「たまには運動をするのも悪くないと言ったけれど」
妖怪の山の中腹。その中途の草原で足を止めたパチュリーは恨めしそうに隣で微笑みを浮かべる小さな悪魔を睨みながら言った。
「どうして山登りなんてしないといけないのかしら」
「いいではありませんか」と赤色の髪を細く長い指で撫でた悪魔はその大きな目を更に見開かせて笑った。底意地の悪そうな笑顔だ。
「外の世界の登山家は言っていたそうですよ。なぜ山に登るのか。家に居場所がないからだ、と」
「それだと私の居場所が紅魔館にないみたいじゃない」
「みたいというか、無いではありませんか」
「あるわよ」
「頑張って探せばあるかもしれませんね」
くすくすと悪魔は笑う。小柄ながらも口は饒舌で、口数が少ない魔女とは対照的だった。案の定魔女はまだ山の中腹だというのに疲労困憊の様子で、ただですら青白い顔から血の気が引いていた。心なしか長くて美しい彼女の紫色の髪もしなびているようにすら見える。
「そもそも、空を飛べるというの、わざわざ徒歩で登るなんて非合理的よ。魔女としては許しがたいわ」魔女は誰に対しての言い訳なのか、そんな無茶苦茶なことを言った。「なんで私がこんな目に」
「いいではありませんか。面白い物も見つけられましたし」
「別に面白くはないけれど」
「そうですか?」と悪魔はこてんと首を傾げる。「防腐された幾多の妖怪や動物の死体なんて面白いじゃないですか」
魔女は眉間に皺を寄せた。死体を見てしまった嫌悪感というよりも、面倒ごとに巻き込まれた徒労感によるものだろう。その証拠に彼女は「面倒ね」と呟き、眉間に寄った皺を指でこねている。「いったい何が目的なのやら」
その死体があるのはここからすぐ南へ行ったところ。鬱蒼と木々が生い茂る山肌。その斜面に空いた小さな穴にあった。木の葉や木くずで覆われ死体は隠されていたが、幸か不幸か、悪魔と魔女はそれを見つけてしまった。
正直に言えば、妖怪の山に死体があることはそこまで珍しいことではない。動物だって季節の変化や食料不足、または捕食されて死んでしまうし、妖怪だって同じだ。何なら人間の死体も転がっていたりもするときもあった。
「また誰かがゾンビでも作ろうとしているのでしょうか」悪魔がどこか懐かしそうに言う。
「また? 妖怪の山でそんな物騒なことがあったなんて、私は知らないのだけど」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫?」
「我が主様の記憶力には最初から期待しておりませんので」
失礼ね、と表情を一切変えないまま言った魔女は「ゾンビなんて何匹いようが大したことないわよ」といかにも魔女らしいことを言った。
「酷いですね。ゾンビを匹だなんて。ちゃんと何『人』と言ってあげてくださいよ」
「あんなもの肉の塊でしょう。あなたはハンバーグも『人』と呼ぶのかしら」
「あり得なくはないでしょう」悪魔は絶対に言う気なんてないくせに勝ち誇っていた。「そう呼べばきっとハンバーグも喜びますよ。照れ隠しに『生焼けになっちゃう』と言ってくれるかもしれません」
「どんな照れ隠しよ、それ」魔女は愛想笑いすら浮かべずに言う。「いい加減怒るわよ」
「私に盾突くと? 愚かですね。魔女一匹にこの私が負けるはずないでしょう」
「魔女は匹で数えるのね」
まだハンバーグの方が匹なら納得できる。挽肉であるし、と心底くだらないことを言った魔女は「あなたは少しくらい謙虚さを覚えなさい」と藪から棒に言った。
「そんな意味不明なことを自信満々に言っていたら、まともな悪魔になれないわよ」
「まともな悪魔がいるとでも?」
「どうしてあなたはそんなに傲慢なのかしら」
「失礼な」と悪魔は自らがどれほど失礼かは一切省みずに言った。「私は相手を立てるタイプですよ。傲慢とは対極です」
「何の冗談よ」
