目蓋が開らいていくのに比例して
カリカリという小さな音が段々はっきり聞こえてくる。
なんやろなと思い少しだけ体を起こし、音の方へ目を向けると
机の前でオグリが何かを熱心に書いとるのが見えた
時計を確かめるとまだ5時をさしとった。
お日さんがまだ顔を見せへん中
オグリは必死にカリカリと手紙を書いとる。
ウチを起こさん様にわざわざ蛍光灯の光を小さくして。
邪魔すんのもアレやし、もう少しだけ寝とこ。
そう思とったら。オグリが急にこっちへ振り返った。
アイツは野生の勘が鋭いのを忘れとった。
「起こしてしまって、すまない……」
「いや、ええねん。
はよ目が覚めただけや。いつになく心地良く眠れたから」
「それなら、よかった」
オグリはまた机に向かい出す。
よっぽど大切なものを書いとるんやな。
することがあらへんウチは
ジャージに着替えて早めの朝練をする事にした。
ちと寒すぎるけど走ればあったまるやろ。
ウチが着替え始めるとオグリは急に書く手を止めた。
「私も行こう」
「そっちはええんか?」
「もう書けた。あとは読み直すだけだ。
“てんさく”というのは時間を空けたからの方が良いと
バンブーが言っていたぞ」
よっぽど大切なモン書いとるんやろうな。
どうしても気になってまうわ。
「ところで……
よかったら何を書いとったか教えてくれへん?」
「サンタさんへの手紙だ」
「え?なんて?」
「サンタさんへの手紙だ」
思わず聞き返しても
堂々と同じ答えが返ってきおった。
改めて、オグリの顔を見る。
大盛りのから揚げを目の前にしとる時よりも
ずっと強く眼が輝いとるし
そういや、さっきの声もめっちゃウキウキしとったような……
いや、ホンマか。オグリ。
「手紙はいつもお母さんがサンタさんへ届けてくれるんだ。
昨日、中央に転校したという手紙も送ったから
きっと、こっちに直接きてくれるんだ」
間違いない。
オグリは心の底から信じとる。
サンタクロースを。
「それで、タマは手紙をもう送ったのか?」
「え?」
オグリにとっては当然の疑問でも
ウチにとっては想定外やった。
「そ、そのウチはもう大人やしなぁ……」
「そうなのか?」
「ほら、ウチにはチビたちもおるし……
サンタさんも大変やろ。一度に3人は」
「そうなのか……
でも、タマにだけプレンゼントが無いなんて
さびしいじゃないか……」
「心配してくれて、ありがとうな。
でも。ホンマにウチはもうえーねん」
「だが……」
「その気持ちだけで充分やって。
とにかく、はよ体を暖めにいこーや」
「ああ……」
なんかやんで誤魔化してウチらは早めの朝練へと行く。
それにしても寒いと覚悟はしとったけど
外はなんぼなんでも寒すぎるわ。
風もいつもより強くて手もあっという間に真っ赤になってまうやん。
ウチは自分の手と手を擦り合わせて虚しい抵抗を試みとる。
「タマ。手が寒いのか?」
「走れば手も温っかなるやろ」
「そうか……」
むっちゃ寒い中でもウチらは
いつもの様に他愛の無い会話をして
いつものトレーニングをこなす。
そんな中でウチは頭の隅から
サンタを信じるオグリを想い浮かべとった。
※
あれよあれよという間に24日の夜が来た。
オグリが完璧に寝たのを感じる。
イブでもちゃんと早寝するから助かるわ。
なんでもお母ちゃんに
『サンタさんは恥ずかしがり屋だし
オグリのありがとうという気持ちは
口で言わなくても手紙でよく伝っているから
イブでも早寝早起きしようね』
と諭されたからやしい。
布団の中からスマホでメッセージを送ると
すぐに返事がかえってきた。
ちょうど部屋の前に来とるらしい。
ウチはなるべく静かに早く布団から抜け出して
寮の扉をゆっくりと開けた。
そこにはサンタの姿をしたフジと
トナカイの被りもんをしたヒシアマがおった。
毎年二人とも寮のみんなの為にプレゼントを配っとるが
ウチらの所だけオグリが寝静まった時に来てくれるよう
ワガママを聞いてもろとった。
ウチは「ホンマすまんな」というジェスチャーをすると
フジはウィンクで返し、ヒシアマが大きな袋から人参の詰め合わせを
取り出してウチに渡してくれた。
それはキレイに盛り付けてあって
こないだ見せてもろた写真にあった
オグリが子供の頃に受け取ったのと全く同じやった。
ウチが「おおきにな!今度、なんかおごるわ!」
というジェスチャーを送ると、2人はニッコリしながら
軽やかにその場を去って行った。
二人への感謝を忘れないまま
ウチは忍び足でオグリの枕元まで行き
電気スタンドがおいてあった所にプレゼントを置く。
幸いオグリはテコでも起きんぐらい深く熟睡してくれとった。
よし。プレゼントを置いてミッションは9割方完了。
サンタの代役としてはまずまずの働きやと自分でも思う。
もちろん、オグリにとってのホンマのサンタ。
つまり、オグリのお母ちゃんは抜かりなく準備してくれとるん
やろうけど、オグリは直接こっちに来る事を期待しとるからな。
それに、万が一プレゼントの内容が被とっても
どっちも残さず食うやろうから問題無いしな。
さて、あとはオグリの机の上に用意されとる
ミルクと数枚のチョコチップのクッキーやな。
ウチがこれを食うて終わりやな。
オグリがサンタさんへ用意したお礼を
ウチが食べたら終わり。
……終わりなんやけど
ウチがホンマに食ってええんか。
あのオグリが一切手も付けずに用意した
サンタへのお礼をウチが横取りしてもええんか。
一応、代理人にはなるんやろうけど、ウチはサンタやない。
少なくともオグリが信じとるサンタクロースはウチじゃない。
だから、これに手を付けるんわ違う。
それが夢を守る為でも食ったらアカン気がする。
ごめんな。オグリ。
ウチは心の中で協力してくれた二人にも謝りながら
ベッドの中へと戻った。
※
「タマ!タマ!!」
まだ日の光も見えない内に
オグリがウチを布団ごと揺らす
「おう、どないしたん?」
「サンタさんが来てくれた!
