―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

111 / 223
10-5:「リーチをかけろ」

 場所は再び草風の村へ。

 集落の中を通り中心部へと続く道を行く、制刻、鳳藤、竹泉、多気投の姿がある。四名は、前列を制刻と鳳藤が、後列を竹泉と多気投が位置する雑把な隊伍を組んで歩いている。

 今朝方に商議会側の放った偵察――リーサー達の捕縛を成して遂げた制刻等の組は、その後、集落周辺の哨戒任務に当たっていた。

 そして今は別隊と交代してその任務を終え、元分隊へ合流復帰すべく、集落の中心部へと向かっている最中であった。

 

(……ひどいもんだ……)

 

 進む四人の中で鳳藤が、表情を険しくし、内心で言葉を浮かべながら、周囲に目を配っている。現在この村の生存者達は皆、村の中心部に設けられた避難区域に集まり避難している。そのため今制刻等の進む周辺は人の気配がまるでなく、焼け焦げ落ちた各家屋だけが、痛々しいその姿を並べ、存在を訴えていた。

 

「つまり、先の見えねぇ村のお守りだろぉ?歓迎し難い事態になったモンだぜ」

 

 そんな光景が広がる中で、竹泉の卑屈げな台詞だけが、響いて上がっている。

 前方を行く制刻を相手に、発し上げられている竹泉の言葉。それは隊が長期的な村の防護を行う事となった事態に対して、苦言を呈する物であった。

 

「お前……物言いを考えろ。この集落は、こんなに酷い状況にあるんだぞ……!」

 

 竹泉のその、村や村人に対する配慮を著しく欠いた発言に、それを見咎めた鳳藤は咎め釘を刺す言葉を放つ。

 

「あぁ失礼――だが、そんな表面ツラ取り繕ってる余裕も、あるたぁ思えねぇんだがよぉ?俺等も言っちまえば迷子同然、色々と有限の身だ」

 

 しかし竹泉は咎める言葉に投げやりな詫びを返し、そして収まる様子の無い皮肉気な口調で言葉で、現状の懸念事項を説いて見せる。

 言う通り、隊も実際の所は流浪の身であり、人員他キャパシティも有限である。

 

「その上で、今回は他所にすぐにはぶん投げられず、終わりの目途が見えねぇと来た」

「……これまでは各国地域の治安組織に状況を引き継いできたが、今回はそれが叶わないそうだな」

 

 続け発せられた竹泉の言葉に、鳳藤も苦々しく呟く。

 これまでは、隊は遭遇対処した各案件を、地元地域の治安組織に引き継ぐことで対応して来た。しかし今回の事態においては、それが叶わずにいた。

 この紅の国の警備組織には事態の黒幕である商議会の息が掛かり、頼る事はできない状況にある。そして隣接する各国の各組織は、紅の国内外で定められた不可侵条約により簡単には介入ができないと言う。

 これ等の事項から今の所、隊は孤立した草風の村を単独で長期的に防護する事を余儀なくされ、余裕のあるとは言えない隊の態勢を、さらに脅かしていた。

 竹泉はそれ等の事柄を思い返しながら、説明の言葉にして並べて見せる。

 

「よくもまぁこんだけ面倒に、んで向こうっ側に都合よく進んだモンだよ。んでそんなゲロを俺等は自分から踏みに行っちまったワケだ」

 

 そして最後の再び、皮肉気に吐き捨てた。

 

「色々ウェルカムしがてぇ状況だなぁ。なんか抉じ開ける手はねぇのかぁ?」

 

 竹泉のそこまでの説明を聞き、横を歩く多気投がどこか面白くなさそうな口調で発する。

 

「手に入れるべきは、向こうの企みの証拠だ」

 

 そんな所へ、前列を行く制刻から声が上がった。

 

「十分な証拠が揃えば、隣国は正当に介入できるらしい。そいつを掴むんだ」

 

 制刻は他の三人に向けて訴えて見せる。

 

「証拠……?とは言うが……」

「フワっと言うがよ、なんのアテがあるってんだよ?」

 

 しかしその言葉に、鳳藤は訝しむ声を上げ、竹泉は荒々しく返す。

 

