ようこそ百鬼夜行の跋扈する教室へ   作:桜霧島

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邪魅の花 〜宴の準備〜 二

 

 

 

「あ、きよぽん。」

 

「誰がきよぽんだ。」

 

 クラスでの勉強会が通知されると、オレは長谷部と三宅に声をかけられた。

 

 夏休みの招き猫事件以来、この二人とはしばしば晴明稲荷神社(あそこ)で顔を合わせる仲になった。秋分のときの行事も一緒に手伝ったりしたが、その時も『とある事件』に巻き込まれることになった。まあ、そのことは割愛するが、少なくとも知り合い以上の関係にはなれていると思う。

 

「綾小路、オレと長谷部がペアになったんだが、お互い得意不得意教科が被っていて困っている。平田や堀北の勉強会に参加しても良いが、あっちも人数が多いからな……。」

 

 確かに悩むのもわかる。この二人は中の下〜中の中位の学力だ。他の問題児たちに比べると放置されやすいだろう。かと言って万が一が無いわけでは無い。

 

「教師役の心当たりはあるが――中禅寺に頼むか。」

 

「きよぽん、それナイスアイディア!」

 

「――なら私と平田君からの要請でもある、と伝えておいてくれるかしら。」

 

 堀北がヨコから口を挟む。

 

「そろそろ、彼にもクラスの一員として働いてもらわなければいけないわ。」

 

「しかし提案しておいて言うのも何だが、そう簡単に首を縦に振るだろうか。」

 

「長谷部さんと三宅君なら大丈夫じゃないかしら。池君や山内君だと、難しいかもしれないけど。それでも頑ななようなら、私が行って交渉するわ。」

 

「わかった。まだそんなに遠くには居ないはずだ。パレットにでも呼び出すか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――というわけで、中禅寺、勉強を教えてほしいんだ。頼む。」

 

「お願い、ナッツー。」

 

「――まあ、キミ達なら良かろう。ボクも神社の業務をしなくちゃいけないから、毎日とはいかないが……。」

 

 アイスティーをストレートで飲みながら、意外にも二つ返事で承ける中禅寺にオレも口を出す。

 

「助かる、中禅寺。オレも出来る限りサポートする。」

 

「随分と殊勝じゃないか。どんな風の吹き回しだ。」

 

「体育祭以来、クラスの雰囲気が良い。ここらでクラスポイントを積み上げて、Cクラスとの差を埋めたい。」

 

「きよぽん、意外と野心家ね。何か心境の変化でもあったの?」

 

「いや、特に何かあったというわけじゃないんだが……。」

 

「まあ良いだろう。――だが二つ条件がある。まず一つ、確かキミは佐藤さんとペアだったな。どうするつもりだ?」

 

「佐藤が勉強を見て欲しいというのなら、このチームの活動が無い日にやる。中禅寺もハカセとペアだろう?」

 

「そうだな。まあ、上手くやりたまえ。連れて来ないなら問題はない。」

 

「すまないな、綾小路、中禅寺。」

 

「いいんだ、三宅君。ボクは兎も角、此奴はちょっとくらい苦労させたほうが良いんだ。」

 

「おい。」

 

「それから二つ目、キミ達には『御火焚祭』の手伝いをしてもらいたい。」

 

「おひたきさい?」と長谷部が聞き返す。

 

「『御火焚祭』とは旧暦の11月18日に主に京都の神社で秋の収穫、五穀豊穣に感謝するためにする祭りだ。厄除け、家内安全、商売繁盛などのために社前に井桁に組んだ護摩木を火床に入れて焚き上げる。」

 

「こないだ俺がやったような、弓を使うのか?」

 

「いや、そこまでじゃない。だが大きめの火を使うから、もしものための消火要因として何人か確保しなくちゃいけないんだ。」

 

「いつやるんだ?」

 

「期末テストが終わった週の土曜にしようと思っている。まあ、何もなければ楽しんで行ってくれ。見学は自由だから誰か誘っても良いぞ。」

 

