――時遡(トキサカ)――   作:三流FLASH職人

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第十七話 文化祭

「それでは、月末の文化祭でのウチのクラスの出し物を何にするかを決めたいと思います」

 9月頭、無事に二学期のクラス委員長に就任した天野 未来(あまの みらい)が、初仕事とばかりに教壇から皆に提案する。隣では副委員長の神ノ山登紀(かみのやま とき)がチョークを手に皆のアイデアを待つ。

 

「はーい、演劇やりたいでーっす!」

 一人の女子のその提案に、彼女の仲間のグループがきゃいきゃいと騒ぎだす。

「ロミジュリみたいなのやってみたいわねぇ」

「男女逆にするってのはどうかな、女装男子+男装女子で」

「あ、もちろん主役は委員長と副委員長ね」

 登紀と未来が付き合っているのはとっくにクラス中に知れ渡っていた。入学時からそれらしさを匂わせてはいたのだが、あの阿波踊りの日以来速攻でライン等で拡散してしまっていたのだ。

 

 が、そんな盛り上がりを見せる中、一人の男子が手を挙げて立ち発言する。未来とも仲の良い渡辺だ。

「いやぁ、正直演劇はどうかと思いますけどねぇ・・・・・・やっぱ無難に展示とかがいいんじゃないッスか?」

 そう言って彼は部屋の片隅に陣取る男子たち、彼と同じ中学出身の面子に目配せすると、彼らもまたうんうんと頷く。「えー」「なんでよー」と不満を漏らす女子達に渡辺はこう返す。

「文化祭で演劇ってめっちゃ難しいぜ、俺達も中学生の時にやったんだけどさぁ・・・・・・」

 

 彼らが中3の時、文化祭でやった演劇は大失敗したらしい。今回と同じように女子達が発案して始まったそれは、彼女たちの理想と妄想で突き進んでいった。クラスの総意ではないそのアイデアは、ほぼ一方的に役割や演者が決められていて、彼女たちのグループ以外の者たちの反感を大いに買ってしまったのだ。

 特に反発したのが一部の男子たちだ。女子達が推す配役は当然ながらクラスのイケメンや美女に集中し、それが面白くなかった彼らは非協力的で、ほぼ役割を投げ出して何もしなかった。クラスの結束を見せるはずの文化祭のイベントは、逆にクラス内の亀裂を深めただけだった。

 

 さらに言うなら、演劇というもの自体がそう簡単では無い。大根役者などと言う言葉があるが、それでも『役者』という名が冠されているならまだいい、それ以下の素人がするお芝居は見ていられない程に粗末なものになる。現に渡辺達がかつてやった演劇ではセリフ噛みや音響ミス、小道具の持ち忘れ、アナウンスのセリフ忘れなどが続発してしまった。

 また脚本も大事だ。お約束のラブロマンスは新鮮味に欠け、奇をてらったアイデアやギャグなど平成の時代に出尽くしている、そんな物をわざわざ見にくるお客などせいぜい身内くらいの物だろう。

 

「俺らの時も最初っからガラガラでさぁ、何度も校内放送で『来てください』ってアナウンスして貰って、それでもなんとかぽつぽつ人が居たくらいで・・・・・・それで結果が大失敗。完全に黒歴史だよ」

 渡辺がそう話を〆ると、発案した女子達はすっかり大人しくなっていた。

 

 と、黒板にコツコツとチョークを走らせる音が響く。登紀が演劇をする際の問題点を箇条書きにしていたのだ。

 

・配役

・シナリオ

・演者の演技力

・集客力とそのための宣伝

・クラスの結束、役割の分担

 

「問題点はこんな所よね。逆にこれさえクリアできれば問題は無いわけで」

 登紀が皆に向き直ってそう発する。そう、長き時を生きてきた彼女は思春期のお子様達とは経験値が違う、今渡辺君が言ったグチはそのまま貴重な、改善すべき問題点の提案でもあるのだ。

 

 その前向きな提案にクラス全体がおお、と盛り上がりかける。と、宮本さんが控えめに手を上げ、立ち上がって発言する。

「それならシナリオは恋愛ものより、友情ものがいいんんじゃないかしら?」

 その提案、というよりその発案者にクラスが「あ!」と湧く。そう、この組には物語描きのエキスパート、宮本さんがいたじゃないか!

