。それが、子どもたちとミス・サエコの約束でした」
「すぐ連れ戻しに行こう、レイカ」
ジンは即座に言った。
子どもたちが移った児童養護施設は、カソリック系修道院が運営母体となっている。施設では修道女たちが快く迎え入れてくれた。
しばらく応接室で待っていると、修道女に連れられて四人の子どもたちがやってきた。
「迎えに来たよ。さぁ、帰ろう」
ジンは笑顔で子どもたちに手を差し出した。
ダンはジンとレイカを交互に見ると、決意を込めて言った。
「帰れないよ。だって僕たち、ミス・サエコと約束したもの」
「サエコ姉さんには、僕から言っておくから」
ジンがそう言うと子どもたちは首を横に振った。
「そうじゃないんだ。僕たちからミス・サエコに立会人になってって頼んで、誓いを立てたの。それで、もうしばらくお屋敷に僕たちを置いて欲しい、ジンが帰ってから10日間だけ時間を下さいって。ミス・サエコは黙って僕たちのわがままを全部聞いてくれたんだ」
ダンがそう言うと、ユーリはうなずきながら言った。
「だから僕たち、誓いを果たさないでノコノコとジンのところに帰ったら、とっても恥ずかしいんだよ」
しばらく絶句していたジンは、絞り出すような声で子どもたちに尋ねた。
「誓いって、一体何を…?」
「それはね、まだ内緒なの」
ロキシーが言うと、続けてフィーが言った。
「そう、今の私たちじゃまだ全然ダメだから。いつか自信がついたら、きっとそのとき言うわ」
子どもたちは顔を見合わせて笑った。
「そんな……帰ったら、一緒にケーキを焼こうって、約束したじゃない」
レイカが震える声で言うと、子どもたちは申し訳なさそうな表情になった。
ユーリは言った。
「レイカ、ごめんね。本当のことを言ってしまって、もし引き止められたら、僕たち決心が鈍ってしまうと思ったの」
「僕たち、ジンとレイカが本当のパパとママだったら良かったのにって、いつもそう思ってた」
ダンがそう言うと、子どもたちの瞳はうるんだ。しかし子どもたちは最後まで笑顔を守って、決して涙はこぼさなかった。
ダンは一歩前に進み出ると、茫然と立ち尽くすジンに、握手のための手を差し出した。
「ジン、レイカ、僕たちに幸せな時間をありがとう…………さようなら」
結局、ジンとレイカは子どもたちと別れの握手と抱擁を交わし、無言で帰途につくしかなかった。
子どもたちと過ごした談話室に入ると、レイカはひどく空虚な感覚に襲われた。
(あの子たちがもういないなんて……いつも私たちの帰りを待ってくれているとばかり思っていたのに)
ジンはソファに腰掛けて、膝に置いた空っぽの両の手のひらをじっと眺めている。
レイカはジンの様子を見ていられず、ジンの肩にそっと手を置いた。
ジンは顔を上げ、憔悴した瞳でレイカを見た。
レイカはジンの頭を、小さな子どもを守るように胸に抱き寄せた。
ジンは目を閉じてレイカの胸に頭を預け、レイカはジンの髪に頬を寄せた。
「………きっと、これでよかったんだ。あの子たちが自由を求めて僕の元から飛び立っていったのなら、これで…」
ジンの声はかすれている。
「ジン、それは違うわ。あの子たちはきっと、あなたのために誓いを立てたのよ」
レイカには確信があった。
「そうでなければ、あの子たちがずっとあなたの帰りを待っていたはずがないわ。そして、サエコさんが納得するはずがない。ジン、思い出して。あなたは日本で、もう一人の子どもの“誓い”を聞いているわ」
レイカはジンの頬が濡れていることに気づいた。
「大丈夫よ、待っていてあげて。あの子たちはいつか、戻ってくるつもりなのよ。誓いを果たして……大好きな、あなたのもとへ」
本来、花嫁のヴェールは母親が被せるものだ。レイカはその役を姉のように思っているサエコに頼んだ。
純白のウェディングドレスに身を包んだレイカは、ヒロミからティアドロップ型の白百合のブーケを受け取ると、サエコの前で軽く膝を折り、腰を落とした。
サエコは両手でレイカにヴェールを被せると、左手を差し出した。
レイカはその手に右手を乗せた。そのままサエコに導かれて控室を出ると、そこには白いタキシード姿のジンが待っていた。
サエコはレイカの手をジンに受け渡した。
式には2人が家族と呼べるほど親しい人々だけを招待し、ごく小さい規模で行われる。参列席には、ジェイキンズや為五郎はもちろん、四人の子どもたちも並んでいた。
皆はジンとレイカの入場を静かに見守った。
