銀灰色の骨を継ぐ   作:しじみ酢

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プロローグ
プロローグ・灰被りのアルヴァレス


「脱獄だ! 早く、そいつ等を捕まえろ……!」

 

俺はひたすら全速力で走る。

 

 

いつもは、パパに怒られる裸足だけど。

 

 

いつもは、ママに起きてちゃいけないって言われる夜だけど。

 

 

いつもは、一緒に遊んじゃ駄目なお友達と一緒だけど。

 

 

「でも、もうそんなの気にしちゃ駄目なんだよ俺達は……!」

 

 

正直に言うと必死すぎて、自分でもどこへ向かっているのかすら分かっていない。

 

つまり計画も無しに複数の友達を連れて、パパやママの言いつけに反していると言う事だ。

 

ちなみにそう言った部分も含めて、俺は気にしないつもりで居る。

 

 

 

 

だって、外に出たのは人生で初めてだから――。

 

 

 

 

「もう、色々考えてる場合じゃねえって言うか……気にしてる場合じゃねえって言うか……。そもそもよ……こりゃ、どうすりゃいいんだ? とりあえず、友達だけでも……」

 

そんな悪い子の俺へ、鳴り響くのは低い鐘の音。

 

 

「……クソッ。追っ手だ。何だよ、パパとママは……俺達をどうしたいんだ。なあ……!」

 

 

まるで、どう足掻いても逃れる事の無い絶対的な裁きの時が訪れたが如く。

 

そう、まるで生まれるべきじゃなかったとでも言う様に、俺達へ向けて鐘の音は鳴る。

 

俺は思わずこの鐘の真意を考えてしまい、全身が固まったかの様にたじろいでしまう。

 

 

 

 

しかしその真意に対して答えを示す様に防護服を着た謎の追跡者が、四方八方から俺と友達の後を付け狙う。

 

「おい、早く……逃げちまおう。何か……ずっと考えてたら、気が狂いそうだからよ」

 

 

 

 

 

 

    ◇      ◇      ◇

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……この壁の上に、登れるかもしれねえな。今の俺達なら」

 

 

それは真上に向けて手を仰いでみても、全く届かない高さを誇る防護壁。

 

言い方を変えれば、俺達の世界と外の世界を阻む障壁。

 

さらにちょっと捻ってみれば、この実験施設から俺達を逃さない為に用意された結界。

 

いずれにせよ逃げ惑う俺達へ道を塞ぐ様に、その壁は行く手を遮る。

 

「ちょ……ちょっと大丈夫なの、アルヴァレス」

 

隣では不安そうな顔を覗かせる少女が、俺の腕を手に取る。

 

「私、まだ怖いよ。……外に出るの」

 

その言葉の通り、彼女の手はプルプルと小刻みに震えているのが俺にも伝わってくる。

 

「……大丈夫だ。大丈夫、パーム。あんな奴等なんて目じゃねェから。だって、そうだろ? 俺達全員、能力者なんだからよ……!」

 

 

 

 

俺の発言に合わせる様に壁の向こう側から、徐々に眩い光が昇って照らされる。

 

 

 

 

「あれがずっと、パパやママから聞いてた……タイヨウ、か」

 

 

 

 

 

牛の角が双方に付いた骸骨で出来上がった俺の面も――。

 

 

 

 

「それに……お前等の夢なんだろ、陽の当たる道で普通の人生を送りたいって」

 

「……うん」

 

「俺はこの骸骨面だから無理だけど、お前等なら送れるって。だから……」

 

寂しがりな彼女の手は、身体中から骨が見え隠れする俺の腕を決して離そうとはしなかった。

 

「ねえ……一緒に行かないの?」

 

「……」

 

「嫌だよ、同じ道歩いてくれなきゃ……」

 

「……」

 

俺はその問いに答える事は無い。

 

「私なら、私達なら、もう大丈夫……。もう覚悟決めたよ。皆と一緒なら、怖くないもん」

 

されど俺は無言で力強くされど、優しさも添えて彼女の手を握り返す。

 

「……返事は言わねェぞ」

 

隠す顔も皮も無いのに照れ隠しで俺は彼女の返事を応えないで、壁の淵まで一気に登頂する。

 

 

 

 

 

「あー、好きな人に手握られてびびっちまったよ。いやあ、心臓バクバク言ってやがる。あるかどうか分かんねェのに」

 

