超絶!神機大戦 ワンダーム   作:ユウーザ

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ようやく後編です


序章 Twins meet Wonderboy 後編

 

ブラック共和国 採石場

 

 胸部にブラック共和国の国旗を抱えて、黒い体色の節々を、シングルアイ含めて赤で彩った神機ランスが、同じ胸部国旗マークを構えたスピアを八機率いている。

 トレーラーには、また数体のスピアがパイロットを抱えて待機している。

 隊長機の中のコクピットは、班長が通信モニターを開いていた。

「第二班聞こえるか。 こちらドリア小隊第一班長ドリア。

 戦闘獣を稼働させたのはどういう了見だ」

 すると、見慣れた共和国ヘルメットではなく、帝国のゴーグルヘルメットが映った。

『こちらレッド帝国軍サバン小隊第一班長サバン。

 貴軍の兵士が錯乱、同僚を皆殺しにし、我が隊の一人も殺害された。

 後々、責任問題について軍法会議を開きたい』

 疑問符が頭を襲った。 

「何を馬鹿言ってる? 今すぐ確認にかかる」

 今度は、トレーラーを運搬している部下から通信が入った。

『班長、第二班の同僚がデータをリアルタイムで送ってました。

 結果、古代神機パーツ、確認取れました』

 ドリア班長は目を見開いた。 古代神機の腕、だけではない。 別班の同胞の奇行にだ。

「おい、何をしてるんだコイツは!?

 そもそもこれはクリムゾンに移送せねば……」

『うるせえな、戦闘獣動かせよ。

 指揮権持ってんだろ』

 部下の豹変に、戸惑うよりも怒りを上げた。

「何だその口の効き方は!? 急にどうし……」

 通信モニターに写真が表示された。 ドリアに見慣れた美女の姿。

『お前の女だろ?』

 そう、ドリア班長自慢の婚約者である。

「や、やめろ!」

『だったら俺らの指示でやれ。

 戦闘獣を動かして、古代神機を潰すんだ』

 班長は拳を握る。 歯を食いしばる。 目も強く瞑る。

 数秒もしない内に、洞穴から何かが飛んできた。

 驚きのあまり、それを見れば、戦闘獣ギーガニックがズタボロになっていた。

 

 洞穴を抜けて、帝国兵と共に通信を聞いていた鉱夫達の一人は呟いた。

「ウチの軍隊はどうなってるんだ……」

 今日はじめて見聞きしたブラック共和国の兵士は、全てではないものの、古代神機憎さ恐ろしさで身内殺しか脅しの凶行に及んでいる。

 光が見た様は、まるで人の形をした……

「おい、なにしてんだ」

 光は帝国兵の声へ顔を向けると、腕を動かしていた少年が鼻息を荒くしている。

「すっごい! 神機があんなにいっぱい! ボク、何年眠ってたんですか!?」

 目を輝かせる少年と連動するように、大きな両腕がぶんぶんと振りまくり、出口付近に拳固を入れまくる。

「知らねえよ暴れんな!! 今は天星歴1002年だけど!!」

「てんせーれき? ぜんっっぜん知りません! 歴史教えてくださいますか!?」

「アイツら殴ったらな!!」

 怒鳴った直後、大きな音と共に少年は身を震わせる。

 各々が大音量の源に顔を向けると、右の石腕から光が伸びていた。

 数機のスピアが標準武装レーザーブレードで、石腕を刺している。

 目を瞑って口を食いしばる少年。 その様を見て、死神博士は確信した、少年と石腕は痛覚を共にしていると。

「んんん……んーっ!!」

 少年が回ると同時に右石腕の裏拳が、スピア達を薙ぎ払った。

 刺さっていた箇所は、高熱の跡が出てるだけで、歪んでもいない。

「熱かった~」

 涙目の少年は口を窄め、左石腕が焼け跡を撫でている。

 額に冷たい汗を、目に爛々とした輝きを灯し、流は少年に声をかけた。

「お、おい……ホントにお前なんなんだ?」

「え? ぼく、ワンドって言います。 これらはぼくの義手で、ワンダームって言います。 あ、さっき言いましたっけ?」

「な、何のためにあそこで……」

 流の言葉が轟音と地鳴りに遮られる。

 スピア各機が、本体のワンドへ銃口を向けている。

「気になるのは俺達も同じだが、質問は後だ!!

