―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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1-10:「ゴブリンとの戦いⅡ」

 芽吹きの村。

 夜も更け、暗闇に包まれた村内を、無数の物体が蠢いている。

 それらはすべてゴブリンだった。

 村の入り口から、半ば付近まで、ゴブリンが群れ成している。そしてそれらの全てが殺意に満ち、その手に得物を握っている。

 

「くッ、昨日までより数が多い!」

 

 そんなゴブリンの群れを相手取る姿がある。

 ハシア等勇者一行だ。

 ゴブリン達の殺意は、全て彼等へと注がれていた。

 

「イクラディ、フィルエ・ベイルを群れの真ん中に撃って!」

 

 ハシアは先頭にいたゴブリン一体を、大剣を払って切り倒すと、近くの家屋の屋根にいるイクラディに向けて大声で発する。

 

「炎の加護よ、我が手元に現れ、そして怨敵を焼け!」

 

 ハシアからの指示を受けたイクラディが詠唱は行う。すると彼の手中にバスケットボール大の炎球が現れる。そしてイクラディはゴブリンの群れ目がけて、炎球を撃ち放った。

 撃ち放たれた火球はゴブリンの群れの中央付近に飛び込み、数匹のゴブリンえを焼く。しかしそれでもゴブリンの群れの勢いが収まることはなかった。

 

「まずいよ!このままじゃ村の奥まで押し込まれる!」

「そうはさせん!ここで押し留める!」

 

 斧使いのアインプと騎士のガティシアは、それぞれ発しながらゴブリンをそれぞれの得物で薙ぎ、突く。

 

(く……みんな限界が見えてる……!)

 

 ハシアは内心で苦悶する。

 二日前からの毎夜の連戦で、勇者一行は皆、体力気力共に限界に達しようとしていた。

 

「――ッ!ハシア、何か聞こえる!」

 

 その時、アインプの耳が何かの音を捉え、彼女は発する。

 その音は次第に大きくなり、ハシア達の耳にも届く。それは奇妙な唸り声のような音。

 

「あれは――!」

 

 そしてゴブリンの背後に位置する森の奥から、強烈な光が瞬いた――。

 

 

 

 制刻、河義等の乗ったジープベースの小型トラックは森を抜け、再び集落へと到着。そしてハシア達と対峙しているゴブリンの群れの背後に出た。

 小型トラックのヘッドライトが、ゴブリンの群れを照らす。

 

「やはりこちらも襲撃されていたか!」

 

 小型トラックの助手席で、村を襲うゴブリンの群れを目視した河義が叫ぶ。

 小型トラックの進路の先、村の入り口付近から中央付近にかけて、多数のゴブリンの蠢く姿が。そして奥側でそれと対峙するハシア達勇者一行の姿が、河義等の目に映った。

 

「彼等に退避するよう、呼び掛けなければ!」

「俺が」

 

 河義の言葉に、制刻が応じる。制刻は荷台に積んであった拡声器を手に取り、そのマイク部分に向けて発し始めた。

 

《ハシア、聞こえるか?今から皺共の群れを弾く、邪魔だからそっから退避しろ》

 

 制刻の拡声器を越した不躾な要請の言葉が、村の方向へと響く。ハシア達は一瞬戸惑う様子を見せたが、次の瞬間にはこちらの意図を汲み取ったのか、集落の左右へと飛び退く。

 

「彼等の退避を確認――策頼、群れを掃射しろ!」

「了」

 

 河義の指示を受け、荷台に据えられたMINIMI軽機に着く策頼は、その銃口をゴブリンの群れへと向け、そして引き金を引いた。

 撃ち出された5.56弾の弾頭群は、ゴブリン達へ背後から食らいつき、数匹のゴブリンが押し飛ばされるように倒れる。

 策頼はMINIMI軽機をゆっくり旋回させ、連射により攫えるようにゴブリン達に銃弾を撃ち込んでゆく。突然の事態に驚愕するゴブリン達に、5.56㎜弾は容赦なく襲い掛かり、彼等を打ち倒して行った。

 

「奴ら、奥の方までぎっしりだな。河義三曹、手榴弾の許可ください」

「……許可する」

 