「悪魔界のパセリとも呼ばれていたんですよ」
普通に聞けば蔑称としか思えなかったが、悪魔は得意げだった。
「素材の良さを引き出せる食べ物。それがパセリです。よくハンバーグについている奴ですよ。嫌われがちな付け合わせですが、メインの良さを無理矢理にでも引き出すのです」
「ハンバーグにパセリは合わないでしょうに。滅茶苦茶よ」
まったく、と重い息を吐いた彼女はふるふると首を振り、「それで」と若干荒れた息を整えながら声を発した。皺がれた声はそれでも美しく、曇った世界を若干震わせる。
「そろそろ教えなさいよ、こあ」
「教える? 何をですか。我が主の愚かさであれば教える必要はありませんよ。周知の事実ですから」
「あなたが何の目的もなくこんな所に来るはずがないでしょう。というより、ちゃんと行き先を教えて欲しかったのだけれど」
「あれ、言いませんでしたっけ」
「言ってないわよ」魔女はげんなりとしながら言った。「何しに行くのって聞いたら、ただ『本当の自分を探しに』とだけ言ったのよ。ほんと、勘弁して欲しいわ」
「格好良いじゃないですか」
「よくないわよ」魔女はすぐに首を振る。「むしろダサいわ。もっと何か良い言い回しがあったでしょ」
「真相を探しに、とかどうです。この案はご主人様にあげますよ。泣いて喜んでください」
「いらない。いいから、早く何の目的でこここに来たのかいいなさいよ」
「酷いですねえ」
こあ、と呼ばれた悪魔はわざとらしく肩をすくめる。小悪魔だから「こあ」なのだろうが、あまりに安直だ。
「いつも紅魔館の図書館で本を読んでいるお前のためを考えてやったというのに」
「あなたはいつだって自分のことしか考えていないでしょう」
「心外ですよ。悪魔は嘘を吐かないのですから」
「嘘を吐かないからといって、本当のことを言うとは限らないじゃない」
魔女は鋭いことを言う。「はやく目的を言いなさい。でなければ帰るわ」
「せっかちですね。せっかちな女は嫌われますよ」
「悪魔よりはましよ」
はぁ、と一際大きなため息を吐いた彼女は「分かりましたよ」とさもしぶしぶと言った様子で口を開いた。おそらく、初めから言おうと思っていたにもかかわらず、だ。
「新聞で読んだんですよ。妖怪の山で何やら物騒なことが起きていると」
「物騒なことねえ」
「妖怪の山で得体のしれない何者かが住人を襲撃しているらしいのですよ。面白くないですか?」
「物騒なのか面白いのかどっちなのよ」
「はい? 物騒なことは面白いでしょうに」
「あなたに聞いたのが間違いだった」
魔女は大体が悪魔の言いたいことを理解したようで、元々苦々しい顔をしていたのに、さらに酷い顔になる。呆れとも違う顔だ。きっと諦めているのだろう。
「あなたは、その物騒で面白い事件に首を突っ込むつもりなのね」
「楽しそうではありませんか」
「楽しそうでもないし、私を巻き込んでほしくなかったわ」
「せっかく名探偵になれる好機だというのに」
「あなた一人でなんとかしなさい」
心底辟易としている、といった調子で口をすぼめたのは、なぜか魔女ではなく悪魔の方だった。
「私だって、そうしたいのは山々なのですが。あ、死体の山山っていい名前ですね。せっかくなんで妖怪の山から改名しましょうよ。『死体の山』山です。実際、さっき死体の山がありましたし」
「紛らわしいし、言いづらいわ」
「しゃべらな過ぎて表情筋が死んでるからですよ。どうせなら全身死んでくれればいいのに」
「全身死ぬって何よ」
「レミリアのことです」
彼女たちが住んでいる館。紅魔館の主をも悪魔はぶっきらぼうに呼び捨てた。
「彼女はあの身長からもう成長しないのです。死んでるも同然ですよ」
「さすがに失礼よ」
いくら魔女でも友人を侮辱されることには我慢ならないのだろう。声自体は平坦なままだったが、それでもはっきりと言った。
