アレクシア様を分からせたくて!   作:ゆっくり妹紅

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誤字脱字報告、いつも本当にありがとうございます。投稿する前に何度も確認してるのになんでこんなに見逃すのか……(白目)


23冊目

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

(き、気まずい……!)

 

揺れる馬車の中、アレクシアは目の前にいるアイク・エアと彼の家の使用人であるアイネを見ながらそんなことを思った。

 

アレクシアは完治こそしてないものの、もう登校してもよいという医者の意見の元学園に登校しようとしたのだが、そこに姉であるアイリスが片腕が使えない状態で1人だけで登校するのは危険だと意見した。最初はルイスを連れていこうとしたのだが、今日に関してはアレクシアは医者からの言葉もあって遅れて登校することになっており、それではルイスを護衛にすることが出来なくなってしまった。しかし、かといってアイリスが護衛になってしまうと色々と問題が出てきしまうのも事実であったのだが、そこにアイクが自ら立候補したのだ。

当初は『紅の騎士団』に関係ない小隊の隊長を護衛にするのはだめではないか、という反対意見もあったが最終的に第2王女のアレクシアの護衛と考えたら適任ということになり、念の為アイク小隊からもう1人騎士を馬車の御者として足し、アイクとはこうして一緒の馬車にいるのだが、何を話せばいいのかアレクシアには全く分からなかった。

 

(何を話せばいいか分からないし、隣の使用人も無言だしなんか怖いのよね……)

 

「アレクシア様、怖がらせてしまい申し訳ございません」

 

(え、バレた!?)

 

「本当は私自身もう少し愛嬌良くしたいのですが、如何せん人と話すのが苦手な上に、笑顔も意識してやろうとすると子供が泣くほど恐ろしいので出来ないのです。どうか、お許しを」

 

「そ、そんな謝らないで下さい。苦労してるのは分かりましたので……」

 

アレクシアはアイネの何処かしょんぼりとした雰囲気を感じ取って慌てて励ましにかかる。なお、この時点でアレクシアから見たアイネのクールな印象は若干剥がれた。

 

「ふふっ……そういえば、息子とはどうですか?」

 

「どう……とは?」

 

アレクシアとアイネの様子を見て軽く笑みを浮かべてから質問でしてきたアイクに対して、アレクシアは意図をあまり理解出来ず聞き返す。

 

「いや、最近息子からアレクシア様に料理を教えている、と聞きましたのでそこまで仲良くなれたなら2人でお忍びでお出かけまでしたのかな、と」

 

「そ、そういうことでしたか……まあ、(今は)そういうお出かけとかはしてないですね」

 

アイクの質問に対して何とか誤魔化すようにアレクシアは答える。実はもう行ったことがある上に、ペアルックのネックレスを買って今もつけてるなんて想い人の父親に向かって口が裂けても言えなかった。

 

「ふふっ、そうですか……おっと、もうすぐ学園に着くみたいですね」

 

「そうですね……(良かった、追求されなくて……)」

 

アレクシアはタイミングよく学園に着いたことに安堵しつつ、同時にようやく(離れてから数時間も経ってないのだが)会えることに内心ワクワクしていた。

 

「どうぞ、アレクシア様」

 

アイクは馬車が止まると扉を開けて外に出て、アレクシア王女へと手を伸ばす。

 

「ありがとうございます」

 

アレクシアは一言お礼を告げてからその手を取って馬車から降り、アイネはアイクの補助なしで危なげなく外に出る。

 

(はあ、自由への道は遠そうね……)

 

「アレクシア様、お待ちを」

 

「え?」

 

アレクシアが腕が満足に使えないことやそのせいで護衛が付けられていることに内心でため息を吐いていると、前にいたアイクが手を出してアレクシアを止めた。心無しかアイクの雰囲気はどこか真剣であり、それを感じたアレクシアはアイクの指示に従い止まり、そして気がついた。

 

「門が閉まってる……?」

 

「……門の管理事務所を見てきます。アレックス、君はアレクシア様の護衛を頼む」

 

「はっ!」

 

「アイネは馬車をいつでも出せるように準備を」

 

