―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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10-11:「Hunting Prolog」

 およそ15分程前。

 露草の町と凪美の町を結ぶルートほぼ中間地点。

 昼がる草原の中を通る道を、外れて100m程行った箇所にある傾斜地。その影を利用し姿を隠す、旧型73式小型トラックの姿が、そこにはあった。

 小型トラックには、前席に自由と剱。荷台後席に策頼、竹泉、多気投の搭乗している様子が見えた。

 

「……」

 

運転席に座る剱は、ハンドルの上に両手を置き、指をしきりにトントンと動かしている。

 

「落ちつかねぇようだな」

 

そんな剱へ、 助手席に座る自由が声を掛ける。その言葉通り、剱は何やら落ち着かなそうな様子だ。一方、自由はというと、小型トラックのボンネット上に足を放り出して踏ん反り返るという、剱とは対照的な悠々とした姿を見せていた。

 

「あぁ……なぁ、本気で実行しようというのか?」

「本気じゃなきゃ、こんな所までわざわざ来るかよ。偉いさんを、ここでふん捕まえる」

 

 剱の、その顔にありありと懸念の色を浮かべての尋ねる言葉に、対する自由は端的に返し発して見せた。

 ――隊に身柄を抑えられた、紅の国商議会の雇われ人のリーサーは、行われた聴取の末にいくつかの情報を暴露。それは、商議会の画策する計画の一部や今後の同行。そしてそれに関与する人物達、その者達の行動予定等に至り、有力な各種情報を隊にもたらした。

 さらにその上で隊側は、商議会の各種計画に深く関わっている議員の内の一人が、駐留する草風の村から近い二つの町の間――すなわち、現在地点である露草の町の凪美の町間を、本日中に移動するという報を入手した。

 隊の指揮主導を取る井神始め主要隊員は、これに目を付けた。

 その議員が移動を行うタイミングを、身柄を確保するチャンスと踏んだのだ。

 そして疑われる企てへの関与が濃厚である、商議会の議員の身柄を確保できれば、隣国各国の紅の国への介入を正当化する証拠。並びにさらなる情報を得られる可能性は十分に存在する。

 これ等を鑑みた上で、井神はこの議員の身柄確保を行う事を決定。そのための拘束作戦を発動した――。

 現在、自由等の他にも一帯の周辺各所には、拘束作戦に参加する各部隊や車輛が身を隠し待機している。少し前には、拘束対象である議員一行が露草の町を出発したとの報が、偵察の新好地よりもたらされており、各隊はその一行がこの一帯に現れるのを、待ち構えている所であった。

 

「しかし……この作戦は少し、いや……かなり乱暴な物に思える……」

 

 しかし作戦を前にして、剱の顔色は複雑そうだ。今回の作戦は、表面上言葉を選んではいるが言ってしまえば拉致だ。その事実が、剱の心境に二の足を踏ませていた。

 

「今んトコ、他にねじ開ける手はねぇ」

「……やるしかないのか」

 

 そこへ自由の端的な言葉。それを聞き呟く剱。隊の置かれる状況を好転させる事はもちろんの事、草風の村を始め、企みの犠牲となっている人々を救うためにも、現状を打破する事は必須だ。その事を思い返しての言葉であった。

 しかしそれでも気が進まない様子の剱。その気を紛らわすためか彼女は、シフトレバーの近くに置かれていたチューインガムの包みに手を伸ばし、その一粒を口に放り込んだ。

 

「あ、オイッ!そりゃ最後の一個だぞ!」

 

 瞬間、後席から竹泉から、剱の背に向けて文句の声が飛ばされた。

 

「んむ?あぁ……すまない」

 

 剱が手元を見れば、竹泉のその言葉通り、チューインガムは剱が口にしたそれが最後の一つだったようであった。その事に、剱はその綺麗な整い方をしている口許や顎周りを、もちもちと咀嚼動作で動かしつつ、後席に振り向き謝罪の言葉を発する。

 

「お前ッ……!最後の一個なら聞けよ!ったく、世間知らずのお嬢ちゃまムーブかましやがってッ!」

「分かった!悪かったよ……!」

 

 しかし竹泉の文句と嫌味の声は止まず、対する剱は困りそして鬱陶しそうな声色で、竹泉に対して張り上げ返す。

 

「くだらねぇ事で騒ぐな」

 

 その二人に対して、呆れしかし淡々とした声で、釘を刺す言葉を放つ自由。

 

《各ユニット、こちらアルマジロ1-1。聞け》

 

 そんなしょうもないやり取りが行われていた所へ、通信が割り込むように入る。声は、これよりの拘束作戦の指揮を取る事なっている、長沼の物であった。長沼は現在、別の場所に隠された高機動車に身を置いている。

 

《拘束対象を乗せた馬車、及び隊列をこちらで目視。間もなく、作戦予定エリアに入る》

「フゥ、お出ましだぜぇ」

 

 その長沼からの続けての通達。それを聞き、後席で多気投が陽気な声を上げる。

 

《隊列構成は馬車が一台。軽装の騎兵が十騎程、重装甲の騎兵4から5。馬車を中程にして前後を護衛する陣形。――作戦は当初の予定通りに行う。各車各隊、備えろ』

 

 さらに長沼の声は、拘束対象の隊列の詳細を伝えて来る。そして最後に、周辺に待機している各隊へ向けての、指示の声が聞こえ来た。

 

「ジャンカー4、了解。――おし、お前ら準備しろ。作戦は頭にちゃんと入ってるだろうな」

 

 作戦開始に備える要請の声に、インターカムを用いて了解の返答を返す自由。そしてそれを終えると、自由は背後後席に振り向き、搭乗している指揮下の各員に向けて、尋ねる声を発する。

