人間をやめる少女の話

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初執筆&初投稿です
ガールズラブってついてますがイチャイチャとかはなく
ただその概念が存在するだけです。ご注意ください




堕天

 

 

「………………」

 

 

人類に限らず私達のように限りのある生を持つ者の根源には「繁栄」の二文字が刻み込まれている。

文明を発達させ、心を発達させ、生を発達させる。

この胸の内の感情の起伏がその証左だろう。

 

そうして世界が理性を得て繁栄した結果、私達は多くの選択肢ーー余裕を得ることになった。

 

 

「………………」

 

 

だとしても人類は繁栄を止めない。

 

余裕を持った人類は狭まっていた視野を広めた。

自由を許した。異なる思想を許した。誤りを許した。挑戦を許した。娯楽を許した。余裕を許した。

 

そうしてさらに世界は多様性の名の元に繁栄を遂げた。

 

 

「………………」

 

 

故に人類は気づいた。気づいてしまった。

 

 

 

例え同じ人類であろうと潜在的に排斥される存在があることを。

 

 

 

死んだ方が良い存在があることを。

 

 

「………………」

 

 

結局のところ、多様性なんて都合の良い言葉であって、私のような存在からしたら人間が受け入れることの出来る限界を定義しただけにすぎないのだ。

そしてそこに私は含まれていない。

 

人は人だ。どれだけ繁栄を遂げようとも、豊かさを得ようとも、その根源は不変である。

ならば子も産めず、何の生産性もない、むしろ徒に消費し続けるような、人ではない存在なんて許すわけがない。

 

 

「………………」

 

 

されど世界はそれを受け入れた。

 

人類は理性を得た振りをした獣だ。

どこまでも愚直に根源に従い続ける。

故に人ではない存在を人は許さない。生産性のない存在を許さない。繁栄の妨げになる存在を許さない。

だがそれ以上に人は死んだ方が良い存在を殺さない、殺せない。

 

当然のことだ。

気持ち悪いから排除する、そんな感情的な行動は自らが培ってきた理性を、積み上げた繁栄を否定することであるのだから。

 

だから世界はそれを受け入れた。

 

 

「………………」

 

 

私は絶望した。

世界が私達を受け入れることーー私にとってそれは世界が私のことを死んだ方が良い存在であると認めたことと同じだった。

 

私は異端で、少数で、誤りだった。

 

生まれてきてはいけなかった。

 

 

「………………」

 

 

なまじ娯楽が発達した世界だ。人の数だけ思想が存在する。

次元の違うそこに目を落とせば、それはさぞかし美しく見えるだろう。

だがそれまでだ。

愛だの心だのドラマだのロマンチックだの言うが、結局のところそれが定義されるのは理解できるものに対してだけ。

 

この世界において私のような理解の出来ないものには確な居場所なんて存在しない。

 

根本的に相容れない存在なのだ。

理性を得ようとも本能的に理解することは絶体に出来ない。

 

それが人なのだから。

 

 

「………………」

 

 

別に全人類がそんなことを考えてるだなんて思っていない。私がネガティブすぎるだけなんだろう。

勝手に期待して、勝手に絶望して、勝手に死ぬ。

きっとこんな私にだって理解を示してくれる人も数少ないが存在するのだろう。

 

 

「………………」

 

 

ただ、もう潮時だろう。

疲れたのだ。

自らを偽るのは、人間であるのは、人間の振りをするのは。

 

 

「………………」

 

 

天井に吊るした紐に近づく。

紐を首にかける。

私は人間をやめる。

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

椅子から飛び降りる。

締め付けてくる首の痛みが確かな生を実感させる。

人もどきの、人としての最初で最後の生を。

 

私が死んでも残るのは冷たくなった人もどきの残滓と死んだ方が良い存在が死んだという事実のみ。

 

生み出した、何て言ったら私も人間になれるのだろうか。

皮肉なことだ。

そんなもの、他者にとってみれば必要のない、人であることの対極にある忌み嫌われるものでしかないのに。

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

生を捨て、心を捨て、身体を捨て、人を捨てる。

 

母は許すだろうか、こんな私を。

父は許すだろうか、こんな私を。

妹は許すだろうか、こんな私を。

祖母は許すだろうか、こんな私を。

祖父は許すだろうか、こんな私を。

従兄弟は許すだろうか、こんな私を。

幼馴染みは許すだろうか、こんな私を。

友人は許すだろうか、こんな私を。

担任は許すだろうか、こんな私を。

世間は許すだろうか、こんな私を。

世界は許すだろうか、こんな私を。

神は許すだろうか、こんな私を。

 

 

 

 

 

一方的に好きだったあの女の子も許すだろうか。

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

あぁ、自分が何を言いたいのかも分からなくなってきた。

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

こんな時ですら、何も生み出せない。

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

思い浮かぶのは、私の成長を喜ぶあの子の顔 

思い浮かぶのは、私を頼るあの子の顔

思い浮かぶのは、私と遊ぶあの子の顔

思い浮かぶのは、私と笑みを浮かべるあの子の顔

思い浮かぶのは、涙を我慢するあの子の顔

 

 

 

 

 

 

 

思い浮かぶのは、申し訳なさそうに拒絶するあの子の顔

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

ごめんなさい

 

 

「………………ッ!!!」  

 

 

好きになってごめんなさい

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

困らせてごめんなさい

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

異端でごめんなさい

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

人でなくてごめんなさい

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

生きていてごめんなさい

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

死んでしまってごめんなさい

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

生きたい

 

 

「………………ッ!!!」

 

 

死にたい

 

 

「………………ッ!!」

 

 

あぁ

 

 

「………………ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

私はーーー

 


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