これはとある冒険者の酒場での日常の物語。


注意1:この作品はうろ覚えで書いた脳内リプレイもどきです。
実際のルールや設定と矛盾が発生する恐れがありますがご容赦くださいませ。

注意2:当方はマイリー神殿並びに信徒の方々に喧嘩を売っているように見えるかもしれませんがそれは誤解でございます。そのような意図は全くございません。

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固有名詞は出ておりませんが一応元ネタがあるので二次創作としました。
どうか心を強く持ってご覧くださいませ。


楽しいコボルド退治

 剣と魔法の世界。世には人と魔物が入り乱れて栄え、今日も今日とて互いを糧とする生存競争が繰り広げられていた。

 これは、そんな殺伐とした世界で魔物を退治して日銭を稼ぐ、冒険者と呼ばれるごろつき達の集まる酒場……。その片隅から始まる、ごくごくありふれた日常の一風景である。

 

「筋肉さん筋肉さん、今日も一緒にクエストに向かいましょう」

「人の呼び名を外見的特徴で表すんじゃあないわよぉ、この筋肉フェチ幼女」

 

 喧噪の支配する酒場の中でも、一際耳に残る甲高い女児の声。そして、それに応じるのは野太いながらも鼻にかかった甘さを燻らす、実に使い慣らされた女言葉であった。

 片や低身長でまるであどけない幼子そのままと言う様な容姿を、神に仕える聖職者の装束に包む女の神官であり。もう片方は筋骨隆々とした小山の様な体に、パツパツの麻の衣服と革製の簡易鎧を身に纏う男の――否、漢女の戦士だ。

 冒険者の集う酒場のカウンター席に座るその二人は、実にあべこべな印象を周囲に放っている。幼女の方はウィンプルで隠れていてわかりにくいが黒髪をストレートに伸ばしており、漢女の方は紫の頭髪を鳥の巣然りと天然に任せて跳ねさせているのも一躍買っていた。二人ともとにかく目立つ容姿だが、決して交じり合う事は無い相反した要素にまみれているのだ。

 だが、周囲の客達はそんな異彩に気を止める事は無く、既に日常の一部として受け入れていた。

 

「えーっ、だって筋肉さんは筋肉さんじゃないですか。今日も大胸筋と上腕二頭筋が良い感じに仕上がってて素敵ですよ。キレッキレですね!」

「もうやーねぇ。セクハラよぉ、それぇ? そんな背格好じゃなかったら、容赦なくしばき倒してる所だわぁ」

「良いじゃないですか、筋肉は人類を裏切りませんよ。私が信仰する戦の神も、常々そうおっしゃっています」

 

 会話が成立しているようでしていない。こんなやり取りすら既に日常の一部なので、筋肉戦士は気にも留めずに艶やかに化粧を施した唇にジョッキを傾けた。ワザとらしく小指を立てながら。

 とは言え、何時までもうだうだとしている訳にも行かないのがその日暮らしの悲しい定め。稼ぎが欲しい筋肉戦士としては、クエストに行くこと自体には否は無い。むしろ、多少頭が筋肉だとしても神官と言う役職の者と組めるのは、冒険者としては望外の幸運と言う物だ。

 

「面子はどうするのぉ? 二人だと美味しい依頼は、あんまりこなせないわよぅ?」

「勿論、何時も通りあの子も居ますよ。今頃、我が心の筋肉に響く様なクエストを掲示板からもぎ取って――あ、丁度戻って来ましたね」

 

 冒険者の集う酒場と言う物は近隣の村や町での依頼を集め、クエストと称して仲介や斡旋をしている場合が殆どだ。この酒場も例には漏れず、店内の一角に掲示板を置き依頼書と言う形で貼りだしている。

 そして、そんな掲示板から引きはがして来たばかりの依頼書を手に、筋肉と幼女の元へと小柄な体躯の者が一人颯爽と歩み寄って来た。

 

「おまたせ、儲かりそうな依頼取って来たわよ。どうせ筋肉達磨も一緒に来るんでしょう? せいぜいあんたを囮にして、私達は楽出来そうなのにしておいたわ」

「アンタ相変わらずねぇ、その太々しい性格は。そんなんだから信用無くして、あたし達意外と組んでもらえなくなるのよぉ」

 

 現れたのはこれまた小さい娘だ。蜂蜜色をした肩までの長さの癖っ毛をフワフワと揺らしつつ、動きやすさを重視したショートパンツに袖の短いジャケット姿の生意気そうな顔立ちの少女であった。

