『昨夜11時ごろ、11区の路上で…』
「いんやぁ〜、平和なもんだねぇ。」
「平和ではないだろ。」
「ん? 店は静かじゃないか。」
「…」
あの白髪の捜査官を倒した後、店には一時的に平和が訪れていた。
夜の作業も喰場の見回りをするくらいに落ち着き、普段通りの生活が戻ってきた。
そんなわけでやることのない私とニシキ君も、今はちょいちょい店番として駆り出されている。
「ふあ〜…眠いねぇ。」
「あんた普段はこの時間部屋に篭ってるしな。いい薬だろ引きこもり。」
「む、私はただの引きこもりじゃないぞニシキ君。なんせこの血が混ざっている角砂糖も…」
「ばっ、お前今昼間だぞ!?」
手に出して紹介していた私お手製の喰種用角砂糖がすぐに奪われる。
むう、別に奪わなくったっていいだろうに。
「あのなぁ…」
「ドクターさん!」
「んん?」
するとニシキ君の言葉を遮るように…ヒナミ君の背丈くらいの誰かが裏から出てくる。
匂い的には本人のものだが。
「…誰?」
「もう! 私だよ錦さん!」
錦君の言葉に、彼女はぷりぷりと怒りながらサングラスを外す。
その顔はヒナミ君だった。
「…ああ。ヒナミ君か。一瞬誰かと思ってしまった。」
「あんたの場合匂いでわかるんじゃないんですか…?」
「おやニシキ君、君も私について理解度を深めてきているようだねぇ。…それより、どこにいくんだい?」
ニシキ君のツッコミを流しつつ、ヒナミ君に問いかける。
変装してるなら間違いなくどこかにいくつもりなんだろう。
「あのね! ヘタレのお家を買いに行くの!」
「…ああ、あの鳥か。」
少し前にトーカ君とヒナミ君が連れてきた鳥だ。
まあ、少し怪我を治してやっただけだが。
「鳥じゃないよー! ヘタレ!」
「…ヒナミ、名前の意味わかってるのか…?」
「…今は黙っておくのが吉だ、ニシキ君。…誰かと一緒に行くのかい?」
「四方さんと!」
「そうか。なら安心だねぇ。行ってらっしゃい。」
「うん!」
名前の意味をばらしそうになったニシキ君を止め、嬉しそうに店を出るヒナミ君を見送る。
しかしあのセンスのない名前をつけたのは誰だ…? 四方君あたりか?
「…センスがなくて悪かったな、ドクター。」
突然声をかけられたと思ったら、いつの間にか四方君が目の前まできていた。
…また声が出ていたかな…。
「おや四方君。ヒナミ君はさっき外に出て行ってしまったよ?」
「…はあ。じゃ、いってくる。」
「行ってらっしゃい。」
それを聞いた四方君も、すぐに店の扉を開けて出ていく。
…しかしなんだか呆れた顔をしていたが、なんだったんだろうか。
♢
ピークの時間も過ぎていき、いよいよ本格的にやることがなくなってくる。
こういう時私は堂々とサボると決めているのだ。
「…そういうわけで古間くん。コーヒー淹れて。」
「前も言いましたけど自分で入れてください。」
「え〜。」
自分で淹れてもいいが、やっぱり面倒なので駄々をこねてみる。
全く、少しくらいいいじゃないか〜。
「少しだったら僕だって入れてあげてますよ、ドクター。あなた毎回頼んでくるじゃないですか。」
「そんなことはないと思うんだがね〜。」
「はぁ…」
そんなふうに話していると、店内に皿の割れる音が響き渡る。
そしてバイト2名のクソクソ言う声も響き渡る。
「…君たち、接客業だからクソクソ言うのはやめようか?」
そんな古間君の静止も無視して言い争いを続けるバイト組。
全く、そこで静かに割れた皿の処理をしている金木君を見習いたまえよ〜。
「…僕もそろそろ怒るよ? 君たちもこの…魔猿の伝説は知っているだろう?」
「…あ、『まざる』じゃないんだ。」
「…ドクター? 空気ぶっ壊すのやめてくれませんかね。」
私がつぶやいたせいか結局言い争うは止まることなく。
てかあれ『まざる』じゃなかったのか。初めて知った。
…とりあえずこれ止めようか。
「でた! 出ました馬鹿の一つ覚え! お前そんなんでほんとに受験するつもりかぁ?」
「てめえには関係ねえだろクソニシキ!」
「他に言えることないんですかクソトーカぁ?」
「あー、私が言えたことじゃないが…それ以上騒ぐならグーパンチだよ?」
まだ騒いでる二人に対して満面の笑みでそういってやる。
私のグーパンチはまあまあ効くぞう?
「…」
「…」
「そう。それでよろしい。」
ようやく黙って掃除を始めた二人を尻目に、私はさらっと古間君が淹れてくれてたコーヒーを飲む。
うーん、気がきく男は私の好みだねぇ。
ちょっち短めになってしまった。