「ドクター。…ドクター?聞いているかい?」
「…ん、ああ。店長。どうかしたかい?」
いけない。まだ仕事中だというのに本に集中していたようだ。
しかし高槻作品、久しぶりに読んでいるが存外面白いものだな。
「明日、金木君のマスク作りに付き合ってあげてくれないか。」
「ほう。それはまた突然な。」
マスクは喰種として活動する際、人間としての顔を隠すために必須級のアイテムだ。だが鳩と交戦でもしない限り必要ないと思うが…。
「ということはやはり…鳩かい?」
「…ああ。二人だ。すでに犠牲者が。」
「ふむ。なるほどねぇ…。わかった、ちょうど明日は予定もなかったところだ…。」
だがただ作りにいくだけではつまらないね。ここは少し…。
本を閉じながら金木君に声をかける。
「金木君。明日2時から駅前に来てくれたまえ。」
「あ、はい。」
「おしゃれもきちんとしてきてくれたまえよ? 何せデートというやつだ。身なりはきちんと頼むよ。」
「はい…って!? な、なんでそうなるんですか!?」
「そりゃあ男女二人きりで出かけるなんて、いわゆるデートじゃないかね?」
「ち、ちちち違うと思いますけど!?」
ははは、やはり彼の反応は面白いねぇ。
私の言葉にあわてている金木君を放置し、閉じていた本をまた開きながら続きを読む。
…さて。忘れないうちにメモをしておいた方がいいかねぇ。
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3時30分ちょうど。私は駅前で最もわかりやすい待ち合わせ場所に向かっていた。
それなりに洒落た服を着てきたつもりだが…どうだろうかねぇ。
っと。あそこにいる青シャツくんは…
「金木君。すまないね、待たせてしまったかな?」
「いっいえ! 僕も今来たところです!」
私服姿の金木君と合流する。
ざっと見た感じはまあ最低限の格好といったところか。
トーカ君に見せたら「ダサ」と言いそうな実に普通な格好だ。
ま、私も大概だろうがね。
「ふふ、それはよかった。…では行こうか。」
「は、はい!」
というわけで金木君を連れて駅前から離れる。
目的のウタ君の店はそれなりに遠いし危ない場所だ。まあ気をつけていくとしよう。
「…ほ、本当にこんな場所に仮面屋さんが…?」
「まあ喰種専用のものだからね。バレたらまずいしこういう場所にあるのだろうさ。」
少しビビっている様子の金木君。
まあキャバクラだったり女の叫び声だったり危なそうな事務所だったりが道中にあればそりゃあビビりもするだろう。
若干躊躇している金木君のためにドアを開けてやる。
「さ、入りたまえ。」
「は、はい。」
中に入ると、そこはさまざまな仮面が安置されている場所だった。
ふむ、久しぶりにきたが…変な仮面が多いね。注文したやつのセンスを疑いたくなる。
奥に布をかぶっている奴があるが…まあ十中八九ウタ君だろう。面白いから黙っておくか。
「…ふむ。ウタ君いないねぇ。」
「ウタ…?」
「ここの店長だよ。仮面を作ってくれる職人だ。まあその辺にいるだろうし探してみようかね。」
「あ、はい。」
私はあえて白い布がかかっているテーブルから離れてみる。
もちろん金木君はそちら側を探してくれるだろうさ。
「うわああっ!?」
「ばあ。」
案の定ウタ君がいたらしく、金木君は驚いていた。
うーむ予想通りだ。
「やあウタくん。やっぱりそこにいたか。」
「おや、バレていたか。」
「き、気づいてたなら教えてくださいよ!?」
「面白そうだったからねぇ。」
「そちらが金木君かな。さ、奥へどうぞ。」
マスクを作るため、奥の部屋へ通される。
彼のマスク、どうなるかねえ。気になるし一緒に行くとしよう。
「…さ、こちらがマスク職人のウタくんだ。私のアレも彼に作ってもらったものさ。」
「ウタでーす。」
「よ、よろしくお願いします。」
軽く自己紹介を済ませると、やはり彼の匂いが気になるのかウタ君は匂いを嗅ぎ始める。
「…匂い変わってるね。…ドクター。鳩がうろついてるって話だったね。」
「ああ。」