 一瞬考えた後に、河義は制刻の進言に許可を出す。

 許可を得た制刻は手榴弾を繰り出すと、ピンを抜き、車上からゴブリンの群れ目がけて投擲。群れの真ん中付近へと投げ入れられた手榴弾は、一瞬の間を置いた後に炸裂。

 爆発の勢いと飛び散った破片が、群れの中央付近にいた10体以上のゴブリン達を吹き飛ばし、殺傷した。

 中央から吹き飛んだゴブリンの群れに、さらにMINIMI軽機の掃射が襲う。掃射を逃れた僅かなゴブリン達も混乱に陥り、逃走を図ろうとする個体も現れ始める。しかしそんな彼等も、制刻や鳳藤による車上からの小銃による各個射撃により無力化されて行った――。

 

 

 

「凄い……」

 

 制刻からの要請により退避したハシア等は、家屋の屋根の上から、ゴブリン達が掃討されてゆく様子を眺めていた。

 ハシアはその光景を目の当たりにし、おもわず言葉を零す。

 

「でも……なんか怖いよ……」

 

 しかし隣にいたアインプが、顔を若干青くして、そんな言葉を零す。

 

「うん、僕もだ……彼等の武器は、ただ強力なだけじゃなく、多くを効率的に殺すことに特化してるように思える……」

 

 ハシアはアインプの言葉に同意し、そして観察して思った言葉を発した。

 

 

 

 ゴブリンの群れは程なくして一掃され、村の敷地内や周辺で動くゴブリンの姿はなくなった。

 ゴブリンが掃討された事を確認し、小型トラックは運転席の鳳藤の操作で、村の敷地内へと乗り入れる。

 そこへ、屋根の上に居たハシア達が軽やかな身のこなしで飛び降り、歩み寄って来た。

 

「よーぉ」

「皆さん、ご無事ですか?」

 

 制刻と河義は小型トラックから降車。

 制刻はハシアに向けて端的な挨拶で呼びかけ、河義はハシア達に安否を尋ねる。

 

「ええ……しかし、なぜあなた達がまたここに……?」

 

 ハシアは河義に尋ねる。

 

「私たちの宿営地も襲撃を受けまして、その際、こちらへ逃げてゆく個体を確認したんです。そこで、ひょっとしたら村も襲撃を受けているのではないかと、気がかりになりまして」

「成程……」

「そ、そうなんだ……」

 

 河義の説明に、ハシアやアインプは少したじろいだ様子で発する。

 

「彼等、ちょっと引いてるな……」

 

 彼等のその様子に、ハシア達の心情に感づいた運転席の鳳藤が発する。

 

「ま。見てて気分のいいモンじゃぁねぇからな」

 

 それに対して制刻は淡々と返した。

 

「……いや――すまない。正直、僕等は危ない所だった。その窮地を救ってくれた君たちに、こんな態度は失礼だな……」

 

 ハシアはそんな言葉で、自分の態度を反省。

 

「ありがとう、おかげで助かったよ」

 

 そして凛とした態度を作り直し、河義等に向けて礼の言葉を述べた。

 

「とんでもない、感謝するのは私達の方です。あなた方の警告を事前に受けていなかったら、対応が後手に回って、もっと被害を被っていたかもしれなかった」

 

 ハシアの謝罪と礼に、河義は同じく礼で返した。

 

 

 

 河義等とハシア等が話している傍ら、小型トラックの後方でごそりと動く一体のゴブリンの姿があった。

 攻撃を逃れ、生き残った一体のゴブリンは、得物である手斧を握りしめて起き上がり、小型トラックの傍らに立つ制刻に、背後から飛び掛かった。

 

 

 

「――!君、後ろッ!」

 

 制刻の背後から襲い掛かるゴブリンの姿がハシアの目に映り、彼の警告の声が響く。

 その次の瞬間、鋭い手に握られた斧が、今まさに制刻に振り降ろされた。

 ――しかし斧が制刻に届く事は無く、代わりに「ギェ!」というゴブリンの悲鳴が小さく響いた。

 見れば、制刻が前を向いたまま後ろに振り上げた右腕の拳骨が、ゴブリンの独特の長い鼻面をへし折り、顔面にめり込んでいた。

 制刻は拳骨を降ろすと、同時に弾帯に挟んでいた鉈を抜き、片足を軸に身を翻す。そして未だ中空にあったゴブリン目がけて、鉈を振り上げた。

 振り上げられた鉈はゴブリンの首元に真横から突き刺さり、ゴブリンは今度は声にならない掠れた悲鳴を零し、刺さった鉈に支えられて中空にぶら下がった。

 

「うわ……!?」

「おま――大丈夫か……!?」

 

