アレクシア様を分からせたくて!   作:ゆっくり妹紅

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石が……石が……たり……ない……(満身創痍)




6冊目

 

%月&日

 

ありのままに今日起こったことを書く。

俺は職場に戻って執事長に挨拶をした後、部屋に戻る途中にあったアイリス様と「貴方がいなくなってからアレクシア、ちょっと元気なかったのよ」という信じ難い話を聞いてからフォローでも入れておくか、と思って部屋のドアを開けた直後からの記憶が無い。そして気がついたら、アレクシア様に膝枕されていた。

夢かと思ってもう一度寝ようとしたら「あら、そこまで私の膝枕が気持ちいいのかしら、タマァ?」という嬉しそうな声が上から聞こえてきて、現実だと分かると同時に急いで頭をどかして謝った。

普通に考えてみて主人、しかも王族に膝枕させるとか流石に不敬すぎる。そう思って謝罪をしたのだが、当の本人はちょっと残念そうな様子であった。恐らくもう少し寝ていたらそれを使って無茶ぶりしようと考えていたのだろう、油断も隙もねえなこの王女。

 

とりあえず帰省することを直接報告できなかったことへの謝罪をすると、「誰が主か分かってないようねぇ……罰として明後日私と付き合ってもらうわよ」というありがたいお言葉をいい笑顔で告げられた。

 

俺明後日何をされるんだ……マジで怖すぎる。

 

そういえば、去り際に「部屋に入る時のこと覚えてる?」って聞かれたけど……その時の記憶が無いのはアレクシア様が関連してるってことだよな。気にはなるけど、俺がその考えに至るリスクを考慮した上で聞いたはずだし、その上で聞いてきたということはそれほど思い出して欲しくないことなのかもしれない。

部屋の中を調べた感じからしても、変わったところとかは無かったし聞かなくてもいいか。本人が嫌がるのを分かってるのに聞くほど心狭いわけじゃないし。

 

 

 

°月☆日

 

アレクシア様の従者としての生活がまた再始動した訳だけど、あの人何となく優しくなった気がする。いや、人をペット扱いするのは変わらないのだが、こう言葉の棘と言えばいいだろうか?それが柔らかくなった気がする。

もしかして、俺が倒れたのが影響してる?いや、でも俺がぶっ倒れたのは俺の自業自得だし、アレクシア様が気にする必要ないはずだし……考えるだけ無駄か。

 

そして明日のことなのだが、どうやらお忍びで街に出るとのこと。そして俺はその付き添いという形らしいんだが何でGOサイン出したねん、と思い執事長に聞いたところ、騎士団の何人かは遠くから見守る形で出しておくから安心していいと言われた。

 

うーん、まあそういうことなら大丈夫なのかもしれないけど……念の為スライムスーツとスライムソードを持っていくか?いや、それでシャドウガーデンのことバレたらまずいし……うーん、どうするべきか。

 

 

 

 

****

 

 

 

(結局、何もいい考えが思い浮かばなかった……)

 

そして来てしまった当日、ルイスはアレクシアから指定された集合場所で、寝不足で上手く回らない思考の中ぼーっとしていた。結局、ルイスはシャドウガーデンのことがバレるリスクの方を重視し、スライムスーツとスライムソードを持ってくることは無かった。何処にディアボロス教団の目があるかが分からない現状、持ってくるのを諦めざる負えなかった。

 

もっといい手段があったんじゃないか、とドツボにハマっていたルイスであったが、突如背後から肩を叩かれ反射的に後ろを向こうとした瞬間、頬に何かが当たる。

 

「引っかかったわね?ふふ、こんな単純なことに引っかかるなんて鈍感じゃないかしら?」

 

「はあ。やっぱり、アレクシア様でし……た……?」

 

「どう?似合ってるかしら?」

 

頬に当たったのがアレクシアの指であり、そして古典的なイタズラに引っかかったことをルイスは把握すると同時に、ウィンクを飛ばしてきた主の姿……厳密に言えば服装を見て固まった。

