もうそろそろで二十代を終える結月ゆかり、家に引きこもってばかりの彼女に一通のメッセージが届いた。
「私、結婚します」
それは、友人の紲星あかりからのメッセージだった。

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初投稿です。


そろそろ二十代を終えるゆかりさんの話

 紲星あかりが結婚した。

 彼女とは高校一年生の頃に、お互いの誕生日が同じと言う些細なきっかけで話すようになった。根暗でオタク色の強かった私に気軽に話しかけてくれて、彼女のおかげで私の学校生活は思っていたよりも楽しく過ごすことができた。同じ大学を卒業し、社会人になった今でも、付き合いは続いており、今回の件に関しても何度か相談を受けていた。

 文面から、彼女は本気で相手のことを好いていたのだな、と薄々感じており、あかりが恋をしているのだなと、微笑ましく見ていた。

 相手は同い年の会社員。プラネタリウムで劇的な出会いをしたと、話題が出るたびにそこから話し始め、今では暗唱できるほどに聞かされた。そう何度も同じ話をされるのは面白くなかったが、あかりが普段見せない顔––––恋する乙女の顔をして話しているのを見ると、なんとも言えなかった。

 実に十年以上の付き合いだが、あかりが恋をする姿は学生時代に見たことがなかった。それどころか男女の色恋沙汰を話すあかりを私は知らない。普段から同性としか遊んでいないし、私たちが異性と全く関わらないので自然とそういう話は出てこなかったのも原因の一つだろう。

 茜ちゃんや、葵ちゃんとかがたまに告白されるところを見たことはあるが、あの姉妹は異性より姉妹愛を一番に優先するので、異性に関する話を私たちにはしてこないし、ずんちゃんはそんなことより、ずんだ餅だ。マキがたまにビジュアル系のバンドメンバーをかっこいいだとか言ってたりしてたが、あかりは軽く笑ってただけだった。

 つまるところ私は誰かに恋をするあかりを結婚の報告があった今でも信じられないし、いまだに夢ではないかと疑っている。

 

 ––––だからこそ、本気で恋するあかりが新鮮に思え、どこか私の知らないところへと言ってしまうような、言葉にしずらい焦燥感を私は感じているのだろう。

 私たちはもうすぐで二十代を終える。あぁ、結婚するのは何もおかしいことではない、それどころか私たちの年齢なら焦る人間もいるはずだ。あかりは年齢に見合う至極当然の行動をした。そうだ、そうだ。何もおかしいことをしていなくて、彼女は異端に属していない。

 なのに……どうして……私は真っ当に幸せを願ってやれないのだろう。

 先ほどから、あかりから結婚する旨が書かれたメッセージの前で指を動かせずにいる。ずっと既読をつけたままでいる。

 「おめでとう」と、たった五文字打つだけなのに、指を動かせない私がいる。どうした私は他人の幸せを祝うことができないのだろう。

 マキがドームでライブをすると知った時、ずんちゃんがずんだカフェを秋葉原で開いた時、きりたんが誰もが聞いたことのある有名大学に合格した時、茜ちゃんが外資系の企業で働いてると聞いた時、葵ちゃんが人気タレントとして活動しているのを見た時。

 素直に祝えない私がいる。端正な作り笑いを貼り付ける私がいる。そんな私に嫌気がさして、スマホをベッドに放り投げた。

 ……私は置いてかれるのが怖いのだろう。自前のコミュ障のせいでろくに職にはつけず、毎日知り合いの店で細々とバイトをして、数千人の前で配信を行い痴態を晒す。料理はできないし、最低限の家事しか行えない。資格は持っていないし、日本語以外喋れない。異性との関わりは皆無に等しく、ここ数年間は人とまともに喋っていない。

 それに比べて、みんなは私とは比べものにはならない華びらかな生活をしている。彼女たちが何かを為すたびに私はしょうもない人間だと思い知らされる。彼女たちが一歩踏み出すたびに、私との距離が離れていく感じがして、それが嫌で嫌でたまらない。

 むしゃくしゃする思いを忘れるよに、煙草に火をつけて口に咥えた。紫煙がゆらゆらと部屋の中を漂う。

「はぁ」

 ……彼女たちと一緒にいることは嫌いではない。だが、私とは不釣り合いに思えてくる。

 大人になってからそんなことをよく考えるようになってきた。何にでもなれる全能感に溺れていた子供の頃は、彼女たちと肩を並べられただろう。だが、今の私は答えがないテストで0点を叩き出す。馬鹿にしているように物事を捉えて、分かりきった顔をする。真剣に行動するのは阿呆らしく覚え何もかもを適当にこなす。

 十年以上前から私の中身は何も変わっておらず、いつまでも子供のままでいる私が嫌いだ。その嫌気を忘れるがために酒と煙草に溺れる私がとても醜い。健康に気を遣わなくて済んだ昔をいつまでも引きずる私には、ニキビとやらができた額も、走るだけで息があがる肺も、栄養の偏りで痩せ細った腕も、どれも不恰好にすぎない。年を象徴するものはどれも私に不釣り合いなんだ。

 ––––全能感を失った子供は何になれるのだろうか?

 私がそんなつまらないことを考えているうちに彼女たちは一歩一歩前に進む。どうにも、私には生きる才能がないらしい。

 乾いた笑いが部屋に響いた。

「ゴホッ、ゴホッ」

 そして、煙草でむせた。

 

 

 

 それからしばらくして、あかりに「おめでとう」と返信した。たった五文字を打つのは、今の私には荷が重い。進む勇気も、戻る勇気もとうの昔に捨てているようだ。煙臭い部屋から逃げるようにベランダに出る。

 ゆらゆらと紫煙が空へと向かう。

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