 制刻以外の各員は、制刻の一連の動作が終わった後にようやく事態を把握。鳳藤は驚きの声を上げ、河義は冷や汗を一筋流しながら、制刻に安否確認の言葉を発する。

 

「えぇ、大丈夫です」

 

 対する制刻は淡々と返事を返しながら、ゴブリンの刺さったままの鉈を振り降ろし、勢いでゴブリンの体から鉈を引き抜く。そしてゴブリンの死体は地面に叩き付けられた。

 

「まだ生き残りがいたのか……!鳳藤、策頼、各個体を確認してくれ」

「了解です……!」

「了」

 

 指示を受け、鳳藤と策頼は小型トラックから降車。ゴブリンの死体の確認作業へ取り掛かって行った。

 

「君、すごいな……反応の速さもだけど、その体躯でよくあそこまで素早い動きができたね……」

「あぁ、ちぃとコツがあるんだ」

 

 ハシアの驚き混じりの評価の言葉に、対する制刻は特段誇るでもなく、簡単に答えて見せた。

 

「危なかったな……しかし――なぜ彼らはこうやって人を襲うんです?」

 

 河義は制刻が倒したゴブリンの亡骸に、一度視線を送ってからハシアに尋ねる。

 

「僕らが知る限りでは、ゴブリンだから、としか……。ゴブリンは、生きる糧を自分達以外の種族や動物を襲って得る種族だと言われています」

 

 あまり愉快ではない話だからか、ハシアは少し声のトーンを落として説明する。

 

「ではやはり、対話は不可能な存在だと」

「今の所は、そういう認知です」

「そうですか……」

 

 説明を聞いた河義も、同様にあまり愉快ではなさそうな表情で返した。

 

「とりあえず、割り切るしかねぇようだな――で、皺共はこれで全部か?」

 

 今度は制刻が、周辺に散らばるゴブリン達の死体を一度見渡してから、ハシアに尋ねる。

 

「僕等も全体数は把握してないけど、昨日までの襲撃の時に来た数と比べると、これが群れの本体である可能性は、低くないと思う」

 

 ハシアは同様にゴブリン達の死体に目をやりながら、分析の言葉を発する。

 

「そりゃいい。だが、念のためここいら周辺を、攫っといたほうがいいかもしれません」

「だな……」

 

 制刻の進言に、河義は同意し呟いた。

 

 

 

 昨晩の襲撃を受け、隊は高地及び集落周辺の調査索敵を徹底的に行った。

 結果、単体個体や少数グループのゴブリンとの接敵が2~3報告あったのみで、大規模な集団との接触は無く、隊はゴブリンの群れが周辺から掃討された物と結論づけた。

 

「――と、いう訳です。ゴブリンの群れは、この辺りからいなくなったの見て問題ないでしょう」

 

芽吹きの村の村長宅では、井神が村長にゴブリンが掃討された旨を説明する姿があった。

 

「なんと……!それはうれしい知らせです……」

 

 井神の言葉に、驚きつつも感謝の言葉を述べる。

 

「なんとお礼を言ったら良いか。これでまた、元の生活に戻る事が出来ます」

「僕等からも感謝するよ。正直、今の僕たちにあの規模のゴブリンの群れは相手として厳しかった」

「もっと強くなんないとねー……」

 

 ハシアが村長に続いて感謝の言葉を述べ、隣にいたアインプが頭を掻きながら零す。

 

「いえ、私たちも自身の身を守るために行動したに過ぎません。私たちの方こそ、数々の情報と協力をいただき、ありがたく思っています」

 

 対する井神も、村長やハシア等に向けて礼の言葉を返した。

 

 

 

 村の外の広場には、ジープベースの小型トラックが2両、止められている。

 

「では、我々はこれで失意礼いたします」

 

 村長宅を出た井神は、挨拶と共に帽子を被り、身を翻して小型トラックへと戻る。

 

「所で、オメェ等はこれからどうすんだ?」

 

 一方、制刻はハシアへと視線をやると、そんな旨の言葉を発した。

 

「あぁ、僕たちは近いうちに村を発って、東を目指す予定さ。君たちは?」

「さぁな。今の俺等は流浪の身だ。色々手探りで、調べていくことになるだろうな――」

 

 互いの今後を話す制刻とハシア。

 

「ひょっとしたら、また会う事もあるかもしれないね」

「あぁ。そん時まで、元気でな」

 

 制刻とハシアは、最後に互いに別れの言葉を交わした。

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