 早急に避難!! ワンド少年より前に出るな!!」

 ワンドはおちょぼ口で、後ろに回る多くの男達を見る。

「良いか坊主! 我々があそこのスピアに辿り着くまでを護衛、守るんだ!!」

 サバン班長が指差す先は、隅に立つスピア。

「なんで敵の近くに!?」

「良いから!!」

 鉱夫達や双子は戸惑うままに、ワンドと帝国兵士の後について走る。

 鉱夫達には、帝国兵達への信頼が生まれていた。

 しかし、光はそうではなかった。

「……ヒーローに顔向けできないことは犯せないとか言ってなかった?

 あんな小さな子に頼るなんて……」

「少々情けなくは思うが、今は命大事にだ!

 それにあのワンダームとかいうのは、神機のパーツにもなると言っていた。

 今この瞬間は我々を守れる英雄かもしれない」

「もし違ってたら、我々が君らを守るさ!」

(……つまり、あの子を殺すってこと?)

 大人への不信が、光の心中を包んでいた。

 

 ドリア班長は地面に転がっていた。 片足を大きな足で潰されたために、痛みで動けないでいる。

 大きなものがこちらに向かっている。 大きな石腕に囲まれて、走るレッド帝国兵に続いて、男達がまた走っている。

「我々が守るべき国民を、あのレッドが守ってる、か……」

 レッド帝国の、長い雪地帯を抜けた所、病原菌の蔓延る毒地帯。

 死神基地と呼称されていた研究所、その自爆跡地で、おぞましい跡を見た。

 いずれも、自爆で解放された細菌と時間経過で腐ってはいたものの、少年か少女とも判別つかない子供達、兵士の射殺死体、宿した子供と一緒に苦しみ息絶えた妊婦……

 そのいずれも、共和国人だった。

 あの惨状を引き起こした者達が、正義の味方のようになっている。 皮肉であった。

「そして我らの同胞が、国民を巻き添えにしようと……」

 ドリアにとってこの愚かな状況は、世界統一戦争最終盤を思い起こした。

 今や誰もが口にするのを憚れる悍ましき人造人間……レッド帝国が保有していた、セイバーの影ともいえる邪悪な神機……それらが合わさった結果、敵味方共々蹂躙し、残った後の惨状を……。

 そして、それを企てて弱肉強食の世を作らんとした大暴君も想起した。

ヴェルズバー(真王)じゃ、あるまいし……!!

 大統領が奴にやられてから……ブラック共和国は……!!!」

 自国の不遇にやり場なき悔しさと涙が流れた。

 そして、また思い起こされた。 近年、若者や中年達の間で流行した馬鹿げた言葉も……。

 ――古代神機こそ世界を狂わせた元凶です!

「……あの政治屋のせい、か……あんな下らん奴のために……」

おいテメエ!!

 大声に顔を向けると、タンクトップの男がこちらに走ってきている。 鉱夫の男だ。

「俺達ゃ犯罪者でも何でもねえ、ここの採掘は合法だった!

 なのになんで銃口向けられなきゃならねえんだ!! わけわかんねえ内に同士討ちまで始めやがって!!

