アレクシア様を分からせたくて!   作:ゆっくり妹紅

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時間帯的にはちょっと微妙ですが、補足回のためにこの時間に投稿です。






17冊目

 

「ぐはッ!」

 

剣を弾かれて隙ができた胴体を蹴られ、壁に叩きつけられたゼノンは痛みで顔を歪ませながらも目の前の男を睨む。

 

「この程度なのか?」

 

相対するのはエルと名乗った男。見下ろす形のせいかゼノンから見えた男の目は拍子抜けしたとでも言わんばかりに呆れていた。エルからすれば戦う前に「次期ラウンズの第12席」とゼノンが自信満々に名乗っていたため、自分を倒した女性と同レベルを警戒して剣を交わせてみれば拍子抜けもいい所だった。

それに何より、剣に込められてる想いが軽い。アレクシアと最後に手合わせした時の剣の方が何百倍も、いや比べるのが失礼なぐらい重かった。エルはそんな男がディアボロス教団の幹部と思われる地位に入れるとは到底思えなかった。

 

しかし、そんなエルの心情などゼノンからすれば知ったことでは無い。

 

「キサマァァァァァァ!!」

 

ゼノンは叫びながら魔力を更に濃密に練ってエルに斬り掛かり、対してエルは剣道で言う正眼の構えを取って迎撃しようとした瞬間。

 

──ガキン!

 

「なっ……!?」

 

その間にシャドウが割り込みゼノンの剣を容易く弾いた。ゼノンはシャドウが間に入ったことを認識すら出来ていなかったことに、エルはシャドウがいきなり割り込んできたことに驚いた。

 

「シャドウ。お前……」

 

エルがシャドウの真意を問いただそうとした瞬間、彼は首を僅かに後ろに向けてエルの後ろに目を動かす。そしてそれに釣られてエルが目を向けると、そこには。

 

「ルイス……」

 

エルたちがゼノンと戦いを始めてから数分経過しているというのに、まだ赤黒く汚れたネックレスを両手に蹲っているアレクシアの姿。シャドウは最初こそ、陰の実力者的なムーブ出来るんじゃね?と思って声をかけようとしたが、彼女の絶望に染まった光のない目を見てこれは自分が何を言っても無駄だと判断し、自分より適している人物にその役を譲ることにした。──言ってしまえばエルに丸投げした感じなのだが。

 

シャドウはエルが自身の意図を理解したのを察すると、左手の三本の指を立てる。その意味は3分だけ時間を作ってやる、というものでシャドウは「あ、仲間のために後から出てきて時間作るってなんか陰の実力者っぽいかも!」と内心満足し、エルはそんなこと露知らず純粋にその厚意を受け取るとアレクシアの傍へ近づき──

 

(……なんて説明しよう)

 

状況に似合わずそんなことを考えた。アレクシアの手にある無くしたと思っていたネックレス──血と思しきものが付着──を見ればゼノンが彼女になんて言って渡したのか何となく察することが出来る。自惚れだとは思うが、恐らく自分が死んだと聞いてこうなっていると予想しているため自分が生きていることを伝えればいいのだが。

 

(ここで正体明かす訳にはいかないし……)

 

1番手っ取り早い方法ではシャドウガーデンのことを話さざるを得ないこと、そうなった場合自分はシャドウガーデンの秘匿のために表世界から姿を消さないといかないだろうし、父親にも迷惑をかける。それを考慮すると正体を明かして生存を伝えるのは却下。

そうするとあと残るのはシャドウガーデンで瀕死のルイスを保護した形で伝えることなのだが、どうやって帰るかや追求をどう逃れるのかの問題になる。

 

(本当になんて説明すべきだ?時間もあと2分ぐらいだし……仕方ない、もうなるようになるしかない)

 

エルは考えをまとめるとアレクシアの肩に手を置いて自分に意識を向けさせる。アレクシアは光のない瞳でエルの方を一瞬見やり、目を見開く。

 

「……ルイス?」

 

「……人違いだ。だが、私が話そうとしていた話題ではあるがな」

 

顔を隠してる+声の高さ+口調まで変えているというのに一目見ただけで自分の正体に勘づいたアレクシアに息が詰まりそうになったが、それを悟られない内に話題を提供する。

すると──

 

「ルイスのこと!?教えて、ルイスは生きてるの!?無事なの!?」

 

「……すぐ話すから落ち着いてくれ」

 

