可愛い二人を書きたいだけの突貫なので中身は無いです。
紲星あかりは一人っ子だ。
彼女は裕福な家の元で生まれ優しい両親に育てられた結果、擦れることもなく心優しい良い子に育った。
だから両親に不満なんてほとんど思ったこともなかったが、それでも先日こちらに越してきて挨拶に来た東北家のご令嬢などを見ると、やはり兄弟姉妹が欲しかったなあという願望は拭いきれない。いや、厳密には姉のような人物は既にいるので年下の妹か弟。できれば妹が欲しかった。
よって目が覚めたらその姉のように慕っていた同居人が幼くなっていたことに対し、この理想を満喫するべきであると脳が判断を下すのも仕方ないのだ。あかりは冷静にスマホを起動した。
「うわぁぁぁゆかりさんが幼くなってる!!!!!かわぁいいいいいい!!!」
「あかりしゃんしゃしんとるのやめてください」
「舌っ足らずなゆかりさん可愛い!かわいいいいいいいいいいい!!!」
「おちつきましたか?」
「はい……」
床の寒さを下腿で感じながら、あかりは目の前のソファーに座る小学生くらいの幼い少女に向き合っていた。ちらりと視線を前を向ければ、世間的には珍しい、しかし自分にとっては非常に親しみのある、綺麗なアメジストの色をした瞳が呆れたようにこちらを見つめている。
普段なら絶対にしない、とろんと少し眠そうな眼。ふっくらと膨らむ頬、それに血色の良い肌は暖かそうで、素晴らしい抱き枕になるだろう。思わず抱きつきたくなる衝動を全力で抑えて、彼女の助力になれるように頭を落ち着かせた……仮に夢の中と言えど、ゆかりさんを困らせるのは本意では無いのだ。もう夢ではないと分かっていれば尚のこと。
さっきのはほら、寝起きに破壊力抜群のものがあった訳だから、紲星法第三条において不可抗力が成立する。仕方の無いことだったんだ。
「えーと、間違いないとは思いますが一応確認します。あなたはゆかりさんなんですよね?」
「はい、そうなんです。けさ目がさめたらせがちぢんでしまっていて」
「理由とかは思いつきませんか?」
「いえ、とくには……」
他にもここ最近の出来事などを聞きだしたが、どうやら彼女には黒の組織との関わりも無ければドラゴンボールを集めた記憶も無いようで、それはつまり治す方法が検討も付かないということでもあった。あかりとしてはもうお医者様の手を借りるくらいしか思いつかない、お手上げだ。この場合保険証は使えるのか、そして小児科に行くべきなのだろうか。
ゆかりさんの両親は自分の親と同じように海外で生活しているので、気軽に呼び出すことは難しい……というか、本人があまり迷惑をかけたくないらしい。でも、そんな事を言ってる場合ではない気がする。それにゆかりさんが幼くなってると言えばどんな用事が入ってたとしていてもキャンセルして直ぐにここに戻ってくるだろう。そして撮影会が始まる。ゆかりさんの両親とはそういう人たちだ。あかりの両親もそんな感じだけど。まぁ、一先ずはゆかりさんの意見を尊重しよう。
とはいえこのまま何もしないのは問題だし、もし体調が悪化してしまったりしてしまったらどうすればいいのか。責任を負うのも少し怖いけれど、それよりも遥かにゆかりさんの身に取り返しのつかない事が起きてしまった時の方が、怖い。考えるだけで、頭が真っ白になる。だけど何をするのが正しいのか分からない。
ゆかりさんがソファーから降りてあかりを心配そうに見上げているのにも気が付かないほど、頭の中がぐちゃぐちゃに絡まって精神を削る。ネガティブな想像が脳内で大きくなって、どうすればいいのか分からなくなる。頭から血が引いて、呼吸が上手く出来ない。今、ちゃんと立てているのかどうか。こんな場合じゃないのに。絶対、ゆかりさんの方が焦っているはずだから。でも、でも。
パニックに陥ったあかりに対し、ゆかりさんはくすりと笑うとそのちいさな両手であかりの右手を優しく握り、安心させるように落ち着いた口調で言い聞かせるように言った。
「だいじょうぶですよ。とくに体調がわるいというわけではないので。幸い今日は休みですし、ようすを見て明日もなおっていなかったらびょういんにいこうと思います」
「……分かりました、家事は任せてください!」
ゆかりさんの声が耳に入った瞬間、あれだけ脳内で煩雑に散らばっていた思考の群れがちょっと憎たらしいほどにあかりの言うことを聞き始める。突然できた妹のような存在に対しお姉さんぶりたい気持ちはあったが、ゆかりさんは幼くなってもゆかりさん。聞いているだけの自分よりも、当事者であるはずのゆかりさんの方が遥かに冷静で落ち着いていたことに少しショックはある。が、そこで腐らず、自分に出来そうなことを探して全力で取り組むのが紲星あかりが自認する数多くの長所の一つだ。
「ゆかりさん!他に何かやって欲しいこととか、欲しいものとかはありますか?」
「いえ……とくにはないですね。ありがとうございます。その気持ちだけでうれしいですよ」