 

端的に言ってしまうと、アレクシアは疎いルイスですら察するほど気合いの入ったオシャレをしていた。

ベストとプリーツスカートを合わせたフレッピースタイルというものを彼女は着ており。色は暗色系の色ではあるもののそれが逆にアレクシアの美しい銀髪を際立たせていた。前世で王族や貴族のパーティーに強制参加させられて華美なドレスを身にまとった美女達を見てきたルイスですら見惚れるほど美しく、そういうのにあまり免疫がない彼はそのまま固まっていた。

 

「……ちょっと、何か言いなさいよ」

 

そしてそれに対して内心穏やかではないのがアレクシアだ。ルイスにデートの約束を取り付けてから、侍女に相談して色々試した上で1番自信が持てた服を着てきた。それなのにその相手は無言でこちらをじっと見てくるだけ。

 

(まさか、似合ってない?いやでも一緒に考えてくれた侍女は似合ってる、って言ってたし……もしかしたらルイスはこういう服装あんまり好きじゃないのかしら……)

 

どんどん悪い方向へ思考が飛んでいき、段々空回りしてしまったのかと不安になったところで、やっとルイスが動いた。

 

「あ、その、ごめん。あまりにも綺麗で、見とれてた……」

 

が、少し吃りながら出た言葉は陳腐な物な上に動揺しすぎて敬語ではないという始末。様子を陰ながら見守っていた魔剣士騎士団の面々も「あちゃー」と言わんばかりに額に顔を当てたり、ため息を吐いて呆れていた。

 

だが──

 

「そ、そう。それならいいのよ。ほら、さっさと行くわよ」

 

「あ、アレクシア様!?」

 

少女にとってはとても嬉しいもので、褒められた恥ずかしさを誤魔化すように彼女はルイスの手を取って歩き出した直後、止まる。そしてルイスの方へ顔を向けると。

 

「今日だけ敬語禁止よ。いいわね?」

 

「え、それは流石にまずいで──」

 

「い い わ ね !」

 

「わ、分かった……」

 

アレクシアの圧に思わず了承の返事をしたルイスはそこではっと気がつくも時すでに遅く、期待した目でこちらを見てくるアレクシアを見て、少しだけ考え──

 

「アレクシア、今日は改めてよろしく」

 

「ええ、よろしく」

 

開き直って彼女の名前を呼び捨てで呼び、呼ばれた当人は純粋な笑顔でそれを受け取って歩き出した──手を繋いだまま。

 

 

 

 

****

 

 

 

それからルイスとアレクシアは王都の街を散策した。ルイスは事前に地図を読んで王都の街をある程度把握はしていたものの、実際に見たことは殆どなく、逆にアレクシアは何度か出たこともあったため、結果的にはアレクシアがいろんな所へ連れていき、それをルイスが見て色んな感想を持つという感じになっていた。

そして、それは普段は主従として過ごしている2人にとっては何のしがらみもなくただの子供として過ごせた珍しい時間でもあった。

 

だからこそ時間が経つのは早い。

 

「もう、夕方なのね……」

 

陽の光は沈みかけ、街並みをオレンジ色に染める。それは夢のような時間が終わることを2人に告げていた。

 

「……アレクシア、そろそろ帰らないと」

 

「……そう、ね」

 

ルイスが控えめに言った言葉にアレクシアは名残惜しそうに答える。元はと言えば、仕事人間なルイスが少しでも楽しく過ごせれば、疲れているのを知っていたのに止められなかったことへのケジメとして思いついたこと。それでも、アレクシアはルイスの色んな表情を、ファッションセンスが残念なこと、実は紳士的なところと多くのことを知れたこの時間は楽しいものだった。

 

本音を言えばまだ帰りたくない。ここで帰ってしまえば本来の関係に戻り、今日みたいに近い距離で雑談できる機会はほぼ無くなるだろう。頭では分かっていても、理解してそれを飲み込めるほどアレクシアはまだ大人ではなかった。

そしてその想いが彼女の足を鈍らせ、表情にも出させた。ルイスはそんなアレクシアの様子を見て前世で出会ったとある国のお姫様を思い出した。魔物と心を通わせることが出来、同時に賢者に到れるほどの頭脳と魔力、そして王族という地位のせいで同年代の子供のような遊びや友人が出来ずに大人になった少女のことを。

 

──ユウトさん……一人の友人として、また私と一緒に遊んで、下さいますか…?

