自分は幸せになってはいけないと思い込んでるアイドルvsなんとか普通の幸せを与えようとしてくる事務所のみんな 作:エンゼ
今年完結を目指します。
──気が付くと、なにか柔らかいものを抱きしめていた。目がしぱしぱする。どうやら、眠っていたみたい。
だけどこの場所がなんとなく心地よくて、ここにいれば全部なかったことになる気がして、何も考える必要がかい気がして、離れたくないって気持ちになる。
……あれ、何が全部なかったことになるんだっけ。というかなんでわたしはここで眠ってしまってるんだっけ。
──そうだ、レッスンしなきゃ。価値を取り戻さないと。
「っ!」
自分の中の欲望なんて無視して飛び起きる。
こんなことをしてる場合じゃない。早くいかなきゃ──。
「あ、起きたみたい」
「ホントだにぃ☆」
「おはよ、桜子ちゃん!」
「……え?」
目の前に、何人かのアイドルの先輩方がいる。
「大丈夫? 飛び起きてたけど、何か変な夢でも見たの?」
「あ、いえ、特にはないですけど……」
渋谷さんに妹さんのほうの城ヶ崎さん、加えて双葉さんに赤城さん、諸星さんまで。
「えっと、皆さんなぜここに……?」
「今日桜子ちゃん休みでしょ? だったら、何かできないかなって」
「ホントはもっと大人数がよかったんだけどねぇ」
「休みって……あ」
思い出す。プロデューサーからレッスン禁止を告げられたことを。
休んだり、遊んだりしてる暇はない。レッスンしないと価値を得られない。だけど、プロデューサーから言われてしまっているから、レッスンは出来ないし、それを見守る双葉さんもいる。
「それで、どうするー? ここでお話するでもいいし、遊びに行ってもいいよね」
「杏ちゃんから遊びに行こうっていうなんて、めずらしいにぃ!」
「確かに! いつもここで寝てるもんねー!」
「杏だってたまにはそういう気分の時だってあるよー。それで、桜子ちゃん、どうしよっか?」
「え……っと」
……どうせ、今日はレッスン禁止令で何も出来ないんだ。明日以降の一緒にいる人は決まってないっぽいから、出来るかもしれないけど。もしそうだった時は、思いっきりレッスンしたい。それまでは、体力温存しておこう。それに寝起きだから、まだあんまり身体動かしたくない……かも。
「……すこし、お話したいです」
「うんうんうん、やっぱりそうだよねぇ。杏から提案しておいてあれだけど、のんびりお話するっていいよねぇ」
「うーん。桜子ちゃんの言ったことと、杏ちゃんの言ったことのニュアンス、ちょっと違うんじゃないのー?」
「ふふ、言えている」
仲がかなりよさそうだ。ここのメンバーの人たちは、調べた感じ、同じプロジェクトでデビューしたからなのか、かなり付き合いが長いみたい。だからこんな感じなのかな。
でも、なんでここにいるんだろう……? 寝る前は確か、双葉さんしかいなかった気がするのに。
「杏から呼ばれたんだよ」
「! ……どうして?」
「顔に出てたよ。かなり分かりやすかったかな」
……恥ずかしい。思わず俯いてしまう。
「……全然違うね。私もまだまだかな」
「──え?」
「ううん、なんでもないよ。ね、ちなみにだけど、私たちのこと分かる?」
「え、あはい。もちろんです。渋谷さん、城ヶ崎さん、双葉さん、赤城さん、諸星さん、ですよね」
「……そう、だね。そうなんだけど……」
渋谷さんだけでなく、全員がちょっと「うーん」って感じに顔になっている。
「……どうしました?」
「──うん! 桜子ちゃん! アタシたちのこと、名前で呼んでみよーよ!」
「へ?」
名前で? ……何故?
