真夜中0時、あんていくにて   作:黒プー

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ドクターの口癖は「さて」かもしれない


12時、あんていくにて

「ほれ、コーヒー。」

「ああ、私のも頼めるかな。」

「…店長。カップは自分で洗ってくれよ?」

「わかっているとも。」

 

少年の分のカップを置いてやり、店長の分のコーヒーも入れる。

 

「…」

「コーヒーは嫌いかね?」

 

私の出してやったコーヒーに手を出さない少年に店長が問いかける。

むむ? 記憶違いでなければ彼は別にコーヒーが嫌いなわけではなかったと思うが。

…ああ、なるほど。

 

「コーヒーの味は変わらないはずだぞ? 少年。」

「えっ…?」

「まーまー、一度騙されたと思って。」

 

私は自分の分のコーヒーを、彼の目の前で飲んでやる。

集団心理というやつだ、これで少しは飲みやすくなるだろう。

それをみた少年は、意を決してコーヒーに口をつけた。

 

「…美味しい…!」

「ふふ、そうだろうそうだろう。もっと褒めてくれたまえ。」

「昔の彼女のコーヒーは不味かったがね。」

「店長は黙っていてくれたまえ。印象が悪くなるじゃないか。」

 

全く、今入れたら美味しいのができるわけだし別にいいじゃないか。

そんな他愛もない話をしていると、少年が泣き出してしまう。

…え、本当はまずかったとかないだろうね?

 

「何を食べても…ひどい味だったのに…!」

「…喰種は昔からコーヒーだけは美味しく味わえるんだよ。人間のようにね。」

「私ですら解き明かせない謎だ。全くなぜだろうねぇ。」

 

私の予想ではコーヒーの苦味が喰種の強すぎる味覚を潰しているから美味しく味わえるというものがある。…まあ今はどうでもいいがね。

 

店長が自分の飲み終わったコップを洗いつつ、言葉を続ける。

 

「でも、これだけでは飢えを満たすことはできない。だから。」

 

そう言って彼は一つの包みを渡す。

おや、それは私が開発した成り立て喰種向けの食べやすい人肉じゃないか。

まあ人肉であるのは変わりないからやはり食べる難易度は高いがね。

 

「必要になったらまた来なさい。遠慮はいらないから。」

「…は、い。」

 

少年はその包みを取ると、席を立ち上がる。

…あ、そうだ。忘れていたことが。

 

「待ちたまえ少年。」

「はい...?」

「名前。そういえば聞いていなかった。」

「ああ…金木研、です。」

「ふむ。金木君。私はドクター。ま、よろしく頼むよ。」

「…はい。」

 

短い自己紹介を済ませると、金木少年は今度こそ店を出て行く。

しかし、大丈夫かねぇ。 まだ精神的に安定していないようだ。

 

「彼なら大丈夫だろう。」

 

店長が声をかけてくる。

 

「おや。また声に出ていたかい?」

「ああ。…確かに彼は未熟だ。だがすぐに成長するだろうさ。」

「君がいうなら間違い無いんだろうね。人を見る目はすごいだろう?」

「はは、そうかもしれないな。」

 

========================

 

「…さて。あとは豆を買い足さなければだねぇ。」

 

そう呟きつつ、私は商店街を出る。豆を売っている珈琲店はなぜか商店街の外にある。

全く、商店街の中にしてくれると助かるんだが。

 

珈琲店に向かう道のりを歩いていると、正面で何やらまた殴り合いの音がする。

 

「…デジャヴ、というやつかな。」

 

喰種同士の殴り合いの音。結構激しそうだ。

 

「仕方ない、止めるとするか。」

 

愛用のマスクを顔につけつつ、音のする方へと私は向かう。

 

 

「…おやまあ、本当にデジャヴというやつだったのか。…全く、またかい?ニシキくん。」

「…それはこっちのセリフだ。なんで毎回お前と出くわすハメになるんだよ。」

 

橋の下の資材置き場らしい場所に入ると、なんの偶然かまたもやニシキ君が金木君をいじめていた。

弱いものいじめなんてして何が楽しいんだろうねぇ。そんなんだから強い相手には勝てないんだよ。

 

「ああ? てめえ…」

「おや、また口に出ていたか。悪い癖だ、さっさと治さなければね。」

 

またキレているニシキ君は放置しつつ、倒れている金木君の様子を見る。

 

「金木君。おーい、大丈夫かい?」

「…だ」

「…おや?」

「いや…だ…!」

 

突然そう言ったかと思うと、金木君の背中から赫子が生えてくる。

種類は…鱗赫か。なるほど、リゼのものを受け継いだと言ったところか。

 

「…どうやら私の助けは要らなそうだね。」

「そんなの…許せないんだ…っ!」

 

