「はぁ……どう見ても最悪のメンバーね。」
悪態の一つでも吐きたくなるメンバーだ。
第一回のディスカッションが始まったが、Aクラスは知らない男ばかり、Bクラスは宗教かと思わんばかりにクラス中からチヤホヤされる気に食わない
Cクラスは気に食わないばかりか自分に害を為したと思われる伊吹がいる。どの面下げてここに居るのか。引っ叩いてやりたいくらいだが、報復が怖い。
そしてDクラスはオロオロしているキモオタク、無表情と葬儀屋だ。これから一日二回、合計六時間もこいつらと過ごさなければならないなんて考えるだけで憂鬱だ。
――ましてや私は“優待者”なのだから。
こいつらには私を守ることは不可能だ。私はそう確信を深めた。
最悪のシナリオは、暴力的な手段で以て私が優待者であることを暴かれることだ。暴力的な手段に出られたら、恐らく私は反撃の一つも出来なくなるだろう。私が暴かれたことがDクラスにバレたら、いくら平田の力を借りてもこの先の学校生活が成り立たなくなる可能性は高い。つまり、そうならないように立ち回らなければならないが、取り得る手段は黙秘または試験に関心を向けないことで乗り切ること、或いは他の寄生先を見つけ、自身の身を守ること、これくらいだろうか。
優待者である以上、自分或いは他のDクラスの生徒の手で試験を終わらせることは出来ないみたいだし、他クラスと通じるなんて以ての外だ。そこまでの勇気は無い。
大方の予想通り、
【卯グループ】
A:竹本茂 町田浩二 森重卓郎
B:一之瀬帆波 浜口哲也 別府良太
C:伊吹澪 真鍋志保 藪菜々美 山下沙希
D:綾小路清隆 軽井沢恵 外村英雄 中禅寺夏目
とりあえず初回ということもある。話を振られたときは答え、それ以外は興味の無い体裁で行こう。都合良くAクラスは「沈黙作戦」で行くようだし、Cクラスも一之瀬に対抗できるほど口も頭も回る人間は居ないようだ。町田から「この試験で一番避けるべき結果は何だ?」と問いかけられたが、つまり私が一番避けるべき事態である「優待者を暴かれ、裏切り者が出ること」と答えたら共感を得ることができた。良かった、正解だったようだ。
議論の進め具合を見たところ、一之瀬と町田以外にこのグループで実力者は居ない。寄生するなら町田、という選択肢が濃厚か。一応、留意しておこう。このまま何事もなく四日間を終えることが出来れば、それが一番良いのだけど――。
――早速ピンチだ。どうしてこうなった?
-------------------------------------------------------
トラブルの理由は明白だ。
遅かれ早かれ、何れこうなるとは思っていた。クラスの中でもトラブルに事欠かない軽井沢のことだ。平田の威光に感けて他クラスとも揉め事のタネを作っていたことは想像に難くない。
一之瀬の主導のもとに進めることになった第一回のディスカッション、今後の動きについて考えながら部屋の外に出ると、平田か誰かを待っていたと思しき軽井沢が伊吹を除いたCクラス女子三人と揉めている。遠目から聞き耳を立てると、夏休み前にCクラスの“リカ”とかいう女子に乱暴な行為を働いたようだ。
男女交際には心底興味は無いが、どんな意図があって平田は軽井沢と交際しているのだろうか。クラスでも争い事に大きな嫌悪を示す平田が、トラブルメーカーでありさして優秀でもない女と交際するなんて、裏取引の臭いしか感じない。それとも普通の高校生はああいったギャルに魅力を感じるのだろうか?