 どーなってんだ、ああ!?」

 ドリアは、痛みもあって、力なく言葉を紡ぐ。

「……中で中が起こったのか、一端は見せられた。

 共和国首都ではな、古代神機排斥を叫ぶ声が広がってたんだ……一部と思ってたら、我が隊の中にまで……」

 鉱夫が怒りのままに足の粗い切断面を踏みつけると、奇声と共に、ドリアは意識を沈めた。

「おいやめないか! 何も知らない奴だぞ、ショック死でもしたら刑務所行き。 そこの博士の相手をさせられるぞ」

 兵士が指差すは、ワンドを輝く瞳で睨んでいる死神博士。

 鉱夫は青ざめた。

「は、博士って刑務官でもねえだろ?」

 はっと口を閉ざす兵士に、同胞が肘で小突く。

 そんな中で、連絡番号を間違えた鉱夫はサバン班長に質問をした。

「しかしなんで神機の近くに来たんだ」 

「さっきから、やけに棒立ちになってたんで、もしや班長機に乗り移ったんではと思ったんだ」

「乗り移ったって、どうして?」

「班長には戦闘獣を大雑把に操る装置がついているんだ。 俺だったらそれを奪い取る」

 気絶したドリアの軍服の胸元の一部は、毟り取られている。

「とはいえ、戦闘獣はもう瀕死だ。 あのガキの腕は、ランスも軽く握り潰せるだろう。 アシストさせれば、後はこっちのものだ」

 クロスした石腕が、銃弾や光線を防いでいる。 遠隔で操る腕なし小僧に、守られてる誰もが畏怖した。 双子も含めて。

「じゃ、あたし乗るから」

 双子の片割れ娘が、そう答えた。

「何だと? こんな田舎で訓練を受けていないだろう」

「コレの神機の名前ぐらい知ってる。 スピアでしょ」

「お話にならない!! どういうつもりだ!?」

「あの子を誰が守るの? アンタ達、あの子を道具扱いしてばっかじゃない」

「バカ言え! あんなデカブツが義手だぞ、少なくともまともな人間ではない。 きっと我々と感性も違う。 化け物だろう……」

 ――そうだ、元はと言えば、アイツをどうするか決めあぐねてたんだ

 ――まさかあんな怪物だったとは……

 ――ご先祖様かわからんが、古代人様の考えてることがわからんぜ

 ――俺達、化け物の子孫だったのか?

 ――あんな腕をつけれたら、今度こそ不死身になれるかな?

 光は弟を殴った。 鉱夫達も殴った。 軍人も蹴った。

 何しやがるこんな時に、という鉱夫の怒声を尻目に、目尻に涙を浮かべて、周囲を睨んだ。

「アタシがなりたい大人は、()()まで子供をお世話するお母さんよっ」

 両親の墓前にも、そう誓った。

 光は駆け出した。 スピアの足を踏みつけると、取っ手になる凸凹に手を入れ、瞬く間に腰まで登り上がる。

「ええっすごい」

「そういや、村の学校にクライマー部あったか……」

「呆気に取られるな、乗っちまうぞ!! 降りろお!!」

 後ろで、倒れる音がした。

 振り返れば、石腕とワンドが地に伏していた。

 