 ただし、神官の方とは違って彼女はこんななりでも成人している。彼女は草原を走る者と呼ばれる生まれつき小柄な体躯を持つ種族なのだ。

 この草原走りの少女は神官幼女とは何かと良くつるんでおり、二人並んで居るとまるで姉妹の様に見える。必然的に筋肉戦士とも幾度かクエストを共にしており、お互いに連携が取れる程度には付き合いが長い。とは言え、彼女自身は筋肉戦士に対して往々にして辛辣である。

 

「私が組みたいのは一人だけだからいーの! それに、嫌われ者なのはアナタも一緒じゃないの。ムキムキのおっさんなのに、女の子みたいにお化粧してるーって」

「選択肢がないってやーねぇ……。それに、おめかし位でグチグチ言う奴等なんてこっちからお断りよん。このあたしと並び立つなら、せめてアンタ達ぐらい物怖じしない度胸がなくっちゃねぇ」

 

 異彩を放つ物に対しての世間の度量と言う物は、この世界でもごくごくありふれる程には狭かった。ともあれこの程度で腐る様な筋肉戦士では無く、こうして余り物同士でしっかりと日々を生き抜いている。身も心も逞しく美しい、それが筋肉戦士と言う漢女なのだ。漢の女と書いて乙女と読むのはご愛敬。

 

「これで戦士と神官と盗賊兼野伏が揃いましたね。依頼の内容は近隣の村にやって来るコボルドの退治……。巣の駆除じゃ無いなら問題なさそうですね」

「バッカよねぇ、巣を潰さないと幾らでも増えてまたやって来るのに。村に来た分だけの討伐依頼出すなんて、お金を無駄にするような物じゃない」

 

 草原走りの盗賊少女が持って来た依頼書を受け取り、その内容をよく吟味する神官幼女が確かに美味しい内容だとうんうんと何度も頷く。

 厳選してきただろう盗賊少女もまた、自らの審美眼に対して薄い胸を自慢げに反らしていた。お気に入りである神官幼女に納得してもらえたのでご満悦の様だ。

 

「ふぅん、怪しいわねぇ。もしかしたら、依頼主側で隠している事があるかもしれないわぁ」

「えー、筋肉達磨気にし過ぎー。そもそも依頼で嘘ついたら、次から依頼が出せなくなっちゃうじゃないの。そんな馬鹿な事する奴なんて居ないわよ」

 

 だが筋肉戦士はそんな二人とは違い、あまりにも美味し過ぎる依頼内容を訝しんでいた。無論の事、酒場と冒険者を正面から敵に回す様な輩は居ないだろう。

 しかし、何事にも抜け道と言うものは存在するのだ。

 

「知っている事を知らなかった事にして、自分達も今知りましたと言いきればよっぽどのことが無い限りは見破られない物なのよぉ。恐らくは値段につられてやってきた冒険者へ、ついでに厄介ごとを解決させるつもりなのかもしれないわねぇ」

「なにそれー、インチキじゃないの! だったらこんな依頼放棄して、他の依頼探して来るわよ!!」

 

 世知辛い世の中には、狡すっからい事を考えて利益を得ようとする者がそれなりに居る。それが学習できただけでも今回は僥倖であったと言えるだろう。それで良しとして依頼書は返却。新しい依頼を受け直して、心機一転改めてクエストに出発だ。

 そう意気込んで行動しようとした所で、あいや否やと声を上げる者がいた。

 

「待ってください。その依頼、このまま受けましょう」

 

 声を上げたのは無論、残り一人しかいない筋肉大好き神官幼女だ。

 彼女は改めて読みなおしていた依頼書から顔を上げ、依頼に懐疑的な他の二人に対してにっこりと華やぐような笑みを向ける。それは容姿と相まって愛らしいと言うのに、ここにはない見えない物に挑むようなどこか挑戦的な笑みであった。

 

「我が神は勇気の無い行動を大変お嫌いになるので、多少の猜疑心からの撤退など言語道断です。何事も、挑んでみてから踏み破れば良いのですよ。大丈夫、筋肉は全てを超越するのですから」

「言いたい事は分からなくも無いけれどぉ、取り敢えずアンタ今直ぐ他の教徒に謝って来なさいなぁ。土下座で」

 

 神官幼女の信奉する戦の神は、勇気ある行動を重んじる教義を是としている。蛮勇を嫌い戦略的撤退は認めるが、それ以外の勇気無き臆病な振る舞いを許してはいないのだ。

 とは言え、今回の場合は相手の策に無謀に飛び込む蛮勇の様な物なので、別段戦神の教義に反しているとは思えないのだが。何故だか彼女はフンスフンスと鼻息も荒く、依頼にいたくご執心の様である。

 

