お前(アンタ)と出会ったのが運の尽き   作:死神作者

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第8話 背中で眠る滅却師と背負う死神

「傷は大丈夫そうか?」

 

虚(ホロウ)と対峙しながら、伊武紀はバンビエッタに問う。

 

「見た目ほどじゃないから。安心して」

 

そう言うが、額からは血を流し、左腕もだらりと力なくぶら下げている状態では説得力がない。

 

「そいつはよかったよ。……なら、後は休んでろ」

 

伊武紀は険しい目つきで、虚(ホロウ)を見据えた。

 

その視線には、はっきりとした敵意と怒りが込められている。

 

「随分とバンビを痛めつけてくれたみたいだな………覚悟しろよ?」

 

バンビエッタの怪我を負わせたことに、彼は静かに怒っていたのだ。

 

「速攻で終わらせてやる」

 

伊武紀は始解を使おうとする。

 

「待ってくれ!伊武紀!」

 

だが、そこに一護とルキアが遅れてやって来た。

 

「一護、それに朽木。待てってどういう事だ?」

 

「その虚(ホロウ)は、井上の兄貴なんだ!」

 

「井上の?……そうか、だからか」

 

虚(ホロウ)は、人間の魂魄を主食としている。

 

だが、それは空腹からではなく、苦痛から逃れる為だ。

 

尸魂界(ソウル・ソサエティ)に導かれなかった魂、とりこぼされた魂、虚(ホロウ)から守ってもらえなかった魂、それらが堕ち、中心(こころ)を亡くして虚(ホロウ)となる。

 

虚(ホロウ)の胸辺りに孔が空いてるのは、そう言う意味の現れらしい。

 

そして、虚(ホロウ)となった魂は、その亡くなった中心(こころ)を埋める為に、生前最も愛した者の魂を求める。

 

今、伊武紀が対峙してる虚(ホロウ)が、織姫の兄だと言うなら、織姫が襲われた理由も納得だった。

 

「だから、ソイツを斬るのは待ってく「黒崎君?」………え?」

 

一護は、自分の名前を織姫に呼ばれた事に驚いた。

 

今の一護は伊武紀と同じ死神で霊体。

 

普通の人間からは見えない。

 

にも関わらず、織姫から一護の姿は見えていた。

 

「どういう………事だ?なんで、井上に……俺の姿か……?」

 

『決まっているだろう。そいつが、魂だからだ』

 

一護の疑問に、虚(ホロウ)が答える。

 

『残念だったな。織姫はもう……死んだ!』

 

虚(ホロウ)の言葉に、一護は呆然とした。

 

そして、そんな一護の隙を虚(ホロウ)は見逃さなかった。

 

再生した尾を使い、一護を吹き飛ばす。

 

だが、間に伊武紀が入り込み、攻撃を防ぐ。

 

「なにボケっとしてやがる!一護!」

 

「い、伊武紀……!」

 

「安心しろ!井上は無事だ!まだ“因果の鎖”が肉体に繋がってる。その状態ならまだ助けれる!」

 

伊武紀は、そう言って刀を振るう。

 

「だから戦え!戦わないと、井上を救えないぞ!」

 

「ぐっ………分かったよ!」

 

一護は斬魄刀を握り締め、覚悟を決めて立ち向かおうとする。

 

だが、頭の中では分かっていても虚(ホロウ)が、織姫の兄だと認識すると、どうしても動きが鈍くなる。

 

(くそっ!俺はどうしたらいいんだ!?)

 

そう悩んでいる時だった。

 

『邪魔をするな、黒崎一護!』

 

「!……俺の事を知ってるのか?」

 

『ああ、知ってる………お前の所為で、織姫は俺の為に祈ることを止めた………出掛ける時も、帰って来た時も、いつも俺の前でお前の事を話す………辛かった………織姫の心から、俺の姿が消えて行くのが………!』

 

「ち、違うよお兄ちゃん!それは『俺は淋しくて!』」

 

織姫の言葉も聞かず、叫ぶ。

 

『淋しくて淋しくて!何度も何度も、お前を殺したくなった!』

 

その瞬間、「殺したくなった」と言う言葉を聞いた一護の雰囲気が変わった。

 

『殺してやる殺してやる殺してやる!殺してやる殺してやる殺してやる!殺 し て や る !』

 

虚(ホロウ)は、そう叫びながら織姫に手を伸ばす。

 

「おい」

 

だが、その手は織姫を掴まなかった。

 

一瞬で、一護が斬魄刀を振り、腕を斬り飛ばしたからだ。

 

「兄ってのは、どうして一番最初に生まれるか知ってるか?」

 

