ようこそ百鬼夜行の跋扈する教室へ   作:桜霧島

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ウマ娘の新シナリオしなきゃいけないのでしばらく短編投稿ッス。
10連でシービー引けたのはハーメルンのおかげッス。
しかし社台解禁ってまじッスか…






閑話 百器徒然袋 〜風〜

 

 

▼長谷部波瑠加は観察している

 

 

 

 

 私に向けられる不躾な視線は、男子も女子もまず顔を見て、胸を見て、下半身を見る。最初の二つは順不同。

 これは中学生になった頃から始まったことだけど、未だに慣れることは無いし、慣れたくないとさえ思ってる。

 

 そんな気持ちで迎えたプールの授業。やはりと言うべきか一部の男子が“胸の大きさランキング”などという唾棄すべきモノで盛り上がっていた。

 見学者の列に紛れ辟易としながらふと見廻してみると、数少ない男子の見学者の中に彼――中禅寺夏目くんが居た。入学以来、この時が初めて彼を認識した時だったと思う。

 まるでソシャゲで天井まで回したのに1凸さえ出来なかった人のような仏頂面で、チラリと私の顔に視線を送ったものの、興味なさげに手元の書籍に視線を移し、ぺらり、ぺらりと捲りだした。

 その時の私は「へえ、珍しい人も居るんだな」くらいにしか感じなかったけど、その仏頂面と、ある意味では新鮮な気持ちにさせてくれたことが印象深かった。

 

 

 

 図書室は私のお気に入りスペースだ。特に辞典や謎の法令集がある隅の一角、高校生がまず使用しない棚がある周辺、此処は良い。

 

 もっと言えば、本という存在そのものが良い。此処で本を読んでいると煩わしい人間に話しかけられるリスクが減る。此処での本は私と外界を塞ぐ壁なのだ。

 

 ナッツーと教室や授業以外で出会ったのは四月の終わり頃。その時も陰気なクラスメイトという印象だった――而して今も余り変わらない――けど、そんな彼と偶々図書室で出会った。

 席に座って本を読んでいるフリをした私を一瞥すると、彼は私を恐らく背景か何かの一部と認識していたのか、何も言わずに画集か何かをあさっていた。

 不躾な視線は論外だけど、ここまで興味を持たれないというのも何か負けたような気持ちになり、少しイラッとしたのを覚えている。

 

 

 次に印象深いのが五月一日。ナッツーが平田君や篠原さんに反撃したあの日。

 私としては「よくぞ言ってくれた!」と拍手喝采したいところではあったけど、よくよく小テストの順位を見ると私より遥かに高い順位に彼の名前があったから、何となく裏切られた気持ちになった。

 

 その頃からだろうか、ナッツーのことを何となく目で追うようになったのは。

 

 ただその後も稀に図書室で見かけることはあったけど、未だ仲良くするには距離感が掴めないところがあるし、そもそも彼は終業のベルが鳴るとすぐさま居なくなって何処に居るか分からない。

 そうこうしているうちに中間テストが始まって、須藤君の一件があって、間もなく期末テスト。学力に余裕のない私は何処に居るかも判らない謎のクラスメイトより、自分が生き残るために必死だった。

 

 

 

「――長谷部さん、少しいいだろうか?」

 

 そんな彼から逆に話しかけられるとは思っても居なかった。無人島試験の初日に焚き火――彼が器用に灯したものだけど――の前で呼び止められたのだ。

 

「どうしたのかしら?」

 

「いや、ね、とても言いづらいのだけど、女子には“月のもの”があるだろう?こんな環境下で体調を崩したりする女子が出るかもしれない。特に長谷部さんと仲の良い――というか比較的話すことのできる、佐倉さんやクラスでも声の大きくない女子達は尚更だ。だから彼女らが()()なったら、目を配ってあげてほしいのだけど、良いだろうか。」

 

「――構わないけれど、櫛田さんや軽井沢さんから言ってもらった方が良いんじゃない?」

 

「櫛田さんや軽井沢さんは所謂『クラス内カースト』の高い人達だ。言いづらい女子も多いだろう。彼女達ではダメだというわけじゃないが、自然にこうした気遣いが出来て、何かあったら意見を通すことの出来る人はキミしか居ないと思ってる。」

 

 その時の私の気持ちは、驚き八割、喜び二割といったところだった。まさかクラスでも基本的には沈黙を守る彼が、ともすれば対立しがちな女子に適切な気遣いが出来るなんてという驚き。そして彼が実はこんなにも思い遣りに溢れた人だということを、今のところ私だけが知っているという喜び。しかも私のなけなしの承認欲求を満たしながら。

 

「わかったわ。――ところで、中禅寺君の下の名前は何だったかしら?」

 

「夏目、だがどうした?」

 

「じゃあ私は君を『ナッツー』って呼ぶね。これから宜しく♪」

 

 そう言うとナッツーはとても嫌そうな顔をしたけど、特に反論はなかったから私はそれを承認と捉えることにした。

 その後、佐藤さんや篠原さんにも同じようなことを頼んだことには、少し嫉妬したかな。

 

 

 