「かしこまりました」

 

「アレクシア様、貴方はここで待機を──」

 

「いえ、私も行きます。その方がアレックスさんは馬車の護衛に専念出来ると思いますし、危なくなったら私はすぐに撤退しますから」

 

アイクの指示に割り込むように進言したアレクシアの意見を聞いて、アイクは少し考える。合理的に考えれば、正直アレクシアが来る必要は全くなく、むしろ敵がいた場合は片腕が使えない彼女は足でまといになる。それはアレクシアもよく分かっている。

それでもアレクシアがこの意見を出してきた理由をアイクは何となく察し、同時に彼女の目を見て諦めさせるのは無理だと判断した。

 

「……わかりました。では、アレックスは馬車の護衛を。アレクシア様は私の傍から離れないようにしてください」

 

「はっ!」

 

「アイクさん、ありがとうございます」

 

「いえ、子供の願いを叶えるのは大人の義務ですからね。それと私の指示にはすぐに従うようにしてください、いいですね?」

 

「分かっています」

 

アイクは言葉に対して素直に頷いたアレクシアを見て、満足気に頷くと門の管理事務所へと足を進めて中を覗き見て、内心ため息を吐き、遅れて中の様子を見たアレクシアは顔を青くさせて後ずさる。

 

「アイクさん、こ、これは……」

 

「……最悪の予想が当たりました」

 

管理事務所の中は、駐在員と思われる人物の切り刻まれた死体とその血で赤く染まっており、それは学園が今何者かに襲われていることをアイク達に示唆していた。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

アレクシア達が学園の異常に気がついたのと同じ頃、ルイスは授業中の時間であるのにも関わらず、トイレの個室にいた。

ルイスは朝からお腹の調子が悪く、度々トイレに行っていたのだが授業中でも治まらず結局先生に一言言ってから教室を出てトイレにいるのだが中々調子は戻らなかった。

 

(あー、この後生徒会の選挙について話があるのに……クラスメイトに聞くのは避けたいからそれまでに戻りたいんだけど……)

 

それを避けるのは無理そうだな、とルイスが内心でため息を吐いた直後、彼はすぐに違和感に気がついた。

 

(魔力が練れない?いや、これは魔力操作が阻害されているのか?)

 

ルイスは常日頃から自分が練るのが難しいぐらいに微量の魔力を練っては流すという訓練をしているのだが、それが急に出来なくなった。この事態にルイスは一瞬驚くも、すぐに魔力を錬れるよう魔力の操作をしながら今の状況を考える。

 

(まず、この魔力を練れない状況に関して考えられるのは2つ。1つはシェリーさんが解析しているアーティファクトが起動したらそういう効果を発揮するもので、偶然にも作動してしまった。もう1つは何者か……ディアボロス教団が学園を襲撃するために魔力操作を封じる道具を使っただけど……まあ、ほぼ後者と見ていい……ってことは!?)

 

ルイスはチルドレン1stのネームドが動いていたということと、シェリーが解析していることからディアボロス教団の仕業だと結論づけ、目的は何かと考えた瞬間、彼はズボンを上げてベルトを締めながら壁に立て掛けていた剣を取ると個室のドアを開けて、廊下に飛び出した。

 

(相手の狙いはシェリーさんが解析しているアーティファクトと見ていい。そうするとシェリーさんだけじゃなく、護衛しているグレンさんやマルコさんも危ない……!)

 

悠長に構えすぎたか、とルイスは自分の見通しの甘さに舌打ちをしたくなるのを堪えながら走る。が、ルイスの耳に大勢の人物が歩く足音が聞こえ、隠れられる場所がないと判断すると、彼は壁際に寄って試行錯誤の末、練れるようになった魔力を使って覗き穴がある空き箱にスライムソードを変形させ、その中に隠れる。

 

するとその10数秒後には、黒い外套を羽織り武装している人物たちに誘導されるように歩いていく生徒や学園の関係者と思われる人達が現れた。

 

(あの服装、やっぱりディアボロス教団の仕業だったか……あの様子だと別の場所に集めるのか?でも理由は?全員殺した方が手っ取り早いし、シャドウガーデンに擦り付けた時のリターンは高いはずなのに……いや、敢えて殺さないことで証人として利用するつもりなのか?)

