東方百年記   作:暁桃源郷

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多々良傘

この俺、多々良傘は産まれた時から父親が居なかった。

母ちゃんに何処にいるのか聞いたってはぐらかされしまうし、正邪姉ちゃんに聞いても俺に仕事を押しつけるだけで話してはくれない。

それだけならまだよかった。

自分のガキと嫁をほったらかすだけなら一発ぶん殴ってそれでチャラにしようと思っていた。

だが、事態はもっと複雑で親父は俺以外にも子供が居た。

しかも、別の女の人と作った子供だ。

それが、赤蛮鬼。

俺の異母兄妹だ。

 

 

 

「・・・・・さぁ、立てよ傘」

 

少し気絶していたようで気付いたら俺は土俵の上に立っていた。

 

「萃香お姉ちゃん!?なんで!」

「蛮鬼は黙ってろ。私は今、傘と喧嘩がしたいんだ」

 

蛮鬼を黙らせて萃香姉ちゃんが腰にかけてある瓢箪の酒をクビッと呑む。

 

「傘が産まれて百年が経った。そろそろなんだ」

「何が、そろそろなんだよ・・・・・・・?」

 

警戒しながらも俺は慎重に言葉を選んでいく。

しかし、それも虚しく萃香姉ちゃんの口角が上がったと思ったらいきなり距離を詰められて鳩尾を殴られる。

 

「ガハッ!」

 

口から血が吹き出して倒れ込む。

 

「零なら不意打ちだって今のを防げる。立てよ傘」

「だ、だから!何で俺が戦わなきゃならねぇんだよ!」

「生き残るためだ!」

 

萃香姉ちゃんがまた突っ込んでくる。

仕方なく俺は背中にかけてある傘を抜いく。

ほんの数秒、正確に腕を叩き落とせれば勝てる。

そう考えて傘を振り上げた時だった。

いきなり景色が変わって辺りを見渡す。

後ろを見れば萃香姉ちゃんがいてようやく気付く。

移動したのではなく、萃香姉ちゃんと場所が入れ替わったのだ、と。

 

「おい!伊吹萃香!私の『可愛くない』弟に何してんだ!」

「正邪姉ちゃん!?」

 

声が聞こえた方を振り向けば頭に小人の姫様を乗せた正邪姉ちゃんが立っていた。

 

「・・・・・・正邪の能力か。見ない間に強くなったもんだね」

 

萃香がリングを降りて文さんを見る。

ハッとして文さんが右腕を上げる。

 

「えっと、萃香様の辞退により、勝者傘君!」

 

俺は緊張が解けてリングに座り込む。

すぐさま正邪姉ちゃんと蛮鬼が寄ってきて俺を抱き上げる。

 

「ったく、何やってんだよ」

「ご、ごめん」

「口から血も出てるし、無茶しちゃダメだよ!」

「姫もすいません」

 

姫が俺の肩に乗ってきて口の血を拭いてくる。

それを見ながら正邪姉ちゃんが溜め息を付く。

蛮鬼はそれに気付き不思議そうな顔をしながら首を傾げた。

 

「だが、伊吹萃香の言う通りそろそろかもしれないな」

「正邪!?」

「萃香姉ちゃんも言ってたがよ、何がそろそろなんだよ?」

 

四人でリングから降りて席に戻る。

そのまま俺は寝転がって空を見上げる。

既に真っ黒で月が覗いていて少し物思いに耽ってしまう。

 

「・・・・・・さて、傘。これから私がお前に社長として辞令を出してやる」

「え?もしかして家追い出される感じ?」

「『そうだ』」

 

正邪姉ちゃんの言葉に俺が目を瞑ると今度は姫が俺のおでこに乗ってきた。

微妙に重いしくすぐったいので止めてほしい。

 

「違うよ傘。正邪はね、これからは正邪の代わりに傘が外回りの依頼に行ってって言ってるんだよ」

「誰がそんなこと言いましたか?」

「違うって言ってますけど?」

「正邪は素直じゃないんだから」

 

姫が俺の頭から下りて正邪姉ちゃんの腕を上っていく。

正邪姉ちゃんはそんなことを気にせずにいつものように俺の頭を撫でる。

子供の頃からずっとそうだった。

正邪姉ちゃんは自分に辛い嘘を付くときだけ俺の頭を撫でてくる。

 

「『二度と帰ってくんなよ』」

「・・・・・・・うん」

 

こうして、今日の年末の宴会はお開きになった。

 

 

 

その夜、俺は母ちゃんの仕事をぼおっと眺めていた。

俺の家は三階建てで一階が母ちゃんの鍛冶場になっていて二回が万事屋零ちゃんの応接室兼リビング、三階が寝室だ。

 

「・・・・・・・・・・」

 

カンカンと鉄を打つ音を聞きながら俺は考え事をしていた。

昔母ちゃんから聞いたことがある。

人里の外は昔は人間に友好的な妖怪が数多く居た。

しかし、今ではそんな妖怪達は人里で生活し、外には人間に排他的な妖怪が大多数となってしまった。

 

「・・・・・・・・・」

「どうかしたの、傘?」

 

気付けば隣に母ちゃんが座っていた。

話そうか悩んで下を向いていると母ちゃんが俺の頭を撫でてきた。

正邪姉ちゃんとはまた違った感覚だ。

 

「・・・・・・・正邪ちゃんから聞いたよ。人里の外に出るんでしょ?」

「・・・・・・・うん」

 

頷いて更に深く俯く。

 

「外はね、確かに怖い妖怪達ばっかりだよ。だけどね、優しい妖怪もまだ外にはいっぱい居るの」

 

母ちゃんが立ち上がって俺の前に立つ。

そしてしゃがみこんで俺の顔を覗く。

ようやく俺は顔を上げて前を見る。

 

「それにね、お父さんならきっとこう言うと思うの」

 

母ちゃんが何かを思い出すように目を瞑り、再び目を開く。

すると母ちゃんの目は先ほどのきらきらした優しい目ではなく、死んだ魚の目をしただらしない顔をしていた。

 

「え?何?お前外行くの?ふーん、良いんじゃない?外が地獄でもあるめぇし。零さんなんて、マジ地獄行ったからね、マジにランナウェイしちゃったからね!・・・・・・んま、俺のキン〇マ袋フヨフヨ泳いでた奴だし心配はねぇけどよ、気ィ付けろよ」

 

俺は驚いた。

母ちゃんの目が死んでいることでも汚い言葉を使っているからでもない。

あの純粋な、下ネタを言っても伝わらないような母ちゃんが、子供はどうやったら出来るのか聞いても本当に知らないと言う顔をするあの母ちゃんが、キ〇タマ袋などと言う下ネタを口にしたのだ。

 

「だから、大丈夫だよ。お母さんもお父さんも傘のこと見守ってるから」

「・・・・・・うん。親父に会った時に殴る理由と殺意は増えたけど」

「え!?」

 

かくして、俺の万事屋零ちゃんの外回りが幕を開けるのだった。

 




多々良傘
能力:???
種族:付喪神
破壊力:B
射程距離:C
持久力:D
スピード:B
精密動作性:A
成長性
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