召喚学園の生徒だけど守護獣が異形すぎて邪教徒だと疑われてます 作:だぶすと
「あの……私、今から予定がありますので……」
「予定? そんなの俺達が後から手伝ってあげるって。お礼はたっぷりとするからさ、ちょっとだけ付き合ってくれない?」
やあ、僕の名前はヘレシー! 模擬戦でレティーシアの魔法と戦技に手も足も出なかった僕は、レイチェルさんとの反省会で互いの健闘を讃えつつ情報交換を行ったんだ!
そうして極秘に入手した情報によると、どうやらレティーシアは昔から魔力操作に秀でていたみたいだね!
あとレイチェルさんは水の魔法に適性があって、得意な武器は硬鞭で、家が貴族区の北側にあって、趣味は戦闘訓練と手料理で、最近また服の胸回りが窮屈になって、昨夜は星が綺麗だったらしいよ! オマケの情報が多いね!
今は放課後! 数人のクラスメイトが新しく付く事になった護衛の人達と一緒に帰っていくのを見送って、僕は一人で寮に戻って着替えて、一人で町に繰り出したよ! 一人で! 不思議だね!
先生が僕に護衛を付けてくれるとか言ってなかったっけ? 聞き間違い?
もしかしてハイドラの力が大きく評価されて、総合的な自衛力は十分だと判断されたのかな? そうだったら契約者としては嬉しい限りだよね! やっぱり自分より召喚獣が褒められた時の方が何倍も嬉しく感じるものだから!
「そんな事を言われても……ううん、困りましたね……」
「別にいいでしょ、ちょっと道案内してもらうだけなんだからさ。俺達だって王都に出てきたばかりで困ってんだよ?」
「ほら、その荷物は俺達が持ってやるからよ。いいだろ? な? すぐ終わるって」
『
今日は何を食べようかなぁ。昨日は安いスープを飲んだから、今日は普通のスープを飲もうかな! 楽しみだなあ!
『
「やっぱり?」
寮から大通りに行くのにも慣れてきたから路地裏を抜けてショートカットしようとしたんだけど、どうやら道選びに失敗したみたいだね!
先客は一人の女性と二人の男性! 見た感じ強引なナンパに見えるけど、都会ではああいうのって本当にあるんだね! こんな安っぽい演劇の導入シーンみたいな光景を実際に目にする事ができるなんて、遠路はるばる王都に来て本当に良かったなぁ!
貴重な経験をありがとう! 邪魔だから全員どこかに行ってね!
『
いや、こっちで何とかしてみるよ! ここでハッピーに出てもらったとして、また昨日みたいにレティーシアが怖がって僕の部屋に押し入ってきたら可哀想だからね!
それに、あの男の人達が本当に道に迷ってる可能性もあるよね? 僕達と同じく田舎出身のお
「取り込み中悪いんだけどさ、よかったら僕が代わりに案内しようか?」
「なんだこいつ」
「チッ、普段は人なんか通らねぇってのに。ツイてねぇな」
「目的地はどこ? 実はこう見えて王都には詳しくてね。力になれるかも知れない」
「見て分かるだろ、今いいところだからどっか行ってろよ」
「気味が悪ぃな」
あれ、なんだか食い付きが悪いね!
先に王都入りした者として先輩
「僕は今から大通りに行くところなんだ。一緒に連れて行ってあげようか?」
「しつこいな。もしかしてこの子を助けようとか思ってんの? 舐めてると痛い目見るよ? あ?」
「いるよなぁ、こういう勘違いした馬鹿。一発殴ってやりゃあ目ぇ覚ますだろ。こうやって……よぉッ!」
あれ、なんか殴られそうになってない? さっきまでクラスメイトの模擬戦を観戦していたから、素早い動きに目が慣れてて拳の軌道が良く見えるね!
『
「い……っ!? ……う、ぉ……な……なんだよこれ……っ!? ひ、ひッ……!」
向かってくる拳を見ながら物思いに耽っていると、ハッピーが目の前に肉腫を出して守ってくれたよ! ナイスハッピー! この顕現しないまま世界に干渉するっていうインチキ、まるで僕が魔法を使ってるみたいに見えてカッコ良いんだよね!
子供の頃に魔導師ごっこをして遊んでいたのを思い出すなぁ! 絶対ウケると思って大人達に披露したら滑り過ぎて逆に笑えたよね!