 

「あー――指揮車が奴等を通せんぼして、俺等は止まったお馬ちゃん達のケツにビンタかましゃいいんだろ?」

「隊列を強制停止させ包囲、その上で高機(高機動車)が突入。要人の身柄を確保拘束」

 

 多気投や策頼は、それぞれの装備火器の確認を行いながら、事前に説明されていた作戦の手順を思い返し、反芻する。

 

「ハッ!まごう事なき拉致誘拐でござんす!」

 

 そして作戦の本質に、竹泉が皮肉の声を上げる。

 

「まぁ、言い方は好きにしとけ。拘束対象は、おそらく馬車の中だ。生け捕りが目標だ、馬車を撃たねぇよう、射線には気を付けろ」

「了」

「いよいよか……」

 

 自由の説明と注意の言葉に、策頼が返答。そして運転席で自身の小銃の確認を終えた剱は、小さく呟いてから、小型トラックのエンジンをかけるべく、キーに手を伸ばそうとした。

 

「あぁ剱、ガムは吐いとけ。舌噛むぞ」

 

 だがキーを掴む前に、自由にそう声を掛けられた。そして自由の指先が、剱の口元を指し示している。

 

「ん?あぁ、大丈夫だ。これくら――んむッ!?」

 

それに対して心配ない旨を返そうとした剱。しかしその言葉は途中で遮られ、くぐもったそれに変わった。見れば、剱の口に自由の指が突っ込まれていた。

 

「ふもぉ……!?ふぉぉ……!?」

 

 突然の事態に目を白黒させ、声にならない声を漏らす剱。そんな彼女をよそに、自由は剱の口内の指でまさぐる。

 

「ぷぁッ……!」

 

 そして自由は剱の口内のガムを探り当て、指先でつまんで掴みだした。それにより剱の口はようやく解放され、彼女は舌を微かに突き出して息を吐いた。

 

「ふぁ……おま、お前なぁ……ッ!」

 

 口を解放された所で、剱は自由を睨みつけて非難の声を発そうとする。

 

「舌噛んで、ピーピー泣き喚く未来が容易く見える」

 

 しかし自由はそれを、剱の先の姿を予測する言葉で遮る。そして指先でつまみ出したガムを、包に包んで車上に放った。

 

「せめて、先に口で言えよ……!」

「オメェ、御託並べて渋るだろ?」

 

 剱の抗議の声に、しかし淡々と返す自由。そして自由は言いながら剱へ手を伸ばし、彼女の戦闘服上衣で、剱の唾液に塗れた自分の指を拭く。

 

「って、オイッ!」

 

 その行動に声を荒げ、剱は慌てて自由の腕を払いのけて、自身の戦闘服上衣を掴んで視線を落とす。

 

「ヲイヲイ、色々ばばっちぃずぇ」

「ざまぁ見やがれ」

 

 そのやり取りを後席より傍観していた多気投が、その行為の衛生面を咎める軽口を発する。そして竹泉はガムの恨みなのかそんな言葉を吐き捨てる。

 

「今日もくだらない事でギスギスしてる」

 

 その傍ら、策頼はいつもの事と言うように冷たく呆れの言葉を零しながら、小型トラックの後席荷台に搭載据え付けられている、MINIMI軽機に着いた。

 

「ほれ、エンジン掛けとけ」

「最悪だ……」

 

自由の促す声。剱はそれを横に聞きつつ、口を濯ぐための水筒を探しながら、エンジン起動のキーを回す。操作でエンジンがかかり、小型トラックは周囲の風景に合わない、異質な音で唸りだした。

一方の自由は再度後席の竹泉等へ振り向き、作戦の確認を続行する。

 

「細かい所を確認するぞ。シキツウが隊列を止めたら、俺等は隊列の左翼後方へ展開する。策頼。オメェはトラックに残って、軽機で援護しろ」

「了」

「他は俺と来い。降車展開して、隊列後ろの敵を排除。高機の1分隊が、対象をふん捕まえるのを援護する」

「そううまく行くのかねぇ?」

 

 自由の説明に策頼は端的な了解の返事を返すが、竹泉はどこか鼻で笑うように、訝しむ言葉を発する。

 

「うまく行くようにやるんだ。気合が入るよう奴等の前に、お前に斜め45度のチョップを食らわせてもいいんだぞ?」

「ジョーダンこくなや。俺様は貴重な精密機器なんだよ」

 

 自由の言葉に竹泉は軽口で訴え返す。直後、その会話の切れ目を狙ったかのように、再度各員のインターカムに、通信が聞こえ来た。

 

《各隊、目標が想定エリアに進入した。チャプター開始、チャプター開始――』

 

 長沼から声での通達と、続けてのそんな言葉。作戦開始の合図だ。

 

「ッ!……ペッ、開始か……!」

 

水筒の水を含んで口を濯いでいた同僚は、作戦開始の合図を聞き、水を車外へと吐き出して呟く。そして被る88式鉄帽を直した後に、ハンドルを握る。

 

「おぉし剱、出せ」

「あぁ」

 

 自由が指示を出し、剱がアクセルを踏み込む。

 小型トラックはより唸り声を大きくして上げ、動き出す。その身を隠していた傾斜地を登り、開けた一帯へと飛び出す。そして車上の各員は、草原の中を走る轍の上を行く、馬車を中心とした隊列をその先に目視。

 轍を越えた反対方向には、同様に行動を開始した、1分隊の搭乗する高機動車の姿も見える。

 それぞれの車輛は隊列を包囲すべく追いかけ始める。

 かくして、拘束作戦は開始された――

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