軍馬のウマソウルっぽい何かを宿したウマ娘が、暇を利用して日本に来るだけの話。

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クリスマスに間に合った……!?


ウマ娘に生まれ、競走バに非ず。

 

 

──中央だ地方だ、名門だ寒門だとは言っても、トレセン学園に入学出来ている時点で、そのウマ娘は何らかの競走バのウマソウルを持つエリートだ。

 

「……」

 

 ウマ娘オールドバルディーは、小さなあくびの後、カーテンを開けて日の出前の空を見た。

 

 

◆◆◆

 

 

 『オールドバルディー』。

 

 彼は“馬”が存在する世界で、歴史に名を刻む名馬であった。が、競走馬ではない。彼は砲煙弾雨の戦場を駆け抜けて、アメリカの南北戦争を生き抜いた軍馬だった。

 

 第一次ブルランの戦いで砲弾の破片を浴び、傷だらけになった彼は、政府からジョージ・ミード陸軍少将に買い取られ、額の白い模様にちなみオールドバルディーと名付けられた。

 側対歩の癖があり、あまり乗りやすい馬ではなかった様だが、彼はとても勇敢で忠実だった。第二次ブルランの戦いで右後ろ足を負傷した時も、アンティータムの戦いで首を銃弾が貫通して死にかけた時も、彼はミード将軍の前進命令を忠実に守ったのだ。

 

 死にかけてから十ヶ月後、ゲティスバーグの戦いで胃に銃弾が留まった時ばかりは、流石にミード将軍の命令を聞く余裕がなく、初めての前進命令違反をやらかしてしまったが、無事に生き延び、一年の療養の後軍務に復帰し、更に幾つかの戦いに参加した。

 グローブタバンの戦いで肋骨を負傷して退役し、牧場に送られた後も、彼は何度かミード将軍とパレードに出たりした。

 

 彼の最後の仕事は、ミード将軍の葬式だったと言う。

 

 ミード将軍の死後、彼は更に牧場で10年生き、1882年12月16日。立ち上がれない程衰弱した為、安楽死処分を受け、埋葬された。

 

 その数日後、同年のクリスマス。

 彼は掘り出され、損傷の少なかった首から上を剥製とされ、「南北戦争と地下鉄道博物館」のミード将軍資料室に展示される事になった。

 

 頭と体が離れたからだろうか(そのせいで何か混ざったのか)

 

(……ふむ。急ぎたまえ、ルディ。飛行機の時間に遅れてしまうぞ)

(はいはーい、分かってるよ、ルド!)

 

 ウマ娘オールドバルディーの頭の中には、何かの意識が生まれつき住み着いている。

 牧場で余生を過ごす退役軍人の様な、のんびりしたルディと、たまに些か融通の利かないルド。ウマ娘オールドバルディーは生まれつきこの二人でやってきた。

 

 一度ルディが訊いてみた所、ルドと言う名の意識がウマソウルなのかどうかは、彼女自身良く分からないそうだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 『ウマソウル』。

 

 それは異世界に存在する「馬」と言う生き物の魂と、その生き物へ掛けられた数多の願いが昇華した霊的結晶。と、噂されている。

 

 ハルウララへの願いはウマ娘ハルウララを見ていれば想像が付く。何度負けても明るくひたむきに挑戦し続けて欲しい、とかその辺りだろう。ゴールドシップは、ハチャメチャな事をしてもやる時はやる奴であってくれ、と言った所だろうか。

 

 きっとオールドバルディーへの願いの中には、“次は安らかに過ごして欲しい”と言うのもあったのだろう。

 

 そのせいかウマ娘オールドバルディーは、他のウマ娘が持つ様なレースへの熱意と言うものをそれ程持っていなかった。

 

 右耳に認識票めいた耳飾りを着け、首と右足におしゃれ包帯を巻いた、軍服めいた衣装。正式な勝負服でこそないものの、ウマソウルが輝き、元気が出る格好。

 それで気合いを入れたオールドバルディーが何をするかと言えば、専ら牧場の仕事だった。

 馬のオールドバルディーが馬生の大半、退役してからの18年を過ごした場所が牧場だった事は……まあ、あまり関係はないだろう。病気になった親の仕事を手伝っていただけだ。

 

 それも今日で一区切り。父の快気祝いも済ませ、身軽になったものの、二心揃ってレースに興味のないオールドバルディーは、日本行きの航空機に乗ろうとしていた。

 

「バルディー!」

「もー、バルディーは止めてってば」

「あっ……悪い……」

 

 見送りにウマ娘、トラベラーも来ている。

 日本に同名の競争馬もいるが、彼女は恐らく南北戦争の南側の軍馬トラベラーのウマソウルを持っているのだろう。ウマソウルの因縁的なものもあってか、彼女とオールドバルディーが会って間もない時はお互いバチバチやっていたが、今では案外仲良くなって来ている気がしないでもなかった。

 

「……ごめん、そんなに名前の事、気にしてた?」

「……いや……まあ、一応乙女的に? 全く気にしてないって言ったら嘘になるけどさあ。別に、名前を気にしてニホンに行く訳じゃないよ。名前で虐められた事もないしね。言ったでしょ、会いたいウマ娘がいるんだ」

 

 少しの間別れを惜しみあった後、手紙を書く事を約束し、手を大きく振りながら、オールドバルディーは日本に向けて発った。

 

 “スモモモモモモモモ”。“プリンニシテヤルノ”。“ウラギルワヨ”に“ジーカップダイスキ”。“オバサンオバサン”や“ナナマイノナマハム”。“オヌシナニモノ”や“カルビアブリカルビ”などと言う名もある。

 オールドバルディーはそれほど自身の名前を気にした事はないが、彼女達の様な名を持つウマ娘が、名前の事なんか何も気にせず、明るくやっている所を見たいと言う気持ちは、大分前からあったのだ。“バカニシナイデヨ”ちゃんと言う文通友達(ペンパル)もいる。

 

 この件とは何も関係ない事ではあるが、オールドバルディーの“バルディー”とは、直訳で白い頭を意味する。額の白い模様が由来ではあるが、肌の白い人に取って“白い頭”と言うのは地肌が見えていると言う事になり、翻訳サイトなどで“baldy”と打つと、そう言う意味に訳されていたりする。

 

「さて、会えるかなー?」

 

 オールドバルディー(禿げ爺さん)が日本に訪れた。




※本稿は、名の出た馬達や関係者を馬鹿にするものではございません。また、続く予定もないです。

滞っているあれやこれが山の様にあるんや……。

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