――時遡(トキサカ)――   作:三流FLASH職人

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第八話 137歳の学園生活

「ねぇねぇ、トキちゃんはクラブ何にするん?」

 新学期三日目の放課後、前の席の女子の川奈 潺(かわな せせらぎ)さん(通称せっちゃん)が後ろ向きにイスにまたがってそう聞いて来る。

「うーん、まだ決めて無いなぁ。出来れば帰宅部がいいんだけど」

 できるだけ受け答えに訛りをいれないように気を使いつつ、思案顔でそう返す。昨日は天野君のお父さんの前で阿波人丸出しの方言を使ってしまい、あわや素性を怪しまれるところだった。私は一応この春に関西の方から越してきた、という設定になっているのだから。

 

「この学校に帰宅部はないからねぇ」

 後ろから私の肩越しに首を乗っけてそう言ってきたのは、二つ後ろの席の三木 七海(みき ななみ)さん(通称ななみん)、昨日私と天野君のツーショットを撮影した張本人だ。今日もトレードマークの三つ編みリングを両耳の後ろにまとめている。

 せっちゃんとななみんは初日から打ち解け、いわばにわかの友達になっとった。まぁこれから仲たがいすることもあるやろうけど、まずは学校生活で今でいう「ぼっち」になるのは避けられた、ええことや。

 

 はぁ、と息をついてクラブ一覧のプリントを見る、50以上の部活の名前がびっしりと並んだそれはなかなかに圧巻だ。この国分寺高校は基本全生徒が何かしらのクラブ活動に所属する事が義務付けられている。これは一応普通科高校として、進学と就職の両方のケースで内申書に書く内容を増やすためのいわば水増しのための決まりだ。学校側としても進学率、就職率が高いほど学校の評判はあがるものなのだから。

 

 なので帰宅部になりたければいわゆる幽霊部員になるか、部員がおらず活動不可能な部に所属して名前だけの部に所属するかのどちらかである。

 この学校は一度新たな部活が出来ると、部員が居なくなっても名前は残るそうだ。新入生が入ってきた時にその部活を復活させる可能性も考慮しての事らしい。なので普通の学校には無い釣り部やキャンプ部とか、酷いのになるとレーシングカート部とか河石拾い部なんてものまである。

 

 まぁある程度人気があり、あまりチームではなく個人で活動する部がいいだろう。例えば文芸部、そう副委員長の宮本さんが入るであろうあの部なら、活動は個人個人だから顔出ししなくてもそう問題にはならないだろう。

「せっちゃんやななみんは、どこ入るの?」

「あたしバスケ部!ねぇ、一緒にやらない?」

 彼女らもすでにプランは立てているらしい。確かにせっちゃんは背が高く、物腰もどこか体育会系なイメージがある。私は背が低いしガラじゃないとお断りを入れると「ちぇー」と頬を膨らませる。

 

「私はときちゃんと同じで帰宅部希望だから、まぁ文芸部か科学部あたりかなぁ」

「やっぱそのへんか、じゃあ一緒に入る?」

 ななみんと顔を見合わせて、んっ、と親指を立てる。せっちゃんは「やれやれ青春しなよ」とため息をつくが、ふと何かを思いついたらしくニヤケ顔で私に迫って来た。

 

「でー、愛しの天野君はどのクラブなのかなぁ?」

「ひぇっ! な、なに()っとん!そんなん知らんでないで(ないんだから)!」

 慌てて手をぶんぶん振って否定する、なにとんでもない事を言うとんや!

「ときちゃんって、慌てるとモロ阿波弁出るねー」

「あ、ホンマやー」

 うぐ、しもた・・・・・・・はよこのクセ直さんと。

 

「えーと、委員長の本田君と仲いいし、多分柔道部じゃないの?」

 同じ中学出身という事もあり、休み時間彼ら二人はよくつるんでいた。天野君は髪型もスポーツ刈りだし、なにかしら体育会系の部活に入っているんやろう。だったら帰宅部希望の私とあまり接点はないはずや。

 

 ちなみに天野君とは初日以来話をしていない。別に避けてるわけやないけど、どうもお互い変に意識しているみたいで、目線が合うと顔を赤らめてそっぽを向かれてしまう、そんな態度が伝染したのか、すれ違う度に私もどうしても俯いて目を反らしてしまうのだ。それが彼女たちにはウブな恋心に見えるらしく、たまにこうやってからかいのネタにされてしまう。

 

「そんじゃまた明日なー」

 そう言って颯爽とカバンをかついで教室を後にするせっちゃん。これからバスケ部に入部届を出しに行くそうだ、選手になったら応援に行ってあげ(よう)

「じゃ、私たちも」

 そう言って頷き合い、文芸部が活動する図書室へと向かう私とななみん。ほかにも幾つかの部が図書室で活動するらしいけど・・・・・・

 

 

「はいビンゴだねぇ」

 図書室の一角、”郷土文化研究部”の立て札がある机に座っていたのは、だれあろう天野君だった。

(え、えぇぇーー!何で天野君ここにおるんよ~!)

