幸村君にそこはかとない罪悪感を抱きながら、筆がノったので初投稿です。
▼side:長谷部波瑠加
12月も半ばを過ぎようとしている。間もなく終業式だ。
辺りを見回してみると、マフラーやセーターを着用している生徒も多くなってきた。
そう、女子としては
この学校では決められたブレザーとスカート、あるいはズボンを着用していれば、シャツやカーディガンなどはある程度自由にさせてくれる。髪型に至ってはさらに自由。
確かにこの閉鎖された島で服装をとやかく言う理由はないけど、ともすれば自堕落な生徒は日がなジャージ姿になるかもしれないことを考えれば、基本的な制服を準備して後は自由というやり方の方が、外の世界に戻ったときに差し障りが出ないのかもしれない。
あと、毎日私服はちょっとキツい。センスどうこうもそうだけど、私達Dクラスにはカネが無いのよね。
寒さに耐えて生足でスカートを履き続けるか、ニーソックスで耐えるか、タイツを履くか、セーターを着込むか、マフラーを着けるか。勇気があればトレーナーを着てきても良いかもしれない。ニット帽や耳当てなどもワンポイントとしてセンスが問われる小物たちだ。
様々な
そういう意味では、制服を準備することは戦争を最小限に食い止めようとする学校側の努力なのかもしれない。
さて、私達の『綾小路グループ』は、週に2度か3度集まって、四方山話に耽っている。カフェで集まることもあれば、ナッツーが居る神社に集まることもある。
みやっちは部活があるから来たり来なかったりだけど、大抵、私は特段の事情が無ければこの社務所で猫と戯れたり、ナッツーで遊んだり、極稀に勉強したりしている。
愛里も大体一緒にいることが多いけど、きよぽんが居るときは必ず来ている。―――わかりやすいわね。
自分の居場所。自分だけの場所。私の自宅には無かった場所。
最近はあの神社をそんな風に考えることが出来るようになった。
「縁結びの由来など無い。猿田彦の話など唯のこじつけだ。」と言い切っていたナッツーだけど、男女の仲ではなくて、友達同士、気のおけない仲間が集まるという意味では少なくとも縁を結んでいると思う。
それもある種の、彼の言う『呪』なのだろうか。
そんな彼は、私達が隣であーだこーだ話していても時折生返事をするばかりで、目線は常に手元の書籍だ。
もうこの社務所に置いてあるものは全部読んだろうに、湧いてくる―――定期的に片付けているのに、さらに増えている―――本は何処から入手しているのか謎ね。古本屋でも開業したのかしら。
今日も今日とて、私と愛里という美少女二人がこの狭い*1密室に居るというのに、こちらを気にする様子もなく何やら分厚い本を捲っている。
「そろそろクリスマスかー。愛里は何か予定はあるの?」
「特には……。」
「はぁー。そんなコトじゃ、気になる相手に逃げられてしまうぞよ?」
「そ、そんな! いや! 気になる相手とか、私には、その―――です。」
冒頭はそれなりの声量だったけど、語尾に向かうにつれて小さくなっていく愛里の言葉。きよぽんに好意があるのは私達の中では周知の事実なのに、じれったいわね。
愛里と深く話をすることは今まで無かったけど、夏の特別試験できよぽんに好意を抱いていることには何となく気づいてたし、二人で話しているうちにきよぽんに好意を抱く切っ掛けになった事件についても教えてくれた。他の二人はどこまで知っているか知らないけど、まあ、ネットミームを引用して言えば「そら(イケメンに暴漢に襲われているところを助けられたら)、そう(簡単に堕ちる)よ」といったところかしらね。
だけど、彼女気づいているかしら。
「―――いい、愛里? 実は、きよぽんは、モテるの。」
「ええっ!?」
「まずイケメンランキングで上位にいること、これだけでも注目している女子がそれなりに居ることを物語っているわ。一学期は堀北さんとほとんど一緒に居たし、夏休みにはプールでBクラスの一之瀬さんも交えて櫛田さんや軽井沢さん達と遊んでいて、二学期は体育祭のリレーで大活躍、Cクラスの女子ともいい感じで話している姿も見られていて、挙句の果てにうちのクラスの佐藤さんはきよぽんに告白したとさえ言われてるのよ? ―――控えめに言って、愛里は進展が無さすぎて逆に出遅れているわ。」
「そんな……。」
言ってて少しムカついてきた。何よあいつ、ハーレムじゃない。絶望的な顔をした愛里を慰めるべく、解決策を提案する。
「だから勇気を持って告白―――は無理かもしれないけど、遊びに誘ってみたら?」
「でも……私、口下手で……。」