「それに、背丈で言えばあなたも同じじゃない」
「私はこう見えても昔はナイスバディだったんですがね」
「年を取ることに縮んでいったのね。労わりましょうかお婆ちゃん?」
「誰のせいだと思っているんですかね。この恩知らずは」
それに、と悪魔は指を立てる。彼女の小さな指先から若干の黒い靄が出るが、誰も気にした様子はない。
「レミリアが小さいのは背丈だけではありませんよ」
「え?」
「彼女の存在感もまた小さいではありませんか」
そんなことはない。魔女は即座に返す。実際、そんなことはなかった。紅魔館の主。レミリア・スカーレットは幻想郷でもかなりの有名人であり、存在感は大きい。たしかに最近は騒ぎを起こしていないが、別に騒ぎを起こさなければならないというわけでもないはずだ。
「甘いですよ」が、悪魔はどうやら冗談ではなく本気で憂いているみたいだった。「いいですか。この世の中には二種類の妖怪がいるのですよ」
「陳腐な言い方ね」と魔女は自分自身が陳腐な魔女であるというのに薄く笑う。「私と私以外とか言わないでしょうね」
「一つは私のように、何もしなくとも有名になってしまう妖怪。もう一つはレミリアのように何かをしないと忘れられてしまう妖怪ですよ」
「忘れ去られる、ね」魔女は自らの頭を抱えるようにし、眉間に皺を寄せる。すでにない記憶を必死に手繰り寄せているような、そんな顔だ。
「妖怪はその名を轟かせるほど力が増すそうですよ。逆に、誰からも忘れ去られてしまうと消滅してしまうとか」
「らしいわね。忘れ去られたことがないから分からないけど」
「仮にも知識豊富というテイでしょうに」
「私はちゃんと知識豊富よ」
「もう死に設定ですよ、それ。ちゃんと定期的に成果を見せないと、本当に消えてしまいますよ?」
「失礼ね」
まったく、と魔女は川に寄る。淀みなく流れる川に両手をつけた彼女は、その透明な水に反射する自らの顔をまじまじと見ていた。
「入水自殺は流行りませんよ」そんな様子を見ていた悪魔がうんざりとした様子で言う。
「どうせ死ぬならもっと面白い死に方をしてくださいよ。魂を引っこ抜かれるとか」
「酷いわね。あなたには人の心がないのかしら」
「なぜあると思ったのでしょうか」
たしかに、悪魔に人の心を求める方がどうかしている。が、当の悪魔は「人の心なんて単純ですよ」と嫌味に笑った。普段は図書館の虫をしている魔女の手下として働いているとは思えないほど残虐な笑みだ。
「悪魔ほど心に詳しい存在はこの世にいない。そうでしょう? それこそ、自らの本性や存在価値よりも、人間の心の方が明白で分かりやすい。手に取るように分かるといっても過言ではありません」
「だったらご高説いただきたいわね」
半ば投げやりに魔女は言う。「そんな痛々しい発言をした責任を取りなさい」
「まあ、簡単に言ってしまえばゴミですね」
は、と魔女が固まる。冷静沈着で常に均整が取れていた彼女の顔が始めて歪んだ。
「ええ。ゴミですよ。薄汚くて見るに堪えない汚物です。嫉妬、憎悪、悔恨。そういったもので満ちている吐き気のするほど悍ましいもの。それが心です」
「捻くれた中学生みたいなこと言わないでほしいのだけれど」
「まあまあ。けれど、大抵の人間。いや人間ではなく妖怪もですが。とにかく。ほとんどの連中はその薄汚さを隠すことができるし、自らの薄汚さにも気づかない。大抵、そういった自分の汚さに気づいてしまうのは」と悪魔は心底楽しそうに話し「自分のことが嫌いな奴らなのです」とこちらに目を向けた。魔女は興味深そうに悪魔を見やる。「どういうことかしら」
「自分のことが嫌いな連中は。自分のことを愚かと認識している連中は、だからこそ自らを否定する言葉に過敏に反応する。誰かに認めてもらいたいのか、それとも自らが優れていると、そう言い聞かせた自己暗示が解けるのを恐れているのか知らないですが、虚勢を張り、攻撃的になる。無意味にです。そしてまた自己嫌悪に陥る。自らが嫌な奴という事実に絶望し、また自分のことが嫌いになる。悪循環ですよ。笑えますね」