 ニヤニヤ顔で私を見るななみんに、違うからと首を振って釈明する。これじゃまるで二人があらかじめ打ち合わせて図書室に来たみたいやない!

 

「ちょっと貴方達、文芸部希望?」

 そう後ろから声をかけられる。凛として立っていたのは3年生の校章を付けた背の高い女子だった。腕には”部長”と書かれた腕章が巻いてある、彼女が文芸部の部長なのだろう。

「これ、うちのパンフね。今年は期待のホープが入ったから活動しっかりやるわよ」

 そう言って活動内容のプリントを渡すと、大勢の女子が固まる中に戻っていく。その中心に座っているのはウチのクラスの副委員長、宮本さんだ。彼女は先輩方から次々にスマホを渡され、その画面を覗き込んで、時にはスワイプして感想を述べる。

 

「タイトルが無難過ぎます、今時Web小説なんて星の数ほどあるんですから、もっとインパクトのある表題を!」

「展開が遅い! 最低でも3話までには大きく話を動かさないと切られます!」

「先輩が書きたい話を書くんじゃなくて、読者が読みたい話を書かないとだめですよ!」

 ・・・・・・なんか先輩の書いた小説を情け容赦なく批評してるみたい。いくら全国コンテスト金賞受賞者とはいえ、あれじゃいじめられないか心配になって来るなぁ。

 

「うわぁ、マジでガチだわ文芸部」

 ななみんがプリントを見てため息をつく。そこには部の活動として最低3カ月に一本の短編小説、または年一本の長編小説の書き上げに加えて、月に一本読んだ小説の感想文の提出が義務付けられている。こらあかんと頷き合ってそそくさと彼女らから距離を取る私達。

 

 と、後ずさりしている私達は、通過した席に座っていた天野君と目が合う。

「!」

「え”」

「やほー天野君」

 固まって真っ赤になる天野君と変な声を出す私の横で、ななみんが朗らかにクラスメイトに挨拶する。

「そーだ、このさい私達もここに入ろうよ!」

「「え、えええええーーーっ!?」」

 ななみんの提案に、私と天野君の驚き声がハモる。確かに他に座っている者はおらず部員も居ないのだろう。だったらこの3人なら名目だけの部として帰宅部ライフを送れるんやろうけど・・・・・・

 

「あ、天野君、なんかすっごい部に入ってるんやねー」

 上ずった声でしどろもどろそう話しかける。あーもうほんな顔赤らめん! こっちまでなんか顔ほてるやないの!

「あ、僕は、その、近所の郷土資料館で、バイトしてるから・・・・・・」

 机の上で両手を組んで気恥ずかしそうに返す彼。

 

 とりあえず机に座って話をする3人。なんでも彼の地元の古墳近くから遺跡や土器が出土し、その為に建設された資料館を創立するのに彼ら一家がボランティアとして働いた縁もあり、中学生の時からそこでアルバイトをしていたそうだ、それで郷土の歴史に興味を持ったらしい。

「へぇ、なんかそういうのいいわねぇ」

 彼のそんな行動に素直に感心する私。呪いを受けて以来、根無し草として全国を放浪していた自分にとって、ふるさとの歴史を研究する彼は何か羨ましかった。なので私も遠くなった自分の生まれ故郷、徳島を掘り下げてみるのも面白いかもしれない。

 

「じゃ、じゃあ、部活、一緒に、やる?」

 ほなけん(だから!)、頬を真っ赤にして上目遣いで誘いせられん!

「う、うん・・・・・・よろしくお願いします」

 みてみぃ、私までなんか動悸が止まらなくなってしもとるし。

「これは面白くなってきましたねぇ」

 うぷぷと口を押さえて笑うななみん。

 

 

「よく見て先輩方、これが古典的なラブコメの典型ですよ!」

 

「「「うわわわわぁっ!!」」」

 いつの間にかすぐ横に宮本さんがシャーペンを構えてこちらを凝視している。その後ろには文芸部員たちがうんうん参考になるなぁと興味深そうに頷いている、中にはスマホに文章起こしをしている女生徒までおる・・・・・・やめないな!

 

 

 こうして私達3人は”郷土文化研究部”に所属する事と相成った。

 


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