「さっすが、頼りになるぅ!」

「『脚本・全国金賞ノベル作家』、これだけでも集客力バッチリじゃない?」

 没になりそうだった演劇案の復活にクラスが色めき立つ。渡辺達もそれなら中学時代のリベンジを、と意欲を見せ始めた。

 

「演技は指導者がいたらいいんじゃねぇか、なぁ委員長?」

 本田君のその発案にクラス中がナイスアイデア、と同意する。生真面目な未来は国語や英語の朗読でもいちいちセリフを言う者の立場になって、その口調を再現しようとまでしていた。その感情の籠った朗読に「声優になったら?」などと言われるほどだ。ええー、と一歩引く未来だが、どうやら演技指導担当は決まってしまったようだ。

 

「そういう事なら、私は監督をやりたいわねぇ」

 そう言ったのはせっちゃんだ。なんか理由がメガホン片手に「キュー」「カット!」を言いたいだけらしいのだが、その軽い発案がキッカケとなって、クラスの皆がわれもわれもと配役を希望していく。

 

 皆の積極的なその姿勢に、教壇の隅で座る岩城先生がうんうんと満足そうに頷いていた。

 

 

 一週間後、宮本さんが完成させたシナリオを元に役者が決められていく。主役は3人に絞られてオーディションにかけられた末、登紀がその役に選ばれた。ラストシーンの涙するシーンが一番真に迫っていた、というのが決定打だった。

 こうして総監督川奈さん(せっちゃん)、シナリオ宮本さん、演技指導は天野君、そして主役は登紀(わたし)と言う演劇の発表に向けて連日の特訓が続いていく。

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 ある高校のクラスで、ひとり孤立していた女生徒が居た。彼女は特に存在感も個性も無く、かといって別にイジメを受けている訳でも無かった。ただただクラスの中にいる事がつまらなかった。

 

 そんな彼女がある日、何気なく立ち入った古墳群の中で、石に刻まれた地図のようなものを見つける。印をつけられたところに何があるのかに興味を引かれた彼女は、それを探そうと日々奮闘する。

 

 クラスメイト達は急に生き生きし出した彼女に興味を持ち、話を聞き出すと皆一様に関心を示した。「宝探し?」などと色めき立つ女子も居れば、「貴重な古代資料かも」と現実的発見に興味を示す男子、いや異世界への入り口だと妄想するオタクな生徒から、「夢見てんじゃないわよ」などと言いつつも一番食い付く生徒までいた。

 

 山野を駆け回り、壁画を発見し、オーパーツ(ここは笑い所)を掘り出し、別の者が古代の資料を調べ上げ、少しづつ真相に近づいていく。仲間とともに協力し、艱難辛苦を乗り越えて、ついに彼女らはその地点、古代の宝が眠る場所に辿り着いたのだ。

 

 そこにあったのは、いかにも古代の宝らしい、一枚の丸い鏡だった。

 

 金銀財宝でもなく、異世界への入り口でも無かった、そのくすんだ鏡を手にして女の子は感慨に浸っていた。達成感と、「終わり」の予感を感じて。

 と、最初彼女の捜索をバカにしていた女子が鏡の裏面を覗き込む。古代資料に詳しかった彼女が、そこに刻まれている文字を見て、そうか、と頷いて皆に言葉を伝える。

 

「今、その鏡に映っているもの、それが主らのかけがえのない宝だ、だって。」

 

 え、と顔を上げて鏡を見る。くすんだそれはもう何も移さない、でもそれが光を反射した頃は今、彼女の後ろの光景を映しているはずだ・・・・・・後ろを向くと、そこには。

 

 みんなが、いた。

 

「友達が宝って、ベタなオチやなぁ」

 それまで口もきいたことが無かった男子が頭をかいて朗らかに笑う。

「でも見つかって良かったじゃん、苦労が報われてさぁ」

 普段ひそひそ私の陰口を言っていた女子が、笑顔でぽんぽんと肩を叩いて来る。

「もし県とか国とかが買い取ってくれたらみんなで山分けよね、友達なんだし!」

 宝探しと興味津々でついてきた子は、最後までブレなかった。

 

 少女は鏡を抱えたまま、皆に向き直る。呆然とした表情のままで。

「・・・・・・友達?」

 そう一言、呟いた。

 

「えー、いまさらぁ?」

「俺ら立派な友達やん」

「ね」

 

 その響きに、その言葉に、そしてその『想い』に。

 

 少女はぼろぼろと、涙を流した。

 彼女は確かに『宝物』を、絶対に手に入らないと思っていたものを、今確かに手にしている。

 

 紅に染まる夕日の中、彼女のこぼした涙がきらきらと、美しい光を放っていた。

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 万雷の拍手に包まれる体育館。ラストシーンのまま幕を閉じる舞台を見上げ、誰もが感動し、感心し、拍手を送る。

その物語、演技力の高さ、小道具や背景の完成度、そして後を引くラストシーンの演出、ライトの当て方に至るまで、全てに称賛の思いをこめて手を叩いた。

 

 こうして1年3組の出し物、演劇は大成功に終わった。

 

 その主役の少女を演じた生徒、神ノ山登紀の、ラストシーンで流した涙が、演技ではなく本物の涙である事を知っているのは・・・・・

 

 彼女の他に、二人(・・)だけだった。

 

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