私の姿が見えていないかのように、金木君はニシキ君に突撃していく。

無策だが鱗赫を使える今であれば、ニシキ君では対応しきれないだろう。

…さて、それでは私はそこで倒れている友人君を助けるとしよう。

 

「おい、君。聞こえているかい?」

「…」

 

ふむ。意識飛んでいるみたいだね。

これはよろしくない。

私は彼を背負いつつ、資材置き場の出口へと向かう。

 

「えっほ、えっほ...全く、無駄に体格がいいから背負いにくいじゃないか。もっと縮みたまえ…」

 

運び終わると同時に、資材置き場にニシキ君の断末魔が聞こえる。

どうやら終わったらしい。ニシキ君が負けたんだろう。

 

「…ま、彼の赫子ではあれには勝てないだろうねぇ。何せリゼの鱗赫だ。」

 

しかし鱗赫を出したということは消費も激しいだろう。

飢えがきていないか心配だな。

金木君をどうするべきかと悩んでいると、ちょうどトーカ君がやってくる。

ふむ、ちょうど一人らしい。

 

「おーいトーカ君。」

「…っ!? 何やってんですかこんなところで!」

 

トーカ君を呼び止めると、彼女は私の仮面姿を見て、慌てて駆け寄ってくる。

 

「いやぁ、中で金木君がまーた襲われててねぇ。あ、背中の彼は巻き込まれたお友達。」

「はぁ…?」

「偶然っていうものは意外とあるものだねぇ。…それでだ、おそらく金木君が中にまだいるだろう。彼、鱗赫を出していたし、飢えがきているかもしれない。」

「…チッ、面倒な…」

「そ。私が止めた方がいいだろう。だから背中の彼を頼めるかな?」

「…了解。」

「あ、家の場所知らないからとりあえずお店に。」

「はいはい。」

 

トーカ君に背中の彼を渡す。

明らかに不機嫌そうだが、友達君を受け取り、そのまま店に向かって走って行った。

…今度何か買ってあげるとしよう。

 

「…さて。」

 

改めて中に聞き耳を立てると…やはりというか、人間のものでは無いような唸り声が聞こえる。

 

「…怪我をさせてしまったらまずいだろうねぇ。…まあ今の彼であれば私でもなんとかなるか。」

 

私の赫子を出しつつ、天井に向かってジャンプし、張り付く。

無傷で無力化なら奇襲が一番手っ取り早い。

 

天井に沿って中まで歩いていくと、暴れ狂う金木君が見えた。

 

「…さて。悪いけど、少し眠ってもらうよ。」

 

私の尾赫は特殊なものだ。私の体内で作られた特殊なRC細胞を、尾赫の先にある針から出すことができる。

まあ要するに注射針だ。

 

「少し傷ができてしまうが…ま、許容範囲だ、許してくれたまえ…金木君。」

 

天井から飛び降り、赫子を一瞬で彼の体に突き刺す。

 

『あ…ガ…ガあ…』

 

すると10秒も経たないうちに、彼は眠るように倒れてしまった。

それに伴い赫子も消えて、いつも通りの金木君に戻る。

…ふむ。もう大丈夫だろう。

 

金木君を背中に担ぎ上げ、出口に向かう。

 

「…ふむ、少々軽いな。やはり肉はあまり食べないようにしていたか。」

 

トーカ君では少し荷が重かったかもしれないな。やはり私が行って正解だった。

彼の家に行ってもいいのだが…場所がわからないのでとりあえず店に運ぶとしよう。

 

「…あ。買い物バッグ。…どこに置いたっけなぁ…」

 

 

無事に見つけた買い物バッグの中身を取り出しつつ、店長に金木君の様子を聞く。

 

「で、どうだった? 彼は。」

「君の予想通りだった。金木君、肉を食っていなかったようだ。」

「うーん、そうだろうねぇ。食わせたかい?」

「ああ。」

「怒りそうだけど…まあ仕方ないねぇ。」

 

買ってきた豆を保管場所に置き、他のものも出しながら話を続ける。

 

「彼をどうする気だい?」

「店の一員に加えようかと思っていてね。」

「そりゃあいい。トーカちゃん以来の新人だ。期待が持てるねぇ。」

「ああ。」

 

買ってきたものをそれぞれの保管場所に置き終わり、コーヒーでも淹れようかと二人で話をしていると、奥の部屋から呻き声が少し聞こえる。

 

「おや、起きたようだね。」

「流石の耳だな、ドクター。」

「お褒めに預かり光栄だ。コーヒー、三人分にしておこうか。」

「頼む。」

 

そういうと店長は、金木君が寝ている部屋に向かって行った。

…さて。

 

「期待の新人だねぇ。これからどうなるか…楽しみだ。」

 




序盤場面転換多い…多くない? ちょっと書きにくかったです。
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