ようこそ百鬼夜行の跋扈する教室へ   作:桜霧島

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投稿間隔開けてしまい大変申し訳ありません。
個人的には一ヶ月くらいの感覚なんですけどね……不思議だ。

お陰様で鵼の碑(鈍器)は読み終えました。



文車妖妃の宴 四

 

 

 二学期の終業式を迎えた。

 

 今日は午前中までで授業は無い。形だけの校長が形だけの訓示をたらたらと述べる。

 集会が終わればクラスに戻り、茶柱先生から冬休みの注意事項を受け、解散となった。

 

 龍園が仕掛けてくるとすれば今日だと睨んでいる。奴としては様々な状況を想定し、容疑者を一人一人潰した後、自らが有利な場を整えて仕掛けてくる。既に高円寺を含めたオレ以外の比較的実力のあるクラスメイトは、何らかCクラスからちょっかいを受けている。

 

 おそらく、1対1の戦いにはならないだろう。恵だけでなく愛理や波瑠加たちを人質としてとられる可能性もある。彼女らには極力少数で外出しないよう、夏目や明人に警戒をお願いしている。

 

 誰かを蹴落とすこと。誰かを支配すること。オレにとっては等しく価値が無い嗜好だ。

 

 龍園のことはかつて夏目が『蜃気楼』と評していた。確かにそうかもしれない。

 奴は『黒幕X』という架空の―――正確には、虚像に過ぎない人物を想定して包囲網を組んできた。だがオレも夏目もDクラスを陰から操りAクラスへの下剋上を目論んでいる人間ではない。少なくとも今は。

 

 『自由』とは何か。―――それは牢獄のようなものだ。

 

 言葉にした瞬間、皆、その言葉に囚われる呪のようなものだ。

 オレは最近、こう思う。『不自由』という言葉が先にあったのではないか、と。

 

 オレは生まれながらにして―――いや、生まれる前からその生を定められていた。そう、『不自由』が先にあったのだ。

 人はその育ちについて千差万別、全く境遇が同じ人間など存在しない。一卵性双生児でさえお互いという境遇の違いがあるのだ。

 

 龍園にしてもそうだ。奴は自由だと言う人もいるかも知れないが、オレから見ればとびきり不自由な人間だ。

 自由を得るために不自由を打ち壊すという不自由に囚われている。そして龍園はオレの実力を見誤った。実に愚かなことだ。

 だが、これも過去のオレが蒔いた種だ。大きくならない内に摘み取るのもオレの責任というわけか。

 

 ふぅ、と一息つき携帯端末を取り出す。まぁ、念には念を入れる必要があるだろう。

 

 

 ―――ん、恵からメールか。

 

 

『へるぴ』

 

 

 今のオレは非常に複雑な表情をしているだろう。笑えば良いのか事態を深刻に捉えれば良いのか。ホワイトルームの教育も役に立たない。

 

 きっと彼女は非常事態に襲われ、咄嗟にポケットの中でオレに助けを求めたのだ。誤字に気づく間も無かっただろう。

 だが、言いたいことは伝わった。

 

 やはりそちらに行ったか、龍園。所詮はそこまでの男か。

 

 オレは少しばかりの苦笑とともに恵の位置情報を端末で確認すると、夜の帳が下りる外へ向かう。

 

 苦笑の先は恵か龍園か、それともこの学校か。今のオレには判断がつかなかった。

 

 

 

▼side:軽井沢恵

 

 

 

「ククッ。やはりお前が『黒幕X』か。あの神主モドキと7:3……いや、8:2くらいでテメェだと思ってたよ」

 

「バカな、龍園! コイツは……!」

 

「ハンッ。テメェは無人島試験の間、コイツにだまくらかされてたんだよ、伊吹。だが油断するな、真鍋たちは一瞬でオトされたみてぇだからな。囲んでやっちまえ」

 

 校舎の屋上。多少は乱暴されたけど、助けが来るとわかっていれば比較的怖くない。まあ比較的、っていうだけで怖いものは怖いし痛いものは痛い。あと寒い。

 

