銀灰色の骨を継ぐ   作:しじみ酢

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プロローグ・灰撒き姫アルテ

此処は愛と情熱とオモチャの国、ドレスローザ。

 

この国はかぐわしき花々、この国自慢の料理の香り、女たちの情熱的な踊り、そして命を宿したオモチャ達で訪れた者達をあの手この手で魅了する。

 

だがただ一人、そのいずれにも当てはまらない魅力に吸い寄せられた者が居た――。

 

「んん……ええのお。斬り合いじゃ、斬り合いじゃ。やっぱり、こう言う単純な殺しこそ……一番わしの血を滾らせてくれるわ」

 

 

 

 

 

ドレスローザ名物、コリーダコロシアムからは今日も惜しむ事無き歓声が鳴り響く。

 

 

 

 

しかし彼女の登場によって、それは一瞬で打ち破られる。

 

 

 

 

――さあ、続いてBブロックに現れたのはこの女、いや……お姫様と言うべきか。灰色の可憐なドレスに身を包み、灰色のザンバラ髪を存分に振り撒き、座るも立つも歩くも踊るもその様は、戦地に咲く一輪の高嶺の花!」

 

私はヒールとは言わずとも、少し踵の高い靴を履きながら一歩一歩力強くコロシアム入り口にて歩みを進める。

 

「全く持って、戦場には向かない格好に見える事だろう。戦場は社交場では無いぞ、お姫様! ……されど、油断は禁物。その紅き瞳は狂気を宿しているのだから……!」

 

私は完全に血走った眼で、血を欲する唇で、血を浴びた体で、腰にぶら下げた二本の日本刀に手をかける。

 

「彼女は、かの天竜のお膝元に鎮座する奴隷国家セルアヴァンの第一王女! 正真正銘のプリンセスにも拘らず、戦場で刑に処した大将首は幾星霜! 自らその手を真っ赤に染める事を好む、正真正銘の処刑人! 恐らく、このコロシアムの門を叩いたのもこの場に居る者、全員の虐殺が目的であろう!」

 

歓声もブーイングも鳴らない、珍しく静寂に包まれたコロシアム。

 

私はそれに向けて、胸を自身の手に当てながら優雅に一礼してみせる。

 

「人は!彼女を!こう呼ぶ!灰撒鬼姫(はいまきひめ)と! アルテ・アヴァンと!」

 

ご紹介の通り、私はアルテ・アヴァン。

 

大体のご説明は実況がしてくれた通り。気楽でとっても助かる事。

 

ただし補足させて貰うと、私は私でこのコロシアムを訪れた理由は在る。

 

それはとある人物に、メラメラの実を献上する事。

 

「ふっ、何じゃ……辛気臭いのお。わしの処刑を無料で見れる訳じゃからなァ、もっと盛大に盛り上がろうぞ……!」

 

心底意地悪そうな顔でわしは……いえ、私は周囲の観客もとい、コロシアムの参加者達を瞳孔の開いた眼で眺める。

 

しかし誰も彼も、すべからく判を押した様な辛気臭い顔をしている様に見えてしまう。

 

せいぜい、空手家っぽい魚人の方、足がすこぶる長い方、一つ飛ばしてシャドーボクシングを嗜む王様と言う、私と王族の立ち位置が被っている方が目を見張るくらいと言える。

 

「ガマハハハ……。まさか国王様と同じく、世界会議に加盟しているセルアヴァンの姫君が居るとは予想外。……いやはや、少しばかり賄賂不足だったかな」

 

すると一つ飛ばした方、顎と髪が無いダルマっぽい人物が弱音と本音を入り混じった呟きを私に聞かせて来る。

 

「ほう……貴様、加盟国の関係者じゃったか。まあ、あんまり気にするでない。これはわしが個人的にやっとる事じゃ。お父様……主にとっては国王と言った方がええの。あやつには何も伝えておらん」

 

「ちょ、ちょっと待て。何故、殺し合う方向に行く。こう言うのは交渉次第で……」

 