「こうして偶然にも困難な依頼が巡って来たと言う事は、これすなわち我が神の試練に他ならない筈です。つまりは、筋肉さんの筋肉が更に素敵に鍛えられ、躍動する様を見られるに違いないのですよ」

「アンタ、いい加減にしないとそのうち神罰が下るわよぉ。主にグーで脳天に」

 

 要するに、困難な依頼をこなせば教義的に良し。更には大好きな筋肉の躍進も見られて更に良しと言う、まさに良いとこ取りな状況に陶酔していると言う訳だ。

 不利益を何も考えなければ、と前提に付く訳だが彼女は毛ほどにも気にはしていない。そんなことより筋肉だ。

 

「この子が乗り気ならやっぱり私も賛成するわ! どうせ一番苦労するのは筋肉達磨なんだし、そう思えば難しいクエストに挑戦するのもやぶさかじゃないわね」

「アンタも、大概にしておきなさいよぉ。アタシの忍耐も無限じゃないって解ってるぅ?」

 

 解っているがやめられない。冗談なのか本気なのかの判別がつかないこんなやり取りも、所詮は何時もの事と喧騒に紛れる。

 そう、こんなやり取りも最早慣れたものであり、何よりも諸々の事情で他に組める相手の当てがないのも事実なのだ。背に腹は代えられず、今日も今日とて呉越同舟と相成りえる。

 

「もー、しょうがないわねぇ……。今回もついていってあげるわぁ、アンタ達二人だけだとあっさり死にそうだから」

 

 そして筋肉戦士は盛大にため息を吐きつつ、いつも通りに過ごす為に酒場のカウンターから重い腰を上げるのだった。

 

 

 

 結果から言えば、依頼主のとある村の村長は黒であった。

 村に被害を与えているのはコボルドだけだが、その動きが明らかに組織立っており的確。その背後に上位種が居る事は素人でも推測出来ただろう。群れからはぐれた様な雑兵が、毎度毎度食糧庫だけを定期的に襲いに来るはずもないのだから。

 しかし、依頼主はそれを気が付かなかったと予想通り主張し、おまけにこれ以上の依頼額の割り増しは出来ないと宣った。

 

「あーんもう、ウジャウジャいて気持ち悪いわねぇ。ふんっ、どっせぇええええぃっ!!」

「急に男に戻るな! びっくりして矢が外れちゃうでしょう――って、こらっ! その子に近づいていいのは私だけだ、失せろ犬頭!」

 

 依頼放棄して帰ってやろうかとも思ったが、幼女神官が試練試練と連呼してコボルド退治を主張。放って帰る訳にもいかずに、とりあえず村に来た分だけでも駆除するかという流れとなったのだ。

 そうして折よく村にまでやって来たコボルドの数は、通常なら二匹ほどだというのに六匹と言う大所帯であった。これは冒険者達の予測の証明と同時に、事態の深刻さを表す指標でもある。

 そんな集団をたった三人で出迎えて、柵も無い村の外縁部が主戦場と相成った。

 

「筋肉さん筋肉さん、支援を掛けるので何とかして数を減らしてください。最低二匹!」

「簡単に言ってくれちゃってぇ、いくら弱いって言っても数が居るとしんどいのよぉ」

 

 実に良いタイミングで現れてくれたコボルド達を、冒険者達はまず筋肉戦士の振るう大剣の薙ぎ払いで出迎えた。相手の動きを止めるための牽制の一撃に合わせて、盗賊少女が短弓で一頭一頭に矢継ぎ早に手傷を与えてゆく。

 コボルドは魔物の中でも相当に弱い部類に位置する弱者故に、本来ならばこれで一匹や二匹仕留められていてもおかしくはない。ところが、この個体達は妙に統制の取れた動きを見せて、体には粗末ながら防具纏い手に手に剣や棍棒を装備しているため仕留め切れていなかった。

 それどころか背後に庇っている神官幼女を弱所と見て、果敢にも攻め込み盗賊少女を苛立たせている。

 

「偉大なる戦神よ、勇気ある戦士達に力を! ああっ、我が神の逞しき御力が満ち満ちて溢れ、筋肉さんの筋肉を漲らせてくれますぅ!!」

 

 カバーに入った筋肉戦士の背後で、身長よりも長い錫杖を両手で掲げ神官幼女が唄う。戦の神の敬虔な信徒のみが扱える戦の歌と呼ばれる神聖魔法が、味方全ての力を底上げして更には精神への守護すら与えるのだ。

 神殿に飾られる戦の神の彫刻に彫り込まれた隆々とした肉体美に引けを取らない筋肉戦士もまた、神官幼女が恍惚とした表情になるほどにその筋肉をさらに活力を注ぎ込み膨張させた。

