ようこそ百鬼夜行の跋扈する教室へ   作:桜霧島

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邪魅の花 〜宴の準備〜 五

 

 

 

 ――しゃらん。

 

 

 幾重にも重なった鈴の音が和音となり鼓膜を揺らす。

 

 

 ――しゃらん。

 

 

 ああ、音と云うのは斯様にも美しいのだ。

 

 

 ――しゃらん。

 

 

 黒衣の男が祈りと祝詞(うた)を捧げる。

 

 

 ――しゃらん。

 

 

 観客が巫女を崇め、奉る。それはこの学校で最も優れた男だと言われる人物も例外ではない。

 

 

 ――しゃらん。

 

 

 紅々(あかあか)と燃え上がる焔が、その(いろ)を映したかのような袴を身に纏った巫女を美しく飾り立てる。

 

 

 ――しゃらん。

 

 

 栗色の髪をした美しい巫女が舞を捧げる。善も悪も火に熔けていく。

 

 

 ――しゃらん。

 

 

 真剣な面持ちをした彼女の胸の内は笑っているのだろうか。それとも嗤っているのだろうか。

 

 

 ――しゃらん。

 

 

 ――しゃらん。

 

 

 ――しゃらん。

 

 

 

 ああ、オレはこの巫女が酷く羨ましく見えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

――

―――

――――

―――――

――――――

―――――――

――――――

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てのテストが終わった後、オレは櫛田を晴明稲荷神社へ呼び出した。答え合わせと、中禅寺に呼び出すよう指示されたからだ。

 深夜の神社で男女三人、何も起きないはずは無く――いや、五徳()が居るな。視界の端で水を飲みながら寛いでいる。

 三人と一匹、不思議な空間になった。

 

 

「――それで、改めて私を呼び出して綾小路君はどうしたいのかな? 賭けは貴方達の勝ち。私は今後、堀北さんの邪魔をすることは無いよ?」

 

「『堀北の』は、な。オレやその他のクラスメイトについては言及されていない。」

 

「あは、気づいてたんだぁ♪」

 

 小聡(あざと)さと不気味さを伴わせた奇妙な笑顔で櫛田は感心した様子を見せる。

 

「堀北さんは気づいていなかったみたいだけど――でも、気づいたところでどうしようもないよ?」

 

「そうだな。だが、誰がカンニングペーパーを仕込んだと思ってるんだ?」

 

「まさか……お前がッ……!」

 

「万が一堀北が、Dクラスが敗北しそうになったことを想定して手を打っただけだ。まさかお前は相手を退学させようとしているのに、自分が退学にさせられることを想定していないのか? よく言うのだろう?『撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ』と。」

 

 池が格好つけて言っていたアニメか何かのセリフを引用して櫛田に告げる。

 櫛田は悔しそうな目つきでオレを睨みつけているが、その時、ジャリ、という音を立てて黒衣の着流しに身を包んだ男――中禅寺が木箱を抱えて姿を表した。

 

「――キミがね、負けることは分かっていたのだよ。」

 

「中禅寺、くん……?」

 

「あのねぇ、櫛田さん。アイツも気に入らない、コイツも気に入らないで退学にできるほど、世の中は甘くないのだよ。よく言うだろう――『人を呪わば穴二つ』と。」

 

「どうして君がここにいるのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世にはね、不思議なことなど何一つ無いのだよ――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不思議なことなど……無い……?」

 

「とりあえずキミを祓ってやろうというんだ。」

 

「祓う――」

 

「聞こえなかったか?ボクが、キミを、あの愛想無しに()てるようにしてやる、と言ったんだ。」

 

 ちょっと待て。お前はそんなことは言っていないし、オレはそんな話、聞いてないぞ。

 

「ところで櫛田さん、陰陽五行という考え方は知っているかな?」

 

「五行――火とか水とかっていう?」

 

「そうだ、全ての元素は火水木金土から出来ているというものだ。その中に『相剋(そうこく)』という相性がある。木剋土、土剋水、水剋火、火剋金、そして金剋木。木は土を耕し、土は水を吸い取り、水は火を弱め、火は金を熔かし、金は木を刈る。」

 

 また訳の分からない話をしている。オレはこの半年で学んだ。この状況で口を挟んだところで無駄だということを。

 

「つまりは五行において『桔梗()』は『()』に剋てないし、何か別のアプローチが必要になる。」

 

「それは何の科学的根拠も無いし、今回の件と何の関係も無い――とは言い切れないのかな? 私はどちらかというと具体的な解決策が欲しいんだけど?」

 

