思い切りがないあの夜に   作:ptagoon

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お笑いコンビの馴れ合い

「川を泳ぐ魚を見たことはありますが、地面に刺さった神を見たのは初めてですよ」

 

 幻想郷。妖怪や神、人間が共生しているここには確かに多種多様な存在がいる。が、彼らは大抵身の丈にあった場所で暮らしているはずだった。例えば、人間に生活を依存している弱小妖怪は人里近くで暮らし、嫌われている妖怪は地底に身を潜めるといった具合だ。

 

 だから、妖怪の山の中腹に鴉天狗の射命丸文がいることは珍しくないし、現人神である東風谷早苗がいることもおかしくはない。が、早苗が地面に突き刺さっているのは明らかに異常であるはずだ。彼女は確かに奇行が目立つが、ここまでではない。

 

「いったい全体何してるんですか。あれですか。ようやく母なる大地に土下座する気になったのですか」

「こんな前衛的な土下座、いくら私でもしませんよ!」

 

 呆れた射命丸が早苗を引っこ抜く。汗のせいか、射命丸の短い黒髪が陽光に照らされて輝いている。が、彼女の顔は鬱屈としていた。いつもは綺麗な黒い翼も心なしかくすんで見える。

 

「まったく。早苗さんは本当に理解できませんね。こんなところで何してたんですか」

「文さんを待っていたんです」

「ご冗談を」射命丸はくすくすと笑う。「私は地中にはいませんよ。なんで地面に頭を」

「私はただ昼寝してただけですよ」

「最近の若者は寝違えると地面に埋まるんですね」

 

 文さん婆臭いですよー、と早苗が笑う。「そりゃあそうですよ」と飄々とした様子で返した射命丸だったが、「神奈子様みたいです」と無邪気に笑う早苗を見てさすがに眉をひそめた。

 

「それは失礼すぎですよ」

「その反応も神奈子様に失礼だと思いますけど」

 

 ぶー、と唇を突き出した早苗は「今日だって神奈子様が」と不満げに頬を膨らませた。幼稚で子供っぽい、彼女らしい仕草だ。

 

「たまには教徒でも集めてこいって、無理やり私を追い出したんですよ。だから私はこんな場所で昼寝をしなければならなかったんです」

「昼寝で教徒が集まるなんていい宗教ですね」

「神奈子様も諏訪子様も私を子供扱いするんですよね」

 

 私はもう大人なのに、と唇を尖らせる早苗の姿は、典型的な反抗期の子供のようだったが、誰もそれを指摘しない。確かに現人神である彼女は年齢的には十分に大人なのだが、精神は全くといっていいほど成熟していなかった。良い意味でも悪い意味でも、だ。

 

「まあ、たしかにあの神様二人は早苗さんを子供扱いしすぎだとは思いますが」

「ですよね!」

「子供扱いというよりは、過保護というべきですけど」

 

 守屋神社。妖怪の山の山頂付近。つまりは今二人がいる場所の近くにある神社。そこが早苗の家であり、彼女の保護者兼神である諏訪子と神奈子がいる場所でもある。あの偏屈な神にとっては、早苗がまだ尻の青い子供に見えても仕方がないだろう。実際、以前に神奈子と会った際には「見てみろ。早苗の寝顔だ」と写真を見せてきたりもした。「可愛いだろう」とはにかむ姿は慈愛に満ちており「家宝にするよ。神の家宝だ」と威張る姿に威厳は一切なかった。

 

「神奈子様も諏訪子様も、私に冷たいんですよ」

 

 早苗はその場に寝転び、射命丸の方へころころと回転しながら側に寄っていく。

 

「今回みたいに、です」

「それでふて寝してたんですか」

「ふて寝じゃないですよー。ただ、春の昼間って気持ちいいじゃないですか。それでつい」

「つい土に埋まってしまったと」

「違いますって」

 

 近くに流れる川のせせらぎが心地よく、しかも木々もない草原の平原であるため、たしかに昼寝するには打って付けの場所ではある。四月下旬の妖怪の山は、色取り取りの花が咲きほこっているため、綺麗ではあった。