 

「ほんとにもう、こんなのが高位の神官って嫌になるわよねぇ。おんっ、どりゃああああああああっ!!!」

 

 野獣の咆哮もかくやの気合いと共に振るわれた大剣の一撃が、怯んだ武装コボルドを三匹纏めて切り払い両断させる。神聖魔法で強化された攻撃の前には、コボルドの粗末な皮鎧も得物も紙切れに等しく諸共に断ち切られていた。

 こうも暴力的な蹂躙を見せつけられれば、元来臆病な性質のコボルドでなくとも気勢は削がれる。臆病風に吹かれ足を止めた所へ、さらに追撃の矢が脳天に突き刺さり二匹が仰け反り倒れた。持ち前の器用さをこれでもかと見せつける、盗賊少女の短弓による速射である。

 

「よっしっ、私最高! 最後の一匹は……、予定通り逃がすので良いのよね?」

「ええ、それで構わないわぁ。元から殲滅なんて依頼は受けてないし、逃げ帰ってくれないと目的が達成できないものねぇ」

 

 あえて見逃された残りの一匹は脱兎の如く逃走。村外れから直ぐに森の木々に紛れて見えなくなり、冒険者の三人は各々警戒を解いて事後処理に移る。倒した魔物の体の一部を切り取り討伐証にしたり、得物にこびり付いた血油を拭ったりと細々としたものだ。なお刃物を扱えない神官幼女は戦力外として、地に膝をついて己が神に祈りを捧げている。

 そうしていると、今迄家屋に引っ込んでいた村人達が恐る恐ると言った様子で顔を出し始めた。どうやら危機は完全に去ったと判断したのだろう。

 黙々と事後処理をしている冒険者三人の所へ、先ほど舐めた態度を取った村長がにこやかに近づいてきた。そして、当然の様に残りのコボルドも巣ごと駆逐してくれるのだろうと、実力を誉めそやしつつ再び舐めた態度を取ってくる。どこまでもどこまでも、冒険者と言う物をただの便利屋だと誤解しているようだ。

 

「何言ってるのぉ? 巣の殲滅なんてしに行かないわよぉ?」

「依頼書に書かれていたのは町に来たコボルドの撃退だったし、村に来た時の交渉では巣の駆除の分の増額は断ってたわよね。冒険者は依頼されたこと以外も善意でやるなんて、そんな金にならない事は滅多にやらないのよ」

 

 無論、気が乗れば追加の依頼を受けることはある。その分の報酬が上乗せされたり、滞在時に優遇されれば吝かではない。つまりこの場合は、お前の態度が気に入らないという奴だ。

 この冒険者達の態度に村長の老人は激昂した。それはもう、このままぽっくり逝くのではないかと言うほど真っ赤になって、口角から泡を飛ばしながら冒険者達の怠慢を糾弾する。

 

「言ったでしょう、私達にはわざわざ依頼以外の仕事をする義務はないのよ。巣の殲滅もして欲しかったのなら、せめて誠意を見せるべきだったわね」

「ああ、偉大なる戦の神よ! この哀れな村人達に、もうすぐ試練が訪れるでしょう。どうか彼らの命を懸けた闘争を、最後の一人が尽き果てるまで御見守りください……」

 

 盗賊少女が村長の怒りをあっさりと躱し、神官幼女はこれより訪れるだろう村への試練とやらに対して己が神への祈りをささげる。

 そう、試練だ。斥候を排除されたコボルド達が次に取る行動は、もちろん巣の持ち得る全力での報復だろう。その可能性に気が付いた老人村長は慌てだし、先刻までの発言を翻して追加金を払っても良いので依頼をさせてほしいと食いついて来た。

 

「今更依頼するって言われても無理よぉ。そもそも、三人だけで二十近い群れの殲滅なんて出来る筈ないじゃないのぉ」

「せめて依頼した時に包み隠さず巣の事も話していれば、最初から大人数の冒険者が来て状況が違ったんでしょうけど。ま、今回は全面的に隠してた方が悪いわね。ご愁傷様!」

 

 筋肉戦士は現実的に不可能だと言う事を淡々と示し、盗賊少女はそもそも嘘をついて依頼をした結果だと嘲る。そうなればもう、後は周囲の村人を巻き込んで憎悪を滾らせるばかりとなった。

 じりじりと手に手に農具を持った村人達が取り囲んでくるが、それを睥睨して筋肉戦士はフッと紅を引いた唇を笑みで歪める。そこにあるのは余裕であり、嘲笑だ。

 手にした大剣を振り上げて構えて見せれば、それだけで村人達の顔には恐怖が浮かぶ。先ほど複数のコボルド達が、たったの一太刀で薙ぎ払われていたのを見ていたのだから当然だろう。それに寄り添う二人の少女達もまた、余裕の表情で各々の得物を構え村人達を観察していた。