『
僕達まだ若いんだから大丈夫だって! 都会に来たからって背伸びして落ち着いた雰囲気を出そうとするのは良くないと思うな! 寮に戻ったら久しぶりにやってみようよ!
「うわああっ! 血、血が! く、クソッ、気持ち悪ぃ!」
お、ウケてる。やっぱり若いと感性が豊かで反応も良くなるんだね!
破裂した柔らかい肉片を浴びて血塗れになった男の人はかなり驚いているみたい! 必死に手で血を拭おうとしてるけど、水で流した方が早いよ!
「畜生! なんだってんだ! お、お、おいっ、こいつヤベぇぞ!」
「まさか呪術師か……!? 呪われるぞ、逃げろ!」
「おい待てって! 俺も行く! 一人で逃げるんじゃねぇ!」
「あっ……行っちゃった」
二人とも土地勘が無いって言っていたけど、何も聞かずに走っていって大丈夫なのかな?
暴力はいけない事だと思うけど、女の子の前だからって意地を張らずに知らない事は知らないって言えば良かったのにね! 最初は誰だって無知なんだから、素直に人に教えてもらうのが上手な生き方だと思うよ!
「ありがとうございます。御自ら私のような者を助けていただいた事、深く感謝いたします」
「……? あぁ、うん……?」
気付いたら足元で女性が膝を突いてるんだけど何これ? そんなに感謝されるような事はしてないし、そうだとしても畏まり過ぎじゃない? 随分と律儀な人だね!
「ずっと、この瞬間を待ち望んでいました。最期だからこそ、貴方様のお姿をこの目に焼き付けられた事を大変嬉しく思います……! ありがとうございます……ありがとうございます……!」
「そうなんだ……?」
分かった。この女性、ちょっとヤバい人だ!
視線に籠もった熱量が凄いし、言ってる事は意味が分からないし、変に敬われて反応に困るし、なんだかさっきの二人を相手にするより面倒な事になっちゃった気がするね!
人助けには見返りを求めてはいけないって言うけどこんな展開になるなんて全くの予想外だよ。人生って難しい選択の連続なんだなぁ!
「既に準備は整っています。確認をお願いできませんでしょうか?」
「何の……?」
「貴方様のお姿を見れば他の者も一層奮い立ちます。どうか、どうか一緒に……」
うん、やっぱり話が通じていないね! 綺麗な女の人を足元に跪かせているところなんて誰かに見られたら変な勘違いをされそうだからやめてほしいな!
低姿勢なのに押しが強いってなんだか新しいやり口だよね! 意外と断るのが難しくて長期戦になりそうな予感がするよ!
「やめなよ」
ん?
「……誰ですか、貴女は」
「そこの彼は今から私と約束があるんだ。夜の誘いならまた今度にしてくれないかな」
「そう、なのですか……?」
あ、コン子さんだ! 耳と尻尾を隠した完全な人間形態のコン子さんが現れたよ! こんにちは!
前にも似たようなタイミングで現れた気がするけど凄い偶然だね! どこかで僕の動向を監視しているとか……そんな訳ないか!
コン子さんと会う約束なんて一切していなかったけど、助け船を出してくれてるみたいだから有り難く話に乗らせてもらおうかな! この後の約束があるって言えば足元の女性も引き下がってくれるよね!
「うん、本当だよ。今から彼女と約束があるんだ。悪いね」
「今から二人でデートをして、最後は夜景が綺麗な宿で夜を共にする予定さ」
「そうそう、だから今日のところは……ん?」
なんか今急に約束事が具体化しなかった? 気のせい?
これって僕を助けてくれるための口実なんだよね? 話に乗って良かったんだよね?
「そうですか……あっ、失礼しました……! そうですよね、今夜は……」
「おや、言質が取れてしまったねぇ……?」
足元の女性は納得してくれたみたいだけど、その代わりにコン子さんがニヤついてて怖いよ! どうやら乗っちゃいけない話だったみたいだね! まさか助けに来てくれた知り合いに後ろから刺されるとは思わなかったなぁ。
でもまぁコン子さんが来てくれなくても困っていたのは同じだし、どっちに転んでも結果は大きく変わらなかったって事なのかも! 世知辛いね!
