―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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9-11:「Fighting Vehicle Assault」

 集落内を通る道を、その周囲の光景に大変不釣り合いな歪な物体が、閃光を煌々と灯し、異質な音を鳴らし上げて進んでいる。

 その姿は他ならぬ、89式装甲戦闘車の物であった。

 装甲戦闘車の後方両翼には、普通科3分隊の隊員が展開し、警戒の姿勢を取りながら装甲戦闘車に随伴している。そしてそのさらに後ろには、旧型小型トラックと高機動車の追走する姿も見えた。

 これ等は全て、不測事態対応のために編成された〝呼応展開小隊〟を成す車輛及び人員だ。

 集落へ進入する前に偵察捜索隊が発した展開要請。これを受け、待機していた呼応展開小隊は追走急行し、つい少し前にこの草風の村へ到着。73式特大型セミトレーラでここまで運ばれて来た89式装甲戦闘車を降ろし、それを中心に戦闘隊を組み、集落へ進入。

 先程、偵察捜索隊本隊との合流を果たし、今はさらにその先の納屋で戦闘状態にあるという、制刻等や威末等の元へ駆け付けるべく、道を急いでいた。

 ギャラギャラと履帯の音を鳴らして走る装甲戦闘車の、その砲塔上には、車長用キューポラから半身を出す穏原の姿がある。穏原は現在この場の先任者であり、この呼応展開小隊の指揮を預かっていた。さらに砲塔の後ろ、車体後部の上には、3分隊分隊長である古参三曹の、峨奈の立つ姿も見えた。

 

「見えた、あれか――」

 

 キューポラ上の穏原は、進行方向の先に視線を向け、声を零す。

 穏原の眼は夜闇の中で、不釣り合いに明るい一点をその先に見止め、やがてそれが燃え上がる納屋である事を確認する。さらに穏原はキャタピラやエンジンの唸る音の中に、割り込み来る銃声をその耳に聞いた。

 

「酷いな――ケンタウロス2-1応答せよ、こちらエンブリー。そちらの様子を視認した、詳細知らせ」

 

 先の光景を見止め、呟く穏原。そして、増強戦闘分隊が納屋に籠り戦闘状態にあると聞いていた彼は、それに向けてインカムを用いて発し呼びかけた。

 

《こちらジャンカー4-2。2-1と一緒だ》

 

 呼びかけには独特の重低音で、普通科4分隊2組を示し名乗る声が返される。他ならの制刻の声であった。

 

《こっちは敵に囲われてる。納屋と、その向かいの家屋はこっちが抑えて陣取ってる。そこは撃つな》

 

 増強戦闘分隊――ケンタウロスに代わり寄越された制刻の不躾な言葉での、詳細と要請。

 

「了解4-2、それと確認したい。その他周辺家屋に、民間人等のいる可能性は分かるか?」

 

 穏原は返された不躾な言葉に特に気にする様子は見せず、了解の返事を返し、そして同時に戦闘の上での懸念事項を尋ね返す。

 

《ケンタウロス2-1です。待ってください、この場の住民の人に確認取ります》

 

 その尋ねる言葉には、威末から言葉が返された。そして少しの間を置き、向こう側から通信が返され聞こえ来る。

 

《――エンブリー、確認取れました。少なくとも非戦闘員は全てこの場に避難済み。周辺家屋に民間人存在の可能性無し、戦闘行動に支障無しッ》

 

「了解。当方は間もなくそちらへ展開する、持ちこたえろ」

 

 確認が取れ通信を区切ると、穏原は背後、砲塔後ろに立つ峨奈に振り向き発し始める。

 

「当車は納屋の前を抜けてその先に出る。3分隊は、抑えられた建物を遮蔽物に展開。敵、及び周辺家屋にそれぞれ対処」

「了解、了解」

 

 指示を言葉にしながら、同時に片腕を進行方向に突き出し動かすジェスチャーを混ぜ、峨奈に伝える穏原。峨奈は進行方向を睨みながらも、それに頷き返す。

 その間にも装甲戦闘車は進み、そして戦闘の繰り広げられる一帯へと辿り着いた。

 

「味方も展開中だ、誤射には気を付けろ――かかってくれ」

「はッ」

 

 峨奈は穏原の言葉に答えると、丁度速度を落した装甲戦闘車よりその側面に飛び降りて行った。そして峨奈は指示の声とジェスチャーを上げ、それに呼応し、追走していた3分隊の各員が周辺へ展開していく。