 そもそも武装していたとは言えコボルド程度も追い払えぬような村人達に、そのコボルドを退けた冒険者達が負ける道理もないだろう。

 そして何よりも――

 

「アンタ達、こんなことしてる暇が有るのかしらぁ? もう直ぐコボルドの大群がここにやってくるって言うのに、アタシ達の相手をのんびりしている暇なんてある訳ぇ?」

 

 巣の位置がどれだけ離れているかにもよるが、半刻もしないうちにここにはコボルトが押し寄せて来るのだ。こんな柵も無い村が大群に襲われれば、ものの数分で全ての村人が犠牲になる事は必定だろう。

 その事を理解した村人達が執った行動は単純明快。遠巻きに見守っていた非武装の者も含めて総員、揃って地に頭を擦り付けどうか助けてくださいと懇願する事であった。

 

「さっきも言ったけど、私達だけじゃ巣の全てのコボルドは殲滅できないわ。でも、まったく方法が無いわけじゃないのよ?」

「そうねぇ。数に対抗するならこっちも数を用意しないと、アタシ達だけじゃどうしようもないわよねぇ……」

 

 筋肉と盗賊がワザとらしく首を巡らせ、ぐるりと周囲の村人達をなぞる様にして見渡す。そこに居るのは、先ほど冒険者たちに憎悪と共に凶器めいた農具を向けた者達の姿。そして、他にも老若男女の働き盛りな人間が幾人も居た。

 そんな中で、更に動きを見せるのが一人。呆然と冒険者達を見上げる村人たちの前に、神官幼女が両手を広げながら進み出て来る。その姿は幼いながらも堂々としたもので、村人達の目にはまるで徳を積んだ宣教師のように見えた。

 だが、ここに居るのはそんな崇高な者では無い。

 

「さあ皆さん、今こそ闘争の時です!! 村を! 財貨を! 隣人を守るために! 我らが戦神の威光の元、共に戦いましょう!!」

 

 にっこりと華やぐ笑顔で、彼女は頭の中の筋肉を言語化して解き放った。この時点で逃走を選ばなかった村人達に、思わず称賛を送りたくなる様な狂気じみた光景だ。

 こうして、村人達の忙しなき生存戦略が幕を開ける。

 

 

 

 まず優先したのは即席の防壁作りであった。本当に時間が無いので村の周囲に生えた木を男衆で斬り倒し、枝葉を払っただけの丸太を積み上げただけの簡素な物を設置する。

 コボルドの背は人よりも低いので、人の腰の高さほどでも乗り越えるのはそれなりに苦労する。なにより、隙間なく壁を作らなくても互い違いになるよう設置しておけば、障害物を避ける為に群れの動きが阻害されて戦力の分散を図れるのだ。

 

「偉大なる戦の神よ! 運命へと立ち向かう者達に、その御力の欠片をお与えください!」

 

 簡易柵が間に合ったのは奇跡だったのだろう。なんとか斥候の生き残りが逃げた方角にある程度設置し終えたところで、森の中からぞろぞろと犬顔達が現れたのだから。

 休む間もなく襲ってきた脅威に対してすくみ上がった村人に対して、神官幼女は再び声を高らかにして戦の歌を唄う。それは味方と認識したすべての者に力を与え、そしてその精神をあらゆる物から保護する神の与えた神聖な魔法である。

 神の奇跡は村人達の恐れや惑いを振り払い、振るう農具を武具に等しき物へと昇華させるのだ。

 

「柵を越えそうになった所を狙って、必ず複数人で殴るのよぉ! 武器が無い人は石でもなんでも良いからぶん投げてやりなさぁい!」

「狩人は私と一緒に弓持ちを優先で始末して! 女子供はスリングを使って、当てなくても良いからとにかく投げまくる!」

 

 前衛を担う者には筋肉戦士が共に戦いながら指示を飛ばし、後衛役には盗賊少女が弓を速射しつつ声を掛ける。恐れる事も混乱する事も出来なくされた村人達は、足止めをされたコボルド達を着実に迎え撃っていた。

 戦神の神官の唱える魔法が、村一つをそのまま戦闘集団へと変えたのだ。訓練をされていなくとも、多少の怪我でも怯まぬのならば強兵と成り得ていた。

 

「勇敢なる戦士に永劫戦い続けるための癒しの力を! 息があるならば即座に回復して見せます! さあさあ、もっと闘争を! 全身の筋肉を躍動させる、一心不乱の大闘争を!! ああっ、みんなみんな漲ってますぅ!!」