「ふう、ちょっと落ち着いてきたか。そろそろあいつ等の為にもちゃんとしないとな……」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は初めて、外の世界を触れる。

 

 

俺は初めて、外の世界に吸う。

 

 

俺は初めて、外の世界を味わう。

 

 

俺は初めて、外の世界をあえて見ない。

 

 

改めて俺は初めて、外の世界を見る。

 

 

俺は初めて、外の世界を吐く。

 

 

俺は初めて――。

 

 

俺は初めて――。

 

 

俺は初めて――。

 

 

俺は初めて――目玉の無い窪みから涙を流す。

 

 

 

「あ、あれ……。何でだよ……。まだ、友達も助けてないのに」

 

俺を裁く鐘の音は、まだ鳴り響いているのに。

 

四方八方どころでは無い、数十方に近づく追跡者の足音が聞こえるのに。

 

まだ一番大事な友達は上に登る俺を見て、不安げな表情なのに。

 

何故か、俺の眼からは涙が止まらない。

 

 

そうだ、俺だって暗闇はまだ泣くほど怖い。

 

そうだ、俺だって裸足で走ったもんだから足の裏が泣くほど痛い。

 

そうだ、俺だって本当はパパやママを裏切って良かったかとか、本当に友達を連れて逃げる事が正しかったかとか、ずっとずっとずっと考えてた。

 

 

 

 

それなのにその時、俺は初めて外の世界に感じた。

 

 

 

 

 

「これが……冒険の夜明けか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――世はまさに大海賊時代。

 

男達がグランドラインを目指し、夢を追い続けていた時代。

 

のはずが、今の俺はコロシアムと思わしき円形の巨大闘技場の淵の隅っこの方に座って黄昏ていた。

 

誰にも言わないで、それも一人でひっそりと。

 

「此処に居ると良いんだけどな……。当てが外れるとそろそろ困っちまうからよ」

 

俺は魂が無くなった抜け殻の様に、陽の当たる街の景色を意味も無く眺めてみる。

 

「良いね良いね……。あの人に会うに相応しい情熱的な街だな、ドレスローザ。オモチャも手土産に出来るし。……後はあの実もついでに届けてやろうか」

 

そんなドレスローザを、俺は棒読みの様に呟きながら見下ろす。

 

この街は動くオモチャの兵隊と言い、情熱的な踊りと言い、メラメラの実を景品とした殺し合いコロシアムと言い、随分賑やかで楽しそうに見える。

 

それだけ対比する様に、俺の顔面は相変わらず骸骨だけで強張っていた。

 

真っ赤なロングコートと顔の下部分を大きく覆い隠すマフラーをはためかせながら。

 

「おっと……こんなところに居たんだべか。偽ソウルキング」

 

すると折角、独占していた俺の淵にいきなり座り込む無礼者が登場。

 

「何しに来たんだよ……バルトロメオ」

 

髑髏な俺よりもド派手なパンクファッションに身を包む男は、それを聞いて軽々しく笑う。

 

「へっ……もう知ってっぺ。今日こそ、海賊の! いや麦わらの一味の! 素晴らしさを説きに来たんだべ。海賊なのに海賊嫌いって言う、偽ソウル……」

 

「何回でも言うけど違えから。俺は……アルヴァレス。シバルバー・アルヴァレスだ。二度と偽ソウルキングとか変なあだ名付けんなよ。どこから、偽と魂と王が来たんだっつの。あと、俺は海賊じゃねえからな……!」

 

俺の名はシバルバー・アルヴァレス。

 

自分でも訳が分かんない程にミステリアスな実験施設で、ずっとモルモット扱いされていた奴隷だ。

 

顔が角の生えた髑髏と言うのも、其処の実験の影響が災いした結果。

 

んでもってそれが嫌で嫌で必死に脱獄して逃げ回っていたら、丁度一年前から海賊、それも大物ルーキーとして指名手配されてしまった。

 

付いた異名は灰被りのアルヴァレス。懸賞金は二億ベリー。

 

正直言えば特に悪い事はしてないので、俺の中では全く持って心外と言える。顔が怖いと言えば怖いのは確かだが。

 

そして……とある事情から、俺はこのドレスローザと言う国を来訪する。

 

勿論、目的は観光じゃない。この国のコロシアムで催されている闘技大会の景品であるメラメラの実を手に入れる為だ。

 

「相変わらず、失礼なやつだべなァ……? そのご尊顔がソウルキング様に似てなかったら、無い面をボコボコにして無い舌を切り抜いて無い目玉を引っっっこ抜いて、地獄に突き落としてたぬべだからなあ!」