 

ルイスは箱の中で思考を働かせる。最後に思いついたのが生徒たちを殺さない理由なのだとしたら、少々面倒くさいことになる。しかし、かと言って今取れる対策というのもないためルイスは大人しく人気がなくなるのを待つ。

その最中、ルイスは襲撃者と思しき人物達の話し声が耳に入った。

 

「おい、生徒はこれで全員か?」

 

「いや、話によると男子生徒1人、女子生徒1人が授業中にトイレしに行ったらしい。そのまま帰ってこないってことは多分気取られたな」

 

「そうか……まあ、ガキ2人は見つけ次第講堂に連れていけ。尤も抵抗したら殺して構わんがな」

 

(……こいつら)

 

ルイスは人気が完全になくなったのを確認してからスライムソードを戻し、怒りを鎮めるように息を吐く。

 

(取り敢えず、グレンさんたちとの合流を最優先で行こう。件の女子生徒は見つけることが出来たら保護って感じで……全く、こういう時こそシドがいたら楽なんだけど、こっちも見つけ次第って感じかな)

 

方針をある程度固めたルイスは少しの物音も聞き逃さないよう耳に意識を向けながら、静かに走り出した。

 

 

 

****

 

 

「ぐっ……!」

 

「魔力が使えない状態とはいえ、ここまでやれるとは思ってなかったぜ?『獅子髭』のグレンさんよ」

 

学園にある研究室でグレンは半分ほど刀身が無くなった剣を手に片膝をついた。彼の体にはあちこちに切り傷があり、息も上がっているところから正に満身創痍といった様子であり、後ろにいるマルコは刀身が無くなった剣を手に気絶してしまっている。

対してディアボロス教団のチルドレン1stである『叛逆遊戯』のレックスは傷らしい傷というのは頬にある軽い切り傷しかなく、息も全く上がっていない様子からまだまだ余裕であることが伺えた。

 

「正直、お前ら2人の連携にはヒヤッとしたぜ。だが、後ろで伸びちまってるやつが俺を仕留め損なったのがだめだったな。折角、お前が隙を作ってやったというのになぁ……」

 

「貴様……!」

 

「怒ったか?それは悪かったな。ただ、少なくともあんたは中々歯ごたえのあるやつだったぜ」

 

マルコを貶されたことに対して怒りを募らせるグレンを尻目にレックスは獰猛な笑みを浮かべる。だが、そろそろ頼まれていた仕事の方をやらなければ上司にどやされるため、レックスはグレンに近寄る。

 

「悪いが俺も仕事があるんでな。もう少し喋りたいとこだがここでお別れだ。案外楽しかったぜ、『獅子髭』のグレンさんよ」

 

(これまでか……)

 

グレンは霞む視界の中、自分に向かって振り下ろされる刃を見ながら自身の無力さを恥じた。自分の力が至らないばかりに部下のマルコもこんなところで死なせてしまうということ、そしてこれからが楽しみであったルイスの成長を見守ることが出来なくなる無念が彼の中で広がっていった。

 

そして、レックスの剣がグレンの首を捉えようとしたその時──

 

 

「させるかあぁぁぁぁ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

「アイク……副団長……?」

 

目の前にいたはずのレックスが視界から居なくなり、目の前にはこちらに背を向けて立っている人物の姿。そしてその後ろ姿は今も尊敬し、憧れている人物の背中に似ており、それと同時にグレンの意識は無くなった。

 

 

 

****

 

 

 

「何とか間に合った……」

 

ルイスはほっと息を着く。研究室に着いた瞬間、グレンがレックスに殺されそうになっているのを目撃したルイスは剣を抜く時間も惜しいと判断して、レックスを蹴り飛ばした。しかし、ルイスはあくまでグレンの前から退かす程度の力しか込められなかったため、レックスに大したダメージはなく、彼は自分を蹴飛ばした存在であるルイスのことを睨みつけていた。