そんな疑問を感じる間にも事態はそこそこ大きくなりそうである。「写真を撮って本人確認させろ」と真鍋が詰め寄る。軽井沢は真鍋の携帯をはたき落として一旦は抵抗の姿勢を見せるものの、三人に囲まれ軽井沢は為す術もない。強気を保っていた表情も段々弱々しくなり、声も震えてきている。
ちなみにオレは助けないぞ。事なかれ主義だからな。誰かをけしかけるにもBクラスはまだ部屋で何らか打ち合わせをしているし、ハカセを巻き込むのは可哀想。中禅寺は巻き込んでもいいが既に姿はなく、万事休すといったところだが、救世主が現れた。
「おい、何を騒いでいるんだ。嫌がっているだろ、止めてやれよ。」
町田を筆頭とするAクラスが無言のディスカッションを終え退室してきた。
町田は揉めている女子の集団に割って入ると、真鍋達をものともせずに追い払ってしまった。
軽井沢は突然現れたヒーローに夢中だ。町田に対して平田に向ける視線のようなものを感じる。確かに町田は顔立ちも整ってるし、Aクラスであることからそれなりに優秀な人物でもあるのだろう。正義感もコミュニケーション能力もある。別に悔しくなんか無いからな。
おい、平田。彼女が寝取られそうだぞ。ちなみにオレは純愛主義――いや、事なかれ主義だ。
しかしこれは恋愛感情というより、何だろうな、クスリの切れた依存症の人間がクスリを見つけたときの様な顔だなあとオレは思った。
二回目のディスカッションが始まった。それまで何をやっていたかは聞いてくれるな。
状況は膠着している。一之瀬を始めとしたBクラスと、軽井沢を除くDクラスは話し合いをしようとするが、AクラスとCクラスは非協力的だ。何とか言葉を尽くして一之瀬が話し合いを成立させようとしているが、果たしてどうだろうか。
オレは一回目と同様に“見”に回っている。時々一之瀬や周りに相槌を打ちつつも、他の13人の対応、癖、そういったものを見極めている。
今回気付いたのはAクラス、おそらく町田は葛城派だが、森重は坂柳派なのだろう。味方のクラスのくせに相手のことを探るような態度が端々にある。
ハカセは元々頭も良くないし、特に何も考えずその場のノリで喋っているからシロだろう。
中禅寺は優待者ならオレに丸投げするか、上手くやるだろう。というか、コイツを読み切ることの出来る人間は居るのだろうか。いつもの様にぺらり、ぺらりと本を捲って居る。今日は――能楽の本か?時折見える挿絵に翁や女、そして妖怪の仮面が見える。一回目のディスカッションで一言発しただけで、あとは参加する気配すら感じない。一之瀬が話しかけてもチラリと視線を上げる程度だから、Bクラスの連中が鬼のような形相で睨んでいる。いつか中禅寺から見た一之瀬についても聞いてみたいものだ。
軽井沢は――贔屓目に見ても怪しいな。端末をいじりながら試験に興味がない姿勢があるものの、いざ優待者を探す算段をし始めると、消極的な発言をする。意識的か、無意識かわからないが、オレや一之瀬を騙せるほどの演技が出来るとも思えない。何かに取り憑かれたかのように端末をひたすらいじっている。優待者で無ければAクラスやCクラスを口撃しそうなもんだ。積極性が欠け、行動が慎重になっている。
Cクラスは――真鍋などは分かり易いが、伊吹ならわからんな。上手く仮面を被って表情を消している。こいつがスパイだったのも納得の人選だ。仮に優待者だと指摘されても冷静に対応出来るだろうし、優待者でないなら誤答を誘導できるだろう。
そのようなことを連連と、膠着したディスカッションを終えながら考えていた。
クラスの連中が屯する談話室――勿論、中禅寺は自室に引き籠もっている――に戻って来ると、高円寺が優待者を指名してしまって少しばかり驚いた。この短期間で嘘つきもしくは試験の絡繰りに気づいたというのか。やはりコントロール不可能な人物だ。恐らく正答しているだろうし、「申グループ」はどうするもこうするも、既に試験に参加する資格を失ってしまった。CPが手に入るだろうことは有り難いが、勝手な行動に皆は憤慨している。