 

後半は訛りがきついとか関係無く言語が分からなかったが、とにかくバルトロメオは本気で地団太を踏む。

 

バルトロメオ。海賊団「バルトクラブ」船長であり、彼とは一年前のルーキーとしての同期、腐れ縁、海賊仲間……と言う事に世間ではなっているらしい。

 

だが当たっているのはせいぜい、腐れ縁くらいだ。腐る肉無いのに。

 

と言うのも実は諸事情により、俺は海賊嫌いである。それも海賊をこの手で滅ぼしたいと思っている程に海賊が大嫌いだ。

 

そんな海賊嫌いである俺と海賊に憧れを持つバルトロメオの相性は抜群に悪かった。

 

それでも何故か知らないと言うか、思考が似ているからと言うか、大体は俺の行く先にバルトロメオが居た。

 

そしてこの地ドレスローザでも、残念ながら例外では無かった様だ。

 

「……俺だって、試合前は暴れちゃ駄目って言うルールが無かったら真っ先にお前をぶん殴ってたぜ。てか……ルールを守る海賊がどこに居るんだよ。ほら、だから俺は海賊じゃねェ」

 

「何故……顔はソウルキング様に似てて、中身がこんなに醜いんだべ。とりあえず、ソウルキング様に似てるならそれに相応しい考えを持つべきだっぺ……! まず、歌の練習から始めて、それから……」

 

「い、嫌だ……。何で海賊なのに歌を歌うんだよ……」

 

「何故……?おめェそりゃよ……海賊は夜を明かすまで、陽気な歌を歌うもんだからだべ……! 海賊じゃ常識だべよ! あー、ルフィ先輩は三日三晩歌い続けてもおかしくねェべ!」

 

「……もう、俺の方がおかしくなりそうなんだけど」

 

とりあえず俺はこれ以上、バルトロメオと話しても無駄だと悟って、無理やり話を切り変える事にした。

 

「おほん……。それでよ……本当は何で此処に来たんだよ。麦わらの一味講座なら、もう効果が無いくらい分かってんだろ? ずっとスカルジョークとか言って来ても無駄だからな」

 

すると俺に合わせる様に、バルトロメオは珍しく少し真面目な顔で質問で返してくる。

 

「へはは……。おめェ……他の仲間はどうしたべ。何で一人でメラメラの実を狙ってるっぺ」

 

「……さあな。それが不思議な事でよ、俺も分からねえんだ。はは……何でだろうな」

 

しかし俺はバルトロメオの返事どころか顔すら見る事無く、矢継ぎ早に話を勝手に進める。

 

「バルトロメオはBブロックだろ? そろそろお前の出番じゃねえのか。ほら……俺に構ってないでとっとと失せろって」

 

「……おれの質問に答え

 

「あー、失せないなら……俺から失せてやるぜ」

 

そう歯切れを悪そうに言い残して、俺は能力を使って一瞬で消え去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はメラメラの実が欲しい。

 

何故か。もう一度だけでも良い、パパとママに会う為だ。

 

「少なくともロギア好きのパパは……フラット・アヴァンは……絶対、メラメラの実を手に入れる為にこのコロシアムに参加するはずだ」

 

俺は家族の愛が欲しい。

 

何故か。友達がみんな、死んだからだ。俺の初恋の相手パームも死んだ。

 

どうやら多くの実験における影響やら、クローンと言う意味不明な技術やら、とにかく俺達の寿命はかなり短かったらしい。

 

「だから、何で俺を……俺達をクローンとして生んだのか教えて欲しい。それを……直接、聞きたい。今度は……ちゃんと聞きたいんだよ。俺はいっつも返事聞かないからさ」

 

俺は存在証明が欲しい。

 

何故か。……何でだろうな。何で俺は……こんなに欲しいんだろうな。

 

「でも家族なら、知ってると思うんだ。特にママは天才らしいから、パパがよく言ってた」

 

 

 

 

 

 

 

――なあ、ベガパンクママ。

 

 

 

 

 

 

 

俺は灰被りのアルヴァレス。

 

この俺をクローンとやらで生み出したのは、助手のフラット・アヴァンと言う人物。

 

そして何を隠そう歴史に名を残す天才科学者、ベガパンクである。




アルヴァレスはフラットと言う人物によって情報規制されてる故。ベガパンクについてあんまり分かってないです。
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