ようこそ百鬼夜行の跋扈する教室へ   作:桜霧島

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▼文車妖妃
鳥山石燕『百器徒然袋』


歌に、古しへの文見し人のたまなれや

おもへばあかぬ白魚となりけり

かしこき聖のふみに心をとめしさへかくのごとし

ましてや執着のおもひをこめし千束の玉章には、

かゝるあやしきかたちをもあらはしぬべしと、

夢の中におもひぬ




再会と決着
文車妖妃の宴 一


 

 

 

第一条

ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

 

第二条

ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

 

第三条

ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

 

 

――アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』

 

 

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「何を診ているのですか?」

 

「――答えは一つなどではないことはわかりきっているのに、答えを出さなければ仕事(カネ)にならないとは、当に書籍に対する冒涜ではないかとボクは思うのだが、キミはどう思う?」

 

 疑問を呈した筈なのに、少し間を開け疑問として返答される。

 ですが私は何故かそれがあまり不快に感じませんでした。

 

「――つまり、そのシリーズの順番が気に食わない、と?」

 

「そうだね。時系列順というのは効率主義の最たる例で、つまり文学への愚かな挑戦と言えるだろう。」

 

「『あいうえお順』よりは幾分かまし、というものでは。」

 

 ここの図書室の司書に対し思ってもいない弁護を述べる。ここの司書は『最善』ではなく『間違いではない』ことに重きを置いており、実際、推理小説が恋愛小説の棚に並べられていたこともあります。しかし、それも明確な『間違い』ではありません。

 

「高度ではないロボットが司書を務めるのならまだしも、それで職を得ている以上はそれ以上を期待したいところだね。」

 

「――なるほど。さすが()()()()がお認めになるほどの見識(偏屈)ですね、中禅寺君。」

 

「――何となく想像はつくが、一応聞いておこう。どうしてボクの名前を?」

 

 私と同じく、生まれながらにしての天才。頭脳明晰、容姿端麗、腕力最強、そして不可思議な眼力―――そんなあの御方が気に掛ける存在である彼、中禅寺夏目君は果たして私の玩具になってくれるのでしょうか。そんな期待がつい私の口を軽くしてしまいます。

 

「あの御方のパーティーで見かけた顔がいらしたので、つい声を掛けてしまいました。後は、先日の夏休みに……。」

 

「ふむ、すると、キミが『とある学校の理事長の娘』である坂柳さんということだね。夏休みの件は、ボクも被害に遭った側だからお悔やみを申し上げるよ。」

 

「ふふっ。ええ、その通りですわ。」

 

 あの御方は社交界で『傍若無人』『鬼才/奇才』『変人』など巷の噂に上がるような方ですが、少なくとも私の前では非常に紳士的であり『天才』というのに相応しい―――っと、つい思考が彼方此方に飛びそうになりますが、聞きたかった質問をしてみましょう。

 

「中禅寺君は、『天才』と呼ばれる人についてどう考えますか?」

 

()()()()()()()()。」

 

 彼は間髪置かず即答する。どうやらこの手の質問はされ慣れているのか、普段から考えているのか、恐らくは後者でしょうが―――興味が深まります。

 

「これは異なことを仰いますね。貴方もあの方のことはよくご存知では? ――そして、同じクラスのご友人のことも。」

 

「――キミが何を望んでいるかは知らないが、一つだけ言っておこう。」

 

「何でしょう?」

 

「『現状のみではなく将来の事情を考慮に入れなくては賢明な決定はできない。』」

 

「アイザック・アシモフですね。一体それが何を?」

 

「『天才』という言葉は唯の幻想、まやかしに過ぎない。『呪』とも言って差し支えない。即ち人は()()()()()()()ではなく、()()()()()()によって語られるべきものだよ。」

 

「では、私も貴方がたが何を為すかで愉悦(たの)しませて頂きましょう。 ――中禅寺君は、この私から何を落としてくださるのでしょうか?」

 

 返事を聞くことなく、待たせていた真澄さんを伴って図書室を出る。

 

 興味深い観察対象がこの狭い学校(箱庭)で二人もいるなんて―――

 

 

 

 

 

 

 ―――なんと私は恵まれているのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ハッピーバースデートゥーユー♪

 

ハッピーバースデートゥーユー♪

 

ハッピーバースデーディア愛里と清隆と夏目と波瑠加ー♪

 

ハッピーバースデートゥーユー♪

 

 

 テーブルに据え付けられたホールケーキに向かって「それ!」という掛け声に従い息を吹きかける。

 

 感動だ。知識として知ってはいたが、まさか自分がすることになるとは……。

 

 

 

 ことの始まりは試験勉強中、波瑠加が言った、何気ない一言だ。

 

「はぁー疲れた……。もうすぐ誕生日だってのにやってらんないわぁ……。」

 

 明人が「最後まで集中しろ」と(たしな)めるも、苦手な覚えモノ系の勉強に疲れ切ってしまったようだ。

 

「――きよぽんは誕生日いつなの?」

 

「誰がきよぽんだ。……先週、終わったところだ。10月20日。長谷部はいつなんだ?」

 