一護の声には、静かな怒りが込められている。

 

「それはな………後から生まれて来る妹や弟を守るためだ!」

 

そして、斬魄刀の切っ先を向ける。

 

「兄貴が妹に向かって『殺してやる』なんて……死んでも言うんじゃねぇ!」

 

一護は一気に踏み込んで、虚(ホロウ)に肉薄する。

 

そして、そのまま袈裟懸けに切り裂いた。

 

『ギャアァァァ!!』

 

その痛みに耐えきれず、虚(ホロウ)は悲鳴を上げる。

 

一護は更に、返す刃で横薙ぎに払う。

 

『グォッ!』

 

「まだまだぁ!」

 

『何故だ……何故邪魔をする……黒崎一護ォ!!』

 

虚(ホロウ)は絶叫する。

 

『織姫は、俺の妹だ……!俺の妹なんだ!誰にも渡さない!俺の物だ!』

 

「うるせぇ!井上は井上だ!勝手に所有物にすんな!」

 

『黙れェ!』

 

そう叫んで、虚(ホロウ)は一護を殴る。

 

一護は防御態勢を取り、衝撃に備えた。

 

だが、一護は殴られなかった。

 

虚(ホロウ)は一護を殴ると見せかけ、そのまま織姫の方へと向かう。

 

「しまった!?」

 

一護は謀られたと気付き、急いで追いかけようとするが、虚(ホロウ)の方が速い。

 

口を開き、喰い殺さんと織姫へと迫る。

 

そして、虚(ホロウ)は織姫に喰いついた。

 

その瞬間、織姫は嫌がることも、拒絶することもしなかった。

 

手を伸ばし、兄だった虚(ホロウ)を抱きしめた。

 

『織……姫……?』

 

虚(ホロウ)は織姫が何をしているのか理解できなかった。

 

「ごめんね……お兄ちゃん……」

 

織姫は、虚(ホロウ)に謝った。

 

虚(ホロウ)は驚き、その目が揺れ、僅かに光を取り戻す。

 

「あたし、お兄ちゃんに聞いて欲しかったの………学校であった楽しい事、好きなこと、好きな物、好きな人たち…………いつまでもお兄ちゃんの事で悲しんでたら、お兄ちゃんが心配しちゃって安心できないと思って………だから、見せたかったの!あたしは大丈夫って!幸せだから心配しないでって!」

 

織姫は涙を流しながら、虚(ホロウ)に語りかける。

 

「でも、それがお兄ちゃんを淋しくさせてたなんて………全然気づかなった………ごめんね、お兄ちゃん……大好きだよ………!」

 

そう言うと、織姫は気を失い倒れる。

 

「井上!」

 

一護は斬魄刀を放り捨て、織姫に駆け寄る。

 

「狼狽えるな!まだ助かる!」

 

狼狽える一護に、ルキアがそう言う。

 

「阿由葉副隊長も言っていただろ!“因果の鎖”が肉体に繋がってる内は助けれる!」

 

そう言い、ルキアは鬼道を使い、織姫の魂を、織姫の肉体に戻す作業を始める。

 

その光景を見つめ、虚(ホロウ)は口を開く。

 

『………本当は分かってたんだ………織姫が祈るのを止めたのは、俺に心配させないためだって………それでも、祈ってて欲しかった………俺の為に祈ってくれている間だけは………俺の事を忘れないでいてくれると思ったから…………』

 

その言葉に、一護も伊武紀も、そして、織姫を治療してるルキアも何も言えなかった。

 

だが、バンビエッタは違った。

 

ボロボロになった身体を動かし、近付く。

 

「あんた馬ッ鹿じゃないの?」

 

「バンビ!お前、何動いてんだよ!怪我が悪化するぞ!」

 

「平気よ。それより……」

 

伊武紀に答えた後、バンビエッタは虚(ホロウ)に話しかける。

 

「アンタさっき言ったわよね?祈ってる間だけは自分の事を忘れないでいてくれるって………でもね、織姫は祈ることを止めたとしてもアンタの事忘れないわよ」

 

そう言って、バンビエッタは織姫の髪に付いてるヘアピンを指差す。

 

『このヘアピン……俺が買ったヤツ………』

 

「そう言えば井上の奴、言ってたな。お兄ちゃんがくれた初めてのプレゼントだって。だから毎日付けるんだってな」

 

『そう………だったのか………』

 

「だから、織姫がアンタの事忘れるわけがないでしょ?織姫は、ずっとアンタの事を想ってるのよ。だから、安心しなさい」

 

そう言って、バンビエッタは優しく微笑んだ。

 

『ありがとう……』

 