 ワンドと左のワンダームの間の電磁波を、レーザーの光刃が貫いた時、左のワンダームは地面に墜落し、ワンドも悲鳴を上げて倒れた。

「っつあっ……いだっ……!!」

 ワンダームとの乖離が、幻肢痛を呼び込んでいる。 

『ふふふ、なるほどなぁ……レーザーで電磁波を遮れば、一時でも使い物にならなくなるわけか!』

 ランスを動かす兵隊は、隊長気分と、憎き対象へのトドメに胸を躍らせている。

『さぁ~~怪物くん、永遠におねんねの時間だよ』

 銃口と光る切っ先を、倒れるワンドに向ける。

「ど、どうしてボクを……この状況は、何が起こってるんですか?」

 ランスの集音機は、少年の力少ない声を拾う。

『赤い生命神機を知ってるか? セイバーを知ってるか!?』

「えっ? セイバー!? セイバーが起動したんですか!?」

 己らにとっての悪を復唱されると、ランス乗りを筆頭に、スピアにいる兵士達は叫んだ。

『そうだぁ!! セイバーとブレイドが見つかったせいでぇ!! この世のパワーバランスは一変したぁ!!!』

『戦車と戦闘機の時代は過ぎ去り、この人型した兵器は戦場を跳梁跋扈!』

『マジェスト社のせいで神機戦争は各地で激化ぁ!!』

『こ・ん・な・くだらねえロボットアニメのような世界、ヲタクしか望んじゃいねえ!!!』

『全ての元凶は、お前らの古代神機だぁ!!!』

 憎悪と怨嗟が、少年の中から恐怖を生んだ。

「あ、あの、くわしいお話を……」

『被害者達から、地獄で聞くんだな!!』

 ランスの隣から這い出てくるのは、ゾンビのような様相になった、ギーガニックだ。

『押しつぶせぇ!!』

 血飛沫と内蔵を撒き散らしながら、ギーガニックがワンドへ迫っていく。

 動きが弱々しい左のワンダーム、電磁波の再接続にも痛覚が伴っている。

 スピアの群れに踏みつけられる右のワンダーム、痛覚のせいで上の緑鬼(ゴブリン)を薙ぎ倒すには数秒時が必要。 それを待つ間に、屍寸前の羊がワンドへ倒れていく。

 ワンドは目を瞑った。 脳裏に、かつて憧れた女性を見た。

 ――ワンちゃん、お顔上げよっ

 ――直後、轟音。 言葉通りに目を開けば。

 スピアが、両手でギーガニックを押し返していた。 ボロ雑巾の如きギーガニックは、地に倒れた途端に四散した。

 スピアが出てきた先の立ち位置は、採石場の片隅。

 見慣れた巨躯を見上げるワンド。 彼が次に聞いたのは汚らしい音。

『……おおうえええええええええっ』

 嘔吐音。 軍事訓練もしていない一般人には、部活動で運動をするとはいえ中学生には、神機操縦など苦でしかなかった。

『今の動き! 訓練をろくに受けてねえ素人の動きだ!!』

『俺達にもこんな時代もあった。 共感するなぁ死ね!!』

 槍衾(スピアの集まり)が、同じ(スピア)を囲って、撃ち込み、斬りつけていく。

 

「あのガキ、もうダメだ! 俺達の命運も尽きたか!?」

「あ、諦めるな!! 対神機訓練を思い出せ!!」

 鉱夫も兵士も慌てふためく中、震える影が一人。

「光ちゃんが死ぬ? 俺の代わりに死ぬ……? い、いや……それは。 それだけは……いや……いや……?」

 流を捉えるモノクル。 顎に手を当てる死神博士。

(まず最初に自分の代わりに姉が死ぬという利己的な発想……使えるかな……?)

(あのガキ良いじゃん……)

 流を見ていたのは、死神博士一人だけではない。 その白い実験狂(マッドサイエンティスト)を含めて二人。

 笑うは、()。 ()()()()()()()美しい顔立ち。 着衣のコートの半分は白、もう半分が黒の、モノクロツートンカラー。

 彼が捉えるのは、流だけではない。 起き浮かぶワンダーム二腕もだ。

 

 槍衾が弱い者いじめに退いたために、ワンダームは浮かんでいく。

 ワンド少年の心は、困惑しかなかった。

 何千年眠りについたか把握もできず、殺人の現場に出くわし、大きな動物は敵性存在だから良いとして、見たこともない神機があったと思ったら、なしくずしに人殺し達を言われるがままに守って、憧れたセイバーが神機乗り達から全ての元凶などと言われて……今眼前で虐げられているスピアが、何のために出てきたのかがまるでわからない。

 困惑の鎖に縛られて、そこからくる微かな幻肢痛も鎖になって、動けないでいた。

 やがてズタズタになった槍が倒れ伏し、ノイズ混じりに咳き込む音が流れる。

『だああチクショーッ』

 悪態と、硬いものを叩く音が流れたら、黒槍(ランス)に足に踏まれる。

『アンタのこと助けに来るんじゃなかった……』

 その言葉は、ワンドをまた驚かした。

「……ボクのこと、助けに来てくれたんですか?」

 どうして? もうすぐ殺される身の上に聞くことではない。 しかし好奇心と困惑と疑問の解消心が焦らせて、質問の答えを聞きたがっている。

『アンタ、大人達に肉盾か石盾にされてたのよ……誰にも守ってもらえないとか……かわいそすぎでしょ……?

「だ、だから……ボクのことを?」

『明らかなマニュアルっぽいの見ても、古代神機ヘイトで塗り潰されてるし……なんでアンタ……誰にも守ってもらえないのよ……』

 涙が溢れた。 自分を守ろうとしてくれる人なんて、()()()()()()()()()と思ってた。

「……その声、ボクのこと呼んでたって人ですよね。 ごめんなさい。

 冷凍保存はお外の声を受け付けないし、今まで眠ってたから、身体が起き慣れてませんでした。

 今度は、ボクがあなたを助けます!!」

 

 浮かび上がった右の巨腕が飛び込んでいく。

 石腕が向かった先は、血管地味て、顕になったコードで繋がってるスピアの右腕。

 サイズの違う右腕同士が重なると、青白い衝撃が周囲に走り、沢山の石を浮かべ、槍衾をその後ろへ突き飛ばした。

 左腕同士も重なれば、衝撃は波となり、スピアの胸部から背中が、()()()()()()()