「は、る、か!」

 

 つい癖で名字で呼んでしまったが、訂正させられる。

 

「――波瑠加はいつなんだ?」

 

「11月5日よ。――あれ、愛里も割ときよぽんと近いんじゃない?」

 

「わ、私は、10月15日、です。ぐ、偶然ですね!」

 

 若干つっかえながらもオドオドと佐倉が返答する。

 本来なら彼女がこちらの勉強会に出席するのは筋違いだというものだが、あちらでの勉強会が無い日はこうしてこちらに参加することもあった。

 

「じゃあ試験とか諸々が終わったら合同誕生日パーティーでもしましょうか♪」

 

「夏目はいつなんだ?」

 

「――10月30日だ。」

 

「明日じゃないか。」

 

 これは驚いた。このグループは三宅明人以外、三週間の間に誕生日が固まっている。

 ……十月十日というヒト種の一般的な妊娠期間から言えば必ずしも不思議なことではないのだろう、という感想は辛うじて飲み込んだ。

 

「ナッツー、はぴばー。じゃあ、試験が終わったらみんなでケーキ買って、お祝いしましょ♪」

 

 

佐倉 愛里:10月15日

綾小路清隆:10月20日

中禅寺夏目:10月30日

長谷部波瑠加:11月5日

 

 

 

 

 ――そして冒頭に戻るわけだ。

 

 オレは喜怒哀楽、それらの感情をこの15年で得ることが無かった。だが、この半年で少なくとも『喜び』『楽しさ』を学ぶことができた。

 前に夏目が船上試験の時に言っていた。『死ぬときに学びそこねたものは無かったか。それが人生の勝者たるか否かだ』と。

 おそらくオレは現状を奪われることがあれば『悲しい』し、『怒り』を覚えるだろう。それは言ってしまえば『欲』であって、仏教的には解脱の境地から遠のく感情だ。だが、オレは間違いだとは思わない。

 

 ホールケーキに灯された16本の蝋燭、一つ一つは淡いものだが、合わされば炎となり、それは先日の晴明稲荷神社で夏目と櫛田が燃え上がらせた、あの美しい情欲の炎にも劣らないものだ。

 

 

「よし、じゃあケーキを食べ終えたら、予定通り映画を観に行きましょ♪」

 

「ああ、ホラーでもアクションでも何でもかかってこい。」

 

「『かかってこい』は違うのでは……?」

 

 

 オレは友人に恵まれたのかもしれない。それは隣で波瑠加に「はい、あーん」とケーキを押し付けられている夏目も同じ感想であって欲しい、と思った。

 

 だが、物事というのは順調なように見えても、水面下ではどのような状況になっているか一個人には知る由もないし、大抵の場合は―――知らぬ間に酷くなっていることさえある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日――。

 

「ここに居たか、綾小路。お前宛の面会人だ。」

 

「これから友達と約束があるのですが。」

 

「残念だが、お前に拒否する権利は無い。」

 

 図書室で椎名と会話していたところ、担任の茶柱佐江に連行され、応接室へと通される。茶柱の尋常ではない雰囲気を察するに、とうとう来るべき時がやって来たようだ。重々しい扉を開き、オレを中へ案内すると、茶柱は「失礼します」と、その男に声をかけ退出していった。

 幾分かの間を置き、男は口を開く。一年半ぶりの会話がどのようなものになるのか、およその見当は付くが、易易と戻るつもりはない。

 

「来たか、清隆。何時まで其処に立っているつもりだ、座りなさい。」

 

「生憎、座ってまで長話をするつもりは無いんだけどな。」

 

 やはり血縁上の父親であった。どうせ無断で彼処を抜け出したオレを連れ戻そうというのだろうが、せめてもの抵抗として着席は拒否する。

 さて、どうやってこの場を切り抜けるか。

 

「お前のせいで一人死んだぞ。執事の松雄を覚えているな。私に無断でお前がこの学校へ入学することを手伝ったとして懲戒解雇となった。」

 

 もちろん覚えている。が、彼は解雇くらいで自殺するようなタマじゃない。もとよりその覚悟はあったはず。

 恐らく、この男が再就職出来ないよう表に裏に働きかけたに違いない。或いは、居たらしい息子を人質に取られたのかもしれない。

 オレは努めて平静に、成り行きのまま進める。

 

「で?」

 

「先月、焼身自殺した。お前の我儘が、一人殺したんだ。……恩人が死んだんだぞ? 少しは興味を示したらどうだ?」

 

「それでオレが罪悪感を覚えてアンタの元に戻るとでも思っているのか?」

 

「――清隆、いったい何がお前に決意させたのだ?」

 

「アンタはオレに最高の教育(虐待)を施したのかもしれない。だが、オレはただ自由が欲しかっただけだ。そしてその決断は、この学校へ来て正しかったと確信している。」

 

 そうだ、正しかったのだ。松雄が開いてくれた道は、オレを葬るどころか、生かすことさえ出来る世界に繋がっていた。

 