「いいわねえ。私、キャンプファイヤーの動画見るのとか好きなの。」

 

「さて、そろそろ勉強に取り掛かるとしよう――」

 

 長谷部と三宅の小テストの結果やノートを見せてもらうと、見事に間違いの傾向が一致している。仲良しか、こいつらは。

 だがこの分なら手間も増えなくて有り難い。今日のところは方針だけ共有しておいて、オレは堀北に試験の裏ルールを確認させるとしようか。

 

 そう言えば、もうすぐオレの誕生日だな。まあ、誰かに祝ってもらったことなど無いが、もしこのメンバーで集まれるのなら――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、オレに特別試験の勝ち筋は教えてくれないのか、堀北?」

 

「どこで誰が聞いているかわからないわ。特に、身内にスパイが居るとわかっている状況ではね。」

 

「そうか。なら、どの程度の問題まで出すことができるのか、確認はしておくべきだろう。授業ではやってないが、今までの授業で習った範囲の解法で解けるとか、授業で習った範囲だが、解法は高校生レベルを超えている、とか。」

 

「確かにその通りね。やっておくわ。」

 

「ところで、相手に出す試験問題の作成は誰がやっているんだ?」

 

「私と、平田君よ。進行状況はあなたにも共有するわ。」

 

「櫛田は関わっていないんだな。」

 

「ええ。情報は可能な限り封鎖しているけど――それだけじゃ解決しないんでしょうね。私なりに、対策は考えているわ。」

 

「そうか。」

 

「あと、お願いがあるのだけれど――中禅寺君の勉強会が休みの日、こっちの勉強会にも来てほしいの。正直、手が足りなくて困っているわ。あなたのペアの佐藤さんもいるし、どうかしら。」

 

「佐藤か。今のグループの方が居心地が良いからあまり気乗りはしないが、しょうがないな。」

 

「――貴方もだいぶ丸くなったわね。いえ、人間らしくなったというか。」

 

 どの口が言うんだというツッコミ待ちなのだろうか。でもまあ、自覚はある。タイミングをはかる必要はあるが、今の堀北になら、オレの過去を明かしても良いかもしれないな。

 

「中禅寺のせいだな。この半年、アイツに色々とパシらされているうちに、こうなってしまった。だが堀北もコンパスを握りしめていた時から比べると、かなり丸くなったと思うぞ。」

 

「そう――。ありがとう、と言っておくわ。でも今、私達が戦わなければならないのは、櫛田さんね。」

 

 同じ中学だった堀北もよく知らない櫛田の過去。オレ以上に隠さなくてはいけない過去など、正直、法に触れるもの以外は大したことは無いと思うのだが、櫛田にとっては何よりも重要なんだろう。

 

「もし私がこの学校に居なければ、きっと彼女はこんな愚かなことをせずとも、Dクラスの皆から頼られ、信頼される人間として過ごしたでしょう。そういう意味では、私の存在が彼女の可能性を摘み取ってしまったと言える。――もちろん、私自身には何の否も無いわ。でも、無関係でも無い。」

 

「どうするつもりだ?」

 

「私なりに対処するわ。」

 

「――中禅寺に相談してみたらどうだ?こういう時こそ『憑き物落とし』の出番だろう。堀北と櫛田から過去の因縁を祓ってもらう。」

 

「――それも一つの手段ね。でも私は今回、自身の退学を賭けてでも真正面から彼女に向き合ってみるつもり。それでもダメなら、彼に頭を下げるわ。」

 

「甘いな。有無を言わさず櫛田を退学に追い込むことだって出来るだろうに。けど、嫌いじゃ無い。骨くらいは拾ってやろう。」

 

「はぁ……。あなたも協力するのよ。」

 

 大きなため息と共に堀北が言う。ため息を吐きたいのはこちらの方だ。いざとなったら、オレの進退も賭ける必要があるかもしれないな。

 けど、其処までして守りたい秘密とは何だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 勉強会が終わると、私は堀北に呼び出された。おそらくはテストを利用して勝負をしようというところか。

