真夜中0時、あんていくにて   作:黒プー

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更新にちょっと間開いちゃいましてすみません。旅行行ってました。


19時、あんていくにて

「ふぁ〜あ…おはよう諸君…」

「あ、おはようございます。」

「…」

「おやおやニシキ君。よく似合っているねぇ?」

「うるせえ…」

 

いつものエプロンをつけつつ下の店まで降りると、金木君とニシキ君の働く姿があった。

うむ、ニシキ君のあくせくと働く姿も見れたことだし、素晴らしい目覚めと言えるだろう。

しかしまさか、店長にまで寝ろと言い出すとは。まだ寝なくても問題ないというのに。所詮は3轍だぞ?

 

「あ、ドクターさん。お邪魔してまーす。」

「おやヒデ君。開店前だというのに堂々と。」

「いーじゃないっすか別に〜。」

 

なぜか開店前にコーヒーを楽しんでいるヒデ君にも挨拶をしておく。

…私は別に客としてくる分には構わないが…

 

「…君、そろそろ授業じゃないのかい?」

「え?...やっべぇ!? ご、ご馳走様です!」

「お粗末さまでした、と言っておこう。走りたまえ〜。」

 

全力疾走で外に出ていったヒデ君を見送っていると、

突然テーブルを叩く音が響き渡る。

 

「ヒナミは…っ、おとうさんといっしょがいいよっ!」

 

テーブルを叩き、そう言い放ったヒナミ君は、店の奥へと走り去ってしまった。

 

「…なんだ?」

「…親の心子知らず、というところかねぇ。」

「…?」

 

不安そうな表情をしているリョーコ君を見つつ、私は言葉を続ける。

 

「最近は鳩だったり、ヤモリだったりが暴れている。ヒナミ君の父がどちらに巻き込まれたかは知らないが、少なくともリョーコ君はそれらに巻き込みたくないんだろう。」

「...ああ、なるほど。」

「そ。まさしくぴったりな言葉だ。…私たちも気をつけねばだよ、ニシキ君。」

「…そう、だな。」

 

ニシキ君は何かを考えるように視線を落とす。

…大方、先日のあの女性のことでも考えているんだろうねぇ。

 

「ま、仲間でいるうちは私が手の届く範囲で守ってやるから。心配せずにさっさと仕事したまえよ。」

「…ああ、ありがとう。」

 

そう言ってやると、彼は安心したのか、また作業を再開した。

しかし、とヒナミ君の走っていったドアを見る。

 

「…子供というのは制御が効かないからねぇ。」

 

どこかに走り出していかないか…少し、心配だ。

 

 

「…やれやれ、降り出してしまったか。急ごうか、金木君。」

「あ、はい。」

 

買い出しの荷物持ちを任せていた金木君と共に急いで走る。

やれやれ、驟雨というやつだったか。今降り出さなくてもいいだろうに。

…ん?

 

「…」

「…どうしたんですか? 突然立ち止まって。」

「妙な匂いが…。」

 

なんだ? ヒナミ君に近く…しかし喰種とはまた違う…武器のような…。

…まさか。

 

「…あ、ヒナミちゃん?」

「…っ!?」

 

思わず振り返って金木君の方を掴む。

 

「金木君! ヒナミちゃんは!?」

「え、っと、そっちに。」

 

金木君の指さす方向…道路の反対側に目を向けると、彼女が走っていくのが見えた。

…クソッ。

 

「金木君。すまないが用事ができた。荷物を頼めるかな。」

「え、あ、はい。」

 

間違いなく重くなるだろうが命優先だ、金木君には我慢してもらわねば。

 

手に持っていた荷物を金木君に全部渡し、急いで横断歩道の方へと向かう。

…クソッ、間に合ってくれっ…!

 

 

 

「…チッ。」

「ど、ドクターさん!?」

「間に合ったようで何より、かな。」

 

横目に彼女の状態を確認する。

…赫子を出しただけか。ヒナミ君はいない。…逃した後か?