 清隆からは一人きりにならないように注意されていた。だけどこうして拐われたのは半分わざと。

 『自分一人が犠牲になれば』なんて殊勝なコトなんて考えてない。だけどいい加減Cクラスから粘着されるのもみんな厭気が差していたし、冬休みは気兼ねなく清隆とデートしたい。

 佐藤さんには悪いけど、あたしがピンチの時、彼は絶対駆けつけてくれると信じている。そういう関係性を作ったから。

 あの陰気な男に整えられているみたいで癪ではあるけどね。

 

「清隆……」

 

 彼の名を呟くと、「悪い、遅くなった」と言いながら私に制服の上着をかけてくれる。痛みと寒さで少しばかり涙目になっている私は袖を濡らしながら心の中で彼を応援する。

 

 この不器用で感情表現の乏しい天才は軽く腕まくりをすると、まず襲ってきた石崎、伊吹をものともせずに無力化した。

 コイツ、前から思ってたけど敵対する人間なら女でも躊躇ないわね。でもまあ、顔に傷をつけないように倒しているだけ配慮しているのかもしれない。

 

 あの恐ろしい黒人の山田何とかでさえ、大人と子どものようにまるで問題にしていない。

 単純な膂力でも清隆が優位だ。ひらりひらりと躱しながら急所を目掛けて攻撃を繰り出す。

 格闘技には詳しくないけど、強いボクサーはきっとこんな感じなんだろうなと場違いな感想を持ってしまった。それだけ非日常が眼の前にあるということなのか。

 

 清隆は3方向から囲まれたはずなのに、あっという間に制圧してしまった。

 

「ククッ。役に立たねえ奴らだ」

 

 そうか、と清隆が無機質な返答をする。龍園もまた戦闘モードに入っているけど、既に私は彼らの意識に無いだろう。

 

 ―――恐ろしい。

 

 男二人が殴り合っている。私自身、いくつかの暴力を見てきたし実際にされてもきたけど、私がされた『明日も遊ぶための暴力』ではない。これは壊し合いだ。

 先程までとは違い、清隆も避けるのではなくガードすることが多くなっている。

 

「ハンッ! やはり腕っぷしもあるか! 楽しいなあ、綾小路!」

 

「悪いがオレは楽しくはない」

 

「だけどなァ! 喧嘩ってのは! 腕っぷし! だけじゃ! ねぇんだよ!」

 

「……シッ!」

 

「ぐッ……!」

 

 ガードと回避を使い分けることで龍園による暴力の渦を華麗に捌き、清隆の切り裂くような拳が龍園の鳩尾を穿つ。よくアレで倒れないものだ。

 

「……確かにテメェは強え。この場ではお前が勝つだろうな。だが明日は? 明後日はどうだ!?」

 

「繰り返していればいずれ勝てると?」

 

「小便してる最中は? クソしてる最中は? 女抱いてる最中は? どこからでも狙ってやる…!」

 

「負けることが怖くないのか?」

 

「恐怖なんて感情、俺には一度も感じたことが無ぇな!」

 

 

 

 

▼side:綾小路清隆

 

 

 

 感情とは生物学的に言うと自身の生命の保持、或いは子孫を残すために必要な人間に備わった機能である。

 

 理屈では理解している。だがホワイトルームではそうした感情というものは不要なものだと教えられた。他者を操る―――いや、利用―――いや、誘導するとき、相手の感情を理解しなければ自身の望む方へ誘導出来ない。そしてそこには自身の感情というものは不要だ。

 

 オレはこの8ヶ月ほどで同世代の男女の多くの感情を学んできた。船上試験においては軽井沢から彼女の恐怖を知った。

 

 『人はわからないものに対して畏れを抱く』と言っていたのは夏目だったか、何かの本だったか。その意味においてオレは恐怖というものを感じたことが無い。

 

 龍園の場合においてはどうだろうか。奴は暴力の支配する世界に生きてきた人間だ。通常の人間は理不尽な暴力に対して恐怖を抱くが、奴の場合は恐怖を抱くまでには至らないと言っている。

 

 であればどうやって奴に恐怖を抱かせるべきか。

 

 簡単な話だ。根源的な恐怖―――つまり自身の生命が不可解な力で失われることに直面させてやればいい。

 