 

 狂信者が昂揚しつつ高らかに謡い、癒しの魔法で狂戦士達を戦わせ続ける。無論、癒し終われば再び歌を響かせて、恐れも迷いもない戦士を生み出すことも忘れない。さながら地獄めいたその様相に、上位種に支配されていると言えども、コボルド達に動揺が走り及び腰となった。

 このまま勢いで押し切れるかと思ったが、そう簡単には行かぬのが世の常だ。動揺を振り払うかの様に森の中から怒号が轟き、それを発した主が続いて姿を現した。

 それは確かにコボルドではあったのだが、その体躯の大きさが二回りほど通常の者よりも大きい。最早人よりも大きくあろうかと言う様は、比べて見れはまさに大人と子供といった具合だ。更には他の個体と違い大ナタで武装しており、先ほどの吠え声は臆した配下達を鼓舞して再び戦地へと送り込む。

 間違いなく、あれがコボルドを統べるリーダーに違いないだろう。

 

「やっと本命が出て来た! アレさえ仕留めちゃえば……」

「群れは散り散りになって、巣の方も間違いなく潰れるわねぇ。んじゃあ、いっちょやってやっかぁ!!」

 

 逸り飛び出す盗賊少女に続き、筋肉戦士もまた雄々しく声を上げて陣地を飛び出していく。無論、周囲のコボルド達は狂戦士と化した村人達へと押し付けて。

 この為にこの状況を作ったのだ。安全に巣を潰す為。何より、冒険者を舐め腐った村人達に仕置きをする為に。それだからこそ、何の呵責もなく捨てていけると言う物だ。

 

「取り巻きを先に片づける! 筋肉達磨は雑魚を薙ぎ払いながら本命に食い付いて!」

「どりゃぁ!! もうっ、今日は動き回って汗だくだわぁ。お化粧が崩れちゃうじゃないのぉ。オラァッ!!」

 

 盗賊少女の援護を受けつつ、矢傷を負った取り巻きのコボルドを筋肉戦士はまとめて薙ぎ払う。更には切り返す刃でそのまま敵の首魁を狙い、大ナタで受け止められつつもギリギリと鍔迫り合いに持ち込んで肉薄して見せた。

 すかさず膠着状態の隙を狙い、横への移動で射線を確保した盗賊少女の一矢が首魁の太ももに突き刺さる。それで首魁が意識を向ければ、その隙を見逃さずに筋肉戦士が更に圧迫を強めて鍔で絡めた大ナタを力任せに地に向けさせた。この状態で刃が離れれば、防御するよりも先に返す刃で首を落とされるだろう。

 離れるのを嫌った首魁が力を込めて大ナタを上げようとするも、下から持ち上げるよりも上から押さえつける方がはるかに有利だ。焦れている所に更に盗賊少女の矢が襲い来るため、チクチクと傷を増やされながら首領は体力ばかりを無駄に浪費されられていた。

 

「頑張るわねぇ……。でもそろそろ、終わらせてあげるわぁ!!」

「やっちゃえ筋肉達磨!!」

 

 駄目押しとばかりに膝裏に向けて矢が放たれて、がくんと首魁の足から力が抜ける。そんな状態では鍔迫り合いなど維持出来ようも無く、それでも何とか大ナタで防御を試みたところで無駄であった。

 

「どぉおおおおおおおおおおっ、せぇええええええええええぃ!!!」

 

 守る為に寝かせられた大ナタの腹目掛け、大上段に掲げられた大剣が振り下ろされ持ち主ごと両断せしめる。哀れ敵の首魁は左右に泣き別れにされ、その瞬間に筋肉戦士は辺りが震えるほどの声量で勝どきを上げるのだった。

 それは闘争の終わりの合図となって戦場に響き渡り、首魁を失って戦意を無くした残党が得物を投げ捨てて散って行く。あとはもう、見送ってしまえばコボルドの群れは消滅してしまうだろう。

 

「ひゃっはー!! 逃げ時が殺り時だぁ! さあ村民の皆さん、神の威光を示すのです! 逃がすなぁ!!」

 

 その消滅を待ちきれなかった狂信者達が、狂える戦士となって敗残兵の背後から襲い掛かった。戦の神は勇気のない者や戦略的でない逃走を嫌う。怯え惑う敗残の魔物を生かしておくなどもってのほかだと、神官幼女が先導し残党狩りが進んで行く。

 程なくして、村の周辺からコボルドと言う存在は駆逐された。

 

