おまけで市長とアビーのからみも書いています
クリスマスに市長主催のパーティーの警護をしているエヴァンスがパーティー会場でオークレイとばったり会い……という話です
クリスマス
強き者が掟であった西の荒野にも聖なる日はやってくる。協会ではミサが歌われ、家々にはツリーが飾られ、市庁舎では盛大なパーティーが開かれる。多くの市民が平和な一夜を過ごす中、保安官エヴァンスは市長のパーティーの警護に駆り出されていた。彼は寒風にカウボーイポンチョをはためかせながら、市庁舎の正面口を見上げている。重厚な扉にもクリスマスの飾りつけが施され、ヤドリギの飾りがアーチを華やかにしていた。
「何か気になることでもあるのか、エヴァンス。」
扉を開き市長が外に出てきた。エヴァンスは笑みを浮かべながらヤドリギの飾りを指さす。
「遊び心のある飾りだと思ってな」
エヴァンスにつられたのか市長も口角を上げる。
「ただの迷信と言われればそれまでだがな」
「そんなことはない。その迷信が誰かの背中を押すこともある。少なくとも俺は嫌いじゃない」
「そうか。だがこれだけは言わせてくれ。今日のパーティーが無事進行しているのはヤドリギを飾ると魔除けになるという言い伝えのおかげではない、君の警護のおかげだ。感謝してもしきれないほどだ」
その言葉にエヴァンスは首を傾げる。それを謙虚さの表れと取った市長は
「エヴァンス、少し中でくつろいだらどうだ」
そう言ってエヴァンスを庁舎内へ誘う。エヴァンスは市長の後につきながら
(ヤドリギの下ってキススポットじゃないのかよ)
心の中でツッコミを入れた。
この物語は…
クリスマスにも浮かれずに職務に全うする保安官の話ではない。クリスマスには色恋で頭がいっぱいになる男の喜劇である。
『ヤドリギの下でキスを求められたら拒んではいけない』
エヴァンスが知っているこの言い伝えはもとは北欧神話やケルト神話から来ている。それらの神話で縁起の良いものとされてきたヤドリギが時を経るうちに恋愛面の役割を与えられた結果なのだ。だが、その流れの中でヤドリギに関する言い伝えは様々に分岐していった。市長が言うように魔除けとしての意味を持つこともあり、エヴァンスの思うようにキスの機会を与える道具ともなった。キスに関しても『キスを拒むと翌年は結婚できない』と言うものから、『キスをしたカップルは永遠に結ばれる』と言ったものまで様々である。もしエヴァンスがヤドリギの下で誰かにキスを迫ろうものなら、すぐにセクハラ保安官との烙印を押されていた可能性は高い。
「危なかった」
エヴァンスはホールで冷たくなった手をこすり合わせながら独り言ちた。
「エヴァンス、あんたも来ていたのね」
聞きなれた声に振り向くとオークレイが立っていた。
「ああ、市長に警備を頼まれたからな」
「あんたがここにいるなんて知らなかったわ」
そう言って彼女は首に手をあてる。実際はエヴァンスが警備をするという噂を聞いてパーティーに参加したのだが、それを保安官は知る由もない。
「まったく、お前とこんなとこでも会うとは」
ぶっきらぼうな口調で返しながらも自分の幸運に小さくガッツポーズをする。
そわそわと互いの様子を窺う二人に声をかける者がいた。
「おや、エヴァンスにオークレイじゃないか」
さわやかな声で話しかけてきたのはマシュー・ジェイムズであった。
「ずいぶん、にぎやかだな」
マシューを取り巻く大勢の女性を見ながらエヴァンスは言った。
「クリスマスはにぎやかな方が良いだろ?」
「……確かに」
にぎやかなのはマシューの周辺ばかりなのだがそれを指摘すると負けた気がしてエヴァンスは話題を変えることにした。
「今日はずいぶん着飾っているじゃないか」
そう言ってマシューが身に着けたマフラーや首飾りを指さす。マシューは何とでもないといった表情で
「ああ、今日はクリスマスだからね。彼女たちからのプレゼントさ。このマフラーは彼女の、このネックレスは彼女の、この時計は彼女の……」
「もういい」
エヴァンスは無理やりマシューの言葉を遮る。マシューには自覚がないだけ余計に鼻につく。自然と口調もきつくなる。
「何か用があって俺たちに話しかけたんじゃないのか」
「そうだった、オークレイに話があってね」
そう言ってマシューはオークレイに近づく。それを眼で追うエヴァンスにマシューのマフラーが目に入る。それに何かの模様が縫い付けられている。そう、あれはついさっき見た……
ヤドリギだ
エヴァンスはオークレイの手をつかみマシューから遠ざける。
「ど、どうしたのエヴァンス?」
顔を赤くして動揺するオークレイをひたすら引っ張っていく。
すぐにマシューから遠ざけなくては。あんな女たらしがヤドリギの刺繍をつけたマフラーを巻いている。そんな奴にオークレイを近づけさせるわけには、特にキスができる距離には近づけさせてはいけない。
「だからどうしたのよエヴァンス」
オークレイに手を振り払れてエヴァンスは我に返り辺りを見渡す。いつの間にかホールから中庭に出ていたようだ。中庭にもクリスマスの飾りつけがしてあるが寒さのためかそこには誰もいなかった。小さなツリーやベンチに雲が影を落とし暗く寒く静かだ。建物から聞こえる談笑が別世界の出来事のような錯覚に陥るほどだ。
「どうしたのよエヴァンス」
「すまん、何でもないんだ」
再度問われても適当にはぐらかすしかなかった。まさかマシューがオークレイにキスをしようとしているように見えたなどどは答えられない。
「ふうん、じゃあ戻るわよ、ここ寒いし」
「待て!」
立ち去ろうとする彼女を呼び止める。冷静に考えればマシューがオークレイにキスをするということはない。だが万が一のことを考えてしまうと彼女にマシューがいる場所に戻っていってほしくはなかった。
「もう少し、ここにいないか」
自分のポンチョを脱ぎ、オークレイの肩にかける。とにかくホールにかえってほしくはない。その一心がエヴァンスに思いがけない行動をとらせていた。
「これで寒くないだろ。少しお前と話をしたい」
ベンチにハンカチを広げオークレイに座るよう促す。
「エヴァンスがそこまで言うなら仕方ないわね」
渋々と言った体で座るオークレイだったが、内心では
(エヴァンスがすごいグイグイくる!!どうして!?どうしてなの!?)
