――時遡(トキサカ)――   作:三流FLASH職人

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第十話 あすかむらんど

「あーあ、どうせならUSJとか行きたかったよなー」

「あたし家の近所よぉ、あすかむらんど・・・・・・正直泣きたいわ」

「なにこれ、吉野川下り? なんかしょぼそー」

「カフェでずっといるのが正解かもね」

 春の遠足に向かうバスの中、1年3組の面々はパンフを眺めながらそれぞれが溜息交じりの不満を吐いていた。

 

 行先は徳島県隋一といわれる規模のテーマパーク『あすかむらんど』だ。といってもいわゆる遊園地的な施設ではなく、未就学児から中学生くらいまでを対象にした、遊びながら様々な学習や体験ができる施設の数々と、とにかく広い敷地の公園にある遊具で家族がまったり過ごす類の場所だ。高校生の面々にはさすがにちょっと物足りないかもしれない。

 

「私は楽しみだけどねー、行ったことないし」

 登紀(わたし)はパンフ片手に隣の七海にそう話す。なにせそこはかつての登紀の故郷である坂野町にあるんやし、いわば自分の故郷の子孫たちが暮らす町のテーマパークとなれば、一度は行っとっても損はないやろう。わくわく感と郷愁の両方を胸に抱いて目を輝かせる。

 

「へー、私は開園したときに行ったけど面白かったよ。まぁ当時は5歳だったんだけどね」

 通路の反対側にいるせっちゃんがそう返してくる。なるほどパンフと照らし合わせると、その年齢ならまるまる1日でも遊びつくせないほど楽しめるだろう。

「子供科学館、プラネタリウム、工作工房、風車の丘にイベントスペース、冬にはイルミネーションまでやってるのね。いいじゃない」

「でも今は5月だけどねー、せめてコンサートでもあればいいんだけど」

 ななみんが苦笑いでそう返す。彼女もまた坂野町に住んでおり、もうあすかむは飽きるほど行っているらしく、そういう人には確かに気の毒かもしれない。でも未経験者ながら不満を口にする人達はちょっと贅沢じゃないんかいなぁ。

 

 

「うおぉぉぉー!広い、めっちゃ広いっ!」

「どこから攻める? やっぱまずアトラクションからか!」

「プラネタリウム締め切り10分前だって、急ごう!」

 で、そう不満を述べていた人たちほど現地に着いたらテンション上がるものだ、うんうん若者やなぁ。

 

 私はななみんとせっちゃんの3人で、端から順に施設を見て回ることにする。最初のエリアは遊具広場で、単にブランコやジャングルジムだけじゃなく、車いすに乗って挑戦する迷路や、ハムスターが走るようなループ車輪の人間サイズ版があったり、音響を利用しての空気スピーカーなんかも設置されている。平日なんで子供は小学生未満の子しかおらず空いていたので、私たちは童心に帰って色々と堪能してしまった。

 

「あー疲れた。これだからあすかむは嫌なんよ」

「って、めっちゃはしゃいでたじゃん」

 ななみんの嘆きにせっちゃんがツッコむ。彼女曰くこれだけ開放感があるとどうしても体力以上にはしゃいでしまうのが人の性とかで、そのせいでここにくると毎回クタクタになってしまうそうだ。確かに東西に1キロ、南北に2キロほどもある施設(駐車場は別)にこれだけ色々な設備があると全部経験するには相当な労力がいるだろう。かと言ってスルーするのはなんとも勿体ない気分にさせてくれる。

 

「じゃあ、風車の丘に行ってまったりしない?」

 公園の奥、街を見下ろす小高い丘に建てられた風車を見上げてそう提案する。そろそろお昼近くだし、このへんでお弁当と洒落込むのも一興だろう。

 

「ん? でもいいの、天野君と食べなくて」

「・・・・・・あんねぇ、もう付き合うてる前提で言うの止めてくれんで?」

 先月の資料館の一件以来、ななみんはどうも私と天野君が確定カップルのような扱いをしてくる。なにせ1年生全員が来とるこの遠足で、二人仲良くお弁当などつつこうものなら、それこそ全校公認になってしまう。

「気取っても阿波弁でとるよー」

「動揺してるしてる」

 あ、あかん、また・・・・・・

「し、しとらんけん!」

 

 結局3人でお弁当タイムを経て、腹ごなしにと科学技術館に入った所で天野君たちにばったり出会った。一緒にいるのは委員長の本田君と、彼とよくつるんでいる渡辺君だ。

「おーっす天野君!愛しの彼女を配達に来ましたー!」

「ちょっとおまはん、公共の場で何言よんよほんまに!」

 真っ赤に照れて固まる天野君をよそに、ななみんを追っかけまわす私。委員長とせっちゃんは居並んでやれやれとこちらを眺めているのが分かる、二人は体育会系同志、気が合うようだ。