「では、私は邪魔にならないよう戻ります。当日はよろしくお願いいたします」
姿勢良く立ち上がった女性は深くお辞儀をしてから去って行ったよ!
一応これで状況は落ち着いたかな? 裏道を通ろうとしただけで随分と時間を取られちゃったね!
「色々と言いたい事はあるけど……取り敢えずは助かったよ。ありがとうコン子さん」
「気にしなくていいよ。それよりも今の女性は仕えさせている信者かい? 手を焼くようなら
「ごめん、僕ってどういう存在だと思われてる?」
半笑いで注意するのやめてもらえる? 絶対面白がって言ってるでしょ。
そういう冗談って本当に信じちゃう人がいるから良くないと思うよ!
「まぁキミの立場については一旦置いておくとして、早速デートに向かおうか。丁度キミの眼で確認してもらいたい場所があったんだ」
「……予想はしてたけど、デートは本当にするんだね。助けてもらったし別にいいんだけどさ」
「おや、不満かい? 私との逢い引きなんて普通の人間だったら泣いて喜ぶんだけどねぇ。多分」
「……多分?」
「うん。今までこうして男性を誘う経験なんてなかったからね。不確実な事を言い切ったりはしないさ」
「ふーん。へぇ」
「なんだい、その生娘を見るような目は。……あっ、違うよ? 違うからね!? キミは大きな勘違いをしている!」
そんな風にコン子さんと楽しく会話をしながら中心地から離れるように歩いていると、やがて大きめの建物の前で彼女が立ち止まったよ! 目的地はここかな? 掲げられたシンボルからして教会っぽいね!
「──一応言っておくけど、最近まではこうして自由に動き回れなかったからそういった感情も機会も持っていなかっただけなんだ。つまりキミの想像は単なる誤解であって、決して私が経験皆無の生娘のくせに耳年増という訳では……聞いているのかい!」
「うん聞いてる聞いてる。それより目的の場所ってここでしょ? 何を見ればいいの?」
「ん? おっと、そうだね……コホン」
立ち止まってなお熱量高めに語り続けるコン子さんに説明を促すと、彼女は小さな咳払いの後に姿勢を正して神聖な雰囲気を纏わせたよ!
まるで威圧するみたいに霊格ってやつを振り撒いてるけど、もしかして教会と張り合おうとか思ってる? 迷惑だからやめようね!
「ここはエルピスという神を信仰する人々の教会だ。召喚を司っている神らしいから、流石のキミでも名前くらいは知っているんじゃないかな?」
「それはまぁ。メイユールの特別な神様だから」
エルピス様っていうのは召喚の神様だよ! 戦場で天下無双の活躍を見せた召喚獣の姿を見て、兵隊さん達が召喚術そのものを神格化した存在なんだって自称門番のお婆さんが言ってたよ! 学園の先生はもっと昔からいたって言っていたけど、どっちが本当なんだろうね!
この国の大半の人はエルピス様を信仰しているよ! 僕は故郷で祀られてる神様を応援してるからエルピス教の教徒ではないんだけど、どうやら召喚が上手くいくように見守ってくれてる神様らしいから挨拶くらいはしたいと思っていたんだよね!
「ここは少し規模の小さな教会だけど、エルピス教では教会それぞれに神が宿っていると信じられている。信じられているという事は、つまり本当にいるんだ」
「へー」
だったら丁度いいね! ちゃんと挨拶しておかないと!
僕の名前はヘレシー! 小さい頃に呼び出した守護獣のおかげで召喚師としての素質を認められた僕は、少し前からあの有名なヴァリエール召喚師学園に入学して召喚師になるべく頑張っています!
「色々とやっていく前にキミの見立てを聞いておきたくてね。この神……どう見る?」
「どう見る……?」
コン子さんがなんだか不穏な事を言ってるんだけど、そもそも神様の見立てって何? それって人間がしていいような事?
教会の方を眺めると、確かになんだか近寄りがたい神聖な雰囲気を感じるね! コン子さんに感じるのとはまた違う眩しさがあるよ!
「何ていうか……ちょっと薄い、かも? 自分とは全然違うなっていう感覚はあるけど、危機感は小さいかな」
「ふぅん? そうかそうか。どうやら私の予想は当たっていたみたいだ」
「不安になる笑顔だなぁ」
コン子さんが何やら目を細めて悪い笑みを浮かべているね! 僕の私見を聞いて何を思ったのかは知らないけど、今のうちに釘を刺しておかないといつか大変な事をやり始めそうで怖いよ!