 

同じだ、ルイスはそう思った。あの時、叶わない願いだと決めつけて諦めるように言葉を紡いだ彼女と同じだ。転生しても大人になりきれなかった自分は間違いだと分かりつつもそれを了承し、実際にバレた時はかなり面倒なことになった。そして、今世でも同じことをすればバレた時あの時と同じレベル、もしくはそれ以上に大変な目に遭うのは分かっていた。だとしても──

 

「アレクシア。一つだけ言わせてくれ」

 

「……何?」

 

「確かに今日みたいな日は中々ない、もしかすると一生来ないかもしれない」

 

「……っ」

 

ルイスの現実を突きつける言葉に俯くアレクシア。

 

「でも、だからと言って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……!」

 

──本当は心優しい少女を自らの保身の為に悲しませる選択肢は取れない。それが、ルイス・エアという人間であった。

 

「あとは誰もいない二人きりの時は今日みたいな感じに接する、とかもいいとは思うけどな」

 

「……ふん、ルイスの癖に生意気よ……ありがとう

 

珍しく生意気な笑顔と共に小声で不敬な提案をしたルイスにアレクシアはいつものような調子で言葉を返し、そして噛み締めるように聞こえないようにお礼を言う。

 

「それじゃ、帰ろっか。遅くなって怒られるのはごめんだしさ」

 

「あ、ちょっと待って。最後に寄りたいところがあるの」

 

「え、マジ?」

 

「マジよ」

 

「えぇ……」

 

時間がもうやばいのを分かってるのか?とルイスが心配になり始め、止めようかどうか悩んでいるところにアレクシアは振り返って。

 

「今日という時間を過ごした証みたいな物を買いましょう?」

 

楽しそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

──その後、門限を少し過ぎてから戻ってきた少年と少女の首元に淡く光るネックレスがかかっていた。

 

 




こういう日常回もいいよね、って話(愉悦部員の皆さんはなんとなく分かってそう)

キャラ紹介

ルイス
前世でも色んな美女とかに会っているのにも関わらず、女性への免疫があんまりない。お出かけの服装は色々察した執事長が用意したものを着ていたため、実はこちらも気合いが入っているような感じだった。ペアルックのアクセサリーを貰ったという事実にあとから戦慄したものの、頑張って軽く流した。

アレクシア様
多分幼い頃はまだ純粋な部分があったと自己解釈したため、まだ原作ほど腹黒性悪要素が出ていない。まるでメインヒロインのようなムーブ……妙だな。ペアルックのアクセサリーを買って貰った事実に帰ってから恥ずかしくなったらしく、ベッドで悶えていた。

魔剣士騎士団の皆さん
今回の犠牲者。目の前でアオハル見せられた彼らは泣いていい。

とある国のお姫様
ルイスがユウトの時に知り合ったお姫様。本文でも会ったように、魔物と意思疎通が出来る上に賢者にもなれるほどの才能を持っており、そのせいで城の外には出ずに英才教育を施されていた。ユウトとは彼ら勇者パーティがその国の王に化けていた魔物を討伐する際に協力し、ユウトとはポチすけを通して仲良くなった。
実は、一人の人間として接してくれたユウトに対して淡い想いを抱いており魔王を倒したあとは想いを告げようとしていた。

ルイスの秘密:4
実はポチすけを預けたのは件のお姫様

番外編としてバレンタインの話を……

  • これもまた愉悦(書く)
  • やめろカカシ、それは効く(書かない)
  • 撃沈もまた愉悦(どっちでもいい)

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