私と輪廻転生の小話
こんにちは。私、リングキャンディと申します。
お菓子売り場や駄菓子屋などに売られております、大粒のダイヤモンドをかたどった指輪型の、女の子に大人気のお菓子なんです。
…あら、ご存知でした?それは失礼致しました。
では自己紹介などは程々にいたしまして、私のお話を、一寸聞いていって下さいな。
____大抵のリングキャンディの夢、といいますと可愛らしい女の子(男の子だって構わないんですけど、なかなか男の子で私を買う子はいませんもので)の指にそっとはめて、うっとりと眺めて頂いて、そして美味しく味わって頂くことなんでございます。
例に漏れず私もそのような夢を胸いっぱいに抱きながら、生まれた工場から出荷されていきました。私の販売された場所は小さなスーパーのお菓子売り場でございました。
どんな子が買ってくれるのだろう?がりがりと力任せに歯で噛んでしまうような子は、いやだなぁ。いいえ、それよりもまず、売れ残ってしまったら?あぁ、そんな恐ろしいこと、考えたくも無い!
とりとめのないことを考えながら、お菓子売り場に置かれた箱の中でじっとしていますと、ひとりの可愛らしい、髪をふたつにしばった女の子がおばあさんの手を引いてやってきます。
「おばあちゃん、ほうせきのゆびわ!ゆびわ!」
「あーちゃんはほんとに、その飴が好きねぇ」
そして、私はその可愛らしい女の子の小さな指に摘まれました。
あぁ、こんな幸せなことがあっていいのかしら!私の理想通りの女の子に、こんなに早く見つけて
もらえるなんて!
周りにいた他のリングキャンディたちが羨ましそうにこちらを見つめ
「ストロベリー味は得ねぇ」
「なんてったって、ピンクですものねぇ」
と口惜しそうに呟いています。
そして私は、他のリングキャンディへの優越感と誇らしい気持ちで、その女の子に買われてゆきました。
がたがたと微かに揺れる車内で、私は至福の時間を過しました。
だってその女の子は私の理想通り、そっと私をその小さな指にはめて、うっとりと眺めて、あまつさえ車を運転するおばあさんに私をはめた小さな指を、誇らしげに見せてさえくれたのですから!私はほんとに幸せものだと、心の底からそう思いました。
そして、女の子は心ゆくまで私を眺め終わると、そっと私を口に近づけました。
最期に美味しく味わって頂くのが夢、とは言いましても、やはり最初に口に含まれる瞬間は恐ろしいものです。
あぁ、お願いだから、噛まないでね、ぼりぼりと、私を歯で粉々にして食べるなんて下品な真似、しちゃいやよ…
そう祈るように思いながら、女の子が私を口に含む瞬間をじっと待ちます。
私の祈りは通じたようで、女の子はとてもお上品に私を味わってくれました。少し舌で掬って、味わう、掬って、味わう…少しずつ私は溶けていきます。
あぁ、私って本当に幸せなリングキャンディだったわ。次もリングキャンディに生まれて、この子のもとへ来たいわ…
溶けゆくからだにうっとりしていると、車の揺れがおさまりました。目的地に着いたのでしょう。
女の子は私を味わうのをやめて、はしゃぎながら車の外に走り出しました。
唾液に濡れたからだがすこし冷えます。
女の子は私をはめたまま、公園の遊具で遊ぼうとしています。すると少し遠くから、声が聞こえました。
「あーちゃん、遊ぶのは飴が終わってからよ」
女の子は遊具にかけた手を離し、私を見つめました。
そう、そのまま、あともうちょっとよ!早く私を美味しく食べて!
私は女の子に、心のうちでそう強く語りかけました。
しかし、女の子は私を口には運んでくれませんでした。こっそりと、そこから少し離れた植木の土に、なんと私を埋めてしまったのです!
先ほどまで幸せの絶頂だった私は、絶望のどん底に突き落とされました。
どうして!どうして最期まで召し上がってくれないの!?
からだは土にまみれ、近くには卑しい蟻が寄ってきます。私はわんわん泣きました。そして泣いて、泣いて、泣き続けて、ついには溶けてしまったのです。
____え?じゃあいま、どうやってこうして貴方にお話をしているのかって?
それはとても長い話になるんですけれど、簡単に要約しますと、私、溶けた土から木の養分になりまして、木に意識を残したまま、渾然一体となってしまったのです。
最初はいやでしたよ、あんなきらきらと美しかったからだが、無骨なごつごつの木になってしまうだなんて!
でもそのあと、長い長い時間の後に木は切り倒されて、慎ましいけど立派なお家の一部になって、そしてそのお家がなくなって、古くなったからだを粉々にして、そして紙になって、美しい装丁の本に生まれ変わったのですよ。
そしていま、ほら、電子書籍、というのがあるでしょう?その本がデータ化されて、私はこうして皆さんのところへ、自由に行けるようになったのです。
不思議な話でしょう?こういうのを、輪廻転生、というそうですよ。
すこしちがう?ふふ、細かいことなんていいじゃないですか、こうして出会えたのですから。袖振り合うも多生の縁、といいますでしょ?
あら、私、本になったからか、頭が良くなったみたいですわ。ほほ…
これで、私のお話はおしまいです。
どうも、長々と御免なさいね、ありがとうございました。
……え?もし生まれ変わったら次はなにになりたいかって?
もちろん、私はまたリングキャンディに生まれたいですわ。だって、こんなにたのしい生き方、他にないんですもの!