やがてエスメラルダの目だけが、参列席の隅にほかとは雰囲気が違う、しかし見慣れた三人の人影を見つけた。
マリー・ランジェはエスメラルダの視線に気づくと、小さく手を振って合図した。ウォン・ミュンヘンが赤くなった鼻をすすりあげ、流崎好夫は愛おしげに壇上の2人を見守っている。
(そうか…私たちのこと、ちゃんと見守ってくれているものね。いつも、きっと、いつまでも)
エスメラルダは微笑んでマリーに小さく手を振り返し、壇上に視線を向けた。
レイカはサエコにそうしたように、ジンの前で軽く膝を折っている。
ジンの両手が、そっとヴェールを引き上げる。
レイカは膝を直すと、ジンの優しい瞳を見上げた。
祭壇のステンドグラスから穏やかな光が差し込み、壇上の2人をやわらかく包んでいる。
話は、レイカたちがドラバイトから戻って数日後にさかのぼる。
「ここ、いいかしら」
レイカは返事を待たずに、チェリンの前の席に腰を下ろした。
チェリンが眉をあげる。
「あら、クリシュナさん。お久しぶりね。ドラバイトでのご活躍、ティリングハースト氏から伺っているわ」
「ティリングハースト……?」
「紅茶の淹れ方にうるさい、気難しいご老人よ。サミュエル・ティリングハースト。覚えてるでしょ?」
ここは、トロントにあるグリトグラホテルのオープンカフェ。2階のテラスだ。白い丸テーブルを挟んで、レイカとチェリンは対峙している。
「それで? ご用はなにかしら」
チェリンはそう言って、片方の眉尻を挑戦的に上げた。
レイカは静かに問いかけた。
「……あなたは、流崎邸を手に入れた。それを返せとは言わない。ただ、なぜヒーラ社があの屋敷を欲しがったのか、そのわけを知りたいの」
「あら、そんな怖い顔しないで。私は親切であの屋敷を買い取ってあげたのよ。ほらぁ、私って、ボランティア精神にあふれているでしょ?」
「茶化さないで、チェリン!」
「そうねぇ……。ドラバイトでのご活躍に敬意を表して、教えてあげてもいいわ」
チェリンは上目遣いでレイカの美しい顔を見つめた。
「まずはヒントをあげる。そもそも、あなたはなぜ、あの屋敷を失ったのかしら?」
「それは……父が失踪前に名義をシャニに書き換えて……私を社会に出して苦労を経験させ、自分で生きる力を、身につけさせるために……」
レイカはそこまで言って、あっと息を呑んだ。
「流崎氏が失踪して二年後……あなたとジェネラル・ジンの婚約の噂が聞こえ始めた頃、私の前に流崎氏が現れたの。もともと魅力的だったけど、痩せて精悍になっていたわ。その流崎氏はこの私に頭を下げて、あの屋敷を買い取って欲しいと言った。このままあの2人が結婚すれば、娘のもとに苦もなく屋敷が戻ってしまう。それでは屋敷を手放した意味がない、とね。約束してまもなく、ジェネラル・ジンの訃報がウィルスンからヒーラに入ってきた。でも私は信じなかった。あの男がウィルスンごときに陥れられて死ぬなんてありえない。私はシャニの混乱に乗じて、流崎邸を買い取ることに成功した」
チェリンはテーブルの上に両手を組んで、そこに視線を落とした。
「……流崎氏は、私にとって一番大切な、最愛の人。生きる意味が見つからずに贅沢三昧で空虚さと不安をごまかしていた私の目を、開かせてくれた。何のとりえもない私にも、できることがあると教えてくれた。だから……私は彼の遺志を尊重する。どうしてもあの屋敷を取り戻したいのなら、この私を納得させてごらんなさいな。あなたの知恵と力の限りを尽くして!」
チェリンは引き締まった視線をレイカに投げた。
「そうしたら売ってあげてもいいわ、あなただけに!」
レイカと同じ年頃のほっそりした女性が、今は世界で一番強固な要塞のように見える。
その背後に、ほんの一瞬だが、レイカには微笑する流崎好夫の姿が見えた。
レイカは穏やかな笑顔で立ちあがった。
「今回のラスボスは、なかなか手強そうね。でも、見ていて。私は絶対に屈しない!」
「……期待しているわ」
チェリンも笑った。もうその笑顔に、意地悪さはかけらも無かった。
レイカはチェリンに別れを告げ、テラスから去った。街並みを歩きながら、決意をあらたにする。
「パパ、見ていて。いつか……絶対にチェリンを納得させてみせるから。私の本当の戦いは、これから……」
今度の決意は、これまでとは違って、胸にやさしく、あたたかい。
雲ひとつない、抜けるほどの晴天が、レイカの遥か頭上に広がっていた。