「俺等が事態に割り行った事で、向こうの企みには亀裂が入った。それを取り繕うために、向こうは予定外の行動を取らざるを得ねぇはずだ」

 

 そんな二人に制刻は説明。そしてその〝予定外〟の一例であろう、今朝方自分等が捕縛した、商議会が送り込んで来た偵察の人間達の事を上げて見せる。

 

「そいつを掴んで潰し、辿って行く。そうすりゃ奴等の動脈、心臓を引きずりだせるはずだ」

 

 そう発し、そして制刻は「うまくいきゃ、引き千切り潰すこともな」と付け加える。

 

「そんなうまく行くモンかよ?」

 

 一方の竹泉は、顔を顰めた懐疑的な色を浮かべている。

 

「やれるさ。やる以外はねぇ」

 

 そんな竹泉に、制刻は端的に答えた。

 

「まぁ、それを解決策とすんのはいいんだけどよぉ?そいつがリミット内でなんとかならなかったらどぉすんだよ?」

 

 竹泉はそこまで聞いた所で再び発する。

 先にも述べられた通り、隊も決して余裕のある状況と言えない。商議会側の企みの証拠を掴み他国介入を実現できれば良いが、事態が長引けば最悪それよりも前に、隊が活動限界に達し村の防護を続けられなくなる可能性もあった。

 

「そんときゃ最悪、住人に村を放棄させて国外へ脱出させる。――陸曹方は、二次プランとしてそう考えてるそうだ」

 

 その可能性を示唆する竹泉の問いかけに、端的に答えを述べる制刻。

 

「確かにそれが現実的な所か……しかし、村の人達は故郷を離れることはしたくないだろうな……」

 

 それを隣で聞いた鳳藤は、難しそうな顔を浮かべて零す。

 

「言うてる状況かよ。そっちの方がはるかに負担が少ねぇ。俺はそのプランを推すね、なんなら今すぐにでもだ」

 

 しかし竹泉は、心底面倒くさそうな口調でそう続けて見せた。村人達の心情を二の次にした発言に、鳳藤は竹泉を睨む。

 

「今のはあくまで最後のプランだ。まだ住民には口走るなよ」

「へぇへぇ、了解了解」

 

 そして制刻の釘を刺す言葉。それに対して竹泉は片手をヒラヒラとさせながら、適当な返事を返した。

 

 

 

「邦人捜索の件もある。どっちにしろ、まだしばらくはこの国に居座る事になる」

「――……そういえば、私達がこの国に居座るのは問題ないのか?」

 

 各員に聞かせるように発した制刻。その一部のワードを聞き留め、鳳藤が疑問の声を発したのはその時であった。

 鳳藤は、この他国の組織の介入駐留を強く制限している紅の国国内で、同様に武装組織である自分等が居座っている事が、問題とされないのかを疑問視したのだ。

 

「どうだかな、色々考えられるが――」

 

 それには竹泉が答える。

 現在この世界においての隊は、この世界に帰属する国を持たない、定かでない立ち位置のまま流浪する正体不明の組織というのが現状だ。その隊の正体実態を紅の国商議会が掴み、定められた件の不可侵条約に当てはめ、対応を取るには手間と時間が掛かるであろう事を推測して見せる。

 しかし直後に竹泉は別の可能性を提示して見せる。

 隊はこれまで立ち入った各国家からは、漂流者、難民等の名目、及び国の安全に貢献する実績をもって、その存在及び滞在を看過されて来た。しかし今回の紅の国商議会と隊は、最早敵対も同然の関係性に踏み入っている。その状況下で紅の国商議会側は、正体不明の武装組織である隊を、国家に害成す領土侵犯存在と認定し、国家の権利及び義務として排除に掛かって来るであろう事は、想像に難くなかった。

 いやそもそも、すでに水面下で様々な工作行為を行っているのが紅の国商議会である。

 公な手段、訴えなど取れなくとも、国内に侵入した帰属国家の確認の取れない組織など、秘密裏に何らかの手を差し向けて対応して来るであろう事すら予想された。

 