「…………アンタ、あれでもあの子の事――」

「クゥゥゥッ! やっぱり笑顔の時が一番可愛い!! えげつない所も最高! 愛してるぅ!!」

 

 つまる所、盗賊少女にとっては愛らしく美しくあれば、例え頭の中味が筋肉や狂信者でも問題は無いのだろう。ハアハアと息を荒げ、両手を胸の前で組んで神に祈る様に涎を垂らす姿を見れば瞭然であろう。

 もう我慢できないと神官幼の元へ駆け出した盗賊少女の背中を見送り、筋肉戦士は心底疲れたと大仰にため息を吐く。

 

「はぁ……、皆キャラが濃厚よねぇ。ついて行けないわぁ……」

 

 神々の中で一番の肉体美を持つゆえに狂信する幼女の神官と、幼子の愛くるしい姿を見て邪な笑みを浮かべる小人の盗賊。この特異な二人でも、筋骨隆々とした益荒男ながらも唇に紅を引き、目元や頬を化粧で彩る戦士の言葉には異を唱える事だろう。

 お前が言うな、と。個性の強さは負けてはいない。

 

 

 

 結局、割の良い報酬を求めて受けたクエストは、ほぼほぼ割の合わない大激戦となってしまった。

 それでも何とか元々の報酬を満額で受け取り、粗雑な武器や防具を村に引き取らせて小銭を稼ぐことに成功。他には村と協力して倒したコボルドの討伐の証を全て酒場に納品し、経験と名誉を得たと言う事でなんとか留飲を下げた。果てしなく疲れたと言う事を除けば、冒険者達には損害も無いのでマシな部類だろう。

 冒険者にとって名誉とは飯の種である。評価が上がればそれだけ美味しい依頼にもあり付けるというもの。コボルドとは言え上位種を倒したとあれば、受け取れる名誉も馬鹿にはならぬのだ。

 そんな訳で、微妙に膨らんだ財布の紐を少しだけ緩めつつも、ちびちびと安酒を啜って糊口を凌ぐ日常へと戻っていた。

 

「筋肉さん筋肉さん、今日も一緒にクエストに行きましょう」

「人を外見的特徴で呼ぶなって言ってるでしょ、この筋肉狂信幼女」

 

 ほんの少しだけ変化しつつも、やはり大筋は変わらない毎日。こんなやり取りも日常の一つとして、冒険者の集まる酒場では気にも留められずに消化されて行く。

 ありふれた日常と言うには刺激的で、しかしやはり代わり映えは無い毎日だ。

 

「というかぁ、割に合わない大仕事の後だから少しのんびりしようって言ってたじゃないのぉ。結局あの村の住民全員、アンタの所の信者にして臨時収入も入ったんでしょ?」

「はい、宣教に成功したという事で特別に、恩賞を少しだけ賜りました。そうそう、今度あの村に戦の神の教会が建つ事になったんですよ。なんでも住民の皆さんが建設費用を寄付してくれたとかで、私にとっては一番の追加報酬ですね」

 

 驚愕と言うべきか納得と言うべきか、あの時の村人達は皆無事に新たな信仰心に目覚めたらしい。農村などでは大地母神やマイナーな土着の神が信仰される事が多く、実際にこの村ではもともと大地母神に豊穣を願っていた。それが揃いも揃って改宗とは、やはり特有の神聖魔法を目の当たりにしたのが効いたのだろう。

 とは言え、それまで信仰されていた大地母神からしてみれば、堪ったものではないだろうが。

 

「生きる事とはすなわち戦いです。農業もまた飢餓と病、自然との闘争に他なりません。って布教したら、割と簡単でしたね」

「世も末ねぇ。農民も戦いと勇気が無いと生きられないなんてぇ……」

 

 かの村こそ兵農一体の先駆けとなる事だろう。そんな事に戦の神が喜ぶかはともかく、その信徒の一人は勢力の拡大にホクホク顔である。

 ところで、そんな風にとりとめもなく話していれば、もう一人の何時もの存在が駆け寄ってきた。

 

「おまたせー、美味しそうな依頼もぎ取って来たわよー。今回はなんと、薬草一束採りに行くだけで大金ゲットだって!」

「それ、あからさまに罠依頼じゃないのぉ。どうせとんでもない山奥とか、秘境に採りに行かされるんでしょぉ?」

 

 現れたのはやはり顔馴染みの、蜂蜜色の髪をした草原走りの少女である。彼女は今日もまた喧しく、そして幼女神官にべったりと張り付いて無駄にスキンシップを図りだす。椅子に座ったまま横から抱きしめられた方は少しよろけつつもそれを甘んじて受け入れ、それどころか自身も更に隣の丸太の様な腕に縋りついてうっとりし始めた。