目に僅かながら光が戻り、勢いよくエルの襟首を掴み思いっきり揺さぶりながら催促するアレクシアに気圧されながらもエルは自身の正体がバレてないことにほっとしつつ、冷静そうな声で抑えるように言い、彼女が若干落ち着いたのを見て話し出す。

 

「結論から言うと、彼は生きている。たまたま水路で流れているのを見つけてな。まだ意識は戻っていないが、命に別状はない」

 

「……本当よね?」

 

「ここで嘘をつくメリットがないだろう。明日の朝には彼の寮のベッドに寝かせておくよう手配してある」

 

「……良かった」

 

エルの言葉が嘘でない、と確信したアレクシアは涙を流しながら安堵したような声を出す。エルはここまで心配させてしまったのか、と改めて自分があの女性に対して負けたことへ怒りを持ちつつも、ゼノンとシャドウの戦いの方へ視線を向ける。そしてアレクシアもそれに習い視線を向けると。

 

「クッソォォォォォ!!」

 

「……」

 

ゼノンの猛攻をいとも簡単に防いでいくシャドウの姿。自分が追いつけないと諦めかけた天才の剣を圧倒していたのは凡人の剣。力が、速さが、才能がなくとも諦めずに基礎をひたすら積み重ね続けた果てにある、幼い頃に見た理想だった。

 

──その人の剣を見れば、少なくとも打ち合えばその人が積み重ねてきたものがいずれはなんとなくでも分かるようになるよ。

 

初めて稽古した時にルイスが言っていたことを思い出す。あの時のアレクシアは彼の言っていることがよく分からなかったが、長く鍛錬を積んだ今の彼女は理解できた。

シャドウと名乗った男の剣は、諦めずに前を見て、ただ真っ直ぐに積み重ね続けたものだった。そこでふと、アレクシアは姉が自分が無様に負けたあの日にかけた言葉を思い出す。

 

『私、アレクシアの剣が好きよ』

 

あの言葉はアイリスから見たアレクシアの剣が、今自分がシャドウの剣を見て思ったのと同じ感想から出た言葉ではないか。今になってアレクシアはアイリスが何故あのようなことを言ったのか何となく分かった気がした。

 

「想いなき剣に、斬れる物なし」

 

「…え?」

 

「私の師の教えだ、アレクシア・ミドガル。君は何のために剣を振るうのか、どんな譲れない想いがあるのか、それをよく考えろ。その答えが出た時、君の剣はもっと強くなるはずだ」

 

エルのやけに実感の籠った言葉は、アレクシアの胸に重く、そして大きく響き渡った。

 

 

 

 

****

 

 

 

「はぁ……はぁ…… き、貴様、いったい何者だ……! それだけの強さがありながら何故正体を隠す!?」

 

ゼノンは切り傷だらけの体を起こしながら、目の前のシャドウに対して叫ぶように質問を投げかける。ディアボロス教団の次期ラウンズの1人として実力を認められているゼノンだからこそ、シャドウがなぜ正体を隠すのかが分からなかった。彼ほどの実力があれば、富や地位を得ることは簡単なはずなのだ。

 

「我らシャドウガーデンは陰に潜み、陰を狩る者。我らはただ、それだけの為にある……」

 

「正気かッ……!」

 

ディアボロス教団の規模を知っているゼノンは、それに立ち向かうと暗に言っているシャドウに狂人を見るかのような目を向けるも、当の本人はそれに対してなんら気にした素振りを見せない。そしてそれがゼノンの怒りを更に増幅させた。

 

「いいだろう……貴様が本気だと言うのなら、私もそれに応えようじゃないか!!」

 

ゼノンはそう言って懐から赤い錠剤を取り出すと。

 

「この錠剤によって、人間は人を超えた覚醒者となる。しかし常人ではその力を扱いきれず、やがて自滅し死に至る。だがラウンズは違う。その圧倒的な力を制御できる者だけが、ラウンズになる権利を得るのだ」

 

その錠剤を一気に飲み込んだ。

 

その直後。

 

「覚醒者3rd」

 

先程ゼノンが出していたものとは桁違いな濃い魔力が、災害を思わせるような暴風となって吹きあられ壁と床を揺らす。

変化はそれだけではなく、アイリス、エル、シャドウの3人によって傷つけられた傷が瞬く間もなく治癒されていき、筋肉は膨張し、目は赤く充血、更に毛細血管が浮き出た。

 

「貴様らに最強の力というのを見せつけ、絶望を与えてやろう」

 