 

「いくら心地よい場所だからって、さすがに危ないですよ」だからこそ射命丸は背筋を伸ばした。彼女ほど妖怪の山の恐ろしさを知っている妖怪も少ないだろう。「妖怪に殺されていてもおかしくありませんでした」

「大丈夫ですよ、私は強いので」

「あなたの保護者が過保護な理由が分かりましたよ」

 

 射命丸は周りに揺蕩う薄白い霧を懐かしそうに払いながら目を細くした。彼女の綺麗な翼が僅かに強張る。鴉天狗が好んで履く妙に高い下駄をその場で踏み鳴らしていた。威嚇のようにも、歓迎の儀式のようにも見える。が、彼女は明らかに辟易としていた。いつもであればカメラを取り出してもおかしくないのに、それすらしない。鴉天狗にとって写真を撮ることこそが生き甲斐であるのに、だ。

 

「もうお二人のご飯は作ってあげないんですから」未だにぷんすことする早苗を横目に射命丸は肩をすくめる。

「早苗さん、料理できるんですか」

「もちろんですよ」

「言っておきますが、鍋は料理に入りませよ。特にキュウリ入りの鍋は」

「あれはゲテモノですよ」けらけらと早苗は笑い「きっと今頃、お二人も困ってますよ」と寂しそうに眉をハの字にした。「昼ごはん、まともな物を食べてるんでしょうか」

「大丈夫でしょう。腐っても神です。一日二日何も食べなくても死にはしません」

「勝手に腐らせないでくださいよ。それに料理ができるかも、とは思わないんですか」

「私、常識がありますので」

 

 早苗さんと違って、と余計なことを付け加えた射命丸だったが、「いいんですか?」と早苗が曖昧な質問をすると途端に顔を強張らせた。痛いところを突かれた、というよりは痛いところを我慢していたのに、無残にも追撃を食らったといった様子だ。「私、この前のこと忘れてませんから」

 

「この前のことってなんですか?」

「とぼけないでくださいよー」

 

 まだ足が痛むんです、と明らかな嘘を早苗は吐く。が、射命丸はそれでも慌てていた。普段は冷静沈着で、鬼でもないのに嘘を見抜くことに長けている彼女だったが、早苗の前では情けない姿を晒す。心を許しているのか、それともその逆か。いずれにせよ普通ではなかった。

 

 この前、というのは最近妖怪の山であった些細な事件だろう。犬走椛のけがを発端にしたバカ騒ぎは結果的に平穏に解決したのだが、その途中で射命丸が早苗を殴ったのだ。まあ不慮の事故とでもいうべきだろう。

 

「文さんは何でも知っているくせに、こういう時は知らんぷりするんですから」

「何でも知ってる妖怪なんていませんよ。私だって知らないこともあります」

「例えば?」

「社会の厳しさとか」

「知ってて無視してるだけですよね、それ」

 

 うらやましい! と身をよじらせながら、早苗は「文さんの耳の速さはピカイチですから。飛ぶのも速いですけど」と若干恨めしそうに言った。

 

「私の知っている情報は全部文さんにも漏れていると思ってますよ」

「買いかぶりすぎですよ」

「またまたー」早苗は口笛を吹く。

「文さんはもっと素直になるべきですよ。ここに来るのも、友人の方がよく来るからですよね。まったく。友人に会いたいなら意地を張らずに直接訊ねればいいのに」

「ここというのは」射命丸は分かっているだろうにそんなことを言う。

「この川辺ですよ。暇さえあればここに来るじゃないですか。私、知ってるんですよ。文さんが優しいって」

「何を言ってるんですか」

「困っている人がいたら、自分のやりたいことを放り出してでも助けちゃうタイプですよね。友人の椛さんが困ってた時もそうだったじゃないですか。ザ・お人好しですから」

「それを言うなら、ジ・お人好しですよ。まあ、いずれにしても私は違いますけど」

 

 射命丸は分かりやすく嘘を吐く。端から見れば彼女の表情に変化はないが、翼がやや傾いていた。

 

