フォドラに生まれたので三国共存ルート目指すで(元社畜OLより、愛を込めて) 作:ストレスたまるん
花粉シーズンは鼻に来るから本当に苦手…鼻詰まりはないけど、くしゃみの回数が馬鹿みたいに増える…
「起きろアルディア」
「んあ…?」
朝一番。
睡眠の過程にあった私は、彼――ジェラルトの声と共に叩き起こされてしまった。
レスター内で起きた盗賊討伐戦へ参戦し、疲労により頭が全く機能していない状態の私は突然の出来事にどうすることも出来ず、毛布に包まった状態で頭上に多数のはてなマークを飛び交わせる。
一体何が起きたんです?
瞼が未だ重い中、上体を起こし、状況を確認する。
就寝のために使わせてもらったオンボロの空き家。
勝手に使っている持ち主の居ない薄汚れた毛布とベッド。
壊れた屋根の一部から注ぐ朝日。
外から聞こえる団員達の声。
空き家の扉付近で腕を組んで立っているジェラルト。
なるほど…どうやら朝らしい。
状況から見て既に団員達が移動のために準備を初めている様子。
ということは私は寝坊したというわけか。
ジェラルトのわざわざ私を起こしに来た原因が分かり、これはちょっとお小言かな、なんて思いながら、おはようございます、と朝の挨拶をしてゆっくりとベッドから降りる。
「おはようさん。突然で悪いんだが、面貸せ」
「…はい?」
……どうもお小言、というには生ぬるい何かが待っているようだ。
僅かながら苛立ちの含んだジェラルトの声に、私の頭から眠気が吹き飛ぶと、入れ替わるように冷や汗が背中を伝い始める。
私…何かしましたか?
重苦しいオーラを発するジェラルトに連れられてきたのは、野営地から少し離れた、小さな泉があるところ。
森の中にあるということで、ついFE繋がりでレックスのイベントが頭に過る。
「ここに座れ」
ジェラルトは泉を見ていた私に、切り株の上を指差す。
言われるままに私はその切り株に座ると、ジェラルトは地面にどかっとあぐらをかいて座った。
さてさてぇ…一体何をやらかした~私。
重苦しい雰囲気はそのままに、ジェラルトが顔を下げた状態で微動だにしない中、私はやらかしに思い当たるものは無いか思い返す。
昨日は依頼で受けた盗賊討伐戦に参加して、夜にはいつものごとく軽い祝勝会みたいなことをしていて、特に問題はなかったはず。
戦闘も、前に出すぎず、後ろに下がりすぎず。自分でいうのもあれだけど、バランスのいい動きをしていたはずだ。
なら夜の祝勝会で何かやらかした?
いやいや、こっちにきてから酒を飲んでいないのに何をやらかす要素があるんだよ。
少なくとも、私が誰かに対してどうこうしたなんてことはなかったはずだ。
ダイナさんが団員の一人に笑顔の腹パンを放っているシーンは見たけど、あれに関しても私は無関係だったし。
なら今週のどれかの日にやらかしたか…?
寝坊…は稀にするが、呆れられることはあれど、怒られるなんてことはなかった。
鍛錬系統に関するお咎め? う~ん。可能性が無いとは言い切れないが、少なくとも、初陣での出来事以降、さらに力を入れて臨んでいるから、それも無いと思う。
となれば…何が原因?
思い当たる節が全く見当たらない私の頭上にはてなマークが溢れる。
某検索サイトの、一致する情報がございません、とはまさにこのことだ。
困ったなぁ…。
やらかしに対して謝罪をしようにも、これではどうしようも出来ないじゃないk―――。
「お前、ベレト達に何言ったんだ?」
「…はい?」
思考を遮るように、突然口を開くジェラルト。
何を言った? 一体何のこと?