 

「不意打ちとはいえ、俺を蹴飛ばすとはやるじゃねえか……」

 

「……直前で俺のことに気がついて咄嗟に防御した人がよく言うよ。流石、ディアボロス教団のチルドレン1stのネームド『叛逆遊戯』のレックスってところかな」

 

少しだけ怒気を含みながら剣を向けるレックスに対して、ルイスは敵意を少しだけ向けながら芝居掛かった口調でレックスの2つ名を言った。

 

「……てめえ、どこでその情報を手に入れた?」

 

「さあ?ああ、一つ言っておくとそんな反応しちゃうと暗に肯定してることになっちゃうから気をつけなよ?」

 

「はっ、別にお前如きにバレても問題ねえよ。何せ、お前はここで死ぬんだからな!」

 

不意打ち気味に放たれたレックスの二刀による攻撃をルイスは危なげなく受け止め、鍔迫り合いの形になった。

 

「へえ?マグレだとは思ったが受け止めたか」

 

「……それ、本気で言ってる?アンタの方が俺より強いって聞こえるんだけど?」

 

「だから、そう言ってるんだよ!」

 

ルイスの何処か小馬鹿にしたような問いかけに対して、レックスはイラつきを隠さずに魔力を込めて押し返してルイスの体勢を崩し、そこから本気で仕留めようと右手の剣で袈裟斬りをしかけるも、ルイスは予め開けていた左手に瞬時にスライムソードを作ると、逆手持ちで剣を振るいレックスの右腕を切り落とした。

 

「は?」

 

右肘から先の感覚が無くなり戸惑うレックスに対して、続けざまにルイスは右手の剣を心臓に突き立てる。

 

「がっ……は……?」

 

「……悪いね、急いでるから不意を打たせてもらったよ」

 

何が起こっているのか分からないまま口から血を吐いたレックスの意識はそこで完全に無くなり、ルイスはレックスの命が尽きたのを確認すると剣を引き抜き鞘にしまい、スライムソードをインナーに戻してグレンたちの方に近寄る。

 

「……グレンさん、必ず貴方の命は助けます」

 

ルイスは自分に言い聞かせるように力強く言いながら、グレンの傷に魔力を流し治療を始めたのだった。




渋い感じのイケおじをすぐに退場させるなんて、とんでもない!!

ちなみに作者はMGSやったことないです。

ルイス
なんか最初だけMGSやってた本作主人公。対レックスでやったことは単純で、右手の剣を意識させつつ鍔迫り合いの時には自分の左手を空けておく→レックスを煽って攻撃を誘う→予想通りレックスが右手の剣で攻撃してしてきたので予め準備しておいたスライムソードを出してカウンター→トドメに心臓グサー

グレン
『紅の騎士団』の副団長のイケおじ……なのだが、原作では登場して早々退場という悲しいことになっている。本作ではアイクがかつて扱いたお陰でレックスに対しても善戦し、ルイスの治療がギリギリ間に合った。

マルコ
『紅の騎士団』の団員。本当はもうちょい出番増やしたかったものの、断念。ユルシテ....ユルシテ...

アイク
ちゃんと騎士っぽい+小隊長っぽいことしてるが、内心ハラハラしてる。

アイネ
クールビューティーの皮を被った中身可愛い人。ちなみに彼女の作り笑顔を見たルイス曰く「何人か殺ってそうな笑顔」とのこと。イメージ的には作り笑顔以外はブルーアーカイ○のトキ。

アレクシア
ルイスがまたやばいことに巻き込まれてることに気がついて気絶しかけた。

レックス
原作でグレンを殺害し、マルコを戦闘不能に追い込んだディアボロス教団の実力者。本作ではルイスの実力を見切れず嘗めてかかった結果瞬殺。ちなみに最初から本気で挑んでいた場合、魔力で身体能力を強化したそれなりに本気のルイスによって首チョンパされ瞬殺される。

番外編としてバレンタインの話を……

  • これもまた愉悦(書く)
  • やめろカカシ、それは効く(書かない)
  • 撃沈もまた愉悦(どっちでもいい)

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