「それいい! いっしょにアイドルやる仲間だし、仲良くなりたいもん!」
「名字とさん呼びはちょっと距離を感じちゃうからねー☆」
「名前呼びのほうが距離が縮まりやすいって言うもんねぇ」
「あ、それ聞いたことあるかも」
「え、あ……」
周りからされる反応が、理解できない。
確かに、名前で呼んだ方が距離が縮まるということは聞いたことある。
前に聞いた話では、この事務所にいじめる人はいないらしい。それは今のことを考えると本当なんだと思う。
でも──価値がなくなったわたしと、どうして仲良くなりたいって思うんだろう。どうしても、そこが分からない。
もやもやも、ぽかぽかも、何も出せなくなった。
歌に込められなくなった。
何も、出来ない人になっちゃった。
それを取り戻してからなら、仲良くなろうとしてくれるのはわかる。でも何もない今、なんでこの人たちは仲良くなろうとしてくるの?
一体、どうして……?
──ぐぅぅ。
お腹が、鳴った。
一瞬気がつけなかった。でもそれが自分のお腹から出てる事に気づいた瞬間、すごく恥ずかしくなって縮こまってしまう。
あぁもう、なんでこんなときに!
確かに朝から何も食べてないけど! 時間もお昼でお腹も空く頃合いだけども!
「……あー、とりあえず、さ」
皆黙っていた中、双葉さんから言葉が告げられる。
「ご飯、食べに行こっか。そこで色々お話しようよ」
とりあえずこの空気が嫌だったから、すぐに了承した。
─────
一行は、近くの飲食店である346カフェに移動し始める。
「ね、お姉ちゃんと混ざっちゃうのもあれだからさー、莉嘉って呼んでみてよー」
「みりあもみりあもー! あっ! ねぇ、前に仁奈ちゃんが言ってたんだけど、凄く歌が上手なんだってね!」
「あ、えっと、その……」
「……桜子ちゃんチョーット困ってるみたいだから、一個ずつにしてみないー?」
道中、年齢の近い二人に話しかけられてしまい、対応に困ってる桜子。それを察して調整を試みてるきらり。端から見れば微笑ましい光景だが、桜子の内心は穏やかではなかった。
それをうっすらと察しているのはきらりと、その少し後ろを歩いている杏と凛。
桜子の抱えてる問題はかなり複雑であると感じていた。
「……ねぇ。桜子、ちゃんについてなんだけど」
「あー……凛ちゃんも分かっちゃう?」
「流石に、ね。あれ、ちょっと前の卯月と似てるから」
少し前の卯月──現在トップアイドルへの道を歩み続けている、凛たちの同期の島村卯月が、スランプに陥っていた時期のことである。
自身の強みである笑顔が分からなくなってしまい、一時期はアイドルを止めてしまおうとも思ってしまった、あの頃の。そう、つまり──。
「──
卯月ほどに多感な時期になれば、そのようになることは分からなくもない。しかし桜子はまだまだ幼く、無垢であることが普通である時期。あまりにも早すぎる。
「……多分、卯月ちゃんよりもある意味酷いよ。それが転じて、自己否定をしてる感じ。
だから、桜子ちゃんは今の自分が本当に大嫌いで、そんな大嫌いな自分に、何で私たちが仲良くしようとしてるか、分からないんじゃないかな」
一度近い状況になってしまった同期を見てきたからこそ、理解が出来る。
「大人組たちの間で色々と話題になってるらしいね。それが私たちまで降りてきてないってことは」
「……ま、そういうことだろうね」
闇はとても深そうだ。
今日のこのふれあいだけでは解決出来ないだろうと思うくらいに。
「……卯月が来てくれれば、もっとよかったのかもね」
「ま、仕事ならしょーがないよ。それに杏たちだって、何も出来ないわけじゃないからさ」
「確か、桜子ちゃんのプロデューサーから何か言われたんだよね?」
「そう、桜子ちゃんのプロデューサーからは……」
杏は思い出す。桜子のプロデューサーへ尋ねた時のことを。
桜子とは、どう接すればよいのかを聞いた時のことを。
「……『普通に接して欲しい』って。変に気を使ったりはしないで、他の人と接するような感じで、いつも通りでいて欲しいんだってさ」
桜子のプロデューサーは、桜子に普通を知ってもらいたい。故に、何も特別なことはする必要はないことを伝えた。