ピロン、と端末の音が鳴りメールを受信した。開けたくない。どうせアイツの
「どうして高円寺君を止めなかったの?――今度会ったら注意しておくわ。」
無駄だ。アイツをコントロールするのは、それこそ不可能に近い。
そんなことよりオレたちのグループだ。堀北に軽井沢の情報を提供するように言うが、反応は芳しくない。そもそも仲が悪いようだ。櫛田ともアレだし、やはり本格的にクラスから情報を得る手段を確立しなければならない。
また堀北は辰グループにおける有効な手段を見出だせていない。中禅寺からは「幼く純粋」と評される彼女だが、少なくともこの試験では何らかの成果を期待したい。そうすれば二学期から主導権を握ることも少しは楽になるだろう。
とりあえず堀北に成長してもらうためにも、アドバイスを送っておくか。見た目からくる第一印象と口に出す言葉、そして態度。それらから得られる情報を整理し、比較することで矛盾や違和感を導き出し、今後の動き方を修正する。この試験における基本的にはこうだ。
人は誰しも仮面を被って生きている。仮面を付けたり外したり、その選択する瞬間、傾向、そうしたものから読み取れる情報は大きい。
なに、難しいことじゃない。ホワイトルームでの教育のちょっとした応用だ。
まあ、この試験は恐らく何らかの法則により優待者が定められている。いくつか候補はあるが、それを
――その後、堀北に執心の龍園と、オレを篭絡しようとしている櫛田にも会ったが、オレの仮面は揺らぐことなく対応出来たと思う。龍園がこの試験の絡繰に手を触れつつあるのは、果たして誰のサポートがあったのだろうな。Cクラスの軍師、あるいは他クラスの裏切り者、何れにしても厄介だ。
しかし
-------------------------------------------------------
「もういい!私の願いを聞いてくれないなら!アンタなんか必要無い!」
――どうしてこうなった?
新しい選択肢って何?平田が私に見切りを付けるってこと?
――冗談じゃないわ。私が、平田に見切りを付けるってことよ。
真鍋と、あと名前もよく覚えていないアイツらCクラス女子に対抗するには、より強い力が必要だ。先程のように暴力で来られるのであれば、より大きな暴力を準備しなければならない。平田は話し合いで解決しようと提案してくるが、最早そのような段階は疾うに過ぎているのだ。平田はそれが分かっているのにも拘らず、頑なに話し合いを薦めてくるヘタレである。あるいは同性愛者である。その証拠に仮初の恋人関係になるとき「抱かせてやる」と言っているにも拘らず、一向にこちらに手を出してくる気配すらない。それとも身体に傷のある薄汚い女になんか、抱く価値すら無いってこと?
――ハッ、笑えるわね。結局のところ、優しい振りをしてるあんたも加害者側の人間よ。
つまり、本来的に平田は私に興味はないということが明らかになった。新たな寄生先を探せ次第、恋人関係の解消を早急に進めなくてはならない。
差し当たっての候補は町田だが、Dクラスでも佐藤や篠原、松下あたりは潜在的な敵となる可能性を秘めているし、男子に媚びを売る櫛田や、ことあるごとに見下してくる堀北など、気に食わないかつ私に攻撃を行ってくる候補者は多い。Dクラス内で身を守る術を探さなくてはならなくなる。よって恒久的な手段とはなり得ない。
私は寄生虫。――――独りで生きることの出来ない、弱い生き物なのだ。
だけど生き残るためなら、どんな仮面でも被ってやるわ。
本作をお読み頂き、いつもありがとうございます。
ちなみに皆様お気づきの通り3部構成でも4部構成でも終わりそうにありません。序破急(新)で終わるつもりだったのに…。
塗仏の宴が上下巻であれだけの分厚さであったことくらい心が折れかけています。
一応、結末まではプロット出来てるので、何とか今月中には完結させます。