 豪華客船の旅も終わり、本格的に夏休みが始まると私は比較的暇を持て余すようになった。

 そんな折、行く宛もなくフラフラと歩いていると、弓道部であり『ぼっち仲間』の三宅明人が前を歩いていた。

 

「あ、みやっち!やっほー!何処に行くの?」

 

「ああ、長谷部か。中禅寺に呼ばれたから神社まで行くんだ。」

 

「ナッツーに?神社?神社ってあの敷地の端っこにある誰も居ない、あの?」

 

「ナッツーって……いや、どうやらあの神社は中禅寺が管理してるらしいぞ。」

 

「へえ〜。じゃあ私も行こっかな♪」

 

「『じゃあ』というのがよくわからんが、俺は構わないぞ。」

 

 

「いらっしゃい、三宅君――と長谷部さん?キミは呼んだおぼえは無いのだけど。」

 

「みやっちと偶々会って、ナッツーと何するか興味あるから来ちゃった♪」

 

 どうやらみやっちは神社の行事式で、ある役目を任せたいから呼ばれたようだ。彼らが話し合っている最中は暇なのでこの社務所の中を観察するが、一言で言えば、とっ散らかっている。人の歩いたり座ったりするスペース以外は(うずたか)く本や図面のようなものが積まれている。

 

「――じゃあ八月の真ん中頃にまた来てくれ。」

 

「わかった。」

 

「おっけー!」

 

 調子に乗って私も返事をすると、まるで「キミに言ったわけじゃない」と胡散臭いモノを見るようなジト目でナッツーに睨まれた。それくらいわかるわよ。でもこんな良い隠れ家、独り占めするなんてずるいじゃない?

 

 

 それから何回か――というよりほぼ一日置きくらいに通うようになった。

 最初のうちは無言が支配する空間だったけど、綾小路君も来ているらしいことを聞き、彼を真似して茶葉やお菓子を持って行くとその内会話してくれるようになった。まあ、無言の時間も心地悪いものでは無かったけど。

 

「――長谷部さんはこんな何も無いところで飽きないのかね?」

 

「何も無いことは無いじゃない。ナッツーも居るし。それより、快適空間作成のために整理して何も無いようにしてあげようか?」

 

「出来れば触らないで欲しいのだが――」

 

 会話をしている内に気づいたのだけど、ナッツーは実は押しに弱い――と言うよりむしろ女の子に甘い?気がする。お姉さんの“教育”が良かったのかしらね。

 まあさすがに捨てるのは怖いから、適当にダンボールとか棚を見繕って、関連しそうなタイトルの本や資料を突っ込んでいく。

 すると十二畳ほどの社務所も中々に見れるものになった。

 

「ふふーん♪一言くらい感謝されてあげても良いわよ!」

 

「ん。」

 

 一言どころではなく一文字の返事だった。でもまあ、この偏屈男が少し柔らかくなった気がするので良しとしよう。

 

 次は何して遊ぼうかな?

 

 

 

 

 

 

 

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▼佐倉愛里は悩んでいる

 

※時系列的には五徳猫の前です

 

 

 

 夏休みになったがオレはと言うと、これまたやることがとんと無い。櫛田や平田、軽井沢など陽の者たちは各々クラス内外の友達と遊んでいるようだが、オレが話すことのできる三バカの内、須藤は部活だし池や山内を誘って遊びに行くのは何か嫌だ。

 堀北は多分部屋で本でも読んでるか勉強でもしているんだろう。態々絡みに行ってチクチクと言われるのを寛容するほど、オレはマゾヒストではない。

 

 本と言えば中禅寺だが、奴も例の社務所に引き籠もっているらしく、パタリと姿を見ない。冷やかしにでも行ってみるかと遅めの朝食兼昼食を食べて外に出ると、日陰のベンチに佐倉がしょんぼりと座っていた。

 

「佐倉じゃないか、どうしたんだ?」

 

「綾小路君……!」

 

「悩み事か?もしかしてまたストーカーでも現れたのか?」

 

「ううん、違うの。――ねえ、綾小路君。綾小路君は幽霊って信じる人?」

 

 幽霊か。なるほどそう来たか。

 

「いいや、オレは見たことも無いしな。」

 

「そうなんだ……。」

 

「佐倉は見たのか?夏だからって無理に怪談話を広げなくてもいいんだぞ。」

 

「私も見たことは無いけど――最近、寮で不思議な現象に合うことが多くて。」

 

「不思議な現象?」

 

「うん。テレビを見ていたらノイズが走ったり、真夜中に金縛りにあったり――ううん、変な話をしてごめんね。多分私の勘違いだから、気にしないで!」

 

 そこまで話をして気にしないでと言うのもどうかと思うが……。落ち込んでいるのか出会った時より更に肩を落としている。

 

「――佐倉、今から時間はあるか?佐倉の悩みを解決するためにも行ってみたいところがあるんだが。」

 

「え!?いや、でも、あの、綾小路君も忙しいんじゃ――」

 

「そうでもないぞ。何より、佐倉のためだからな。」

 