ゆかりさんが微笑む。いや、多分微笑んだつもりなんだろう。けれど、その表情には明らかに陰りがあった。本人は気付いていないが、今の幼い顔立ちだとあかりでも一目で分かるほど焦りや悲しさが顔に浮かんでいる。手をにぎにぎしている場合じゃなかった。慌てて尋ねる。
「あ、あれ?ゆかりさん、どうしたんですか?ど、どこか痛むんですか!?」
「いえ、たいしたことでは……」
「そんな表情をしているとそうとはとてもじゃないけれど思えませんよ!?」
誤魔化すように顔を下に逸らしてしまったゆかりさん。どうやら話すつもりは無いらしいが、先程の表情を見るに何か予定があったのは間違いないだろう。しかし話してくれる様子は無いようで、困ったあかりは少し考えてから立ち上がり、ゆかりさんの前で大きく腕を広げた。
「ゆかりさん! そういえば今日のハグやってませんよ!」
「えっ? いつもやってませんよね?」
「この世界線では毎日やってました! さぁ! どうぞ!!」
「えぇ……? こうですか?」
突然の提案に困惑していたものの、一歩も引かないあかりにこれはやるまで言い続けそう、と意志の固さを感じ取ったのかしずしずとゆかりさんが手を広げて近付く。すると思っていたよりも優しく、小さな背中にあかりの腕が回された。
そして泣いている子供を親があやすように頭を撫でながら、背中を軽く押される。 身長差からあかりの心臓の音が聞こえてきて。溶けてしまいそうな、か細い声がゆかりさんの喉から零れる。ゆかりさんには見えていないが、あかりも耳を真っ赤に染まっていた。
「は、はずかしいのですが……」
「わ、私も恥ずかしいです!」
「じゃあなんでこんなことするんですか!?」
「今は私の方がお姉さん、なので。それに実は姉妹でこういう風にするの、憧れてたんです」
えへへ、とあかりが笑った。ぽろぽろと薄紫の瞳からは涙が溢れて、星柄のパジャマを染める。ゆかりさんの胸中には申し訳なさと、感動にも似た喜びがあった。ああ、自分の思っていた以上に私の妹は成長していたらしい。
「ありがとう、ございます。あかり」
「えへへ……あ、あとね! あかりお姉ちゃんって呼んでもいいよ! あとで用意するから録音させてね!!」
「そんなことはしません、だいなしです」
「なんで!?」
涙は引っ込んだ。
「はぁ……からだが幼いとかんじょうのおさえがききにくくてこまりますね」
「もっと甘えてもよかったんですよ? それで、用事ってなんだったんですか?」
「あー……ええっと、明日はあかりのたんじょうびじゃないですか」
「ゆかりさんの誕生日でもありますけどね。プレゼントを買ってきてくれるつもりだったんですか?」
「いえ、プレゼントじたいは買ってありますが、それをうけとりに行くよていでした」
ゆかりさんの用事というのは、12月22日……つまり明日、あかりの誕生日にプレゼントとして購入しておいたピアスをこっそりと店に受け取りに行くことだった。しかし、こんな見た目では受け取るどころか、一人で外に出ることすら避けるべきだ、と冷静に直ぐ結論を出していたし、そんな事はそもそも考えるまでもなく分かっていて、ちゃんと諦めたはずだったのだけども、どうやら上手く整理しきれていなかったらしい。
それにこの幼い身体は驚くほど素直に感情を吐露してしまったから、もうサプライズも何も無いだろう。再び憂鬱の色が揺らぐ瞳に現れはじめたゆかりさんに対し、感極まったあかりが抱きつきながら提案した。
「じゃあ、一緒に取りに行きましょう!」
「えっ?」
「今日一日くらいは折角ですし、めいいっぱい楽しんじゃいませんか?深く考えるのは明日からなんて、ゆかりさんさえ良ければ」
「……その言い方ははんそくです。でも、そうしましょうか。おねがいしますね」
「勿論です!ゆかりさんが迷子にならないようにずっと手を握っておきますね!」
そして、買い物の途中で偶然弦巻マキや東北家、琴葉姉妹に会い、彼女らにゆかりさんがハグされたり、僅かに目を離した隙にクリスマスイベントで賑わう客達によってはぐれかけたあかりが迷子センターに走りかけたり、昼食を頼んだら小さくなった胃に全然収まらず2人で分け合ったり、なんやかんやあってプレゼントであるお揃いの二人分のピアスを受け取り、感激したあかりがやはり再びゆかりに抱きつくなど色々あった。本当に色々あったが、無事に2人は家に帰って、その日は2人で遊び尽くした。
そして次の日の朝。
「おはようございます、あかりちゃん。昨日はご心配をお掛けしました。理由はよく分かりませんが、戻れて良かったです」
「あ、ゆかりちゃんが、ゆかりさんになってる……」
目が覚めたあかりが隣を見ると、そこにはいつもの……女子高生と言っても肌のキメも髪の艶やかさも全然違和感のない、今年で30歳と思えないようなゆかりさん。
「今余計なこと考えてましたね」
「私の妹を返して……」
「何寝惚けた事を言ってるんですか、ほら」
徐ろに腕を水平に広げたゆかりさんにあかりは首を傾げる。斜めの世界では耳につけた月のピアスが少しだけ揺れていて、長い睫毛が微かに震え、白い頬が僅かに紅潮していた。透き通るような瞳と目が合う。早くしてくださいと訴えかけているようにも思える。何を?
