ようこそ百鬼夜行の跋扈する教室へ   作:桜霧島

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【邪魅】

鳥山石燕『今昔画図続百鬼』



邪魅は魑魅(ちみ)の類なり


妖邪(ようじゃ)の悪気なるべし



ペーパーシャッフル
邪魅の花 〜宴の準備〜 一


 

 

 

 

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 問――人の本質は善か悪か。

 

 

 

 

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 体育祭は既に終わり、二学期中間テストも無事にオレ達Dクラス、そして学年全体も退学者を出すことなくテストを終えた。

 しかし喜びも束の間、生徒達は次の期末テストでもある特別試験――通称ペーパーシャッフルに備えることとなった。

 

 体育祭の顛末は特筆することはない。堀北がまんまと龍園に敗北しそうになったところへ助け舟を出したくらいだ。Cクラスの真鍋を脅して使ったが、この手はもう使えないだろうな。龍園にバレるのも時間の問題だろう。

 いくつかの撹乱要素は撒いたものの、真鍋との関わり、そして裏切り者であり龍園に通じている櫛田からの情報があれば、堀北の背後にいる『黒幕X』の候補はかなり絞られる。具体的にはオレか、中禅寺だ。

 奴の思考パターンなら『黒幕X』を暴き出すためにオレや中禅寺、或いはその周囲に居る人間を人質にする、或いは暴行するくらいまではやる。

 

 そんな予想もあり、体育祭への関与の仕方には、正直悩んだところもある。悩んだ結果、今までの路線を貫くことにしたのだが、混合リレーでは堀北生徒会長と勝負する羽目になったし、終わった後は同じクラスの佐藤から呼び出され「友達から始めてほしい」とお願いされた。

 ――さて、友達から始まって何で終わるのだろうか。今のところ、佐藤との関係を深めるつもりはない。普通に友達になれればそれで良いと思っているが、彼女は不満かもしれないな。

 

 友達と言えば、オレの数少ない友達である中禅寺は、体育祭の間、それはもう、とびっきりの仏頂面で気配を消していた。見ていて本当に運動が嫌いなんだなと思った。

 とは言いながらも、本番の成績自体は悪くなかったはずだ。特に騎馬戦では鞍上を務め、合気道で培った優れた体幹と反射神経でひらりひらりと相手を躱し、最後まで生き残っていた。

 

 

 

 

 ――そろそろ、オレ自身の身の振り方を考えなければならない時期に来ているのかもしれない。

 

 茶柱の脅しはもはや意味を成さなくなってきている。外からあの男がやって来ようとも、中禅寺や、あの榎木津という男に頼ることができれば、万が一退学することになったとしても何とかなりそうだ――その場合、オレは榎木津の下僕になるのだろうか?

 

 また、今のDクラスがAクラスを目指すために必要なリーダーも、須藤を手懐けることに成功した堀北がその座に就くだろう。櫛田という爆弾はあるし、上位クラスは実力の底を見せていないという不安要素はあるが。

 

 船上特別試験――干支試験――以来、堀北には敗北感を植え付けるように会話、行動してきた。確かに干支試験では辰グループとして多額のPPを得ることが出来たかもしれない。

 だがそれは堀北が考え、行動し、手繰り寄せた成果ではない。あくまで龍園やその他によってコントロールされた結果であることは当人も周りも認識している。

 

 一方で須藤を手懐けることに成功したのは評価出来る項目だろう。クラスのマイナス要因を打ち消すばかりではなく、戦力としてプラスに活用出来るならこれ以上の解決は無い。

 彼女は頭を下げることを覚え、ようやくクラスのリーダーを目指す下準備が出来たのだ。

 

 

 

 ――ということで、オレが居なくても何とか勝負になる土壌は出来つつあるというところ。

 

 なので、ここからオレが取り得る選択肢は、退学することを除けば、

①今のまま堀北やクラスメイトの背後で暗躍してAクラスを目指す。

②そんなことはさておいて全力で普通の青春を目指す。

③実力を出した上でAクラスを目指す。

くらいだろうか。

 