「その面倒臭ぇ条約的には、グレーゾーン。だが、他の理由つけて何かしてくんのは、間違いねぇだろぉよ」

「近い内のさらなる衝突は避けられない……か」

 

 竹泉が締めくくる言葉を発し、それを受けた鳳藤は、難しい顔で呟いた。

 

「そのジャパニーズらしい姉ちゃんサーチして、向こうさんのワルダクミを探る探偵ごっこに、アーンドバトルの二次会と来たかぁ。ヴィジーだなァッ」

 

 ここまでの一連の会話や説明の内容を思い返し、多気投がどこか緊張感の欠ける声色で零す。

 

「事態に追われてんのは、向こうも同じさ」

 

 そんな所へ、制刻が言葉を発する。

 

「向こうとの、立ち回りの勝負だ。うまく捌いて奴等の企みの上を行き、崩しリーチを掛ける」

 

 続け、三人に向けて端的に発して見せる制刻。

 

「ハハァ。ディスりあいの、ラップバトルみてぇだなァッ」

「随分簡単に言ってくれる」

 

 それを聞き、多気投が陽気に発し上げ、竹泉がどこかくたびれた様子で言葉を零した。

 

 

 

 会話の区切りが付いたタイミングで、制刻等は避難区域となっている村の中心部に到着。

 そしてその制刻等の視線の向こうに、こちらに向けて歩いて来る河義と策頼の姿が見えた。

 

「制刻、皆も。哨戒は終わったか」

「えぇ。今、上がったトコです」

 

 河義は制刻等の近くへと歩み近寄って来ると、尋ねる声を発しかけて来た、制刻はそれに対して肯定の旨を答える。

 

「そうか。上がった直後ですまないが、間もなくヘリコプターが来る――」

 

 河義は、物資機材等を積んだ輸送ヘリコプターが、間もなくこの村に飛来到着する事。さらにヘリコプターにはディコシアとティの兄妹が搭乗同行している事を告げる。そして物資資材の積み降ろし作業の支援、及び兄妹の迎えに向かって欲しい旨を、制刻等に伝えた。

 直後には、河義のその言葉を証明するように、ヘリコプターの物であろうパタパタという音が、各員の耳に微かにだが聞こえ届いた。

 

「いいでしょう」

 

 その音を聞きながら、制刻は河義に対して端的な了承の言葉を発する。

 

「すまない、策頼もそっちに合流させる。頼むぞ」

 

 他にも作業等に負われているのだろう。河義はそこまで言い制刻に任せると、身を翻して小走りに去って行った。

 

「やぁれやれ。息つく暇もありゃしねぇ」

 

 河義が立ち去るのを待ってかそれとも気にせずか、伝えられた指示に竹泉がそんな悪態を吐き上げる。

 

「臨時ヘリポートは、村の北側に用意されてるはずだ。行くぞ」

 

 そんな竹泉の悪態を聞き流し、各員に促す制刻。そして合流した策頼を含む制刻等5名は、そのヘリポートを目指して再び歩き始める。

 直後に、その制刻等の直上を、飛来したCH-47J輸送ヘリコプターが、ローターのけたたましい回転音を響かせながら、通過して行った。

 

 

 

 草風の村より北に少し外れた地点。そこには地面に線と文字を描き応急的に拵えた、臨時ヘリポートが用意されていた。そして臨時ヘリポートから距離を少し離した周辺には、車輛といくらかの隊員が、作業及び不測の事態に備えて待機している。

 そんな隊員等の見守る中、飛来したヘリコプターは臨時ヘリポートの直上に機体を運び、ホバリング状態に入る。完全なホバリングに移行したヘリコプターは、ゆっくりと高度を下げる。そして風圧で周囲の草を揺らし、砂埃を巻き上げながら、ヘリポート上にその巨体を着陸させた。

 

「ふぇー……」

「着いたのか……」

 

 機体の貨物室で、座席に着いていたディコシアとティからそれぞれ声が上がる。

 機体が地上へ降りた事で、二人は飛行航行の間、常にあった緊張状態をようやく解き、安堵の溜息を吐いて脱力する様子を見せていた。

 

「空を行く旅は楽しめかねぇ?銀の髪の少年少女達よ」

 