「綾小路ィッ!」

 

 勢いをつけパンチを繰り出してくる龍園の腕の外側へステップを踏むと、手首と肘を()め龍園の体勢を崩す。体育祭で夏目がやっていた技だ。

 よろめく龍園の隙を見逃すはずもない。顔面、鳩尾と上下に揺さぶり最後に再び顔面を殴り飛ばすと、オレは倒れた龍園の両手を挟み込むように馬乗りになる。

 

 完璧なマウントポジションだ。

 

 龍園が何か喚いているが関係無い。ただ壊す。骨や歯が軋む乾いた音が響く。そしてそれはぐしゃりぐしゃりと徐々に湿り気を帯びた音に変わる。両手をキメられた龍園は為すすべなくそれらの音を最短で聴くことになる。

 

「テ、テメェ……」

 

 実は人の顔面を殴るのはコツが要る。顔面、というか頭部は人間の部位の中で最も急所が多い部分である一方、最も硬い部分の中の一つでもある。だから下手な人間が頭部を殴ると、十中八九自身の拳を傷つける。

 オレは此奴に恐怖を与える必要があるからこうしているが、ヒトを無力化するなら、相手が倒れた瞬間に踵で顔面を踏みつけるのが効果的だ。*1

 

 夏目ならどうするんだろうな。肉体労働は専門外と言っていたから、きっとあの傍若無人王子が良いも悪いも目茶苦茶にして終わらせるのだろう。

 

「まだやるか?」

 

「……」

 

 返事がない。気を失ってはいないようだが、瞳の奥に恐怖の感情が読み取れる。どうやら壊し終えたようだ。

 オレたちDクラスに憑いていた蜃気楼(龍園)は、もう二度と実体を持たなくなるだろう。

 

 これでこの血まみれの宴も終いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「恵、無事か」

 

「ありがとう、清隆。でも……」

 

「心配するな。後のことは任せてある。行こう」

 

「……わかった」

 

「……オレが怖いか?」

 

「えっ……うん、少しね。でも問題無いわ」

 

「うん?」

 

「無いったら無いのよ。来てくれるって信じてたし」

 

「そうか」

 

「さ、行きましょ……ってどこへ?」

 

「とりあえずオレの部屋へ行こう。暖かい飲み物でも出す」

 

 

 

 

 

 

 

「清隆、改めてありがとう。助けを呼んだら来てくれるって信じてた」

 

「正確には『助けて』とは言われて無いがな」

 

 そう言いながら恵から受信したメールを見せる。暖かいコーヒーが二人を包み込む。

 

「ぷっ……あたし、テンパりすぎて入力ミスしてるじゃない。恥ずかしい」

 

「恥ずかしくなんてない。十分に伝わっている」

 

 そう、文字が間違っていても、短くても、十分に伝わっているのだ。

 自分の気持ちや状況を文字で伝えるのに精密さや巧緻さは必要ない。それが心を込めたモノであれば、十分なのだ。

 それが今回の一件でオレが得た数少ない教訓だ。

 

「これからどうなるのかしら……?」

 

「おそらく、龍園はCクラスの中心的立場から外れるだろう。最悪、退学するかもしれない。Dクラスにとってはどうだろうな、何も変わらないんじゃないか。今回の一件は誰も関知していない。せいぜいが恵と夏目くらいだ」

 

「ふうん。ま、あたしは清隆とデート出来たらそれでいいけどね」

 

「デート……?」

 

「あら、寒空の下暴行されそうになった可哀そうな女の子を慰めてあげようっていう気はないワケ?」

 

「……平田はいいのか」

 

「平田君があたしに何をしてくれた?」

 

「……そうだな。だが大っぴらには出来ない」

 

「当たり前でしょ。それくらいあたしだってちゃんと考えてるわよ。まあ何にせよ、これからもよろしくね、協力者様」

 

「ああ、よろしく」

 

 

 年が更けていく。

 

 

*1
と刃牙に書いてあった。






ドラゴンボーイさんとリトルガールさんのくだりは泣く泣く飛ばしました。だって夏目君(神社から)出ないし。。。

続きはアニメ3期が始まったら頑張ります。
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