虚(ホロウ)はバンビエッタにお礼を言い、伊武紀を見る。

 

『……死神君……頼みがあるんだが……いいかな……?』

 

「………ああ」

 

伊武紀は、優しく笑うと、斬魄刀で虚(ホロウ)の顔を斬る。

 

仮面が割れ、身体が崩れ始める。

 

「なっ!?伊武紀!何してんだ!」

 

伊武紀の行動に、一護は驚く。

 

「彼の、最後の願いを叶えたまでだ」

 

『ありがとう、死神君。このままでいても、いずれ自分を失って、また織姫を襲う。なら、まだ正気を保っていられる内に消えておきたい………』

 

「だからって!」

 

「いや、その者の判断は正しい。一度、虚(ホロウ)になった魂は2度と戻らない。そのまま消えさせてやれ」

 

ルキアの言葉に、一護はあまりにも酷だと思った。

 

だが、ルキアはそんな一護の気持ちを察したように、話を続ける。

 

「案ずるな、一護。虚(ホロウ)を斬ることは、“殺す”のではない。罪を洗い流し、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に行けるようにしてやるのだ。その為に、我々死神がいるのだからな……よし、これでもう大丈夫だ」

 

織姫の治療が終わると、虚(ホロウ)は身体が崩れ行く中、織姫に近付く。

 

『それじゃ……さよなら……織姫………』

 

織姫に別れを告げ、虚(ホロウ)は消えて行く。

 

すると、織姫は目を開け、虚(ホロウ)を……兄の顔を見る。

 

「……お兄ちゃん……いってらっしゃい………」

 

あの日言えなかった言葉。

 

織姫の胸の中でずっと引っ掛かっていた言葉。

 

その言葉が、織姫の口から出た。

 

その言葉を聞き、彼、井上昊は涙を流し、笑顔を浮かべる。

 

『ああ……いってきます、織姫』

 

そして、井上昊は消え、尸魂界(ソウル・ソサエティ)へと送られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、色々聞きたそうにしている織姫と、まだ気絶しているたつきに、ルキアは記憶置換を施し、今夜の出来事を別の記憶へと変えた。

 

そして、そのまま解散となり、伊武紀はバンビエッタと共に帰路に着いていた。

 

「あのさ……別に背負わなくても大丈夫なんだけど……」

 

「うるせぇ。怪我人は黙って背負われてろ」

 

バンビエッタは、伊武紀におんぶされていた。

 

一応伊武紀の回道により、ある程度の怪我は治ったが、伊武紀が無茶はさせれないと言い、こうしておんぶして帰路に着いてる。

 

しかも、下手に傷に障らない様に瞬歩は使わず、歩いてアパートに向かっている。

 

「………すまなかった」

 

「え?」

 

「もっと急いでいれば、お前が怪我しなくて済んだのに………すまない」

 

「……本当ね。顔に傷が残ったらどうするのよ」

 

「……すまん」

 

そう言い、伊武紀は歩く。

 

「あーもう!」

 

すると、バンビエッタは自分の頭をかき乱し叫ぶ。

 

「うをっ!?急にどうした?」

 

「少しぐらい反論しなさいよ!いつものアンタはどうしたのよ!」

 

「いや……それは……」

 

「まったく……」

 

そう言って、バンビエッタは伊武紀にしっかりと抱き付き、言う。

 

「さっきのは冗談よ。確かにもう少し早く来てくれれば、あんな怪我せずに済んだけど、アンタは十分速かったわ。だから気にしないで」

 

「……分かった」

 

「それと………ありがとう」

 

バンビエッタは小声で、お礼を言った。

 

事実、バンビエッタは死にかけてた所を伊武紀に助けられた。

 

だから、お礼を言うのは当然だった。

 

だが、何故かお礼を言う事に気恥ずかしさを感じ、小さい声になってしまった。

 

「ん?何か言ったか?」

 

「………何でもないわ。ただの独り言」

 

「そうか……」

 

「疲れたからちょっと寝る……着いたら起こして」

 

そう言い、バンビエッタは伊武紀の背中に全体重を預け、目を閉じる。

 

(まったく……お礼の一つも素直に言えないのかしら、あたしは……)

 

バンビエッタは伊武紀の背で眠りにつく。

 

その表情は、どこか幸せそうなものだった。

 

「……おい、本当に寝たのか?」

 

伊武紀が聞くが、返事はなく、代わりに寝息が聞こえた。

 

「ったく……」

 

伊武紀は小さく笑い、ゆっくりと歩き出す。

 

「ゆっくり休めよ……」

 

伊武紀は呟きながら、バンビエッタをおぶったまま帰宅した。

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