「まるで、特定の誰かのことを話しているみたいな口ぶりね」
「さあ?」と悪魔は挑戦的に口角をあげる。悪魔は嘘を吐かない。その彼女が否定しないということであれば、つまりはそういうことなのだろう。性格が悪い。
「そういう純粋な連中が悪意にもまれ、自信を喪失すると大抵疑心暗鬼になるものです。価値のない自分のことなんて誰も信用しない。そんな卑屈な思想に変わる。責任感があればなおさらそうです。そうなればもう、あとは破滅へとまっしぐらでしょう。愚かで矮小で可愛いですよね」
「見覚えがあるみたいに言うのね」
「私は悪魔ですよ?」
要するに、そういった人間が大好物だと言いたいのだろう。たしかに悪魔は人の心を持て遊び、不幸に陥れ、半ばだまし討ちのような真似をしてでも人間をどん底に陥れる。その絶望を楽しむ種族。悪い種族だ。性格も性根も、すべてが悪い。が、魔女の使い魔だからか、それとも生来の気質だからか、彼女は少し違う雰囲気を醸し出している。
「仕方がないですね。少しヒントをあげますよ」
「ヒントって何のよ」
「愚かで矮小で可愛い奴の助け方ですよ」
「別に助けなんていらないわよ」
「お前には言っていません」悪魔は面倒そうに、心底不本意そうに言う。
「そういう輩は自分が誰からも好かれることがない。そう信じているのです。ですから、自分のために誰かが何かをしていることに気づけば、それだけで十分なんです。往々にして、そういう奴らはちょろいのですから」
「そんな簡単なものでもないわよ。人間不信になれば、その行動ですら、自分のためではなく。例えば自分の立場や他の誰かのためだと、そう考えてしまう。身内を粛正しまくる貴族はそうだったわ」
「それは覚悟が足りていないんですよ」
急に根性論を言い始めた悪魔にさすがに困惑したのか、魔女は眉間に皺を寄せる。「らしくないわね」とぽつりと零してもいる。よっぽど意外だったのだろう。彼女の眠そうな目が見開いていた。
「気持ちが大事だなんて、あなたが一番嫌いそうなのに」
「私は一言も気持ちが大事などとは言っておりませんよ。これだから低能な人間もどきは駄目なのです。気持ちなどといった曖昧模糊とした空虚で空想的な物になんの付加価値もない。あるのは嫌悪感だけです」
「じゃあ、どういう意味よ」
「生物は本能というものを必ず持っている。愚かで矮小な人間や妖怪は失念しがちでありますが。要するに、下心はばれるのですよ。本当に相手のことを思うのであれば、何の見返りも求めてはならない。相手の好意ですら、です。むしろ嫌われてもよいくらいの覚悟が必要でしょう」
「助けた相手に嫌われるなんて、どんな状況よ」
「さあ」
「でも」と魔女は悪魔をまっすぐに見据える。「一人、例外がいるのだけれど」
「例外?」
「私の知り合いに、自分のことが心底嫌いなくせに、自信満々な奴がいるのよ」
「ああ、あの天邪鬼ですか」
悪魔はにやりと笑う。「あの仲良しの」
「仲良しではないけれど」
「彼女は例外ですよ」
悪魔の私もびっくりです、と悪魔は一切の動揺も見せずに言う。とても驚いているようには見えなかった。
「まあ、壊れた心の直し方なら天邪鬼に聞けば教えてくれるでしょうけどね」
「いや」と魔女は首を振る。「正邪のことだから、どうせ適当なことしか言わないわよ」
それは確かにその通りだった。
悪魔と魔女は、河原の傍で腰を落とした。仲が良いとは思えない二人だが、二人で身を寄せている姿は仲睦まじい姉妹のようにも見える。
「だったら。あなたが本当に心が分かるのだとしたら」
魔女は空を見上げながら口を開く。ゆったりとした紫色の服が風ではためき、薄白い景色に溶け込んでいる。