しかし、彼の焦りに満ちた発言は途端に遮られてしまう。

 

何故ならとある青年が現れた瞬間、今まで黙りこくっていた観客が盛大に沸き立ったから。

 

大ブーイングと言う悪い意味で。

 

 

 

 

「今もっとも消えて欲しい海賊No,1! 海賊バルトロメオ――!」

 

 

 

 

「ばるとろめお……? お主、随分人気者じゃのお。嫉妬するわ。わしなど、コロシアムに敬意を表して一礼までしたと言うのに」

 

そのとある青年のバルトロメオは、鼻を右の小指で穿り回していた。

 

「へはははは、おれはアルテ姫の事好きだっぺよ。あの醜い観客を無言の圧だけで騙させたのがスカっとしたべ」

 

「それは嬉しい事じゃのお。わしもお主の事、嫌いじゃない。……何故だか、何度斬っても丈夫そうじゃからな」

 

私は二本の日本刀を目にも止まらぬ速さで抜刀する。

 

「お褒めの言葉、感謝するべ。けど、おれは別に本命が居るっぺ。ああ……メラメラの実はプレゼント出来ないのが残念だべな」

 

「安心せえ。わしは、自力で手に入れるつもりじゃからな。それが私へ、お父様のサプライズプレゼントと言う奴だから……!」

 

 

私は思わず、心の声と同じ素が出てしまった。

 

 

 

 

 

 

――ああ、駄目じゃないか。アルテ姫。

 

低い鐘の音の様な、澄んでいながらもどこか影のある声が私の脳内にこだまする。

 

――君の一人称は「わし」。二人称は「貴様」。最後の語尾には「じゃ」を付ける事。私はそれ以外を君の娘とは認めないよ。次に妙な言葉を口走ったら、手錠と首輪をプレゼントしよう。

 

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい――。

 

――冗談だよ。家族であるこの私が天才の君にそんな酷い事はしない。さあ、食事の時間だ。今日は、頭の栄養に良い食物で揃えたんだ。全部、食べると良い。

 

分かりました。分かりました。分かりました――。

 

だから……私を捨てないで。私を欲しがって。

 

 

 

 

 

私はメラメラの実が欲しい。

 

何故か。パパとママを喜ばせたいからだ。

 

「わしのお父様はロギアの研究に熱心でのォ……。そりゃあ、人造悪魔の実スマイルのロギア版を造るくらいにのォ……」

 

私は家族の愛が欲しい。

 

何故か。私には家族以外、何も分からないからだ。

 

どうやら私は箱入り娘らしく、有害であったり無価値である情報とお父様に判断された物は全て禁止されていた。

 

友達、オモチャ、料理、花々にすら興味を持つ事は許されなかった。

 

私に許されていたのは、殺す事だけ。まるで兵器の様に。

 

「だからの、お父様は大将首を刈り取った時だけ褒めてくれたんじゃ。……わしには殺しの才能がある、戦闘の天才じゃと。だから……それだけ、伸ばせば良いと」

 

私は存在証明が欲しい。

 

何故か。私はお父様に愛されたと言う証明を形として見たいから。

 

それがメラメラの実。きっとお父様は初めて、私を見て褒めてくれるから。

 

 

 

 

 

それでも頭の中ではまだ、低い鐘の音がずっと鳴り響く。

 

どの歓声よりも大きく、どの断末魔よりも大きく、どのトラウマよりも大きく――。

 

そしてそれを開始のゴングとする様に、138人のBブロック、もといバトルロイヤルの火蓋は切られる。

 

「さてはて……見ててくれると嬉しいのじゃがな、お父様……いや、フラット・アヴァン」

 

 

私は灰撒鬼姫アルテ。

 

そう、自分の意思がない空っぽな癖に、愛の証明だけはやたら欲しがる単なるお父様の人形だ。




この次の話から、アルヴァレス編とアルテ姫編に分かれます。特にどちらから読んだ方がいいとかは無いです。ご自由にお読みくださいませ。
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