※「慰」は別にエロい漢字ではない
「好きな女のタイプは?」
「はぁ?」
呪術高専京都校2年の東堂葵は目の前のスーツ姿の男に不躾な態度で不躾な質問をした。
少しよれたスーツ。ネクタイは喉元まで締めないルーズさ。
顔には締まりはなく、リムレスの眼鏡だけが浮いており、お洒落が外れている。
教育機関よりも歓楽街の焼き鳥屋の方が似合っているタイプと東堂葵は外見情報から推察した。
ただ、東堂葵は先入観ではなく「仮定」として印象をおいている。
先入観による楽観は戦闘では間抜けのすることだ、というのが東堂葵の考え方だった。
逆の立場にある関十蔵は目の前の大柄な学生を「つまんねーヤツ」と思っていた。
京都校に足を運び、「10年前もジジイだったジジイ」の楽巌寺に4か月間の教鞭の一応の挨拶をしたあと、庵歌姫に中庭へ案内され担当する1年生、2年生と対面した。
昼前、学生たちは気だるそうに、関十蔵はそれ以上に面倒くさそうな態度だ。
その際に大柄で横柄で逞しく慇懃無礼で傲岸不遜な2年生東堂葵に質問を受けた。
十蔵の脳内データベースでは2年生2級術師で、この後起こる「百鬼夜行」で一人で大戦果を挙げる人物だ。
(確か、女のタイプで性格判断するんだよな)
東堂の同級生や下級生は「またか」といった表情で、2人の会話を眺めている。
可能であれば近寄りたくないといった視線である。
「お前の趣味と反対の女」
東堂に意図が伝わるよう極力やる気のない返事をする。実際十蔵としては面倒くさかったのでやる気はなかった。
「はん!そういった回答で俺をコケにする算段、つまらんぞ!貴様の様な面白みのない凡百に教わることは無い!」
そう言うと東堂は後ろを向く。
「どうせ、お前の女の好みなんてクソで面白くもないんだろ?巨乳とかスケベ女とかその程度だろ?」
十蔵が言葉に歌姫は羞恥のため少し顔を赤らめ、生徒たちは口の悪い大人を「ダメな大人」として厳しい視線を飛ばす。
「あ?貴様にタカダちゃんの何がわかる?」
怒りの顔。振り向いた東堂は年齢にそぐわない表情を浮かべる。
「わかるか馬鹿。アイドルか?グラドルか?AV女優か?センズリしたきゃ帰っていいぞ」
手をひらひらとさせ、十蔵は東堂は追い返す。
東堂は憤怒の表情で数歩進むと、瞬きの速度で振り返り、溜めも作らず一気に十蔵への距離を詰め突きを放つ。
呪力は使用していないが、常人が喰らえば命に係わる一撃だ。
手加減という選択肢は東堂にはない。特にタカダちゃんに関わる話題の時は。
繰り出された拳は軽々と掴まれた。
その掌は恐ろしく厚く、異常なまでの力強さと東堂は感じた。
実際、拳には握力というよりも圧力がかかる。拳全体が軋む。
「遅いし、弱えーし、握手か?あくしゅか~いってか?」
相手の実力を蔑む、品性の無いの挑発。
東堂葵の人生の中では高校生のヤンキーどもから言われた罵倒の方が幾分可愛らしい。
ここまで、相手を卑下し、相手の趣味を小馬鹿にした口調で言われた記憶はない。
「きさ」
「は~い、君とおしゃべり出来て楽しかったよ。じゃあ、バイバイ~」
言葉が遮られる。東堂の身体が浮く。
次の瞬間東堂の後頭部は地面に激突する。
!!!!!!!
口の端から唾が溢れる。
東堂葵、人生で最大の衝撃が頭部、首、背中と伝わっていく。
「おい、高校生。関十蔵だ。お前みたいな跳ねっ返りを凹ますために4ヶ月間遊んでやる」
握った東堂の拳を無理やりほぐし、握手をする。
回りの同級生たちは一瞬の出来ごとに呆然としている。
王様気取りの東堂葵が、実力で言えば即座に呪術界上位に食いこめる東堂葵が、あの東堂葵が瞬きの間に地面に転がされ、立ち上がれずにいる。
皆、目をむく以外のことが出来ない。
「じゃあ、明日から。庵、今日は上がるから」
東堂との握手をほどくと、関十蔵は踵を返して帰ろうとする。
「あ、明日は午後一の授業ですからね~」
生徒たちより一瞬早く我に返った庵歌姫が明日の予定を伝えると、十蔵は振り返らず左手だけ振り了承の合図を送る。
「ころす」
東堂葵は大の字になったまま、周りには聞こえぬ声で今後4ヶ月の目標を呟いた。
情景描写が少ないな~。