 その様子を眼下に見届けた後、穏原はキューポラ上に出していたその半身を引き込み、目線から上だけを砲塔上に出して、周囲を観察できる態勢を取る。

 装甲戦闘車は納屋の前に立ち込める煙の中に突っ込む。そして煙の中を抜け、その先の開けた一帯へ出た。

 装甲戦闘車はその先で停車。一帯の向こうには点在する数軒の家屋が見え、さらに地上を駆けて納屋へと迫る、傭兵達の姿が見える。そして煙の中より突如として現れた装甲戦闘車を前に、傭兵達の狼狽する様子がありありと見て取れた。

 

「敵を目視――とぉッ!」

 

 穏原は地上の傭兵達を視認し声を上げかけたが、直後にはそれを遮るように何かが飛び来て、金属同士がぶつかり擦れる音を立てる。

 傭兵達は狼狽し動きを止めたのもつかぬ間、直後には反応してクロスボウ等により矢を放ち、それが装甲戦闘車の装甲を叩き、跳ねたのだ。

 

「矢撃か――髄菩、地上の歩兵と交戦しろ」

「了」

 

 穏原は車内砲手席の髄菩に向けて指示。髄菩は返答を返すと共に、同軸の74式7.62㎜機関銃を選択、射撃装置のグリップを握る。同時に操作系を操り、砲塔を9時方向へと旋回させて仰俯角を合わせ、傭兵達の組む陣形のその端を、覗いた照準内の中に収める。そして射撃装置のトリガーを引き、同軸機関銃より撃ち出された7.62㎜弾の銃火が、傭兵達を襲った。

 まず陣形の端に位置していた傭兵が、倒れる姿を見せる。髄簿はそこからトリガーを引き続け射撃を維持したまま、砲塔を旋回させる。砲塔の動きに合わせて火線は動き、陣形を組んだ傭兵を舐めるように掃射し、次々に撃ち倒して言った。

 穏原も車長席でその光景を見ながらも、同時に後方より別の発砲音を聞く。後方の納屋や家屋にカバーし展開した、普通科3分隊の各員からの射撃行動であった。3分隊からの小銃及び軽機を用いた各攻撃は、装甲戦闘車からの掃射を零れた傭兵や、また離れた地点の位置していた傭兵達を狙い、それぞれを無力化してゆく。

 

「敵歩兵、沈黙」

「了解、次は――」

 

 敵傭兵の無力化の報告が髄菩より上り、穏原は次の目標を探す。

 しかし直後。ガゴン――と鈍い音が響き、同時に装甲戦闘車と内部各員を衝撃が襲った。

 

「ッ!――今のは」

《前方からです。何か飛んでくるのを見ました》

 

 穏原の上げた声に、操縦手の藩童からインカム越しの落ち着いた声での報告が返される。

 装甲戦闘車を襲ったのは、傭兵側の魔法により形成され飛来した、鉱石の柱。鉱石柱は装甲戦闘車の正面を直撃したが、その装甲と被弾傾斜に弾かれ、装甲戦闘車に大きな損害を与える事は無かった。

 

「これは、前にもあった攻撃だな」

 

 直後に穏原は、以前に山賊達を相手取った時に受けた、鉱石柱の攻撃を思い返し、今の攻撃がそれと同種のものであると察しを付ける。そして藩童から報告された、前方の先にある家屋を睨む。

 

「髄菩、前方の家屋だ。機関砲でやれ」

「――了」

 

 指示に、髄菩は顔をわずかに顰め、あまり気の進まなそうな様子で了解の返答を返す。そして主砲である90口径35㎜機関砲KDEを選択。砲塔を操作旋回させて正面へと戻し、その砲身を先の家屋へと向け、同時に照準内にその姿を収める。そしてトリガーを引いた。

 撃ち出された数発の35㎜機関砲弾は、家屋の一点に飛び込み、炸裂。着弾した地点の内外を破損させ、吹き飛ばした。

 髄菩はそのまま砲塔を旋回させ、そして砲の仰俯角操作し、切り撃ちをしながら機関砲弾を家屋全体へ舐めるように撃ち込んでゆく。家屋はみるみるうちに各所が吹き飛び、損壊してゆき、程なくして家屋からの攻撃は完全に沈黙した。

 

「――沈黙」

「了解」

 

 髄菩から無力化完了の報告が上がり、穏原はそれに返す。

 ――穏原が視界の端に、煌々と瞬く光源を捉えたのはその時だ。

 

「ッ――うぉッ!?」

 