「楽しそうなのは結構だけどさ、失礼な事はしないでね。大事な神様なんだから……」
「成り立ちに隙があるんだよね。ある程度の年月はかかるかも知れないけど、少しずつ信仰の形を複雑化してから根底をすり替えれば別の神に信仰対象を移せそうだ。うんうん、ありがとう」
「今一番聞きたくない感謝の言葉」
人を共犯者みたいに言うのやめてもらっていい?
コン子さんが余計な事をしでかす前に、レティーシアに密告しておいた方が良さそうだね!
◇ ◇ ◇
「そこでエルピス様は言いました。『あなた達に、悪に抗う術を与えましょう』」
コン子さんの用事が終わって、折角だしそのまま観光気分で教会の中にお邪魔したんだけど、ちょうど子供向けの朗読会をするところだったから勉強も兼ねて参加させてもらう事にしたよ!
「声を聞いた王様は早速教えられた場所に向かいました。すると、そこにはとても大きな魔法陣があったのです」
「(成る程ね。童話に扮した歴史のお勉強って訳だ)」
子供達の邪魔にならないように最後列の長椅子に座ったんだけど、話が始まると同時に何故かコン子さんの膝の上に乗せられたんだよね! ……なんで?
確かに保護者の人と一緒に来てる小さな子供が大人の膝に座ったりしてるけどさ、僕はもう成人してるんだけど?
「あのさ、耳元で囁かれるとくすぐったいし、恥ずかしいから降ろして欲しいんだけど……」
「(しーっ……大きな声を出しては子供達の迷惑になってしまうよ。行儀良く座ったまま、静かに話を聞かないとね……?)」
「……」
「(ほら、私を背もたれにして深く座るんだ。……こうして後から抱き締めて、しっかり支えてあげるから……)」
「……」
「(んー? そんな弱々しい力で逃げようとしても無駄だよ……? ぎゅっと密着して、みっちり埋めて、もっと辱めてあげようねぇ……)」
「……」
もうやりたい放題じゃん。
教会への移動中にイジられた仕返しのつもりなんだろうけど、周りの子供達を盾にして動きを封じるとかやり方が姑息過ぎるんじゃないかなぁ。
相手をイジる時には自分もイジられる覚悟が必要って事なのかな? 覚えておこう!
『
そうなんだよねぇ。近くに子供達がいるし、そもそも教会で暴力沙汰は良くない気がするよ!
本人は楽しんでるみたいだし、ここは好きにさせてあげるのが大人の対応ってやつかな!
「その大きな魔法陣にはとても強い魔力が流れていました。その魔法陣を使って王様が召喚をすると……なんということでしょう、お城よりも大きな召喚獣が現れたのです」
「(これは事実らしい。メイユールの初代国王となったニフィラスは、大魔法陣の力を使って高位の存在を呼び出し、近隣国を圧倒したんだ)」
「現れた召喚獣はエルピス様に仕えていた聖獣でした。神様は私達を守るために、魔法陣を通じて力をお貸し下さったのです。王様は呼び出した聖獣で敵を倒し、平和を取り戻しました」
「(ここは違う。そもそもエルピスとかいう神が信じられるようになったのはこの国が興ってからだ。子供用に話を分かりやすくしているんだろうけど、因果関係が逆転している)」
あ、補足説明してくれるの意外と助かるかも。
コン子さんがエルピス様についてやけに詳しいのが怖いんだけど、今はありがたく解説を聞かせてもらおうかな!
「聖獣を召喚した大魔法陣と、その近くにあった三つの特別な魔法陣は今でもヴァリエール召喚師学園で大切に保管されています。再び私達に困難が訪れた時、そこから召喚される聖獣が私達を守ってくれるのです。有事の際にエルピス様の力をお借りするためにも、毎日の祈りを欠かしてはいけませんよ」
「(これについては……大体は合ってると思う。まだ直接は調査できていないんだけど、学園の外周に建てられている大小合わせて四つの塔の中に、お伽話に出てくる魔法陣が保管されているっていう話だよ。それを最大限利用するために信仰が必要だという部分も……まぁ後付けされた制約だとすれば納得できる)」
へー、お伽話に出てくるような物が今も保管されているなんて面白いなぁ! 話を聞いているだけでもワクワクしてくるね!