 まあ、友人の勧めでもあるし、オレとしては②を選びたいところだ。①は中禅寺にまたネチネチ言われるだろうし、③は正直、面倒だ。

 

 そんなオレの私生活はと言うと、軽井沢と時折神社で会ったり、電話するなどで交流を継続している。彼女と会話していると、所謂『一般』と呼ばれる水準がわかるし、どうすれば相手が喜ぶのかという感情面からのアプローチも向上する。軽井沢も何だかんだ、ぶつくさ言いながらも付き合ってくれるので、悪い気はしていないのだろう。対外的にはまだ平田との交際は継続中なので、あまり外で会うことはしていないが、軽井沢と平田との関係も見直してもらわなくちゃいけないな。

 

 

 

 とまあ、こんな状況で迎える特別試験だ。

 

 

 

「なあ、堀北。今度の試験、どう見る?」

 

「勝ち筋には気づいているわ。さっきの茶柱先生の説明の中にヒントは揃っていた。」

 

「――へえ。」

 

「平田君たちを呼んで、直ぐにでも作戦会議をしましょう。」

 

「中禅寺は呼ばなくて良いのか?」

 

「彼は――優秀だけど、今回は必要無いわ。クラスの中で役割を与え、全うしてもらうつもりよ。」

 

「わかった。お前の考えに従おう。」

 

 何時になく自信のある様子だ。それほど龍園に屈服しかけたのが悔しかったのだろうか、次こそは負けない、という意志を感じる。場合によっては、今回の試験で櫛田を処分しなければならないだろう。

 

 堀北が自分の殻を破るのには、あと一歩、というところか――。

 

 

 

 

 

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 ――あと一歩。

 

 

 

 

 

 

 あと一歩であの憎たらしい女を辱めることが出来たのに。

 

 私はトイレの個室の中で爪を噛みながら怒りに震える。

 

 龍園も口ほどにない。あれだけ私が情報を与えてやったのに、最後はCクラス内部の裏切り者のせいで頓挫しやがった。

 そもそも、私との約束はあの女の『退学』に協力することであって、屈服させることは副次的要素だ。改めて約束を履行するよう求めなくてはならない。

 

 Dクラスの掌握については、幾つかの懸念事項がある。堀北と綾小路は絶許リストの殿堂入りだが、その他にも高円寺や気持ち悪い視線を送ってくる山内、池――それから得体の知れない中禅寺などがいる。

 

 中禅寺へは4月から声を掛けようとしていたが、放課後は直ぐに居なくなるし、休み時間などは私が忙しい。休日はといえば、この狭い敷地の中なのに会ったことすら無い。唯一の機会が無人島試験だったのだが、こちらから話しかけても「ああ」とか「うん」とか、一言の返事がほとんどだ。その後の客船の中でも見掛けなかったし、コミュニケーションが取れなければ私としてはどうしようも無いし、不安しかない。

 

 ――そう言えば長谷部波瑠加が中禅寺のことを『ナッツー』と呼んでいた。

 あの男嫌い、群れ嫌いがニックネームで呼ぶということは、ある程度信頼できる人物、なのだろうか……?

 

 少しだけ気持ちが落ち着いてきたのか、思いを走らせる。

 

 ――彼はどういった秘密を抱える人なんだろう。

 

 今までの人生で、これ程自分に興味を持たれなかったことは少ない。それは腹立たしいことでもあるが、一方でそうした人間の特異性、そういったものにも興味はある。

 

 この学校でもそうだが、今まで関わってきた人の多くは、私が被る善人のマスクを見ると警戒心を解き、様々な秘密の捌け口に私を使ってきた。だけど私が欲しいのはそんなものじゃない。ただ自身への称賛が欲しいだけなのだ。だが、副産物として集まってくるそれらは、私の身を守る盾であり、攻撃する矛になる。

 

 15年も生きていると、人は自分の“ランク”に何となく気づき出す。

 確かに私は人並み以上に勉強を頑張っているし、運動もできる。容姿だってそれなり以上に高い。

 