 佐倉は「はうぅぅぅ」と顔を真っ赤にしている。こういう反応がいいんだよな。見ていて微笑ましくなるというか、堀北に絡みに行かなかったオレのナイス判断を褒めざるを得ない。

 

 

 

 

 ということで、困ったときの晴明稲荷神社である。

 

「佐倉は此処は知っていたか?」

 

「うん、何度か写真を撮りに。でも、此処って誰か居るの?」

 

「まあ、それは会ってから。でも、困ったときは御祓いというのは間違ってもいないだろう?」

 

「確かに…。」

 

 そう、“毒を以て毒を制す”という意味では此処、というより奴以上の適任は居ないだろう。どうせ居るだろうし。オレは迷いなく社務所の扉を開ける。

 

「邪魔するぞ。」

 

「お邪魔しまぁす…?」

 

「邪魔するなら帰り給え。」

 

 ちゃぶ台の向こうから中禅寺の声が聞こえる。今日もまたとびっきりの笑顔(仏頂面)で出迎えてくれる素敵(ツンデレ)な奴だ。

 

「残念ながらオレは関西人じゃないからノリツッコミは言わないぞ。」

 

「――最近思ってるのだがね、キミ、段々ボクに遠慮しなくなってきているよな。」

 

「まあ、そうだな。中禅寺だって、その分くらいの茶菓子は食べているだろう?」

 

 オレがそう言うと、中禅寺は心底嫌な顔をして盛大な溜め息を吐いた。

 

「それで、今日はまた珍しい人に連れ添って、一体何だと言うのだね。」

 

「佐倉の悩みを聞いてやってほしい。佐倉、いいか?」

 

「ふぇっ!?あの……私、その、うぅ……帰りますぅ……。」

 

 中禅寺の殺人鬼の視線に今にも戦線を離脱しそうな佐倉に代わり、オレが代わりに説明する。中禅寺はストーカー事件を知らないはずだから、ストーカー事件があったことは教えたものの細かい経緯は四捨五入して説明する。

 ちなみに佐倉、オレの背中に隠れてても良いから、途中で居なくなったりしないでくれよ。この状況で此奴と二人きりにされたら、何を言われるかわかったもんじゃない。

 

「――ストーカー、そして心霊現象ねぇ。長らくこの世界に居るが、ボクには縁のない話だ。御祓いをしてほしいというのなら金(PP)次第でやってもいいが、あまり意味はないよ。」

 

「じゃあ、私の勘違いってこと…?」

 

「そもそもだね、神道では亡くなられた方は皆、神様として祀られる。そうした人々が俗世で何か悪い事をするかと言えば、そうはならんだろう。神様だぞ?あとは浄土真宗なら教義的に念仏を唱えられた時点で成仏だ。キミも聞いたことはあるだろう?『善人なおもって往生す。況んや悪人をや』と。――しかしまあ、怨霊というのなら適切な対応が必要だがね。」

 

「というと?」

 

「日本三大怨霊は知っているかい?即ち菅原道真公、崇徳天皇、平将門公の三柱だが、彼らは元々人間でありながら強い恨み、未練を遺したと言われたが為に神様になり、祀られるようになった。それぞれ(ないがし)ろにしたときの祟りの伝承もあるしね。」

 

「怨霊の、祟りか――」

 

「キミも薄々気づいているだろう?今回の佐倉さんの相談は、つまり死者の残骸が悪さをしていることには違いないのだろうよ。」

 

「あの――それってやっぱり、ゆ、幽霊?」

 

「違う。つまりね、佐倉さん、とりあえずソイツを連れて部屋を見てもらいなさい。多分、テレビかその周りのコンセントか何かに盗聴器のようなものが仕掛けられている可能性が高い。」

 

「――ええ!?」

 

「まあ、もうそのストーカーは居ないみたいだから大した影響は無いだろうし、だから心配は無い。心配があるとすればソイツを部屋に上げても良いか悪いかというところだな。」

 

「ひぅっ!あ、綾小路君を、部屋に――はぅぅぅ///」

 

「すまん、佐倉。そんなに嫌だっただろうか?」

 

「い、嫌じゃないです!」

 

 そんな遣り取りを見ていた中禅寺は不機嫌な顔を三段階くらい引き上げ、ガシガシと頭を掻く。

 

「――金縛りの方は良質の睡眠が取れていないことの証だ。これは半分科学的に解明されている。夏だからとシャワーで済ませずきちんと湯船に浸かったり、寝る前にストレッチや白湯を飲む、或いは枕を変える等で無くなるだろうよ。――もういいだろう?キミ達、直ちに出て行き給え。」

 

「ああ、邪魔したな。佐倉、折角だからお参りでもして帰ろうか。」

 

「うん……!中禅寺君、どうもありがとう。」

 

「謝意はいずれ形のあるもので受け付けるよ。じゃあね。」

 

 佐倉も顔を青くしたり赤くしたり忙しそうではあったが、最終的には会ったときより顔色も良くなった。

 

 そんな彼女を見て、狐と猿の導きで、佐倉にも幸せが訪れるといいな、とオレは呑気に考えていた。

 

 

 

 

 ――ターニングポイントまで、あと一年。

 

 

 

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