「私がここに来るのは休憩に適しているからです。誰が妖怪の山に来たのかも分かりやすいですし、妖怪の山に迷い込んだ奴らも、なぜかここに集まりますし」

「天気が良い日は絶景ですしね」

「そうですね」と射命丸も頷く。「まあ今日は曇ってますが」

「まるで私の心みたいですよねー」

「早苗さんはの心はいつでも空っぽでしょうに」

 

 酷いです! と早苗は喚きながら空を見上げた。たしかに視界は悪い。妖怪の山はそこそこ高さがあり、そのせいで降りてきた雲が眼下まで白く染め上げていた。春過ぎには珍しくない天候だが、昼寝日和とは言いがたい。

 

「私の心は空っぽじゃないですよ。こう見えて色々考えているんですから!」

「考えるって」と射命丸は困り顔になる。「何をですか」

「この前なんて私の画期的なアイデアで八百屋さんの危機を救ったんですよ!」

 

 誰も訊ねていないのに、早苗は「人里で仲良しの八百屋さんなんですけどね」と両手を合わせながら嬉しそうに話す。

 

「最近、向かいに喫茶店が出来たらしくて、そこにお客さんを持って行かれて困ってたんですよ」

「私は八百屋の客を持ってこられる喫茶店の方が気になりますよ。生野菜でも売ってるんですか」

「違いますよ! 単に話題な店だったせいで、みんなそっちに行っちゃっただけです」

 ですから、と早苗は胸を張る。「この私がその問題を解決したんですよ」

「いったいどうやったんですか」さして興味もないだろうに射命丸は訊ねる。「土下座でもしたんですか」

「土下座、好きなんですか?」

「いえ。早苗さんが好きそうだと思っただけですよ」

 まあそれはいいじゃないですか、と射命丸は話を促す。「それで、いったい何をしたんですか」

「漫才です」

「は?」

「八百屋さんと二人で漫才したんですよ」

「なんで」

 

 しごく真っ当な疑問に対しても早苗は堂々としていた。

 

「凄かったんですよ。私が突っ込みで八百屋さんがボケなんです」

「逆じゃなくて?」

「どういう意味ですか」

 

 私がボケていると言いたいのですか、と早苗が文句を言う。いえいえ、と手を揺するけれど、結局最後まで射命丸は否定の言葉を言わなかった。

 

「大丈夫ですよ。私、突っ込み上手いんですから」

「とてもそうは見えませんが」

「酷いですね。ちゃんと八百屋さんがボケる度に、しゃらくさいです! と突っ込んでたんですから」

「独特な突っ込みですね」

「ちゃんと八百屋さんも喜んでましたよ。地獄みたいな空気だったとは言ってましたが」

「それ、喜んでないですよ」射命丸は心底呆れた声を出す。「そんなんで、ちゃんと集客はあがったんですか」

「それがですね。不思議なことに上がったんですよ。道を通りかかる人が皆立ち止まってくれて」

「本人が不思議がったら駄目ですよ」

「私、才能あるかもしれません」

 

 目をきらきらとさせた早苗は、甘えるように。というよりも実際に甘えているのだろう。射命丸に抱きついていた。

 

「才能って何のですか」

「誰かを足止めする才能ですよ」

「凄い。将来はカラーコーンになれるかもですよ」

「嬉しくないです!」

 

 それに、と射命丸は首からかけたカメラを右手で弄りながら言う。

 

「地獄みたいな空気だなんて、そう易々使って良い言葉ではないですよ。地獄はもっと酷い」

「まるで行った事あるみたいに言いますね」

「半分はあなた達のせいですからね」射命丸は悲鳴をあげるようでもあった。「守屋神社が旧地獄の──地底の地獄鴉に手を出したから、旧地獄の連中が地上に出てくるようになったんですから」

 

 博麗神社の近くに突如高温の間欠泉と共に地底の悪霊が噴出した異変。結局、間欠泉が吹き出した原因は地底に住んでいる妖怪「霊烏路空」が何らかの力。まあ結論から言えば守屋神社の神に与えられた力を制御しきれず、間欠泉が吹き出していたのだが、それは良いだろう。問題なのは、あの異変の後から地底にいた妖怪が地上へと出始めてきていることである。