「いま妖怪の山で起きている悪戯じみた話題の事件も解決できるんじゃないかしら」
「別に人の心がよめるからといって事件が解決できるわけないでしょうに」ですが、と悪魔は指を立てる。「まあ、私であれば事件の真相解明も時間の問題でしょう。天才ですから」
「だったらいいじゃない」
「いいじゃない?」
「あなた一人で解決しなさいよ」
半ば投げやりに魔女は言う。その口ぶりに悪意はなかったし、億劫さもなかった。いつもそうなのだろう。悪魔が面倒ごとを持ってきて、魔女に押し付ける。嫌な上司と部下といったところだろうか。まあ、使い魔が召喚主に仕事を押し付けているのは理解不能だが、部下の方が立場が弱い社会というのも珍しくはない。
「さっきから人に頼ろうとしてばかりじゃないですか。自分で何とかしてみようとは思わないのでしょうか」
「余計なことに首を突っ込むべきではないといっているのよ」
何度目かの反論を試みた魔女だったが、突然「あ」とらしくもない素っ頓狂な声を漏らした。かと思えば底意地の悪い笑みを浮かべ、悪魔に目をやる。どこか生暖かく、薄気味悪い笑みだった。先ほどまでは悪魔の方が主導権を握っていたというのに、今では悪魔もどこか気まずそうに目を逸らしている。まあ、元々使い魔が主より優位な立場にいたのがおかしかったのかもしれないが。
「あなた、自分で解決せずに私にやらせようとするのって、もしかして」
「もしかして、何ですか」
「私に成果をあげさせたかったのかしら?」
悪魔は返事をしなかった。ただにこにこと微笑みを浮かべるだけだ。
「私に名探偵になってほしかったのかしら」
「滑稽な言葉の羅列ですね。名探偵になってほしいだなんて」
「私のことが心配だったのでしょう?」
勝ち誇ったように魔女は言う。その顔はそこはかとなく嬉しそうだった。
「妖怪は皆から忘れられたら存在が消えてしまう。消えないまでも、力は減っていく。それを心配したんでしょう。だから、妖怪の山の事件を解決して、私の知力を証明しようと。世に知らしめようとした。妖怪の山で格好をつければ、鴉天狗が勝手に吹聴してくれるし、打って付けね」
悪魔は返事をしなかった。たしかに魔女はひきこもりがちで、悪魔が外に出さなければ、永遠に紅魔館に引きこもっていてもおかしくない。そう思えるほどだ。
だから悪魔は恐れた。彼女の存在が希薄になることを。
「まあ」と悪魔は魔女から顔を背ける。その声はいつも通り平坦であったが、心なしか少し早口だった。「私は呼ばれてますからね」
「呼ばれる?」
「ええ。悪魔界のパセリと呼ばれているんですから」
悪魔はうふふとわざとらしく笑う。
「地味で嫌われがちな付け合わせですが、メインの良さを無理矢理にでも引き出すのですよ。凄いでしょう?」
魔女の存在が忘れ去られて消滅する。はっきり言って杞憂だった。たしかに魔女は引きこもっているが、その名は有名だ。それに、そもそも幻想郷が存在を忘れ去られたものの楽園なのだから、よっぽど大丈夫だろう。だというのに、そんな些末な危険性すら憂慮するなんて。よっぽど心配性なのか。それとも。
「そんなに私に消えてほしくなかったのかしら」
魔女は楽しそうに笑う。「怖い夢でも見て寂しくなったのかしら? それこそ私がいなくなる夢でも見たの? まったく。あなたも子供ね」
「馬鹿にしないだくださいよ」
「耳、赤いわよ」
魔女はそっぽを向く悪魔を楽しそうに眺めている。実際は、悪魔の耳は赤い髪に隠され見えなかったのだが、どうやらその嘘に悪魔は気づいていないようだった。
「これは、あれでしょう」とらしくもなく早口で言う。
「何よ」
「ちょっと、生焼けになっちゃっただけです」
どんな照れ隠しよ、と魔女は笑い、薄白い景色をゆらゆらと揺らす。それでもまだ世界は曇ったままだった。