私にもプレゼントを送ってくれんだ!」
「そら、よかったなー」
「見てくれ!この人参!美味しそうだ!
ドレッシングもあるんだ!」
オグリが抱えた人参の盛り合わせの
中心に高級そうなドレッシングがおった。
あんなんあったけ?
緊張しとって見逃したんやろか。
「クッキーとミルクも食べてくれた!」
オグリが指を差した先の机に
空の皿とコップがおった。
どっちかが寝ぼけて食うたんやろか?
いや、ウチの口ん中はぜんぜん甘くあらへんし
オグリが食ったとしても流石に起きた時に気づくやろ。
どういうことやろ……
「タマは自分のプレゼントを開けないのか?」
「え?ウチの?」
自分のベッドの横の机に目をやると
小さくて綺麗なプレゼンの箱があった。
あー。そういうことか
フジとヒシアマのサプライズに違いあらへん。
イナリの言葉を借りると”粋だねぇ”ってヤツやな。
「いらんとは言うたけど
貰えたら、うれしいもんやな」
「開けてみてくれ……!」
オグリにせかされてウチはプレゼントを開ける。
そこには一組の手袋がおった。
赤と青に白い模様をしとる小さな手袋が。
「サンタさん……ちゃんと手紙を読んでくれたんだ……!」
なぜか、ウチ以上にオグリがジーンとしとる。
よく分からんが、喜んどるのは確かやった。
「まぁ、とにかく大事に使わせてもらうわ。
おおきにな。サンタクロース」
サンタさんだけやなくて
フジとヒシアマに改めて礼を言わんとな、
それから、約束通りごっついウマイもん食わせたろ。
そう思っていると、じーんとしとったオグリが急に手を叩いた。
「そうだ。私からもタマにプレゼントがあるんだ」
「お、ウチも用意しとるで。
大したモンやあらへんけど」
ウチらはお互い机に隠しとったプレゼントを取り出す。
サンタさんらだけに任せるのアレやし
こういう機会やないと照れくさいからな。
「メリークリスマス。タマ」
「メリークリスマス。オグリ」
ウチらはプレゼントを交換し合う。
やっぱり、照れくさいのは変わらへん。
心がポカポカしてきてまうわ。
「ありがとう……タマ」
「ウチこそ……ありがとうな。オグリ」
中身はまだわからへんけど
きっとオグリがめちゃくちゃ悩んで選んでくれたんやろうな。
ウチを喜ばせる為だけに。
「大切なヒトからプレゼントを貰うのも
大切なヒトにプレゼントを贈るのも
どちらも同じくらい幸せなことだな……」
「せやな……」
ココにはお父ちゃんもお母ちゃんにチビたちもおらんのに
今までのクリスマスと同じくらいかけがえのない日に今日はなる。
何故かウチはそう信じる事ができた。
※
『サンタさんへ。
毎年、プレゼントをありがとうございます。
私は今年も良い子でいられたでしょうか。
もし、私が良い子であり、プレゼントをくださるのでしたら
私へのプレゼントを私の代わりに私の親友である
タマモクロスに送ってほしいです。
タマは都会に慣れていない私をいつも助けてくれて
暇さえあれば、とても美味しいタコ焼きを私に作ってくれますし
後輩への練習にも優しく丁寧に付き添っているのをよく見かけます。
自分のお金もほとんど家族への贈り物に使っているのです。
タマはいつも自分よりも他のヒトを優先します。
そんな彼女だからこそ、プレゼントを貰うのに最も相応しい良い子だと思います。
でも、タマはプレゼントを自分からお願いしません。
それもサンタさんの負担を増やしたくないという
彼女の優しさによるものからなのです。
だからこそ、私へのプレゼントをタマに送ってほしいです。
毎年、とてもお忙しいのに今年はいつもより
ワガママなお願いをしてしまい。ごめんなさい。
オグリキャップより』