 そんな二人に対して、旗上が怪しげな口調で聞き尋ねる。

 

「しょ、少年少女……」

「そんな呼ばれ方をされる歳じゃないんだけどな……」

 

 自分達を呼び示した旗上のその言葉に、二人は困惑の声を零す。

 

「この者の言う事は聞き流してください」

 

 そんな所へ鷹幅が割って入り、鷹幅は旗上を顰め面で見ながら、ディコシア達に向けてそう促す。

 

「お二人とも、降りますのでこちらへ」

 

 そして鷹幅は二人に機を降りる旨を告げ、追従を求める。

 鷹幅は二人を連れて、満載された荷物の隙間を縫って貨物室を通り抜け、後部ランプドアを踏んで機外へと降り立った。

 機体の傍にはすでに大型トラックが乗りつけ、物資機材の積み降ろしに当たる隊員等が待機していた。鷹幅はその中の監督担当者である陸曹と、敬礼と挨拶を、その後に作業の段取りを交わし合う。それが終わると、隊員等は作業へと取り掛かり始めた。鷹幅の横を抜けてランプドアを踏み、隊員等は機内へと乗り込んでゆく。

 

「鷹幅二曹」

 

 その様子を見ていた鷹幅の所へ、独特の重く鈍い声色で声が飛び掛けられる。

 鷹幅がそれを聞き留め振り向けば、こちらへ歩いて来る一隊――制刻筆頭の4分隊各員の姿が見えた。

 

「制刻士長に――4分隊か」

 

 制刻と各員の姿を見止め、その正体所属を確認するように鷹幅はそれを声に出す。

 

「えぇ。こっちに手を貸すように――それと、にーちゃんねーちゃんを迎えに来るよう言われて来ました」

 

 制刻はその鷹幅に肯定の返事を返し、そして自分等が与えられている指示を伝える。

 

「あぁ。お二人はこちらだ」

 

 それを聞き、鷹幅は背後で待っていたディコシアとティに振り向き、彼等の存在を示して見せた。

 

「こんなトコまで、ご苦労なこったな。んでもって、俺等はいつから異世界ブラザーズの保護者になったのやら」

 

 そのディコシアとティの姿を見止め、いの一番にそんな皮肉気で気だるげな言葉を上げたのは、もちろん竹泉だ。

 

「顔を合わせるなりこれだもん。もうちょっと、愛想良く迎えるくらいしてくれてもいいんじゃない?」

 

 最早とうに慣れたのか、竹泉のそんな言葉にティが呆れ混じりの、そして本心から期待はしていないといった様子の台詞を返す。

 

「そうだな、じゃあ再会を祝してワルツでも踊ろうかぁ?」

 

 対する竹泉は、そんな卑屈な提案を言葉にして見せる。

 

「竹泉二士」

「いらん事を、垂れ流さんでいい」

 

 そんな竹泉に対して、鷹幅が咎める口調を上げ、そして制刻が釘を刺す言葉を発した。

 

「でだ――にーちゃん、ねーちゃん。例の摩訶不思議の設置だが、今から掛かれそうか?」

 

 それから制刻はディコシア達に向き直り、.要請と問いかけの言葉を彼等に投げ掛ける。

 

「あぁ、もちろん。到着したら、すぐに取り掛かるつもりだったからね」

 

 その問いかけに、ディコシアは問題ない旨の言葉を返した。

 

「助かる――おぉし、策頼、竹泉。にーちゃん達に付いて、お守りや手伝い、面倒を見ろ」

 

 ディコシアからの確認、了承を得、そして制刻は背後の各員へ振り向き、その中から策頼等二名をピックアップして指示を告げる。

 

「了」

「へーへー」

 

 指示に対して、二人はそれぞれ返事を返す。

 

「剱と多気投は、俺とだ。積み降ろしに手を貸す」

「あぁ、了解だ」

「ヘィヨォ」

 

 続け、残る鳳藤等に向けて告げる制刻。それに鳳藤等もまた返事を返す。

 

「おぉし、かかれ」

 

 そして制刻は各員に向けて発する。それを合図に、各々はそれぞれ割り振られた役割に掛かって行った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。