ようこそ百鬼夜行の跋扈する教室へ   作:桜霧島

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“魍魎の匣事件”

 1952年、東京を中心に連続バラバラ殺人事件が発生。犯人、容疑者全て死亡。事件の特異性から大きく報道されることは無かったが、この事件を契機として美馬坂近代医学研究所が閉鎖され、三鷹を本拠地とする新興宗教が1つ解散した。
 尚、当事者である久保竣公の小説『匣の中の娘』(遺作)や『目眩』の作者である関口巽(故人)の手記により一部詳細が語られている。


『奇譚月報 20XX 臨時増刊号』 特別編集員・(旧姓)中禅寺敦子





面霊気の階 柩

 

 

 試験二日目。堀北の話っぷりからすると、辰グループは龍園によって完全にコントロールされているようだ。既に各グループの優待者情報も集め終わって居るのだろう。葛城や神崎を含む他のメンバーを挑発したり、裏取引を持ち掛けたり、二日目にして既に「どう試験を終わらせるか」に重きを置いている。

 無人島試験は骨折り損で終えたように見えるが、実際はAクラスとの取引により200CP相当を得ることが出来ているし、これはBクラスの試験結果以上の成果だ。

 

 一方、卯グループは完全に膠着している。座長を務める一之瀬はトランプを使ってメンバーの性格志向を把握しつつ、親睦を深めている。もちろんAクラスは参加していないが、場の主導権を握り続けるという意味では一之瀬の行動も無駄では無い。一度こうした流れが出来てしまえば膠着を打破するのも、或いは膠着を維持するのも一之瀬の思うが儘だ。

 間違い無く一之瀬は策謀家としてもそれなりに上手くやるだろうし、カリスマもあることで煽動家としては一流にも手が届きかねない人物である。但し、その善性が足を引っ張ることになるだろうが。

 

 そして、恐らく優待者であり真鍋らから現在進行形で睨まれている軽井沢は、町田の隣に陣取り、あからさまに距離を詰めようとしている。昨日の平田との口論はほぼ一部始終見ていたし、平田からの補足説明もあったため行動原理も凡そ理解出来た。新たな寄生先として町田をロックオンしているが、町田も悪い気はしていないようで、連絡先を交換したり試験外でも会う約束をしているようだ。

 こうして見てみると軽井沢は、実は人を選別する目が肥えており、自らの強みも理解して振る舞うことができる人物であると言える。知力、学力さえ何とかすれば大いに活躍してくれるだろうし、後はどのようにオレの言う事を聞かざるを得ない状況に持っていくかだ。一番手っ取り早いのは櫛田のように弱みを握り脅すことだが、軽井沢には強みを活かすためにもある程度自発的に言う事を聞くようになってもらいたい。問題児達はこれ以上増やしたくないのだ。

 

 そして問題児達の一人こと中禅寺であるが、今日はまるで三千世界の終わりでも見てきたかのような殊更な仏頂面をしており、どうにも近寄りがたい。本を捲るスピードも当社比少し遅く感じるし、何を考えているのだろうか。今日の本は――私物なのか、えらく擦り切れているのが目立つ。黒表紙でタイトルも無いので、中身が何なのか分からない。

 サバイバルでは物理的な距離が近かったのである程度行動の予測は出来たが、今は分からない。少なくともオレの計画を邪魔しないで欲しいとは思っているが、アイツが動いてオレの不利益になったことは一度も――いや、あったな。堀北に全力で蹴られた脛の痛みは未だ忘れていないぞ。

 

 

 

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 四回目(二日目夜)のディスカッションが終わった。試験期間も残り半分、明日は自由日だから実質三分の二が終わったということだ。

 昨日は真鍋達に絡まれるというアクシデントに遭ったが、町田を利用することで今日は何とか乗り切ることが出来た。やはり私の見立ては間違っていないらしい。番犬としては中々に優秀だし、話をしていても平田とは違って多少の毒も吐くから面白い。Aクラスのパワーバランスを教えてもらえるのも有難い。

 