深い事情を知らない杏だが、これに言及することなく、引き受けた。
「なら、話し方とかはさっきみたいな感じでいいのかな?」
「いいんじゃない? ま、桜子ちゃんがキャパオーバーしないように抑えてもいいかもだけどさ」
「ふふっ、なんかちょっと乃々みたいだね」
「あー、確かに」
引っ込み思案で、あまり人付き合いが得意ではないあの子。もしかしたら、桜子とは相性がよかったりするのかもしれない。
「それにしても、桜子ちゃんと接するのを杏から提案したんだってね。ちょっと信じられないかも」
「まー、レッスンとかサボれるからねー。それに……後輩育成も先輩アイドルの務めでしょ?」
「そう……かもね」
深くは語らない。
そして凛も追求しない。なんとなく、分かってしまったから。
それに、昔が酷かったりしても、さほど関係はないのかもしれない。
なぜなら大切なのは、今のほうなのだから。
──────
人と関わることが、今までそんなになかった。話すとしても、人が多くて1対2とかそんなの。
しかも、凄く強く話しかけてくるって人は……市原さん、くらいだったかな。
だから今の状況は、わたしにとっては知らないことだったし、どうすればいいのか分からない。
「ね、桜子ちゃんは何頼む?」
「ここのパスタすっごく美味しいんだよ! おすすめ!」
「そ、そうなんですね。えっとじゃあ、みりあさんのおすすめで行こうかなと……」
お願いされちゃって断れなくて、莉嘉さんとみりあさんとお呼びすることになった。さん付けもちょっと嫌がってたっぽいけど、許して欲しい。
双葉さん、諸星さん、渋谷さんに関しては、あの後にやっぱり好きに呼んでくれてよいと言ってくれたから、一旦名字のままにさせてもらった。まだ、出来なさそうだったから。
「じゃあみりあもそれにするー!」
「えっとね、じゃああたしは──」
移動中も、今も、ずっと考えてる。なんで、わたしと仲良くしてくれようとしているのかを。
どうしても、分からない。価値が無くなったのに、仲良くなる理由はないはずなのに。
分からないから……怖い。何を考えてるのか、これからどうなるのか、分からない。
何をすればいいのか、どうなれば正解なのかわからない。
「──よし、皆決まったね。じゃあ注文しよっか。すみませーん」
「あ、はーい! 今行きまーす!」
聞き覚えのある店員さんの声。ふと顔を上げると、いつしかこのカフェに来た時の人だった。
この事務所の人は、誰もわたしをいじめないんだって教えてくれた、お姉さんだった。
「お待たせしました──あ、桜子ちゃん!」
「あ、ど、どうも……」
「お久しぶりです! 今日はお友達と一緒ですか? いいですねぇ……。あ、ご注文をお聞きしますね!」
手慣れた手付きで注文を取っていくお姉さん。そっか、あれから時間は経ってたっけとか考えてたら、気付いたらわたしの分の注文もしてくれてたらしい。お姉さんは言ってしまって、待ちの時間が来た。
「ねぇねぇ桜子ちゃん、菜々さんとは知り合いなの?」
「あ、えっと……前に、ここで知り合って。その後少しだけお話したんです」
「そうなんだ。菜々さん、たまにここでバイトしてるっていうけど、割といつもいるイメージだよね」
「確かに! でも346カフェっていったら菜々ちゃんってイメージあるよねー!」
「看板娘って感じだにぃ☆」
……なんだろう。ちゃんと、話せてるのかな。あんまり浮いてないような、入れてるっていうのかな。そんな感じがする。
久しぶりに、こんな感覚になったかもしれない。
怖いのに、怖くない。終わって欲しいのに、なんか心地よい、そんな気がした。
「そういえば、桜子ちゃんって寮に住んでるんだよね! ご飯とかどうしてるの? 作ってたりする?」
「いえ、ご飯はお姉さん……その、千川さんの家で食べてます」
「千川さんって……え、ちひろさん!? 意外な繋がりかも!」
「っ!」
皆から驚きの顔を向けられる。
急だったからちょっとびっくりした。
「あっ、あー……ごめん。でもそれだけ意外だったんだよ。ちひろさんってほとんどプライベートなところ見せないし」
「そう……なんですか?」
「よく一緒にいるPちゃんなら色々と知ってるかもだけど、私たちは全然知らないね☆」