言葉の意味が分からない私は、再び頭上にはてなマークを浮かべる。
ジェラルトは私の反応を見てか、溜息をつく。
そして数秒ほどして、ジェラルトは、本当に知らないんだな、とどこか疲れを含んだ声音で言うと、言葉を続けた。
「ベレト達が俺達も戦いに出たいと言ってきやがったんだよ」
「………え?」
ちょっと待ってほしい。
どういうことそれ。戦いに出たい? ……ちょっと何言ってるのかわかんないっす。
思わぬ言葉と、どうしてそれが私のせいなのか、という感情が入り混じり、思わずしかめっ面をしてしまう。
「原因は? 何で彼らはそんな事を?」
「……」
私の疑問にジェラルトは頭に手をやり、くたびれた表情を浮かべ、溜息をつくとゆっくりと腕を挙げ私に指さし、お前が原因だ、と言った。
「どういうことですかそれ」
団員達みたいに二人に悪知恵を入れようなんて気は微塵も無い私からしたら、原因となった意味が全く理解できなかった。
いや、本当にどういうことよ。
「お前、初陣の時の事は覚えてるか?」
「初陣? え、えぇ、まぁ」
つい最近のことだ。時間的にも、インパクト的にも忘れるはずがない。
「あの時のお前を見て、そう考えたらしい」
「……え?」
えっと…どういうこと?
話のつながりが理解できなかった私は、またも頭上にはてなマークを浮かべ、追加でひよこマークまで浮かべ始めた。
「えっと…あの初陣の時の私と彼らにどのような関係が…?」
「……」
ピクリと眉を動かすジェラルト。
どうやらこの言葉はまずかったようだ。
ジェラルトは、お前まじかよ…と、信じられないものを見るような目で私を見てきた。
だがそれもつかの間、まぁお前からすればあれくらいはして当然か、とすぐに自己解決し、勝手に納得すると、今度は大きく溜息をついた。
「懐かれてるってことだよ」
「懐かれてる? 誰にです?」
「………」
今度は馬鹿を見るような目だ。
「お前が、あいつらに懐かれてんだよ。ようは心配だから一緒に戦いたいって言いたいんだよ、あいつらは」
「……はぇ~」
そうだったんだ…私懐かれてて、心配されてるんだ………懐かれてた……懐かれてた…? ……懐かれてた!?
言葉の意味をようやく認識した私は感動のあまり思わず手で口を抑える。
私、懐かれてる…! 好かれてる…!
「さいっこう!!」
「うるせぇよ…」
暴走しそうなレベルの素晴らしい吉報に、気分は天井を突き抜け、天をも超える勢いで跳ね上がった私は両手を挙げて喜びを露わにした。
いやだってよ! いくらこっちから大好きだからと愛でていても、相手からすれば迷惑極まりない行為だったなんてことがあるんだぞ!? それが…それが…! ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!! たまんねぇぇぇぇぇ!!!
いや最高だろお前!! 今ならF1の某ドライバーのように良い声でYes!! と言えそうだ!
「そういうわけだ。今から鍛錬始めるぞ」
「え?」
だが無情かな。
ジェラルトの口から出た死刑宣告に等しい言葉が耳に入ると、私は両手を挙げたまま固まり、油の切れたロボットのように発言者であるジェラルトに顔を向ける。
「たん…れん?」
「おうそうだ。今からな」
「いや、そこはまず親としてどうやったら彼らが戦いに出ずにすm――」
「今のお前を見てるとどうでも良くなった。むしろ苛立ちすら感じる」
「いや待ってください団長。親としてまず考えるべk――」
「お前が強くなれば問題ない話だ」
「いや待ってそろそろ野営地の撤収にもどr――」
「そうと決まれば時は金なりだ。さっさと始めるぞ」
私の言葉を容赦なく切り捨てるジェラルト。
彼は私の服の襟をぐっと掴むと、ドシドシと非常に重い足音を奏でながら私を引きずる形で移動を始めた。
あ、これが俗にいうドナドナってやつだ。
自身の未来が見えた私は引きずられる中、空を見る。
ふふ、空が遠いぜ……。
その後、団員の一人が撤収を終えたと報告が来るまでの間、体術の応用をうんたらかんたらとよく分からない項目を盾に、ひたすらボコられる羽目になったのは言うまでもない。