そんな凄い魔法陣を自分が使ったらどんな召喚獣を呼び出せるのか興味はあるけど、信仰心が必要だって言われると僕には無理な気がするよ! 別にエルピス様の存在を否定してるとかそういう訳じゃないんだけど、間違いなく教徒ではないし……。
でもお城より大きな召喚獣なんて呼び出せたら革命的だよね! 村中の畑を一日で耕せそう!
「……以上がはじまりのお話です。続きは次の朗読会でお話します。お菓子を用意しておきますから、次回も来てくださいね」
「はーい!」
「わかりました!」
「(おや、随分とあっさり終わってしまったね。まぁ、子供の集中力を考えるとこれくらいの長さが丁度良いのかな? あまり帰るのが遅くなってもいけないだろうし)」
「もう耳元で囁かなくてもいいと思うよ。あとそろそろ降ろしてくれない?」
「……仕方ないな」
どうやらお話は終わりみたい! 故郷での儀式とはまた違った雰囲気が新鮮で面白かったね!
コン子さんも不満そうにしながらも解放してくれたし、子供達が帰るのを待ってから僕達もお
「いやー、咄嗟にキミを抱えたのは我ながら名案だった。お仕置きをしながら庇護欲も満たせるなんて、これが母性本能というものかな」
「悪戯心でしょ」
弱者を力で押さえ付けて辱めるなんていう蛮行が母性である筈がないんだよね!
コン子さんはハッピーみたいにこことは全然違う場所から召喚されてるっぽいし、こっち側の常識を一度誰かに教えてもらった方がいいと思うよ! ハッピーも召喚したばかりの頃は色々あったからね!
「あの……」
子供達が帰っていくのを見送りながら二人で他愛ない話をしていると、こっちに近付いてきた教会の人がコン子さんの隣で立ち止まったよ!
初参加の僕達に感想でも聞きに来たのかな?
「ん……? 何か用かい?」
「はい。お話したい事がありまして……少しお時間を頂いても?」
「あぁ……成る程ね。ふふ。この威厳と霊格、聖職者には隠しきれないって訳だ」
教会の人から話し掛けられてコン子さんが得意気な顔をしているね!
胸を
「でもさ、いくら眩しい相手がすぐ側に来ていたとしても、自分が信仰する神の前で相談しようとするのはマナー違反というものだよ。ここには神エルピスがいる。祈祷でも、相談でも、信徒なら彼女を頼るべきではないかな」
「何を言っているのか分かりませんが、全く違います。私は懺悔を促しに来たのです」
「……?」
「なんですか、今の読み聞かせ中の不真面目な態度は。ここは神聖な教会であり、あのような不埒な行為をする場所では決してありません。確かに人間は欲深い生き物です。ですが、その欲望を制御する努力を怠ってはなりません」
「あれ、もしかして私説教されてる……?」
「ありがたい話だね。ちゃんと聞いた方がいいと思うよ」
不思議そうに目を瞬かせてるのは可愛いんだけど、コン子さんが朗読中に余計な事をして遊んでいたのは紛れもない事実だし教会の人が怒るのは当然じゃないかな!
相手は善意で注意してくれてるんだから無下にするのは良くないよ! いってらっしゃい! しっかり反省してきてね!
「では、二人共こちらに来て下さい。神の前に自らの魂を晒し、それぞれが犯した罪を告白するのです」
「じゃあ僕は外で待ってるから……え、二人……?」
「はい。当然です」
えぇ……? 僕は完全に被害者側なんだけど? 告白する罪なんて無いんだけど? 清く潔白かつ純情な新入学生なんだけど?
「くくく……言われたからには仕方が無いね、一緒に行こうじゃないか。なに、心配する事なんてないさ。私が手を握っていてあげよう。キミは逃げたりなんかしないだろうけど、念のためにね」
「ごめん、一旦話を聞いてもらってもいい?」
「安心して下さい。己の罪に真摯に向き合えばエルピス様はきっとお許し下さいます。貴方達のような活力に溢れた若者は、真っ直ぐ正直に生きてさえいればいつか必ず道が開け、幸せになれるのです。私も見守っていますから、頑張りましょうね」
固有名詞がチラホラ出てきていますが、あんまり覚えなくて大丈夫です。