 

「お空さんはいいんですよ。可愛いですし。ただ地底にはもっとまずい妖怪がいますからね。怖くて怖くて」

「鬼の方々とかですか?」

「そうですよ」

 

 恨めしそうに射命丸は言う。言いつつも、いつの間にか彼女の手にはメモ帳とペンが握られていた。気が急いているのか、しきりに後ろを気にしているが、早苗のことも気がかりであるらしい。

 

「どうやら守屋神社の神様方は地底の方々と仲が良いとお噂ですが」

「まあ、神奈子様も諏訪子様も顔が広いですからね。誰とでも仲良しです」

「そうではなく」と射命丸が焦れた声を出す。「何か打ち合わせしてるとか聞いていないんですか?」

「打ち合わせ、ですか」

「知らないんですね」

 

 はあ、と何度目か分からないため息を射命丸は吐いた。「親の心子知らずというか」と自分には子供もいないのに言ってくる。

 

「しょうがないですね。折角なのであなた方の仲裁をしてあげますよ」

「仲裁って何ですか」

「おかしいとは思わなかったのですか」

 

 そもそも早苗はいつだっておかしいが、射命丸はそのことは指摘しなかった。

 

「あの子煩悩な神奈子さんが、早苗さんをそんな無意味に家を出すわけがないじゃないですか」

「え」

「今日は守屋神社で旧地獄の面々と妖怪の山の面々の親交会があったんですよ」

 

 射命丸はいつもよりゆっくりと、噛み含めるように言う。

 

「親交会といっても宴会とは違って殺伐としますからね。汚い話もあるでしょうし。早苗さんには聞かせたくなかったでしょう。だから、適当な理由をつけて早苗さんを追い出したんです」

「そんな話、なんで文さんが知ってるんですか」

「関係筋から聞きました」

「関係筋って」

「いえ。知り合いに目が良い奴がいましてね。彼女が、珍しい客人が神社に向かっていったと言っていたものですから、調べたんですよ。私も今からその会合を盗み聞き……情報提供を受けに行くところだったんです」

 

 射命丸は少し不満げな顔をしたが、すぐにいつものにこやかな顔に戻り「ですから」とらしくもなく宥めるような口調になる。「あんまり怒らないでください。神奈子さんも、あなたのためを思って言ったのですから」

「文さんは」

 

 てっきり早苗がへそを曲げると思っていたのだろう。射命丸は慎重に彼女に声をかけていた。が、当の早苗は太陽ですら霞んでしまいそうなほどの笑みを浮かべている。

 

「やっぱり優しいですね」

「はい?」

 

 おーい、と上から声が響いたのはその時だった。何事かと射命丸は声のした方を凝視する。僅かに彼女の顔が強張るが、声の主を見てすぐその表情を崩した。

 

「神奈子さんじゃないですか」

「久しいな射命丸」

「どうしてここに」

 

 守屋神社で祀られている、文字通りの神である神奈子は、紫色の艶やかな髪を指で弄りながら「決まっているだろう」と早苗を見やった。

 

「いじけた早苗を回収するためだ」

「回収って」さすがの射命丸も苦笑していた。

「大丈夫ですよ」が、肝心の早苗の顔に一切の笑みはない。唇を尖らせ頬を膨らませている。「私はもう少し文さんとお話してます」

 

「しょうがないだろう」神奈子は困り果てた顔になる。「早苗は良くも悪くも素直だからね。会談の内容を聞いたら顔色で内容がバレかねないんだ」

「私はそんなに単純じゃないですよ。知恵の輪くらいには複雑です」

「私にかかれば知恵の輪も単純だよ」

 

 神奈子様の晩御飯はキュウリ鍋にします、と不貞腐れた早苗を前に、さすがの神奈子も苦笑していた。

 

「それは酷いな。理不尽で、不条理だ。現実みたいだな。現実作戦だ」

「どういう意味ですか」

「私にも分からん」大きくため息を吐いた神奈子は「分かった分かった」とこれ見よがしに肩をすくめた。

 

