ようこそ百鬼夜行の跋扈する教室へ   作:桜霧島

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提灯火の呪 下

 

 

「中禅寺くん……?」

 

 堀北もオレと同じように、予想だにしない珍客の登場に驚いている。いや、アイツの教室でもあるのだが、今日起きたイベントと珍客の服装や雰囲気もあって頭がついていけていないようだ。

 赤襦袢に黒の着流し、黒の足袋に赤い鼻緒、これ程までに和装が似合う男だとは思わなかった。いつもの病的な痩身でさえ覆い隠し、禍々しさと幾らかの厳かさが同居したスタイルだ。

 オレはとりあえず事の成り行きを見守る。

 

「ボクは堀北さんのことを口は悪いし協調性なんか欠片もないものの、勉強と運動と頭の回転は悪く無い人物だと思っていたが、違うかね、綾小路くん」

 

 いつもとは比べ物にならない程の鋭い雰囲気で見咎められる。どうやら見守るだけでは許してくれないようだ。

 

「ああ、間違っては無いと思うぞ」

「なら、いつまでも呆けていないでサッサと考えなさい」

「うるさいわよ! 一体何を考えろと言うのよ! 私は! 我慢して! あの三人を教えてきたし、実際、それなりに彼らも伸びてきたわ! それなのに!」

「具体的にはどのように教えてきたのだね?」

「そんなもの、小学生の範囲から始まって、中学時代の復習、これまで習ってきたテスト範囲の復習は当然として、参考書から問題を出したり、自作のテストを作ったりして……」

「ボクにはそこがどうしても理解出来ないんだ、堀北さん。キミが高校三年生の受験生だと仮定しよう。優秀な君は一学期迄に高校全ての授業内容の履修を終えたとして、二学期、三学期は何をするつもりなのかね。キミはこの学校に入るに当たってどのような準備をしたのだ?」

 

「……!」

 

 どうやら堀北も無事に解に辿り着いたようだ。

 

「そう、過去問をやり込むこと、これが一番だ。この学校の過去問題集は発売されていないから、意識の外にあったかもしれない。あるいは、()()()()()()()()()()()()()()()かのどちらかだ。そしてこれがこの学校の一年生一学期中間テスト、二年分の過去問だ。見給え」

 

 中禅寺は袖の下から十数枚のプリントを取り出すと、オレたちに差し出す。オレと堀北は両方に目を通すと、驚きの事実が発覚した。

 

「何よこれ……! 全く同じじゃない!」

「そういうことだ。これさえあれば、いくら彼らとて赤点を取ることなど無いだろう。3日もあれば頭にそれなりのモノは叩き込める。もちろん、平均点を下げるなどの小細工はあったほうがいいと思うがね」

「じゃあ早速……!」

「いや堀北、アイツらに渡すのは少し待とう」

「どうして!?」

「ようやく、アイツらも勉強に向き合う姿勢というのが出来上がりつつあるんだ。ここで楽を覚えさせたら、定期テストの度にこうなるぞ? あと、期末以降、過去問が役に立つ保証は無い。だからギリギリ、中禅寺が言うように三日前には渡そう」

「その方が賢明だと思うね。後は、万が一赤点を取ったときの対応だ。堀北さん、どう考える」

 

 中禅寺の問い掛けに堀北は考え込む。あの三バカならテスト前日に寝落ちして一夜漬けすら失敗するなんてこと、有り得る。

 だが果たして堀北は正解に辿り着いた。

 

「『この敷地内でPPで買えないものは無い』」

「まあボクがあれだけヒントを出したのに気付かないでいられると困るのだけどね」

「あなたも偶には運動くらいしなさい。」

「断る。ボクは12歳の時に文庫本より重いものは持たないと誓ってるんだ」

 

 堀北もどうやらいつもの調子が戻ってきたようだ。教室に戻ってきたばかりのときに比べ、生き生きとしている。

 

「でもどうしてあなたはそんな格好をしているの?」

「今日、学校内のとある施設が竣工を迎えてね。ボクは生徒会からの依頼で、宮司として竣工式の執り行いをしていたんだ。だから今日、学校を休んだのも公欠扱いになっているはずだよ。この服装は、まあボクの礼装のようなモノだ」

「そう、兄さんに会ったのね」

「ああ、『不肖の妹のこと、宜しく頼む』とさ。良い兄貴じゃないか」

「当たり前じゃないの」

 

 頬を赤く染めながら視線を彷徨わせる堀北が少しいじらしい。

 

「ということは準備した2万PP、つまり上級生から購入した代金ということね。一体何時から準備していたのかしら」

「そりゃあテストの日程が明らかになったその日のうちに準備したに決まってるさ。キミとは違って、交友範囲は広いからねえ。それで、どうかね。()()()()()()()()()()()()から解放された気持は」

「悪くないわ」

 

 堀北とここまで会話を成立させるためにオレがあれだけの犠牲を払ったというのに、この偏屈な神主はあれよあれよと心を開かせてしまった。まるでオレの方が()()()()()()()()()()()()だ。

 