「じゃあ私がそれとなくクリスマスの話題を振ってみるから、きよぽんの予定でも聞いてみなよ。手遅れだったら、その時はみんなで遊びましょ♪ ……ねぇ、この奥手な愛里にナッツーは何か妙案でもある?」
「―――ふむ、直接話すのが難しいのなら、手紙を書いてみればどうだ?」
「手紙ですか?」と愛里が聞き返す。半分、こちらを気にしないナッツーへの嫌がらせで話を振ってみたものの、中々良さそうなアイディアだ。
「でも、手紙なんてもらったら迷惑じゃないでしょうか……?」
「いやいや、そんなことはない。徒然草にも書いてあるよ。」
ナッツーは表情を変えず懐から端末を取り出して操作しだし、私と愛里はナッツーの両サイドから肩を寄せ合い小さい画面を覗き込む。色々と当たってる気がするけど、こういうのは気にした方の負けなのよね。
「―――あぁ、これだ。第72段『多くて見苦しからぬは文車の文、塵塚の塵』。つまり、多くて見苦しいのは間間あるが、手紙を運ぶ車に手紙が多くとも、それだけ人の気持ちが込められたものが載っていると思えば見苦しいなんてことは無い、ということだろう。」
「ほえぇ……。」
「そうだねぇ、
「いえ、それは……。 はっ!? 夏目くん、気づいて!?」
「想いを伝える、という行為は本来非常に難しいものだ。選ぶ単語で伝わるニュアンスが全く異なってしまうし、方法が間違っていれば害にさえなる。だが、手紙を渡す、文字にするという行為はそうした誤解が生まれかねない余地を最小限にするし、受け取った側も嬉しい気持ちになるものだ。」
ラブレターの類は受け取ったことは無いけど、芸能人だった愛理には馴染み易い文化かもしれない。
「なるほどね〜。きよぽんもそういうのには疎そうだけど、手紙ならワンチャンあるかも?」
「まあ、いきなり恋文はハードルが高いと思うから、日頃の感謝や想いを伝えるところから始めてはどうだ? 最初は書き損じが多くなったとしても、塵塚の塵、つまり見苦しからぬモノだろうよ。」
「―――わかった、やってみます!」
「……なんか、上手くナッツーの『口車』にのった感じね。」
「おっ? 波瑠加も上手いこと言うじゃないか。」
私達は顔を見合わせて笑い合う。ナッツーは笑うというよりニヒルに口角を上げる程度だけど、それでも彼なりの笑顔なのだろう。
みんなは愛里がこんなに純粋で頑張り屋なことを、彼がこんな顔で笑うことを知らないだろう。知っているのは私達だけ。そのことに、そこはかとない優越感と安心を得る。
友達、恋バナ、青春。私の望んだモノがここには全てある。今日は居ないけど、きよぽんやみやっちが居たら、もっと楽しくなるかもしれない。
だけど私は考えてしまう。こんなに恵まれていていいのだろうか、と。
文に優れたナッツー、武に優れたみやっち、可愛らしい愛里、よく分からないけどミステリアスな存在感のあるきよぽん。
私には彼ら彼女らに与えられるものは何も無い。そんなことをみんなが望むはずもないのに。
「よし、決めた! 今度の週末はみやっちの部活の応援、それが終わったら遊び倒しに行こー!」
人それぞれの生。
願わくば、私が敬愛する極少数の人たちには、より美しい生が訪れんことを―――。
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色々と周りが動いていることには気づいていた。
椎名からの接触、あの男の登場、神室(というより坂柳有栖)の尾行、そしてクラスを付け回すCクラスの連中。
夏目が気づいていたかは分からないが、恐らく気づいていただろう。あの神社にもCクラスの尾行者らしき人影があったことを。
オレやあいつらだけでなく、軽井沢や櫛田、一之瀬などが不定期に来ていることがわかれば、あの場所に集まる人物に何かあると勘ぐり、襲撃されるのも時間の問題だ。また、オレと夏目は真鍋達に顔を見られている。
だからオレは最近、あそこで集まるときは疑われない程度に別行動をして、神室に釘を差し、周囲の動向を窺い、不安の根を断つようにしている。
また、堀北生徒会長にも連絡を取ることが出来た。オレを取り巻く状況を説明し、協力を仰ぐ代わりと言ってはなんだが、交換条件を突き付けられた。南雲雅を止めること、そして堀北鈴音を導くこと。前者に対するやる気は無いが、後者については一考の余地はある。目立ちたくないのはもちろんだが、彼女がどこまで伸びるのか少し気になってきたのだ。さながら弟子を取った気分だが、そんなことを言うと無言の手刀が腹か喉に突き刺さるんだろうな。