そのプレッシャーは最強の騎士として名高いアイリスをも超えている。ゼノンは確実にシャドウたちを超えたと確信し、笑みを浮かべ余裕を持った態度で圧倒的な力の前に絶望しているであろう3人を見やる。

 

「……醜いな」

 

「……醜いわね」

 

「……哀れだな」

 

シャドウとアレクシアは軽蔑を持って、エルは心から哀れむような声で異形と化したゼノンに向けて呟いた。

 

「醜いだと……?哀れだと……!?」

 

3人の反応に対してゼノンは笑みを消し、3人、特に哀れだと言ったエルに向けて怒りの視線を向ける。

 

「あんた程の才能があればそんなドーピングなんかしなくても自力でその域に辿り着けることが出来たはずだから、哀れだと言った」

 

「なんだと……!」

 

「加えてその程度で最強を騙るな。それは最強というものへの冒涜だ……そもそも借り物の力で最強に至る道などない」

 

「貴様ら……!」

 

エルとシャドウの言葉にゼノンは顔を怒りで更に歪ませる。

 

「せめてもの手向けだ。貴様の最期に最強の力を見せてやろう」

 

シャドウの魔力がこの日初めて高まった。これまで彼は殆どその魔力を使っておらず、素の身体能力だけでゼノンの相手をしていた。

 

その高まった魔力は青紫の線となって姿を現した。細い幾筋もの線。その線が体に張り巡らされている血管のように、シャドウを取り巻き、美しき光の紋様を描いていく。

 

「凄い……」

 

「……」

 

アレクシアはシャドウの綿密な魔力操作、そしてその操作によって練られた魔力に感動し、エルも内心でシャドウの魔力操作の精度がここまで上がっていることに内心驚愕していた。

 

「な、なんだこれは……?」

 

そして驚愕しているのはゼノンも同じだった。ディアボロス教団の中でも上位の実力にいる彼ですら魔力をこのような形に出来た者を知らなかったからだ。

 

「真の最強とは何か……その体に刻め」

 

漆黒の刃に魔力が螺旋を描きながら集約されていく。それはまるで全てを吸い込むかのように美しく、そして畏怖を感じさせるものであった。

 

「う、うあああぁぁぁぁ!!」

 

せめてもの抵抗としてヤケクソ気味に振るわれたゼノンの剣はシャドウを捉えるも、体を切り裂くことなく刃が砕け散る。

 

「ひっ、ひいっ!!」

 

「これが我が最強」

 

「ま、待ってくれ……!」

 

大気をも震わせるシャドウの魔力にゼノンは恐怖で震えながら静止の声あげる。だが、それは無慈悲にも振るわれた。

 

「アイ・アム──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アトミック」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放たれたソレは光とともに音をも飲み込んだ。

 

 

その光はアレクシア以外のものを全てを飲み込んだ後、爆発した。

 

王都の闇を照らすかのように青紫色の光が夜空を駆け巡った。

 

アレクシアが気がついた時には、ゼノンの姿はもちろんの事、シャドウとエルの姿もなく、あるのはシャドウが残した爪痕のみだった。

 

「…………」

 

アレクシアはふと下を見ると刃がまだ残っている剣が落ちているのに気がついた。彼女は持っていたネックレスを腕に結び、剣を拾い目を閉じて想像する。

 

想像するのはシャドウが見せた凡人の剣。彼が振っていた通りに剣をアレクシアは振る。

 

自分の剣にするために、ただひたすらにシャドウの剣を振るう。

 

(私は何のために剣を振るうのか。譲れない想いは何なのか……)

 

そして頭の中ではエルが自分に言ったあの言葉を受け止め、自身が剣を振るう理由を考えていた。




次回、各視点での補足

キャラ紹介

エル
シャドウの剣を通してアレクシアが何かに気がついたのを察し、自分からはその後押しとして今でも守り続けている師の言葉を彼女に送った。この後アルファに一言告げたあと急いで寮へ戻った。

シャドウ
満足

アレクシア
エルの正体に勘づいたものの、誤魔化されたせいで結局気づけなかった。原作通りシャドウの剣を通して自身が目指す剣を定め、なぜ剣を振るうのか考えている。

ゼノン
エルとシャドウの手によって分からされた(誰得)

番外編としてバレンタインの話を……

  • これもまた愉悦(書く)
  • やめろカカシ、それは効く(書かない)
  • 撃沈もまた愉悦(どっちでもいい)

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