「わかったろう。どうしてこの学校の入試に過去問が無いか、どうして直前に試験範囲の変更があるのか、どうして茶柱担任は黙っていたのか―――そして、どうしてボクがここにいるのか」

「つまり、私達はみな、誰も彼も学校から試され、騙され、時には見限られたりしているのね」

「そういうことだ。不思議なことなど何一つ無い。全てに原因があって、結果がある。―――では対価も回収したのでこれにて御仕舞としよう」

 

 

 

 ▼

 

 

 テストが終わって数日後、オレはけやきモールで茶葉と茶菓子と湯呑を買って、晴明稲荷神社へ足を運んでいた。中禅寺にはすぐさま追い返されそうになったが、茶葉と茶菓子の準備を見ると何も言わなくなった。

 中禅寺はオレが淹れた茶を啜りながら、いつものような仏頂面でぺらりぺらりと本を捲っている。「何を読んでるんだ?」と聞いたところで無言しか返ってこない。

 とりあえず言いたいことだけを言うか。

 

「前に此処に来たとき、高円寺が居たが友だ「断じて違う」」

 

 何だ、聞いているのか。

 

「アレと友達だなんてボクに対する侮辱だ。ああいった輩はなまじ物事の本質を見通す実力があるから、折角ボクが丹精込めて掛けた呪や下仕掛けを自分の気分次第でぶち壊していく輩なんだ」

「以前から知っていたのか」

「知らなかった」

 

 中禅寺もアイツの実力を認め、警戒しているようだ。買ってきたおかきをぽりぽりと食べながら中禅寺に聞く。

 

「そう言えば以前、『狐と狸は本質的に違う』と言っていたが、どう違うんだ。どちらも人を化かすだろう」

「『狐』は人を化かすのに、こないだも言った通り基本的には理由があるんだ。人を騙してその肉を食うだとか、悪戯をされたから報復として化かすだとか、逆に恩を受けたから助けてあげる、とか。だが『狸』の本質は愉快犯だ。ただ自分が楽しむため、人を馬鹿にするために化かすんだ。まあ堀北会長や茶柱担任はわからんが、櫛田や平田は何方かと言えば狸の類だな。過去に何があったのかは存ぜぬが、彼らの対応の中心は自分だ。基本的には幼く素直な堀北さんが相手をするには少々手強いだろうよ」

 

 なるほど。しかしコイツは偏屈ではあるが矢張り並のニンゲンでは無いな。過程は大きく異なるだろうが、結論としてはオレと同じところに落ち着いてる。クラスをよく見ている証拠だ。平田の過去は知らんが、どうもあの八方美人ぶりには強迫観念のようなものさえ感じる。櫛田は裏の顔そのままだな。アレだけ隠しても中禅寺にはバレバレなのが可哀想でもある。

 

「なら、高円寺は狸かな」

「アレは唯の狂人の仮面を被った常識人だ。だが狂人として振る舞うからたちが悪い」

「そうか。いやしかし、適当に言った『狐が憑いている』という言葉がここまでのものになるとは思わなかった。ある意味、勉強になったよ」

「人間、無意識に本質を衝いてしまうことはある。」

 

 中禅寺は興味なさげに吐き捨てる。

 

「それにしても堀北会長が狐か。茶柱先生は言っちゃ悪いが女狐って感じはあるけどな。それを祓ってしまうなんて確かに大したものだ」

 

 中禅寺がジロリとこちらを見る。どうした?

 

「ボクは()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ―――どういうことだ?

 

「提灯火という妖怪がいるのだが、別名を狐火とも言う。鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』では田んぼの畦道に現れる謎の火という解説があるが、他の地域の伝承では見た人間に害を及ぼしたもの、逆に人を導いたというものもある。なるほど、確かに『狐』火と言えよう」

 

 ―――どこに話が向かっているのだろうか。

 

「提灯、行灯、同じ物だ。キミは昼行灯を気取っているそうだね。そして堀北さんを、或いはクラスメイトを、時には騙し、時には導き―――」

 

 ―――オレは既に捉えられている。

 

「ここまで言えば判るだろう? 綾小路くん、キミこそが堀北さんに憑いている『狐』だ。ただ、悪さをしないうちは祓わないでおいてやる。だがボクや、堀北さん、他のクラスメイトを無意味に攻撃するようならば、全霊を以て迎え撃とう」

 

 

「お前にオレが葬れるとでも?」

 

 

「だから1億積まれても嫌だと言うんだ」

 

 

 なるほど、矢張り只者ではない。本気の殺気を込めたオレとここまで対等に渡り合うのだ。暴力では圧勝だろうが、コイツに自由を与えた瞬間、どうなるかわからない怖さがある。

 

「話は終わったかね。では早く帰りなさい」

 

 オレは晴明稲荷を辞し、寮へ戻る。だがオレが狐ならば、しばらくこの神社に居着くのも悪くはないだろう。

 

 ―――さて、次の茶菓子は何にしようか。

 

 






これにて一旦おしまいです。

乱数で動かない主人公ってやりやすい…!

いい妖怪がいれば、無人島編でお会いしましょう。

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