「あのー、ゆかりさん。これは一体?」
「今日のハグです、毎日やっていたんですよね?」
「いや、あれはもう世界線が違うので……」
「姉妹でこういう風にするのが憧れだったんですよね?」
「それは私が姉で妹に対してってことであってですね……」
もちろん嫌な訳ではないし、むしろハグしたいとは思ってるけど……と口ごもって中々動こうとしないあかりに対し、ゆかりさんは聞いてるこちらが苦しくなるような悲しげな声を出して、これでもかと罪悪感を刺激するような表情で尋ねた。
「あかりは今の私とハグするのは嫌ですか?」
「慎んでさせていただきますっ!」
これに逆らうのは紲星法第四条において重罪に値する。意を決して手を広げると、ゆかりさんの腕があかりの背中に優しく回された。あかりとは違う、慣れた手付き。髪を柔らかく撫でられ、背中を軽くさすられて。耳元にはゆかりさんの艶やかな吐息が聴こえてくる。五感全てが心地良い。良すぎた。
ふわふわとした幸福感と快感の前にあかりは為す術なく脱力し、ふにゃりとゆかりさんの胸元に上体を倒れ込む。子供の頃、何か悲しいことがあるとゆかりさんにこうやって慰められていたおかげであかりはゆかりさんはあかり専用のハグスキルでも言うべき技術を手に入れ、逆にあかりはゆかりさんとのハグに耐性が全く無くなってしまった。あかりがゆかりさん(大人)とのハグを躊躇った理由はこれだ。憧れの人にあまり子供みたいな姿を見せるのは嫌だった、なんて子供らしい理由。
蕩けたような声で言葉にならない声を呟くあかりを慈しむ目で見つめるゆかりさん。ぐずぐずと後ろ髪を引かれる思いでゆかりさんと離れてから数十秒後、頭を撫でられながらようやくあかりの意識がちゃんと覚醒した。
「気持ち良かったみたいで良かったです。ふふ、昨日はとても頼りになりましたが、あかりもまだまだ子供ですね」
「……! わ、私、もう20歳ですから! 子供じゃないですよ! お酒も飲めますから!」
「そうですね、この日の為に取っておいたお酒があるので一緒に飲みましょうか。改めてお誕生日おめでとうございます、あかり」
「あっ……ありがとうございます! ゆかりさんも、お誕生日おめでとうございます!!」
「そういえば、なんで幼くなったか分かったんですか?」
「いえ。ですがイタコさんに聞いた所、雫や萌が関係しているとか何とか……何のことかよく分かりませんが、あかりもなる可能性はあるみたいですから、不調を感じたら直ぐに言ってくださいね? まあ、健康に害は全くないらしいですし、長くても数日のうちには戻るようなので安心と言えば安心ですが」
「大丈夫ですよ! ゆかりさんのおかげでどんな感じなのかは分かりましたし、私はもう大人ですからね! それよりお酒飲みましょ! おしゃけ!」
「もう酔ってます? 初めての飲酒ですし無理はしないでくださいね」
次の日、やはり紲星あかりも5歳くらいに若返っていた。更に子供の頃を思い出したゆかりさんがふやけるほどに甘やかした結果、ゆかりさんに撫でられないと朝すら起きれない身体にされてしまい、戻ったあとの日常生活にも支障をきたすことになったのは完全に余談である。
後書きを書いてる時点で約40分の遅刻。
ゆかりさん30歳は間違いなく美人だしあかりちゃん20歳はそんなゆかりさんにキラキラとした目を向けて憧れててほしい。
なにはともあれお二人ともおめでとうございます。