めちゃくちゃテンションが上がっていた。
彼女からしてみれば突然中庭に連れ出され話をしたいと言われている。しかも今日はクリスマスだ。そこから導き出される答えは一つしかない。
(もしかして、告白!?告白なの!?)
一人舞い上がるオークレイに対し、エヴァンスは
(何を話せば良いんだ……?)
呼び止めたは良いが咄嗟の話題が出てこなかった。慌てて周囲を見渡すエヴァンスの眼がすぐ横の扉の飾りに釘付けになる。そこにはホールと同じようにヤドリギが飾ってあった。どうやら市長は建物内に通じる扉にはこの飾りを付けたようだ。エヴァンスは視線を下に落とす。
「オークレイ、(キスしても)良いのか?」
「嫌じゃない。ううん(付き合えたら)すごくうれしい」
会話が微妙にかみ合っていないのだが、二人はそれに気づかない。
雲の隙間から月光が中庭に差し込み二人を照らす。オークレイの真っ赤に染まった顔も、こちらを見つめる潤んだ青い瞳も、綺麗に輝く金色の髪も、柔らかそうな血色の良い唇も目の前にある。エヴァンスは幸福に包まれながらゆっくりと自身の顔を近づけていく。
「ま、待って!」
さすがのオークレイもキスをされそうなことに気づき、とっさに彼を止める。
「こういうのは、もっと順序があるでしょ」
オークレイはじっとエヴァンスの顔を見上げる。
「ちゃんと言葉にしてほしいの」
さすがのエヴァンスも告白の必要性に気づく。ためらいがちに彼女の手を握る。
「さっき引っ張られた時も思ったけど、あんたの手冷たいのね」
「す、すまん」
エヴァンスが手を引こうとするがオークレイはギュッと掴んで離さない。彼を励ますように笑いかける。
「このままで、ううん、このままが良い」
オークレイは手に力を込める。
冬の空気にさらされた冷たい手。これはエヴァンスが外で必死に警護をしていた証拠だ。彼はポーカーフェイスで冷徹なように見えて、その実、誰よりも皆の幸せを願い影で行動する。そんな彼だからこそ私は心惹かれているのだ。
エヴァンスの口が開くのをオークレイは幸福に包まれながら見つめている。
強き者が掟であった頃。西の荒野のどこかで。一組のカップルが誕生し、口づけを交わした。
連邦保安官の追記
アビーは市庁舎の正面玄関で大きく伸びをした。冬の夜風が疲れた体に心地よい。上げた視線の先にヤドリギの飾りが見える。
「確か、ヤドリギの下は……」
すぐその場を離れようとするのを市長に呼び止められる。
「ミス・アープ!少し話があるんだが、いいかね?」
アビーは近づいてくる市長とヤドリギを交互に見る。彼女の顔が真っ赤に染まっていく。
「待ってくれ市長。そんな唐突に言われても困るというか。いや違うんだ!市長が駄目というわけではなく、私の心の準備の問題で、決して嫌ではなく、あ~違う!失礼する!」
アビーは気にし過ぎるところがあった。
彼女が走り去ってしまい市長一人だけ残された。
「いや、この後のパーティーの予定を再確認したかったんだが」
市長の言葉は寒空へ吸い込まれていった。
カートの出番はない(無慈悲)
当初は告白まではいかずに手を繋いだままちょっといい雰囲気になるエンディングでしたが、筆がのってしまい告白、キスまで進んでしまいました
ヤドリギの言い伝えに関してはネット情報を集めただけですので間違っていましたらごめんなさい