 確かにこの学校は異常だ。そしてオレも異常だ、異物だ。しかし善も悪も、強きも弱きも、優も劣も、男も女も、何もかも人種のサラダボウルに放り込まれたように混沌とし、幾つかの特別試験や日常生活という名のドレッシングにより調和している。

 だからオレのような異物でさえ生きていられるのだ。

 

「私が用意した道以外に正しい道はない。」

 

「なら、アンタがまず、その正しい道を歩いてみるべきだな。」

 

「――子どもの我儘の時間は終わりだ。その退学届にサインしろ。これは命令だ。」

 

「オレには書く理由が無い。アンタの命令が絶対だったのは、ホワイトルームの中だけだ。」

 

「あるに決まっている。お前はホワイトルームの最高傑作であり――私の所有物だ。」

 

「嘘でも『親子だから』とは言わないんだな。」

 

「思ってもいないことで説得するつもりはない。既にホワイトルームは再稼働している。 ――さあ、早くサインしろ。お前に拒否権など無い。」

 

 やれやれ。今日は拒否する権利を失ってばかりだな。ユニセフに訴えるぞ。

 そう言えば入学早々にも堀北からオレに拒否権が無いことを告げられていたことを思い出す。そういう意味では今日に限った話ではなく、オレという個人の拒否権の存在が危ぶまれている。

 

 ……さて、どうするか。

 

 このまま退学したって何も得るものはない。この男の言いなりになるのは業腹(ごうはら)だが、親権を翳されたら法的には未成年のオレは歯向かうことが出来ない。

 

 何か逆転の一手は無いものか考えていると、先程入ってきた重厚なドアがノックされ、「失礼します」という男の声と共に初老の男性が入ってきた。誰だこいつは?

 

「お久しぶりです、綾小路先生。」

 

「坂柳か。随分と久し振りだな。」

 

「先生の秘書を辞め、父からこの学校の理事長を引き継いでからもう7,8年になりますか。早いものです。」

 

 坂柳、理事長、か。ホワイトルームを立ち上げた男の秘書、親から引き継いだ高度育成高校、そしてAクラスの娘の父親。娘の方は噂話程度でしかよく知らないが。

 

 夏目の話ではホワイトルームとこの学校、手段は異なれど目指す姿は同じものだ。違うのは『最高の教育』の解釈の仕方だな。

 そういう意味では、なるほど、この人物も『魍魎』に魅入られた者か。あまり信用ならない大人のうちの一人だ。

 

「会うのは初めてだったね、清隆君。」

 

「どうも。」

 

 何と答えて良いか分からず、また、坂柳理事長が何を狙っているのか判断出来ず曖昧な返答になってしまった。

 

「綾小路先生、校長から話は伺いました。彼、清隆君を退学させたいとのことでしたね。」

 

「そうだ。親が希望している以上、学校側は直ちに遂行する義務がある。」

 

「それは違います。この学校ではあくまで生徒の自主性が重んじられます。」

 

 うん? どういうことだ? 坂柳理事長はオレをまもろうとしている?

 

「モノは言いようだな。この学校では入試の段階で、推薦によって合否は決定されていることは知っている。本来なら推薦されることの無い清隆は何らかの恣意的な操作がなければ入学出来ない筈だ。」

 

「さすがによくご存知ですね。しかし現実に彼は入学しており、生徒である以上、私は彼を守らなければなりません。」

 

 やはり坂柳理事長はオレの退学を止めようとしている。

 しかし何故だ? オレにこの男を敵に回してまで利用する価値があるとでもいうのだろうか。

 

「――フン、詭弁だな。だが、いいだろう。」

 

 そう言うと綾小路篤臣は席を立ち、部屋を去ろうとする。

 

「次は無い。それまで預けておく。」

 

 あの男は意外なほどあっさりと帰っていった。おそらくは想定の範囲内であったのだろう。坂柳理事長と目を合わせると何方ともなく、ふう、とため息をつく。

 

「此方の顔を立てて引いてくれた、ということかな。お互い、大変だね。」

 

「坂柳理事長、ありがとうございます。確認したいのですが、Aクラスの彼女は……?」

 

「有栖のことかい? 僕の娘だよ。さっきの話じゃないが、有栖が入学するにあたって、そして入学してからも特別扱いをしたことは無いよ。」

 

 そんなものか。そう言えばこの学校の誰かの家族の話なんて聞いたことはなかったな。せいぜい堀北(ブラコン)と、その(シスコン)、葛城兄妹くらいだ。

 葛城はともかく、いくらオレだってあの二人が普通でないことくらいはわかる。

 

 などと余計なことを考えていると、コンコンと再び――いや、三度か――ドアがノックされる。あの男の次は一体何だと理事長の様子を窺うと、どうやら想定外の来客のようだ。お互い怪訝な顔をして視線を交わすと、理事長がドアを開けに行く。

 

 

 

 

 

「有栖、どうしてここに? それから君は……」

 

 

 

 

 

 其処には坂柳有栖と、まるで三回ほど世界の終わりを見届けてきたような仏頂面をした友人―――中禅寺夏目が居た。

 

 






有栖ちゃん「こんな楽しそうな祭り、参加しないわけには!」



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