 櫛田は夏目に疑問を呈しようとしているが、この場を去らない時点で既に夏目の術中に陥っている。彼女は夏目の呪に嵌りつつある。

 

「これ以上無く具体的な解決策だと思うがね。――まあこれを見なさい。」

 

 抱えていた木箱を下に置き、蓋を開けると、そこには巫女装束のようなモノが収められていた。

 

「まさか中禅寺くん……そんな趣味があったなんて……。」

 

「おい、キミ。何か勘違いしていないか。」

 

 櫛田はドン引きかと思ったが、意外にも興味深そうに巫女装束を眺めている。

 

「――これを着けて、週末に開く御火焚祭に出て欲しい。」

 

「おひたきさい? 私が? 巫女に?」

 

「そうだ。特に難しいことは無い。鈴を渡すから適当に鳴らして歩けば良いんだ。」

 

「神社の儀式ってそんなものなの?」

 

「あくまで火を燃やすことが主だからな。」

 

 そう言えば夏目が手伝って欲しいと言っていた行事があったな。オレたちは消火役で呼ばれたが、櫛田はメインヒロインじゃないか。

 数時間前までオレと龍園の手のひらで踊っていた彼女からすれば大出世だ。

 

「火を燃やすことが堀北さんに勝てるようになることと関係が?」

 

「もちろんあるとも。木生火、火剋金、即ちキミが火を操ることで、金剋木の関係を裏返そうということだ。陰陽的には。」

 

「その他の意味としては?」

 

「――想像してみたまえ。御火焚祭には一部のクラスメイト、生徒会役員も呼ぶ。その中で、この衣装を身に着けることが出来るのはキミだけだ。そして主役の一人として男も女も、同級生も上級生も、一心に祈りと羨望をキミに捧げる――どうだ、興奮するだろう?」

 

 櫛田は戸惑いながらも満更ではない顔をしている。確かに、この承認欲求の塊からすれば、この学校で主役を張れる数少ない機会を逃す理由は少ないだろう。

 というか、五行だの何だのというのは建前で、夏目としてはこの機会にガス抜きをしておこう、といったところだろう。つくづく人をよく見ている奴だ。その悪の組織の幹部のような笑みがとてもよく似合っている。

 これが青春なのかは甚だ疑問ではあるが。

 

「――いいよ、やってあげる。」

 

 真っ赤に淫蕩()けた顔の余韻を残しながら、櫛田は視線を衣装から夏目へと切り替える。

 

「でもフェアじゃないよね? 確かに堀北さんと綾小路くんは賭けに勝ったけど、中禅寺くんは何もベットしていないよね? どこからか聞きつけた私の裏の顔で脅すなんてこと、まさかしないよね?」

 

「そう言うだろうと思って、準備はしてある。ほら、契約書だ。」

 

「えぇと……『雇用契約書』?」

 

 なるほどな。秘密保持契約を兼ねた雇用契約書でお互いを縛ろうということか。

 

「無論、タダ働きはさせないし、君の欲求を二重に満たすことができる。もちろん、雇い主は従業員を守るだろう上に、この施設は名目上、生徒会の管理施設だ。公平さは担保できると思うがね?」

 

「……月に15,000PPかぁ。もう一声!」

 

 欲をかくと失敗すると学ばなかったのか?

 ほら、神主様が仏頂面のレベルを一つ上げたぞ。

 

「――といっても、予算の兼ね合いでこれ以上ボクはキミに提示できるものは無い。」

 

「う〜ん……じゃあ貸一つということで!」

 

「まあ、貸しは嫌だから予算が余ったらボーナスでも考えてあげよう。キミの集客力次第だ。」

 

 矢張り夏目は女子に弱いな。オレは気になることがあるので問い掛けてみる。

 

「そんなに櫛田が必要な行事があるのか?」

 

「ああ、キミは世間知らずだからわからないのだろうな。さ、とりあえず櫛田さんはここにサインを。」

 

 何をぅ?