Pちゃん……シンデレラプロジェクトのプロデューサーさんかな。そういえば、他のプロデューサーさんのことわたしはよく知らないかもしれない。
それに、お姉さんの仕事のこともあんまり知らない。……ちょっと、知ってみたいかも。
「ちひろさん、怒るととっても怖そうだよね……!」
「確かに!」
「いや……どうなんでしょう。いつも優しいですし、心配もしてくれます。だからそんな感じ全然ないですけど……」
「確かに優しい、んだけど……桜子ちゃんの言うちひろさんと、私たちの言うちひろさんはちょっと違ってるのかも」
「そう、なんですかね……?」
お姉さん、怖い……かなぁ。
そんなイメージ、全然ないんだけどな。
「ちなみにさ、ちひろさんとはどういう関係なの?」
「えっと、親戚です。今はお父さんお母さんの代わりをしてくれてます」
「そうなんだ。お父さんお母さんはお仕事とか?」
「……分かりません。いきなり、いなくなっちゃったので」
──途端、静かになった。
皆、私を見てる。それはさっきと同じ。
でも……なんか、今は嫌な感じだ。
「で、でも! わたしが悪いんです! だって、わたしには価値を示せなかったんですから!」
そう、あの時皆いなくなっちゃったのはわたしのせい。だって価値を出せなかったから。その後プロデューサーに見つけてもらえてアイドルっていう価値を示せるようになったけど……。
──でも、今は何も無くなっちゃってる。
やっぱり、こんなことしていていいはずがない。価値を示せなきゃ、アイドルとしてやっていけるはずがない。
さっき寝たし、十分休んだ。それにプロデューサーはわたしが価値を失ったことをしらない。だからレッスンを休んでもらうって言ってきたんだ。まだ、わたしに価値があると思ってるから。
プロデューサーにばれないうちに、価値を取り戻さないといけない。
双葉さんたちは、まだ黙ってる。何か考えてるみたいだった。
なんかここに、すごく居づらい。それに、行かないといけない。
「……ごめんなさい。変な感じになっちゃいましたね。わたし、トイレ行ってきます」
席を立って、トイレ……じゃなくて、さっきの店員さんが行った方へ。
わたしは一つ、嘘をついた。このままレッスンをしに行こうと思ってる。
幸い、誰もわたしのほうを見てない。本当はこのままレッスンへ行きたいけど、注文しちゃってたのが届いたら申し訳ない。
店員さんを見つけた。
「あの、すみません」
「はい! ……あ、桜子ちゃん! どうしたんですか?」
「さっき注文したわたしのパスタ、もう作っちゃいましたか?」
「え? えぇっと……まだみたいですね」
「なら……その、ごめんなさい。わたしの分のパスタは取り消しでお願いします。行くところが出来ちゃって」
「あ、そうなんですね! わかりました。今度は食べてみてくださいね! 絶品ですから!」
「はい。価値が戻ったら、また来ます。では、失礼します」
「え、『価値』? えっと待ってください桜子ちゃん、それって──」
最後何か言ってた気がするけど、走って出来るだけ遠くへ。
気がついたら、ちょっとした広場みたいなところに出た。
なんとか、一人になれた! 自主レッスンが出来る! 価値を取り戻すために動ける!
よし、と気合いを入れて、始めようとしたその時──。
「あれ、桜子ちゃんじゃーん! 久しぶり~」
「わーお! シキちゃんがファンって言ってたあの子ー?」
「あ、えっと……?」
前に会った一ノ瀬さん……そして、一ノ瀬さんとユニット活動をよくされている、宮本フレデリカさんに声をかけられた。
守谷桜子。
価値こそ正義。
シンデレラプロジェクトのメンバー(一部)
杏に誘われ、空いてるメンバーが参戦。
最近悪い噂がほぼなくなった桜子のことを知りたいと思い、仲良くなろうと接してくれていた。
感触は悪くなかったが……最後の話がちょっと重たかった。
店員さん(ウサミン)
人と一緒にカフェに来たことに歓喜。
最後に言っていた『価値』という言葉にひっかかりを覚える。
一ノ瀬志希。
変わらず、桜子のファンでいてくれてる。
宮本フレデリカ。
飽き性の傾向がある志希が、たまに話題にしてる子に出会う。