「なになになになに~!?」

 見慣れぬモニターがばっくり口を開けたことによる光の混乱をよそに、電磁波に寄せられて浮かんだワンドは、開いた背中の間に、吸い込まれると、歯を閉じるように胸部が元通りになる。

 折れかけていたスピアが立ち上がる。 傷の数々を灰色の光で補強し。 コードの腕を水灰色の大腕で覆って。

 

「……お手々でっかくなってる!?」

 元通りになったモニターを見て、自機の変貌に驚いた。

「わぁー……簡単なコクピットですね。 腕さえあれば動かせそ……臭くないですか?」

 後ろから声がすると、いつの間にか()()()スペースの中で、ワンドが唇で鼻を抑える。

「し、神機がこんなに揺れるなんて知らなかったのよ、初めてだったの、って……なんでいんの!?」

 大声に目を丸くするワンド。

「ワンダームは神機の強化パーツにもなるって、言ったと思うんですけど……」

「あ、確かにそんなこと言ったよーな……え、アンタも乗るの? さっきのそーいうこと?」

 こくんと頷くと、ワンドは質問を始めた。

「っていうか、吐いちゃったんですか? 空腹はパワーダウンしすぎちゃうんですよ?

 そもそも、この神機、なんていうんですか?」

 返答を聞かずにずけずけと増やしていくワンドに、光は最後の質問に答える。

「す、スピアっていうんだって。 あの黒いのがラン……」

 ノイズ混じりのモニターに顔を向けると、ランスが光刃を振り下ろさんとしている。

 ぎゃわわわわと、スティックを握ってない手をぶんぶん振り回す光。 モニター上には横から、自機の石腕がランスの腕を光刃ごと砕いた。

 へ? 自分は何もしてないのに剛腕が動いたという事実に、呆然とする光。

「ワンダームはボクの腕だから、ボクの思い通りに動きます。

 ですから、あなたは足を動かしてください!」

 

 よろよろと歩き始める獲物に、槍衾が向かってくる。

『そもそ、どうしてこんな状況に?』

 剛腕が、ボクシングスタイルで光剣を防いでいく。

『氷漬けのアンタを見た途端に、ウチの国の兵隊が銃撃ってきたの! アンタ殺したくて!!』

 片腕を無くした黒い槍からの弾丸を、石拳の硬い甲が脇へ反射していく。

『さっき工具か鈍器で殺さ軍人さんですかッ?』

 剛腕が、ジャブパンチでランスの左上半身にめり込んだ。

 黒槍は、後退せんとしていた勢いもあって吹っ飛び、崖へ落ちていった。

『おわぁ……』

 

 目を開閉する少女。 それより小さい少年は、首を傾げる。

「あの、どうしました?」

「いや、アンタの腕すごいじゃんって思って……」

 顔を急速に赤らめる少年。

「え、いえっ、褒められるのは初めてでもなくて……あははわああ!?」

 後ろを起点に振動が二人を襲った。 剣か銃なり攻撃をされたのだろう。

「後ろを確認できないんですか!? あ、初めてって言ってましたっけ」

「そーよ、読めないマニュアルもなにもなしになんとなくで動かしてただけ!!」

 すぐ下から顔についた吐瀉物の飛沫を腕で拭いつつ、大声を叫ぶ。

「でも、()()()とかよりも、こんなに簡単な作りなら……」

 ワンドは目を瞑って、胸を張ると、その全身が青く光りだす。

 釣られるようにモニターも青く光りだし、その光は横に、ワンドの後ろまで大きく広がる。

「えええなになになになに!? 画面がぐーんって広がったんですけどっ!?」

 液晶モニターは、周囲の景色を、こちらを囲むスピア達を写していた。

「スピア、ですよね。 この神機、ボクの腕と同化してるから、内装が簡単だし変えれるかなーって」

「十分すごい……。 アンタほんとに何者?」

「えーと、神機強化アームユニット・ワンダーム接続者をやってる、ワンドです」

 

 ワンダームと一体化したスピアの動きが、急激に良くなった。

 足の動きこそ鈍いが、腕の防御やカウンターが俊敏になっている。

 背後からの急襲に対応できている。

 岩など軽く潰せる剛拳が、槍身をボロボロに崩していく。

 スピアの装甲を削っていく一撃一撃に、気を起こしていたドリア班長は恐怖した。

 確かに危険かもしれない。 しかし、何故、同胞を殺す?