 直後、装甲戦闘車の側面に、巨大な炎の玉が直撃。傭兵側からの魔法による火炎弾攻撃だ。直撃した火炎弾は燃え広がり、伝わり来た熱に穏原は声を零し、顔を顰める。

 

「熱――ッ!――今度は炎か!?藩童、位置を変えろ!」

 

 襲い来た攻撃と熱に若干の困惑の声を零しながら、穏原は操縦手の藩童に、車体を移動するよう指示。装甲戦闘車はエンジン音を唸らせ、その場から移動を始める。

 

「髄簿!損害は!?」

「システムからのアラート無し。行動に支障無し」

 

 同時に穏原は髄菩に報告を求める。

 対する髄菩は、各種モニターや操作系に視線を走らせ、報告の声を上げる。幸い火炎弾攻撃は、装甲戦闘車に大きな損害を与える事を無かった。

 

「了解――攻撃は3時方向からだ。そっちに砲塔を向けろ」

 

 穏原は位置を変え動く車上から、攻撃が来た方向にある家屋を見止め睨み、指示の声を張り上げる。

 

《エンブリー、ジャンカー3ヘッドです。その家屋はこっちで対処します》

 

 しかしそこへ、インカムより通信が飛び込む。声は、3分隊指揮官の峨奈の物。

 そして通信が聞こえ来た直後、穏原の耳は今度は、後方に大きな破裂音を聞く。

 ――瞬間、睨んでいた先の家屋のその二階で爆煙があがり、家屋の二階は盛大に損壊し吹き飛んだ。

 穏原はその光景に少し驚きながらも、背後を振り向く。視線の先、先に制刻等4分隊2組が抑えた家屋の元、そこに84㎜無反動砲を構えた隊員の姿が見える。3分隊に組み込まれた対戦車火器の射手であり、構えたその無反動砲の後部からは、噴出されたバックブラストの煙が広がり上がっていた。

 

「ジャンカー3、助かった」

 

 穏原は3分隊へ感謝の言葉を無線で発し飛ばし、再び一帯へ視線を向け直す。

 先に点在する家屋は無力化され、沈黙。地上の各所にいる傭兵達には、さらなる狼狽の広がる様子が見て取れた。

 

「怯み出してる――各ユニット、残敵の掃討に当たれ。藩童、彼等を正面に」

《了》

 

 敵の士気低下を見止めた穏原は、指揮下の各隊にこれの掃討を指示。同時に穏原へ再び車体の進路変更を指示。それを受けた藩童の返答、操作と共に、装甲戦闘車は信地旋回により車体の向きを変更。一帯に展開していた傭兵達へその正面を向け、彼等を追い込むべく全身を開始する。

 

「髄簿」

「了。再度歩兵と交戦します」

 

 穏原の呼ぶ声、その意図を察し髄簿は返答を返す。そして再び同軸機関銃を選択し、覗いた照準に姿を捉え、トリガーを引いた。

 再びの掃射が、浮足立ち始めた傭兵達に向けて牙を剥き、彼等を容赦なく攫える。

 

「左っ側撃て、左側」

「……了ッ!」

 

 穏原がさらに別の目標を見止め、指示を出す。髄菩は照準越しに見える凄惨な光景に、顔を青くしながらもトリガーを幾度も引く。

 ゆっくりと前進し、傭兵達と距離を詰める装甲戦闘車の砲塔から、機銃掃射が無慈悲に継続。

 さらに抑えた背後家屋に陣取った、竹泉と多気投からの攻撃が。周辺に展開した3分隊からの、各員の小銃の各個射撃、分隊支援火器の掃射が。これ等が飛び、十字砲火を描き、一帯に散らばる傭兵達を各個に撃破、あるいは舐め攫ってゆく。

 小隊の到着。そして実施された攻撃に、先程まで攻勢する側にあった傭兵達は、一転して形勢不利に陥った。

 そして苛烈な攻撃と、迫る装甲戦闘車の巨体を前に、ついに士気戦意の瓦解を起こしたのであろう、傭兵達の中から逃走する物が現れ出した。

 

「敵。一部が逃走を開始」

「各隊、逃げる者は撃つな。脅威度の高い者を優先して処理しろ」

 

 その様子を照準に見た髄菩の報告の言葉。それを聞いた穏原は、乗員に、そして各隊に注意指示の言葉を送る。

 指示の反映された攻撃が、傭兵達の戦力を確実に削って行き、傭兵達はその瓦解の速度をさらに早めて崩れて行った。


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