「結構体を使うアトラクションとかあるぜ、この中」

「へー、面白そう、行く行く」

 本田君がせっちゃんにそう教える。なんでも自転車ペダルを漕いで発電するシステムやら、月面重力が体験できる機械やら、ボールを投げて球速を測るマシンなんかもあるそうで、大いに興味を引かれるせっちゃん。二人は連れ立って科学館の中に入って行ってしまった。

 

「と、いうわけでぇ、邪魔者は退散しますか」

「だなー」

 なんか渡辺君とななみんが目を合わせてニヒヒと笑い、ごゆっくりーと手を振りながら外に出て行く。残された私と天野君の空気が非常に気まずいんやけど・・・・・・

 

 ――間もなく科学館プラネタリウムにおきまして、『星の輝き、命の輝き』を上映いたします――

 

 そんな気まずさを払拭したのは館内放送だった。これでどちらかが誘えばこの硬直状態からは抜け出せる。

「あ、か、神ノ山さんっ!良かったら、一緒に・・・・・・見に、行く?」

 誘ってくれるのは嬉しいんやけど、ちゃんとこっちむいて喋ってや。まぁそれでも先手を打ってくれるのは真面目な彼らしいけど。

「あ、ありがと。うん、行く」

 

「そういやお弁当ありがと、今日も凄く美味しかった」

「へへ、どういたしまして」

 通路を歩きながらお礼を言われ、してやったりの表情で返す。実を言うと今日も彼の分のお弁当を作って来ていたのだが、やはりみんなの前で渡すのはどうも恥ずかしい。なので彼と事前に打ち合わせしておいて、早朝にこっそり会ってお弁当を渡しておいたのだ。

 

 なんかこういのは、こっそり隠れて秘密で付き合っているみたいで楽しい。

 

 

「うわ! 広いねー」

「ほんまや、下手な映画館くらいあるでないで(あるじゃない)

 プラネタリウムとにかく広かった。座席は100もあり、しかも東西に広く席が配置されているのもあって開放感は抜群だ。中央には巨大な投影機が鎮座して夜空を映し出すのを待ち構えている。

 

「あら、おふたりさんもプラネタ?」

 入り口付近でアゴに手を当てて佇んでいた宮本さんに声をかけられる。頷いた私たちにオススメは一階中央のあの辺りよ、と勧められる。彼女もまたここ坂野町が地元で施設はもう見飽きているが、プラネタリウムの放映番組だけは常に入れ替えられているので、ここなら退屈しなくて済むのだそうだ。

 

 オススメの席に並んで座る私達。でもここってドームのかなり前の方で、思い切り上を向かないと全天を眺められない、なんか首が疲れそうやなぁ。

「あ、シートがリクライニングになっているんだ」

 天野君がヒジ置きのボタンに気付いて押すと、彼のシートがすっ、と倒れる。私も習ってシートを倒すと、なるほど草原に寝そべって夜空を見ている気分になる、確かにいいポジションだ。

 

 

 放映が始まる。前半は今夜の徳島の星空と星座の解説、そして町明かりをすべて消した時の星々の輝きだった。普段は見る事が出来ない細かい星で、全ての視界が隙間なく埋め尽くされるその様はまさに圧巻だ。

 

 そして後半の放映。それは外宇宙(アウタースペース)と、人間の体内の中、つまり内宇宙(インナースペース)の物語だった。主人公は小学生高学年くらいの少年と少女で、星に思いを馳せる少年と、その幼馴染の女の子が、自分の中にある原子の宇宙を感じ取って、その両方の輝きがかけがえのない物である事を知っていく物語だった。

 

『ずっと、生きていく。この宇宙も、僕たちも、未来へ』

 

 そんな少年のセリフに、私は胸がずきん! と痛むのを感じた。

 

 あすかむらんど。明日(・・)に向かって『迎え入れる』の意味を持つ英語”come on”の名を持つ施設で、『未来』の名を持つ男の子とともにいる。でもそれは今だけの邂逅、ほどなく私と彼は、そしてこの世界の全てはすれ違い、そしていつか、忘れ去られる。

 

 それが私の呪い。

 

 今だけでいい。せめて今だけは、人のぬくもりを感じていたい。

 私の頬を熱くしてくれる人と、同じ時間を共有したい。

 

 私は隣に座る、天野未来君の手をそっと握った。多分彼は驚いて、声を上げて照れるだろうけど。それでもこの瞬間だけでも――

 

 

 ――ご鑑賞有難うございました、次回の放映は午後3時からに――

 

 

 星々が消え、館内が明るくなり、アナウンスが終了を告げる。でも、天野君は何もアクションを起こさずに、ずっと私の手を握ってくれていた。

 彼はそのまま体を起こすと、手荷物からハンカチを取り出して、それをそっ、と。

 

 私の頬に、目じりに、優しく走らせた。

 

 

 あれ・・・・・・私、泣いてる、の?

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