 

「…いやあ、私の友人が失礼した、捜査官殿。ここはひとつ見逃してはもらえないかい? なんでもするよ?」

 

一応そう声をかけてみる。汚職に塗れた捜査官ならこれで引いてくれるだろうからね。

 

「ヒヒ…そのマスク、『闇医者』かねぇ? 約五年ぶりか、今まで何をしていたんだね? …君ほどの上物を逃すわけにはいかないのだよ、すまないが…出来ない相談だ。」

「…面倒だねぇ。私としては争いは望まないんだが。」

「これを試すためでもあるんだ。…私としては、むしろ戦いたいところなのさ。」

 

そう言ってその白髪の捜査官は、ケースを開き、中からクインケを取り出す。

…ずいぶん特徴的なクインケだな。鱗赫か?

 

「…そんな。嘘。なんで…?」

「…そういうことか。道理で。」

 

横でリョーコ君が泣き崩れる。

この反応から察するに、間違いなく知り合いの赫子だ。そして私が知り得る中で行方不明のリョーコ君の知り合いといえば。

 

「なかなかいい趣味しているじゃないか、捜査官。…私は君のことが嫌いだよ。」

「ほう? 喰種にそう言ってもらえるとはむしろ名誉だねぇ…っ!」

「…っ。」

 

白髪の捜査官がクインケを思いっきり横振りしてくる。

…なかなか早い振りだ、服の切れ端が少し持っていかれた。

 

「さあさあさあ! どんどん行きましょうねぇ!」

「…っ、流石にっ、早すぎないっ、かなぁ!」

 

やつはその速度を維持したまま何度も縦横関係なく振り上げる。

なかなかの重量のものをこの速度で方向を変えつつか。

 

「...面倒くさいね。」

「ほらほら、避けないで反撃してみろぉ? その程度かね『闇医者』ぁ!」

 

…これは流石に生身だけでは無理か。

私は尾赫を出し、赫子の毒を薬として作り変える。

 

「ようやく出したな? …なかなか独特な形だ、クインケにして使ったらさぞ面白そうだが…パワーはなさそうだ、つまらん。」

「…つまらなくはないさ。確かにパワーはないが…。」

 

私は赫子を…自らに突き刺し、中の液体を注入する。

 

「…ふう、面白い使い方も、できるんだ…よっ!」

「ほう!? 早い!」

 

この赫子はただ毒を打ち込むだけじゃない。

毒は薬としても使えるというのは有名な話だろう。

私の赫子で作られた薬品も中身を少し作り変えて仕舞えば、毒としても薬としても打ち込むことができるのだ。

例えば感覚強化、身体強化などの薬をね。

いわゆるドーピングというやつだ。

私はこれを駆使して今まで戦ってきていた。

 

「っ…、久しぶりだと体が追いつかないね…っ!」

「素早いな! それでこそSレート! やりがいがあるというものだ!」

 

捜査官の武器を振る速度以上の速度で周囲を駆け回る、が。

 

「隙がないね…っ、なかなかの技量と見た!」

「どうした? その速度で私を刈り取って見せてくれないか!」

「なら…少しは隙を見せてくれっ!」

 

一瞬の隙間を見出し、そこに飛び込む。

 

「…っ、そうだっ! それでいい!」

「チッ、腕は持っていけないか!」

「それでこそ…だっ!」

「… っ!?」

 

私がその剣戟の嵐からの離脱を試みるタイミングで、なんとその嵐は勢いを増してしまう。

…流石に避けきれないっ!

 

「があっ…!?」

「キヒヒヒ…やはりこれの性能は素晴らしいな! 私の振りに壊れずについてくるとは!」

「…ぐっ…」

 

頭が…うまく回らん…っ、先程の注射でなんとか持っているが…頭が持っていかれたか…っ?

 

「ふふ…その赫子、ぜひ欲しいところだ。だが我々も捜査官。先に仕事を果たさねばならないのだよ。…そうだろう? 亜門くん。」

「ええ。…足止めはなかなかの効果を発揮したようです。見失ったと。」

「そうか…。」

 

白髪の捜査官はそう呟くと、クインケを収めつつ、私に声をかける。

 

「この仕事が終わったら次はあなただ、『闇医者』。せいぜい次は楽しませてくれると嬉しいのだがね。」

「っ…善処、しよう…。」

「そうか。では我々はこれで。」

 

そう言って二人の捜査官は去っていった。

…私も、ここを、離れると、しよう。

 

 




戦闘シーン難しい…難しくない? ちゃんと書けてますかね?
ちなみに次回からはいつも通りのペースに戻ると思いまする。

よかったら高評価と感想おまちしてます。

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