閑話休題。
そして夜、オレは自室から二人の人物に連絡を取る。一人目は外出することなく部屋に居たのか、記憶にある11桁の数字を入力して数コールすると、比較的すぐに電話に出た。
『もしもし?』
「オレだ。」
『どうしたの? 何かあった?』
「いや、恵は何をしているかと思って。」
『清隆がそんな殊勝な電話をしてくるわけが無いでしょ。』
ごもっとも。オレと軽井沢の関係は知り合い以上、友達以下というところだ。だが、夏の特別試験以来、彼女を守るという約束をしているし、たまに勉強も教えている。それ以外にも『女心の勉強』という名目で、目立たないように何度か二人きりで会っている。人前では呼ばないが、こうして密かに下の名前で呼び合ってもいる。
なお、このことは夏目は兎も角、波瑠加や明人、愛理は知らない。だが、そのことを龍園に嗅ぎつけられたら軽井沢が狙われるだろう。そうなっては約束違反だし、守る対象が増えることで本来守られたものも守れなくなるかもしれない。
「真鍋たちからの接触はないか?」
『うん。それは今のところ問題なし。……その確認をするためにわざわざ連絡してきたわけ?』
驚いたというより、呆れたような反応が返ってきた。
「あれから随分経ったが、ここまで何もなしか。これ以上の心配はなさそうだな。」
『そうだといいけど。でも、いつどうなるかなんて誰にもわかんないでしょ。』
「まあ、そうだな。」
オレたちは真鍋達の弱みを握っているが、同時に軽井沢の弱みも握られている。恐らく、龍園にもその話は伝わっていると見た方がいい。だとすれば、彼女の言うように狙われる可能性は残っている。
『―――ねえ、Cクラス、っていうか龍園が血眼になって探している黒幕Xってアンタでしょ?』
「やはり恵にはわかるか。」
『まあ、あんなふうに助けられたらね。他に可能性があるなら中禅寺君だけど、彼はそんな面倒なことしないでしょ、きっと。 ―――で、清隆はどうするつもり?』
「恵は何もしなくても良い。そしてこれが電話を掛けた本題だが、しばらくオレと夏目、それからあの神社には近づくな。安全が担保できない。そして出来れば、オレたちの関係もここで終わった方が良い。もちろん、恵の身の安全については今後も出来る限り守っていくつもりだ。」
『違う、そうじゃない。清隆はどうしたいの? 私のことはいいわ。いや、良くないけど。でも、中禅寺君や長谷部さん、佐倉さん、三宅君たちとの関係もリセットするの?』
「いや、それは続けるつもりだが……。」
『なら、私との関係も今のままでいいじゃない。何なら、洋介君とはそのうちちゃんと別れるから、普通に友達になろう?』
言葉が続かない。続けることが出来ない。
オレは軽井沢のことを見誤っていたかもしれない。
最初は彼女をスケープゴートとしてクラスを支配するというやり方を考えていた。指導者としてはやや物足りないが、堀北と違った面からの統率力は見るべきところがあったからだ。足りない部分はオレが補えばいいと思っていたが……。
だが、その場合は今の環境を放棄、夏目や波瑠加、明人や愛理達との関係はやや難しいことになっていただろう。なぜなら彼女は非常に依存心と独占欲の高い女性だったからだ。少し重いとは思うが、まあ、別に嫌いってほどじゃない。
しかしそれがこの短期間で? オレの心情を思い遣り? 剰え居場所を守ろうとしてくれる? 何が彼女を変えた? オレか? 夏目か?
『何よ、急に黙っちゃって。』
「すまん、まさか恵からそんなことを言われるとは余り考えていなかった。正直に言えば、驚きと嬉しい気持ちが半々で何を言うべきかわからないんだ。」
『言ったでしょ? 誰かに何かをもらったら?』
「―――ありがとう。」
『ふふん。どういたしまして、と言っておくわ。』
「だが、危険であることは確かだ。極力、一人で行動することは避けてくれ。」
『おけまる〜。あとさ、私からもあるんだけど?』
「何だ?」
『佐藤さんと洋介君とクリスマスにダブルデートする話があったでしょ?』
そう言えばそんな話もあった。
「そうだったな。」
『佐藤さん、すごく楽しみにしてた。どういう形になるのであれ、ちゃんと向き合ってあげなさい。』
「わかった。」
『じゃあね、清隆。おやすみ。』
「ああ、おやすみ、恵。」
さて、もう一人に電話をするか。
原作と比べると時系列がちょっと怪しいのは許してクレメンス。
そして恵ちゃんの後方理解のある彼女面ムーヴはありだと思います。
あと、オスカー・フォン・ロイエンタールは名言の宝庫。