 

「――年末は『師走』というだろう? 特に年始にかけては初詣客から賽銭を巻き上げるのに忙しいんだ。」

 

 身も蓋も無いことを言っている。

 

「――ハッ!? まさか私、お正月のスケジュールがこれで埋まってしまった……!?」

 

「残念だったな。既にサインは終えた後だ。まあ、キミの頑張り次第で臨時収入もあるし、それなりに顔も売れるだろうし、労力に見合った報酬は約束できると思うよ。櫛田さんが巫女をやってくれるというのなら、これ以上のことは無い。」

 

「へぇあ!? わ、私は、その、中禅寺くんのこと、まだよく知らないし……」

 

「何か意味深だな。」

 

「――はぁ。何か勘違いしているのか知らんが、この紋様は何だ、あや……清隆。」

 

「五芒星か?」

 

「そうだ。晴明神社にはこの紋様が代々受け継がれているが、この陰陽五行を表す五芒星には別の呼び方もある。」

 

「それは?」

 

 

 

 

「―――晴明『桔梗』さ。」

 

 

 

 

「「ダジャレじゃない!」」

 

 

 

 

「ダジャレじゃない。呪と言いなさい。」

 

「はぁー。とんだ一日だったわ。賭けには負けるし、退学させられそうになるし、巫女にはなるし、挙句の果てにはダジャレに付き合わされるし。」

 

「半分以上、自業自得だな。」

 

 オレが呟くとムッとした顔で櫛田が頬を膨らませる。あざといな、さすが櫛田、あざとい。

 

「まぁ、今日も遅いからここらで解散しよう。じゃあキミたち、土曜日はヨロシク。」

 

「はーい」「わかった」

 

 にゃぁお

 

「……五徳も腹が減ったと言っているな。櫛田さん、餌をあげてみるかね?」

 

「えっ!? いいの!? やる!」

 

「キミにもこの神社に慣れてもらわなければならないかならね。何なら五徳に猫の被り方を教えてもらいなさい。」

 

「余計なお世話よ!」

 

 

 黒櫛田もようやく裏に引っ込んだようだ。暫くは大人しくしているだろう。

 

 夏目は『晴明桔梗』と掛けて櫛田を縛ろうとしたが、オレはもう一つ意味があるのではないかと先のやり取りで気づいた。

 

 

 

 桔梗(明智光秀)(豊臣秀吉)に調伏される。

 

 

 

 この神社に縛られている限り、櫛田は裏切れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

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 御火焚祭は無事に終了した。中禅寺曰く、本来は三基ほどの火を焚くそうだが、境内が狭いせいで一つしか設置出来ないとボヤいていた。

 今日もまた、オレは晴明稲荷神社の社務所で五徳にキャットフードを貢ぎながら、夏目と駄弁っている。

 

 

「―――それで、櫛田の憑き物落としは終わったのか?」

 

「終わったと言えば終わったし、終わっていないと言えば終わっていない。対処療法のようなものだ。根っこの部分を何とかしないと、また憑かれるかもな。」

 

「根っこ――龍園、か?」

 

「いや、アレは前も言っていた通り、蜃の類だろう。ありもしない(まやか)しに踊っているのは、本人か、周囲か、どちらなのだろうな。」

 

「すると、櫛田についているのは何だ?」

 

「名前をつけるなら――『邪魅』だな。鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』では『邪魅は魑魅の類なり 妖邪の悪気なるべし』と解説されている。元々は中国の妖怪だが、山に溜まった『悪い気』に名前を付けたものだ。」

 

「『悪い気』を何とかしない限り再発する、か。」

 

「ああ。そしてこいつの厄介なのはもう一つある。」

 

「何だ。」

 

「――()()()んだ。」

 

 中国原産の妖怪で伝染る……何かの感染症みたいだな。

 

「櫛田は誰に伝染されたんだろうな。」

 

「さあ? 彼女と同じ中学で悪意を持った人間が居たとすれば、さもあらんだろうが、同じクラスではなさそうだ。何せ崩壊したんだからな。」

 

「まあ、悪意なんてこの学校には腐るほどある。」

 

「うん、だから学校自体に取り憑いて居るんじゃないか。これを祓うには、まあ、今のボクじゃあ無理だね。エノさんあたりを引っ張ってきて善いも悪いもゴチャゴチャにして、何とかなるレベルだと思うよ。」

 

 

 

 あの男のかけた呪は、一体何処まで根を拡げているのだろうか。

 





投稿遅くなってすみません。
短めですがキリのいいとこで、生存報告として投稿します。


閲覧ありがとうございます。
評価、感想お待ちしております。


あとアンケートやってます。


一年生編の冬休みって特にイベント無いッすよね?オリジナル挟んでも大丈夫っすよね?



番外編、誰に取り憑かれて欲しいですか?

  • 堀北鈴音
  • 櫛田桔梗
  • 軽井沢恵
  • 長谷部波瑠加
  • 佐倉愛里
  • 坂柳有栖
  • 神室真澄
  • 一之瀬帆波
  • 伊吹澪
  • 椎名ひより
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