 でも、本当の一流には敵わない。

 

 この学校の女子で言えば、人望容姿は一之瀬帆波に劣り、知能は坂柳有栖に劣り、運動はクソムカつく堀北鈴音に劣る。

 そんな永遠の1.5流。それが今の私。

 だからこそ、他人の秘密という矛と盾を集めることで、そうした一流と勝負が出来るようになる。

 

 中禅寺夏目はどうだろうか。

 

 酷い目付きをしているものの、容姿は悪くない。むしろ良い。勉強は私よりも出来る。運動も好んではいないが、体育祭の様子を見る限り不得手というわけでは無いようだ。無人島では須藤を鎮圧していたし、暴力沙汰にも抵抗は少ない。一方でコミュニケーション能力は壊滅的。一部を除いて学内で誰かと話しているところは殆ど見ていない。

 

 

 

 ――何これ、男版の堀北じゃないの。

 

 

 

 あーやだやだ。そう考えると一気に嫌悪感が湧いてきた。どうせ自分の実力に胡座をかいて他人を見下しているに違いない。

 もし本当にそういう奴なら綾小路と堀北を潰すついでに――ぶっ潰してやってもいい。

 

 私は、私を認めない人間を、認めない。

 

 私を見下ろすことが出来るのは、私だけなのだ。

 

 

 

 

 

 さて、気分転換も終えたところで堀北の邪魔でもしに行きますか。

 校舎の階段を降りていくと、丁度堀北や綾小路、平田らが作戦会議をしようとしていたところだった。

 

 この試験でやるべきことは簡単だ。相手――おそらくCクラスになるだろうが――への問題をすり替える、或いは解答を予め手に入れることで堀北は簡単に負けるだろう。私は相手から問題を手に入れ、高得点を狙う。

 

 うん、サシウマを付けてもいいかもしれない。堀北の退学を条件に勝負でもしてやろうか。無様に泣き叫びながら退学する様子を見れば、取引相手(龍園)だって愉しんでもらえるだろう。

 

 

「あの!私も参加してもいいかな?――それとも、迷惑、かな?」

 

「僕はいいと思うよ!櫛田さんはクラスのこと、よく理解してるしね。」

 

「――もちろんよ、櫛田さん。遅かれ早かれ、貴女には声をかけるつもりだったから。」

 

 ふん、取り繕うのは上手いじゃない。微塵もそんな風に考えてなかったくせに。どうせ私がテストを横流しするとでも思ってるんでしょ?正解よ。

 まあいいわ。だとしてもコチラにとっては好都合というもの。せいぜい利用させてもらうわ。

 

 

 

 その後、喫茶《パレット》にて堀北からペア分けの作戦が説明され、予想通りCクラスを相手取ることも決まった。

 また、小テストの結果、私は池とペアを組むことになった。三バカの中ではまだマシな方で助かったといえば助かったが、これで自由に動ける時間は少なくなってしまった。

 

 中禅寺は――外村とペア、ね。確か船上試験でも同じグループだったはず。クラスの足を引っ張ることは無いだろう。

 綾小路は佐藤とペアだが、こいつも最近様子がおかしい。体育祭で惚れたか?確かに足は速かったけど、足が速い男子に惚れるとか小学生か。

 

 

 Dクラスは平田、堀北、そして私が講師役となり、勉強の苦手な生徒の勉強会をすることになった。

 私の時間を削られる分、彼ら彼女らには存分に恩を売るとしよう。これもまた、自身の身を守る術だ。

 

 

 

 

 






投稿先間違えちゃった。テヘペロでござんす。




幸村の霊圧が消えた…!?





3/2 日間ランキング15位…!?

思わず3度見くらいしました。

閲覧、お気に入り登録、誠にありがとうございます。恐縮する限りです。マジでビビってます。

また、いつも感想やここすきを頂く皆様、ありがとうございます。励みになっています。
ご期待に添えれるよう、文章力、構成力の向上に努めます。
今後とも宜しくお願いします。



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