 この後、それから明日は遊びに行く約束をしているので、豪華設備で束の間の気分転換が出来――――そうにない。

 

 外に出て独りになった瞬間、真鍋達に囲まれた。運悪く従業員用で監視カメラも無く、人通りも極端に少ない通路へ、まんまと誘い込まれてしまった。

 軽く抵抗を試みるが三人相手に口喧嘩で勝てる訳もない。況してや実力行使など口に出すまでもない。

 

「待ちなさいよ!今、思い出したの!――前に食堂でぶつかった子が居たこと。けど別にあたしが悪いってわけじゃない。鈍臭い感じの女だったし――。」

 

「コイツ――マジ呆れた。素直にリカに謝るようなら許してあげるつもりもあったんだけど――。」

 

 ――初めから許す気なんて無かったじゃない。私は知っている。こういった連中に一度弱みを見せたら、骨の髄までやられるってこと。泣こうが喚こうが許しを請おうが、相手が満足するまで嫐られるしか無い。

 

「私、マジでムカつくんですけどー?」

「本気で虐めちゃう?」

「顔から気に入らないんだよね。ズタズタに切り裂いちゃう?」

 

 頭を抱えて身を守るが、髪の毛を掴まれて写真を撮られる。

 

 もう、壊れてしまおうか。壊されてしまおうか。

 

 

 

 

 

 

 

 ――いや、それには及ばない。

 

 

 

 

 

 

 

 パンッ!

 

 

 

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 通路の影に隠れ、オレは一人で軽井沢の様子を探っていた。ディスカッション終了後、Cクラス三人の空気に剣呑なものを感じたオレは軽井沢を狙う三人の後をつけていったが、途中で呼び止められる。

 

「女子の後をストーキングとは良い趣味をしているじゃないか、キミ。」

 

「中禅寺か。今は忙しいから後にしてくれないか。」

 

「キミに用があるんだが――ふむ、なるほど。じゃあ程良いところで手伝ってやろう。()()()()しな。」

 

 丁度良いとは何だろうか。とりあえず中禅寺に任せることにしてみよう。中禅寺が軽井沢を助けても助けなくても腹案はあるし、最終的には軽井沢が言うことさえ聞いてくれればそれで良い。

 

 中禅寺は当初ことの成り行きを見ているだけであったが、実力行使に移ろうとしたところで割って入ろうとする。――が、少し止める。

 

「集団での暴力の証拠を握って、Cクラスへのカウンターにする方が良いんじゃないか?」

 

「ボクはね、綾小路君。自分の目の前で人が傷ついたりすることが一番嫌いなんだ。そして大多数の人間がそうだから、覚えておき給え。あと此処までのものは録画してあるから好きに使いなさい。」

 

 やりたいことが一緒なのか違うのかさっぱり分からない。だけどまあ、そういう考え方があることは知っているので、中禅寺に任せる。

 

「力仕事なら手伝うか?」

 

「いや、それには及ばない。」

 

 中禅寺はスタスタと音も無く歩いて行くと、未だ存在に気付いていない真鍋達の背後で「パン」と大きな柏手(かしわで)を一つ打った。

 

 

 

 あー。そうなるよな。

 

 

 

 人間は、意識の外から大きな音を立てられると滅法弱い生き物である。

 するとどうなるか。目の前の光景のように、バタバタと意識を失うのだ。うん、実力行使ではあるが暴力は振るっていない。確かに傷付いたりはしていないが、詭弁じゃないかそれは、とオレは思う。

 なお、軽井沢はそれなりに離れて頭を抱えていたからかそれ程ダメージを負っていないようだ。そんな軽井沢に対し、普段からは似つかわしくない飄々とした語り口で中禅寺が話し出す。

 

「やあやあ、大丈夫かね?」

 

「大丈夫じゃないわよ――――何をしたの?」

 

「柏手は『邪を祓う』効果があるのだ。集団で女の子をいびろうとしていたみたいだからね、バチが当たったのだろう。立てるか?」

 

 ハンカチを渡しながら手を差し出す。非常にクールだ。その仏頂面に似合わない紳士加減だ。

 