 班長の自分を蹴落とす必要は……?

『畜生!! 神機さえなければぁ!!』

 中破してない槍の一つから声が響いた。 自分にはその一声が信じられなかった。

『神機に乗ってるくせに何言ってるの!?』

 自分と同じ考えを、ワンダームのスピアが叫んだ。

『俺は戦車乗りだった!! 戦車の出番が減って、こんなアニメみたいなふざけた代物に乗せられた!!』

『俺も戦闘機パイロットだったのに、適正がないとか言われて、ファルコンみたいな空を飛ぶ神機にも乗せてもらえなかった!!』

『神機に乗れなくて職を追われた奴が、友達だった!!』

『俺達が今乗ってる神機は、世界のバランスを崩した!! 絶滅すべき!!』

 ドリア班長は目を見開いた。 この先の時代、軍人が生きるには、神機を受け入れなければならない。

 それができなかった者達が、自分の部下に配属されたという事実に、呆れ果てた。

『その元凶たらしめる古代神機こそ、もっといちゃいけないばけもッ』

 世界の変化を受け入れられなかった人間の言葉は、怒りに掴まれた。

 

 ワンドは困惑した。

 自分の手が、勝手に動いて、勝手に敵を握ったから。

 自分の他にワンダームを動かせる権利は、同乗者のみ……光のみ。

黙れ化け物……ッ!!

 自分(ワンド)の手が、敵スピアの胴を握り潰した。

 掌中で柔いものが潰れた感触がした。

 自分が人を殺した? そう思ったら、涙が流れた。 前で手を動かした光を見やると、身が震えた。

「確かに、このパワーは化け物かもしれない……でも、もっと確実な化け物は、アタシの傍にいる」

 光の後ろ姿から、初めて暗いものを感じた。 闇を誘き寄せるような……。

「弟よ」

 

 いつの間にか鮮明になった音声を聞いて、鉱夫達は一斉に流を見た。 当人は、たった一人の家族からの告発に、目を丸くしている。

『アタシ達の親が病に殺されてからというもの、あの子は自分が死ぬことを誰よりも恐れてた……元々都会に憧れてたんだけど、都会に住む軍人は、()()()()()()()()()()()絶対不死身だって、思い込みまくって……それで、墓場を荒らしたり、病院にも迷惑をかけて……たまに年下の後輩もいじめた時なんか、()()()()()()()()()()()》って言って……さっきまでいた洞窟には、人殺しまくったって博士がいた……その人と同じ目つきで、この腕を見てた』

 流は死神博士を見る。 見開いた片目、光がないはずなのに爛々とした瞳。 自分もこんな目をしていたと?

『さっき、やっとわかった。 父さんと母さんは、流から人の心を持ち去っちゃったんだ……。

 そして……世界統一戦争は……アンタ達から……人の心を奪っていった』

 サバン班長、ドリア班長も、心当たりを思い出した。

 雪道(シルバーロード)での凍傷で手足を切断され、気を狂わした同胞。

 人造人間の暴走で、家族を殺されて、心を壊し、赤の他人を手にかけた戦友達の姿を。

『人の心を無くした奴は、人間の形をした化け物だ!!

 だったら』

 怯え惑う槍を前に、照準を向ける槍を前にして、大腕の槍は構えた。

ぶっ潰す!!!

『ほざくな、ガキ!!』

 槍の銃口からの光を気にせずに、石腕槍(ワンダースピアー)、大地を蹴る。

 被弾の衝撃も気にもとめず、拳のまま振りかぶった腕を、敵槍に振り下ろす。

 槍の頭は、愚かな搭乗者を乗せるコクピットごと、腹まで潰れた。

 光は憤りに夢中になって気づかなかった。 潰した感触を再び味わったのは、ワンド自身ということを。

 

(人の心を無くした人は、化け物……)

 化け物というワードから、あるトラウマを連想した。

 セイバーの兄機として作られた、漆黒の殺戮刃(キリングマシーン)を。

 アポリュオンごと都市ごと住民を惨殺していった、あの惨劇を。

(この時代は、ブレイドみたいな人間が、増えている……?)