 

「待たせてすまないわ、櫛田さん。」

 

「どうしたの?綾小路君と作戦会議でもしていたのかな?」

 

「腹の探り合いはもういいわ。あなたは、同じ中学の出身であり、あなたの過去を知る私を退学させたいと思っている。そうよね?」

 

「うん♪同じ中学で同じ学年――私は、あの事件を知っている堀北さんに、この学校から居なくなって欲しいって思ってるよ♪」

 

「私が知る情報は断片的なもので、実際に何があったのかは噂程度しか知り得ていないわ。」

 

「でもそれは堀北さんの自己申告であって、保証はないよね。可能性が少しでもある限り、私はあなたを排除するわ。」

 

「そう――なら、今度の試験で賭けをしましょう、櫛田さん。私が負ければ、自主退学する。私が勝てば、あなたが私を妨害することを諦めてもらうわ。」

 

「でも、単純に総合点の勝負とかなら、私は堀北さんに勝てないんじゃないかなぁ?今までのテストでも勝ったことはないし。」

 

「なら一科目だけ。期末テスト八教科であなたが得意とする一科目だけ、それでも構わないわ。不満はある?」

 

「それって唯の口約束になるんじゃないかなぁ。負けた方は知らんぷりすれば良いんだし。」

 

「心配の必要は無いわ。」

 

 一々と憎々しい。が、どうしてここまで冷静で腹を括って居られるのだろうか。まるで私がこの賭けに乗るのを確信しているかのように。

 しかしそんなことを考えた矢先、予想出来ない闖入者が現れた。

 

「――では、俺が証人となろう。」

 

「堀北、生徒会長――」

 

 そういうことか!自らの弱点ともなろう兄を、既に巻き込む覚悟をしてきてから私と相対しているのか、この女は!

 ――クソが!精神面では完全に優位を取られている。

 

「久しぶりだな、櫛田。」

 

「私のこと、覚えていたんですね……。」

 

「一度見た人の顔は忘れない。」

 

「この学校で私が最も信用できる人――そして、あなたもある程度信用できる人ではないかしら。」

 

「堀北先輩は私達の事情を?」

 

「興味は無い。俺はただ、証人として呼ばれたに過ぎない。たとえその結果、妹が退学することになったとしても、妹が持ち掛けた勝負なんだろう。俺が口を挟むことではない。」

 

 チッ……逃げ道を最初から封じてきたか、このシスコンとブラコンめ。なら、こちらも腹を括るしかない、か。

 

「堀北さん、本気なんだね――良いよ、その勝負、乗ってあげる。希望科目は数学、同点の場合は無効、かな。」

 

「成立だな。もしどちらかが約束を違えた場合、容赦はしない。覚悟しておけ。」

 

 そう言うと堀北先輩は去っていった。

 一時は危ないかと思ったが、私には外部の協力者も居る。負けにしないことは出来るはずだ。

 

 

 

 そして何より、この勝負の条件には()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 堀北は気付いていないようだが、堀北先輩は気付いているだろうな。元々、私にはメリットしかない勝負だ。

 さて、そろそろこの茶番も終わらせようか。

 

「期末テスト、楽しみだね。」

 

「お互い、全力を尽くしましょう。」

 

「綾小路君も宜しくね♪私だって間抜けじゃないから。どうせそのポケットにしまってある携帯を通話にしているんでしょ?直接会って話をしない?」

 

 アイツも勝負に巻き込んで退学にしてやるか――。

 

 







 閲覧ありがとうございます。おかげ様でお気に入り登録が1000を超えそうです。チビリそうです。

 元はと言えばクズヒモ君とか雑魚君とか孔明君とかお利口ゴリラ君とか、その他よう実二次創作界隈の偉大なる先駆者様達に影響されて、何の気も無しに始めたモノですが、非才の身で此処まで続けられているのも読者の皆様の温かいご支援のお陰です。心から感謝します。
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