「20区はおとなしいから、あの人たちも放置気味だったのに。…やっぱりリゼさんの影響かな。」
「うーん。近頃は月山君も暴れ出しているし、それだけではないだろうねぇ。」
「…ああ、彼ね。」
近況を話しつつ、ウタ君は相変わらず金木君の匂いを嗅いでいた。
しかし、少々月山君はやり過ぎだねぇ。いつかお灸を据えてやるとするか。
そんなふうに考えていると、金木君が質問してくる。
「…あの、20区って平和な方なんですか? 僕にはとても…」
「20はそうだね。あんていくがあったり、前までだけどリゼさんがいたし、なんならドクターもいる。暴れようにも暴れられないよ。」
「そうなんですね…?」
おや、どうやらあんまり信じていないみたいだね。ちょっと脅してみるか。
「ふむ、金木君。君だって一度こっちで暮らせばわかるだろうさ。何せ共食いがしょっちゅう見れるからねぇ。」
「なんなら泊まっていくかい?」
「えっ…遠慮しときます…。」
ふふ、やはり面白い反応をするねえ。
近況報告もほどほどに、ウタ君が金木君を台に案内する。
「そこ座って。サイズ測るから。」
「あ、はい。」
あとは手早くサイズを測って終わりだろうね。
私は持ってきた本を開き、昨日の続きを読み進めることにした。
…が。
「君はアレだね。同世代より年上のお姉さんとかに可愛がられそう。ドクターとか。」
…興味深い話が聞こえてきたな。一応釘を刺しておくか。
「私は別に可愛がってないぞう。ただ彼が興味深いだけだぞう。」
「ほら。可愛がってる。」
「あはは…」
全く。私は可愛がっているわけじゃないというのに。
私は今度こそ本の続きを読み進めることにした。
♢
帰り道。
いやー、案外さっくり終わったねぇ。ウタ君のモチベがそれなりにあったようだ。
人によっては丸一日かかったりするからね。それに比べたら今日は十分早い方だろう。
さて、近くの珈琲店でも見ていくとしようかねぇ。
とりあえず駅前に行くために歩を進めていくと、金木君に呼び止められる。
「あ、あの!」
「おや。何かな金木君。」
「ひ、ヒナミちゃん…何が、あったんですか…?」
…ふむ。
彼の目を見ると、何やら覚悟を決めたような目をしていた。
…何を決めたんだか知らないが、今の彼なら教えてもなんとかなるだろうね。
「ふむ。どうやらお父さんに何かあったみたいでねぇ。お父さんと離れて暮らすことになったそうだ。
私は普段あのこと接しないからわからないが…やはり不安なんだろうねぇ。」
「…そう、ですか…」
「…忠告しておくが、彼女の父は間違いなく何かに巻き込まれてる。決して解決しようだなんて思うんじゃないぞ。」
「っ……はい。」
金木君はそういったきり特に何も言わない。
…困ったな、こういう空気は苦手なんだが。
そんなふうに思ってると、金木君はすぐに話を変えて質問をしてくる。
「あ、あの…ところであのマスクって何に使うんですか?」
…えっ。
思わず驚いてしまう。
「て、てっきり知っているものだと思ったんだが?」
「す、すみません…」
「はぁ…いいさ、店長から何も聞いていないんだろう…」
体の向きを戻し、駅に向かって歩きながら続ける。
「あれは鳩…つまり捜査官に、人間としての顔がバレないようにするためにつけるマスクだ。」
「つ、つまり…?」
「素顔がバレないようにするためのマスクさ。一生追われかねない。この国の捜査官の執念はすごいからねぇ。 」
「な、なるほど…」
まあ、捜査官とはなるべくやり合わないのが吉だがね。
一人いたら包囲されてると思え、といったところか。
そんなもん逃げた方が早いからね。
「ま、やり合わないのが一番さ。…それはそうと金木君。私はコーヒー豆を買ってから帰る。こっちから行くから君はもう帰ってくれても問題ないよ。」
「あ、はい。」
「道順はわかるね?」
「大丈夫です。」
とまあ、金木君とは一旦別れることにした。
では珈琲店に向かうとするか。
評価一切ついてないのがちょっと怖いけど面白いですかねこの作品…?
ノリと勢い100ぱーで始まってるからわからんのじゃ。