「おい、何を呆けているストーカー。そいつらを通行の邪魔にならないよう、端に片付けておけ。」

 

 結局、力仕事をやらせるじゃないか。紳士加減の欠片も無い。

 

「――アンタ達、どっから見てたわけ?」

 

「最初からだ。余計な世話と言うなよ。平田くんから頼まれたから見守っていただけだ。」

 

「平田くんから?――あたしの過去を知っているの?」

 

「まあな。ちなみに其処のストーカーも知っているぞ。」

 

「お前もストーカーじゃないか。というか、いつの間にお前は平田と話していたんだ。」

 

「――別に助けて欲しいなんてあたしは言ってないから。」

 

「何だ、伊吹の真似か?アレは可愛くないから止めておいたほうがいいと思うがね。――さて、とりあえず今日は帰るぞ。」

 

伊吹が聞いていたら確実にお怒り案件だ。蹴られても知らんぞ。

 

「綾小路くん、キミは居残りだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレ達はこれまた人気の無いフロアにある個室へ移動した。途中で中禅寺が飲み物を買ったからには、そこそこ話が長くなりそうだ。

 

 到着して五分ほど沈黙が続いたが、中禅寺が意を決したかのようにつぶやく。

 

「ボクはこの一学期、ずっと考え続けていたのだがね。多分このタイミングだろうからキミに言うことにした。」

 

 このタイミングで話さなければならないこと――軽井沢、或いはこの試験に関係があるということか、と思ったら全く違うことを話しだした。

 

「あの学校にある『晴明稲荷神社』は二柱の神を祀っている。安倍晴明命はわかるが、もう一柱の猿田彦は何故そこに居るのか、どうして猿田彦で無ければならなかったのか、そこが常に疑問だったのだ。」

 

 中禅寺が言ったことは“提灯火事件(中間テスト)”の後、茶菓子を持ってあそこの社務所に通っていた時、何故か辟易とした表情をした中禅寺から聞いたことでもある。だがそれにしても今なのか、という疑問は沸くが、此奴の語り口はあちこちに飛ぶので予断は禁物だ。

 

「猿田彦は天孫降臨の際に、天照大御神に遣わされた邇邇芸命(ににぎのみこと)を道案内した国津神とされていることから、道祖神でもあり塞ノ神でもあるとされている。つまり“導き”の神様でもあり“道を塞ぐ”神様でもあるのだ。この場合の“道を塞ぐ”と云うのは、つまり“悪しきモノが此方へ来る道を塞ぐ”ということが通説ではあるのだが、ある意味においては導く対象の者に“試練を与える”という説もある。だからボクは最初、この学校の生徒に試練を与え、導く存在として祀られていると思った。」

 

 中禅寺はぐびりと水を飲み、息を整える。「最初」ということは、「今は」そうでは無いと考えているのだろう。

 

「この学校は単なる国立高校では無い。ボクも含めて、様々な家庭事情、性格、能力、志向などを持った人物が集められている、ある意味において実験的な施設であることはキミも認識していることだと思う。そしてその目標は“勝てる人間”を作り出すことだ。」

 

「そうだな。猿田彦の話とどう繋がるのかはわからないが、Aクラス、例えば葛城のように文武高い水準の人間、あるいは須藤のように身体能力に特化した人間、あるいは高円寺や堀北のように能力はあるが人格に問題のある人間、龍園のように狡猾でかつ勝利に貪欲な人間、探せば様々居るだろう。」

 

「キミ自身のことを外したのは意図的なものかい?」

 

「何のことかわからないな。」

 

「――話を戻そう。ボクはこの莫迦げた学校のように『ある思想のもとに、人工的に人間を作り出す実験施設』、そうしたものに心当たりがあるのだよ。」

 

 

 

 

 ――待て。莫迦な。まさか。

 

 

 

 

 ――その先を言うんじゃない。言ってくれるな。

 

 

 

 

「キミ、“魍魎の匣”もしくは“白い部屋”という単語に聞き覚えはあるかね。」

 

 

 

 

 

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