 心蝕む赤目の黒刃が起こした惨劇も、思い起こした。

(でも、生命の価値は……)

 自分が殴り殺していった羊の怪物、自分の意志ではないとはいえ、自分が潰した兵士も、同価値。

(でも、アポリュオンは……)

 そう、アポリュオンだけは、許してはならない。

 そのために、自分は目覚めたはずだから。

 

『古代神機めえええ!!!』

 叫んで照準を向けるという、兵士として愚かな行為を行うスピアに、走るワンダースピアーは飛び上がり、足裏を同種機の頭に踏み込める。

 そのままの重量でスピアを頭から地面へ踏み倒し、踏み砕けば、神機ながら腰のいったストレートナックルで、別の槍の上半身を凹ませ、乗主をハエのように潰す。

 何回も同胞の死を目の当たりにした愚兵はスピアごと後ずさると、槍胴ごと掌に掴まれる。

 ワンダースピアーはスピアを持ったまま、飛び上がれば、真下に倒れている頭なし槍へ、そのまま重力に沿って落ちていき、掴んだ槍を振り下ろす。

『や、やめて――』

 パワーの勢いで槍同士が爆発。 爆煙から飛び上がるのは、ワンダースピアー。

 向かい降りる先は、崖下。

 

『自転車より早い……自転車より早い……』

 気楽に乗る自転車よりは早く、バイクには確実に追い抜かれるようなスピードで、右肩と左足で這う、左半身が潰れたランス。

 コクピット内でレーダー反応を検知。

 自分を殴り飛ばした腕力が、こっちに来る。

 身の毛もよだつ恐怖に踊らされるがまま、スティックを動かす。

 しかし、無理が祟ったらしく、足が関節から崩れ落ちる。

 黒槍の背中へ、化生を許さぬワンダースピアーが、両拳を組んで、飛び降りてくる。

『砕けろ!!』

『来るなぁ!!!』

『『化け物ぉぉぉぉぉぉ!!!』』

 また一つ、爆発が起こった。

 

 役目を終えたワンダースピアーは、崩れた。

 接続から外れた腕を残し、瓦礫となって崩れたのだ。

 ワンダームの接続は、神機のエネルギーを多く削る。

 大破寸前だったスピアとの接続中は、神機の傷をワンダームのエネルギーで無理矢理補強していた。

 その分の消費もあって、スピアが崩壊するのも自然の理。

 今、光と少年を救助に回っている兵士や死神博士達にそれがわかるのは、もう少し後のことだった。

「確認できました!

 両者とも……息があります!

 コクピット、こんなに固かったか……あ、内装が変化してる模様!」

 一人の帝国兵に続いて、確認に来るサバン隊長。

「コクピット内装まで変え、あの試作神機(ナックル)並のパワーを与える……確かに本当の化け物だ。

 だからこそ……」

 我々で取り扱わなければ。 そう言おうとした口が自然につぐまれた。

 レッド帝国軍は、ブラック共和国軍と共に一度、軍解体されている。

 互いの憎悪、互いの殺戮、互いの被害を鑑みて、互いに決め合った平和条約に従って。

 それが、神機キャンペーンの煽りで、という名目で、急遽ながら復活を果たした。

 完全和平国家であったはずの、二国の信頼を築く証であったはずのクリムゾン連合国によって。

 そのクリムゾン連合国は、神機キャンペーンに則り、防衛策という名目で、新たな神機を産み続けている。

 三石の完全和平からかけ離れたその愚行に、サバンは自分達の行いを疑問に思った。

(だが……下手に止まっては、炎帝に顔向けが……)