 突然隣で幼女二人がウヘヘと嗤う様を尻目に、筋肉戦士は我関せずと安酒のジョッキをまた一口すすり話を続ける。

 

「暫くのんびりする予定だから薬草採集なのは良いけど、人も寄り付かないような辺鄙な所になんて行きたくないわよぉ?」

「もー、うるさいなー。筋肉達磨は無駄に体力あるんだから、少しぐらい遠くても疲れないでしょ。そんなに言うなら自分で探してくればいいじゃないのさ」

 

 近場で薬草摘みならば外敵も弱くて休養にもなるだろうが、辺境にまで行けばそれはもう草摘みどころか大冒険だ。それでもこんな依頼を持ってくる辺りは、好奇心旺盛な草原走りとしての本能なのだろうか。

 しかも当の本人は、渋る筋肉戦士に対して舌を出して挑発している。そんな態度に辟易とすることも飽いていた筋肉戦士だったが、そこに上腕二頭筋に頬擦りしていた神官幼女が口を差し挟む。

 

「まあまあ、良いじゃないですか。この依頼、よく読んでみたら遠いだけで危険な魔物の出現位置でもないようですし。それにもし危険でもそれはそれでよい試練になりますから、筋肉さんの筋肉がまた一段と――おっと涎が……」

「ちょっとぉ、人の筋肉でトリップして涎垂らしてんじゃないわよぉ。服汚したらたかいたかいして天井に突き刺すからねぇ」

 

 この筋肉戦士、身体は益荒男でも心は乙女。精神的同性の小娘相手には容赦しない。ちなみに神官幼女はまだ被害には遭っていないが、盗賊少女の方は何度か発射された経験がある。それでも懲りずに正面から罵って行けるのだから、盗賊少女の肝の座り方もなかなかの物だろう。

 

「嫌なこと思い出したわ……。それで、結局筋肉達磨は行かないつもりなの? 私はこの子と二人っきりとか大歓迎だけど」

「もー、しょうがないわねぇ、今回もついていってあげるわよぉ。アンタ達二人だけだと多分、街を出るまでに五回ぐらい誘拐されそうになるでしょうからねぇ……」

 

 内面と実力はともかく、外見は幼げな二人は何かと絡まれやすい。乙女な内面はともかく、外見は益荒男な筋肉戦士は良い風除けとなるのだ。筋骨隆々の彼女に喧嘩を売る相手は、盗賊少女以外では早々居ない。

 それに加えて、なんだかんだでこの三人でつるむのが当たり前になっていた。旅は道連れ世は情けを地で行くと言う物だ。だからだろうか、一人だけ混ざらないという事に疎外感を覚えてしまうのは。なんとなく、なんとなく嫌な気分になってしまうのだ。漢女心は複雑なのである。

 きっとその程度には、筋肉戦士もこの二人に愛着と言う物を持っているのだろう。

 

「さっすが筋肉さん! その大胸筋と同じぐらい心が広いですね! 素敵です! ぺろぺろしたい!」

「ふーん、ま、良いけどね。あなたが居るとこの子もニコニコしてくれるし。やっぱり笑顔が一番可愛くて――んへへへ、フヒヒヒヒ……」

「これに絆されるのは恥かもしれないわねぇ……。今から考え直そうかしらん」

 

 今更後悔してももう遅い。既にこんなやり取りも日常と化してしまっているのだから。周囲の他の冒険者達にも、三人の色物具合は知れ渡っているので逃れ様も無い。結局は、こんなやり取りもまた日常として謳歌するしかないのだ。

 

「さあ、それでは参りましょうか筋肉さん。私達の前には試練と筋肉が待ち受けていますよ!」

「早くしなさいよねー、筋肉達磨ー。筋肉しか取り柄が無いんだから、せめて荷物持ちぐらいは役に立ってもらうわよ」

「はいはい、まずはお買い物から済ませましょうねぇ。目的地が遠いとする事が多くて嫌になっちゃうわぁ」

 

 こうして今日も、何やかやとにぎやかしい冒険の日々は続いて行く。その繰り返す日常の行く末は、賽を振る神々ですら知り得はしないだろう。良いも悪いも賽子次第。諸行無常の響きあり。

 これは剣と魔法の世界にて紡がれる物語。冒険者と言う名のごろつきが集まる酒場の片隅から始まる、ごくごくありふれた日常の一風景である。

 




Q.よくもこんなクソ小説を!
A.本当に申し訳ない。

Q.前の小説の続きとか書かないの?
A.時間が無かった。

Q.なぜ幼女をこんな筋肉推しにした。
A.私にもわからん。

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