「もう会談も終わったから、早く帰ってこい。射命丸と遊ぶのもいいが、暗くなる前には戻れよ」

「分かりましたよ」

 

 では、と神奈子は帰っていく。嵐のようだった。神出鬼没というか、神出神没というか。その身勝手さには呆れることしかできない。

 

 が、射命丸が茫然としているのは違う理由からだろう。彼女は早苗をまじまじと見つめていた。

 

「早苗さん、今日守屋神社で会合があるって知ってたんですか?」

「え? まあ知ってましたけど」

「何ですかそれー」射命丸はその場に崩れ落ちる。「教徒を集めろって追い出されたって言ってたじゃないですか」

「そうですよ。私が会合の内容を知ったら顔に出そうだから、外で信者集めでもしてろって追い出されたんです」

「そう言ってくださいよー」

 

 射命丸の顔が赤くなる。彼女を慰めていたのが馬鹿らしくなったのだろう。が、すぐに顔は白さを取り戻した。目を見開かせ、口を丸くしている。そしてゆっくりと半月状に口を歪ませた。ああ、と声を零してもいる。

 

「早苗さん、最初から私が目当てだったりしました?」

「目当て?」

「おかしいとは思っていたんですよね」

 

 射命丸は心底嬉しそうに笑う。

 

「いくら早苗さんが馬鹿だといっても、無意味に地面に刺さるはずありませんもんね」

「誰が馬鹿ですか!」

「私を待ち伏せしていたんでしょう」

 

 普通に考えれば、待ち伏せをするのであればむしろ空を見上げておくべきだ。射命丸は鴉天狗であり、空を飛ぶ。地面に刺さっていたら見つけることすらできない。が、そもそも。射命丸が飛んでいるのを見つけたとしても、追い付くことはできないのだ。彼女の飛行速度は速い。幻想郷最速の名は伊達ではなかった

 

「そんな奇怪な友人の姿を見れば、私が興味を持つと思ったのでしょう。ここは見晴らしがいいですからね。守屋神社に行く途中にもよく見えます」

「ですね」

「それで私が会談の盗み聞きができないように時間を潰させていたんでしょう」

 

 文さんはザ・お人よしですからね。そう早苗が言っていたことを思い出す。何だかんだ世話焼きな射命丸が、地面に刺さった早苗を放置するはずもないし、早苗と神奈子のすれ違いを放っておけるとは、たしかに思えなかった。普段の彼女は面白い出来事。とりわけ新聞のネタに目がない。それこそ友人を利用してまでネタにたどり着こうとするだろう。が、早苗にだけは妙に甘いのが彼女の悪いところであった。

 

「身内にも内容を隠すような会談。ああ、どんな内容だったのか気になりますね。気になるからこそ。私が興味を持つと思っていたからこそ、私を会談に行けないようにしたかったのではありませんか? 記事にされると思ったのでしょう」

「えっと。それは」

「まったく。私も信用がありませんね。会談の盗み聞きはしないでくださいって、そういってくださった方が確実だったのに」

「だって、文さん。そう言ったら絶対嬉々として守屋神社に行くでしょう」

「そんなことはないですよ」

 

 嘘だった。彼女の性格からすれば、嬉々として会談に乗り込んでいく姿が容易に想像できる。

 

「それに、こっちの方が確実だと私は思ったんですよ!」

 

 にぱっと笑った早苗はその場で立ち上がった。ぐっと体を伸ばし、その場でくるりと回る。天真爛漫なその笑顔は、曇り空を吹き飛ばすほど明るく、綺麗だった。

 

「まあ、私は将来有望なんで」

「どういう意味ですか」

「どうです? 足止めする才能、あったでしょう?」

 

 やっぱり将来はカラーコーンになろうと思うんですよ、と早苗は照れくさそうに笑う。眉間をぐりぐりとした射命丸は、それでも笑みを浮かべながら嬉しそうにはにかむ早苗に近づき、軽く頭をはたいて、言った。

 

「しゃらくさいですよ」

 

 二人の笑い声が、薄白い景色をゆらゆらと揺らす。それでもまだ世界は曇ったままだった。

 

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