「……あの二人、どうなるんです?」

 部下の声に気づき、思考を変えるサバン。

「……クリムゾン連合国に送って、事の仔細をレッド、ブラック、クリムゾンの三国に報告する。 話はそれからだ……」

 レッド側の意見に同意しつつも、共和国軍のドリアは、彼女を思った。

 人の心を無くした奴は化け物。 彼女は確かにそう言った……。

 確かに、茨の道に疲れ、楽そうな道を選び取り、同胞を殺し、落とすような者達は化け物同然。

 しかし……あの熱意と殺意は……兵士におくには、危険すぎることを、ドリアは知っている。

 熱意が先走って、討ち死にした同胞達を、殺意に身を任せ、さっきの部下達と似たように狂った親友達を知っている。

 ワンドというらしい少年の方は……狂人達に差し出した方が良かった気さえした、が……その場合、あの狂気が今より悪い結果を引き起こしたかもしれない。

「この辺りの自治体の代表は?」

「村長の息子ですかね。 村長ボケてるんで、色々取り仕切ってるんです」

「じゃあ、その息子さんに、なにがあったかを報告して……」

 軍人達の会話を耳で流しながら、身を震わせている者が一人。

「光ちゃん……姉ちゃんは……僕を……ころすの……?」

 流。 本来、光と似た顔立ちが、見開いた目と、青冷めた肌で、姉の印象と離れていってる。

 近づく足音。 見れば、さっきまで共に死地を超えた帝国兵士。 だが。

「お、お前も、僕を、殺すのか!?」

 そう言って、流は後ずさった。

「お、俺、不死身の都会人になるんだ!

 化け物なんかじゃ、ないぞ!」

 焦り言葉に、意味を見出だせない兵士は首を傾げる。

「不死身って何言ってんだ? モンスターだろ」

「そんなことない!!

 僕が死ぬことのない世界を作るんだ!

 都会人には、その力があるんだろ!」

 素っ頓狂を叫ぶ流を、訝しげに見る兵士の瞳は、彼の後ろから新しいものを捉えた。

「……大丈夫よ、愚か者」

 流を背中から抱いたのは、白と黒の袖。 驚く流の顔隣に、美の中性的顔貌をのぞかせる。

「私と一緒に、理想の世界を作りましょう?」

 青年の声に、流は涙した。 弟は青年の言葉を、()()()()()()()()()()のだ。

 涙にも意味を捉えられず、帝国兵は叫んだ。

「おい、アンタ誰だ!? いつからいた!?」

 青年は流からそっと離れると、白黒コートの胸元から、カードを取り出す。 名刺であった。

「マジェスト社エージェントをしております……レアル、と申します。

 よろしくね?」

 平和から憎まれ、戦場から愛されている大会社の一員は、ウィンクを放った。

 

 

(人を……殺した……)

 明日からは、蚊も蝶も殺せちゃう。

(化け物だった)

 でも人間。 人間は人。 人は人。

(やめて)

 命の価値は、どこの誰でも、当然、虫でも1グラムとも変わらない。

(ちがう)

 私も、人殺しの化け物になった。

(……そうだ)

 あの子のせいだ。 あの子が誰にも守られないから。 あんな小さな子を誰も守ってくれないから。

(あんなにはしゃいでかわいい子を)

 ワンドなんてかわいい名前の子。 君はなんであんなところで氷漬けになってたの? 君は本当に化け物なの?

(そんなわけない)

 あんなにはしゃぐような、かわいい子が

(化け物のはずがない)

 化け物と、いったら……

(流……流ちゃん)

 双子の弟。 生まれた頃から一緒だった。

(出来の悪いアタシ達の……もっと出来の悪い片割れ……)

 親子四人水入らずで村を遊び回った。 まともだった頃、よく笑ってた。

(アタシ、アンタを……)

 あの頃から卑しく笑ってた。 殺さないでと言いながら、年下の子を怖がって殴ってた。

(殺さなきゃ、ダメなのかな……)

 笑いの中の卑しいのがマシになったのは、新聞読み漁ってからだった。

 アタシと同じで、かわいくなくなった

(やっぱりアタシたちは、化け物だ)

 

 

 




如何でしたでしょうか。
古代兵器に狂乱して味方まで殺す兵士、かっこいいモブ兵士、力合わせるモブ達、歪な双子、腕なしショタ、腕だけ合体の量産機……
えー、自分の書きたいものが多すぎて……混乱しませんでしたか?
原作がマイナーなシリーズなもんで、初心者に優しく、入門用に作ったつもりですが、ご理解いただけなかったのならば私の敗北です……。
感想で応援か叱咤の言葉を捧げてくださると、励みになって嬉しく思います。
これからも、デカ義手ショタと、歪つ双子の、熱血風ロボットノベルを、ご堪能いただきたく思います。
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